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マンション管理組合規約の意義Menu 

更新:2022年12月24日 
 事例

新築マンションの分譲販売において,「このマンションで制定予定の管理組合規約ではペット飼育可能とされています」と説明したが,その後,マンション管理組合総会において制定された規約で,「ペット飼育不可」とされた場合,マンション販売業者の説明義務違反となるか。

 解説

1.管理組合規約とは
一棟のマンション内に構造上区分され,独立して住居、店舗、事務所,倉庫等の用途に供することができる数個の部屋がある場合,その各部屋は、建物の区分所有等に関する法律(通称「区分所有法」)に基づく所有権の対象となり,この場合の所有権を区分所有権といいます(区分所有法1条,2条1項)。

そして,当該一棟のマンションの区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を当然に構成し(同法3条),当該構成された団体を管理組合といいます。

管理組合は,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成による集会(通称「総会」)の決議によって,区分所有者全員に適用される規約を設定することができ(同法31条1項),これにより設定された規約を管理組合規約といいます。

【区分所有法1条】
一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

【区分所有法2条1項】
この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。

【区分所有法3条】
区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

【区分所有法31条1項】
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

2.管理組合規約の成立時期
中古マンションの場合,すでに成立・発効している管理組合規約があるのが通常ですが,新築分譲マンションの場合,分譲販売時点では管理組合が形成されておらず確定した管理組合規約も存在しません。

この点,区分所有法31条1項では,「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする」と規定されており,かつ,同法32条が,分譲業者が単独で設定する公正証書による規約の内容を一定の事項(同法22条1項但書の分離処分規定等)に限定していることから,分譲業者が分譲時にあらかじめマンション管理組合規約そのものを定めておくこともできないと解されています(稻本洋之助ほか『コンメンタールマンション区分所有法(第2版)』〔日本評論社 2004年〕 193頁,丸山英氣編『改訂版 区分所有法』〔大成出版社 2007年〕 219頁参照)。

従って,新築分譲マンションの管理組合規約は,原則として,マンションを購入した各区分所有者全員で構成する管理組合の集会(設立総会)の決議を経るまで,成立・発効させることはできません。

なお,当該マンションに未分譲の専有部分があり,当該未分譲部分を分譲業者が所有し続けている場合でも,規約が有効に成立・発効すれば,分譲業者も規約の定めに基づく管理費等の支払い義務は免れません(【大阪地裁昭和57年10月22日判決】)。

もっとも,区分所有者全員の承諾及び書面又は電磁的方法による合意をもって集会の決議に代えることは認められているため(同法45条1項~3項),規約の設定についてもこの方式で行うことは可能です。

例えば,マンションの分譲業者が分譲契約時に併せて規約(案)についての合意を各区分所有者から個別に書面で取り付け,全員の合意書面が調ったところで規約が成立するものとする方式は認められます。

この方式が採られている場合には,全員の同意が揃った時点で規約が成立しますが,一部の区分所有者が分譲契約はしたが分譲業者の規約案に同意しなかった場合は,原則どおり,集会を招集の上,集会決議(同法31条)が必要となります(ただし,【東京地裁八王子支部平成5年2月10日判決】は,不同意者が26名中1名の事案で,事実上,規約案に基づく管理がなされた時点から規約の成立と全員に対する規範的効力を肯定)。

【区分所有法32条】
最初に建物の専有部分の全部を所有する者は、公正証書により、第四条第二項、第五条第一項並びに第二十二条第一項ただし書及び第二項ただし書(これらの規定を同条第三項において準用する場合を含む。)の規約を設定することができる。

【区分所有法45条】
1 この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。

2 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があったときは、書面又は電磁的方法による決議があつたものとみなす。

3 この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、集会の決議と同一の効力を有する。

4 以下省略

【大阪地裁昭和57年10月22日判決】
被告は区分所有法は分譲建物の販売完了後から適用されるべきだと主張するのでこの点につき判断する。
確かに、被告の主張するとおり分譲建物の買主と分譲業者とでは右建物の区分所有の目的及び態様につき違いがあることは否定し得ないところであるが、そのことから直ちに被告主張のごとき解釈かなされるべき法文上の根拠はない。
すなわち、区分所有法一条によれば、「一むねの建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居・店舗・事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」旨規定し、右のごとき区分設定された建物については当然に区分所有法の適用があり、共用部分の共有関係及びその管理関係は不可避的に発生するものであると解される。
本件建物は正に同法所定の対象建物の要件を備えていることは明らかであり、かつ被告は分譲業者であるが、販売開始の時点で本件建物の区分所有権者であることに変わりはなく、これを販売完了の時点まで別異に取り扱うべき法文上の根拠はない
もし、被告主張の解釈をとると、販売完了時点が売買物件により一定せず、分譲業者が自らその一部を取得する場合との区別が明らかではなく、時には完売できない場合も起こり得ることが予想され、その間もし区分所有法が適用されないとすれば、他の区分所有者に対する関係又は区分所有者相互間の法的規整は不明確、困難となり法律関係が不安定となるおそれがあり、同法の趣旨を著しく逸脱するものであって、被告の前記主張は到底採用することができない。
とすれば、規約に別段の定めのない限り共用部分はすべて各区分所有者全員の共有に属し、各共有者は、その持分に応じて、共用部分の負担に任ずる(同法四条一、二項、一四条)というべきである。

【東京地裁八王子支部平成5年2月10日判決】
マンションの管理規約は分譲業者が公正証書で設定することができるものであり(建物の区分所有等に関する法律第三二条)、分譲後に区分所有者の集会で規約を設定する場合(同法第三一条第一項)でも、集会は召集手続を省略して開くことができる位のものであること(同法第三六条)及び本件マンションでは被告だけが管理費、補修積立金支払いについての唯一の反対者で、ほかの区分所有者全員は昭和六一年二月一五日の第一期以来、規約規定の管理費、補修積立金を負担、支払い、これを前提として予算が計上され、執行されてきたという前記認定事実を総合すると、管理費、補修積立金に関する本件管理規約は本件マンションの管理が開始された前後に、被告を除く各区分所有者全員が暗に異議なく、承認した結果、本件マンションの管理規約として区分所有者全員に対して規範的効力を有することとなったものとみるのが相当である。 

3.管理組合規約の説明義務
上記のとおり,新築マンションの分譲販売においては,分譲販売時点では管理組合が形成されておらず確定した管理組合規約も存在しないため,新築マンションの分譲販売業者としては,将来制定される規約がどのようなものになるのかを予測して説明することしかできませんが,当該「予測」が外れた場合,全て説明義務違反となるのでは,販売業者に酷な結果となります。

この点につき,【福岡地裁平成16年9月22日判決】は,「管理組合規約等は,当該マンションの居住者の生活に直接影響を及ぼすものであるから,マンションの販売業者は,購入者に対して,管理組合規約の内容等について説明する義務を負う」としつつ,「将来制定される管理組合規約等の内容については,これを確定的に説明することはできないから,本件マンションを販売するにあたって購入予定者に対して説明し得るのは,制定予定の管理組合規約等の内容に限られるものであり,ペット飼育の可否を含む管理に関する事項に関しても,制定予定の管理組合規約等の内容を説明する義務を負うに止まり,それを超えてペット飼育の可否についての説明義務までは負わない」と判示しました。

従って,新築マンションの分譲販売業者も,制定予定の管理組合規約の内容について説明する義務自体は負うと解されるものの,断定的(確定的)な説明をしない限り,実際にその後にこれと異なる内容の管理組合規約が制定あるいは改正されたからといって,説明義務違反に問われることは通常はないと考えられます。

【福岡地裁平成16年9月22日判決】
マンションにおいて管理上必要な事項は,居住者を組合員とする管理組合が制定した管理組合規約等により定められるところ,管理組合規約等は,当該マンションの居住者の生活に直接影響を及ぼすものであるから,マンションの販売業者は,購入者に対して,管理組合規約の内容等について説明する義務を負う
そして,ペット飼育の可否についても,ペットは鳴き声,におい,糞尿,毛等によって,他の居住者に迷惑を及ぼすおそれがあるから,多数の者が居住するマンションにおいては,管理組合規約等により禁止または制限されるのが通常であって,マンション販売業者は,購入者に対して,制定予定の管理規約等の内容を説明する限りにおいては,ペット飼育の可否ないしその制限等についても説明する義務を負うといえる。
ところで,管理組合規約等は,管理組合総会によって制定,改正されるものであり,現行管理組合規約46条3項1号においても,組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の賛成により,管理規約の変更がなされる旨規定されているところ,本件管理組合は、マンションの区分所有者により構成されるから(本件管理組合規約6条1項),販売会社である被告は,販売終了後は,本件マンションに対して何らの権利義務を持たない。
被告は,本件マンションの販売時に,購入希望者に対して,制定予定の管理組合規約等を交付し,承認をとっているが,それは,管理組合設立総会において,円滑に管理組合規約等が制定されるようにするために行っているにすぎない。
そうであるとすれば,被告は,将来制定される管理組合規約等の内容については,これを確定的に説明することはできないから,被告が,本件マンションを販売するにあたって購入予定者に対して説明し得るのは,制定予定の管理組合規約等の内容に限られるものであり,ペット飼育の可否を含む管理に関する事項に関しても,被告は,制定予定の管理組合規約等の内容を説明する義務を負うに止まり,それを超えてペット飼育の可否についての説明義務までは負わない。 

 結論

以上より,売買契約時点では管理組合が形成されておらず管理規約も制定されていないのが通常で,いかなる内容の管理規約が制定されるかにつき確定的に説明することは不可能であるため,「予定」あるいは「予測」を述べただけでは,これが外れたからといって直ちに説明義務違反とはなりません。もっとも,単に「予定」や「予測」に留まらず,確定的・断定的な説明がされた場合(例えば,パンフレット等にも「ペット飼育可能な物件です」というような断定的表現が記載され,他方で「後日規約の内容が変更され,ペット飼育が制限される可能性があります」というような注意喚起が一切なされていなかった場合),これに反する管理組合規約が後日制定されれば,説明義務違反になる可能性がありますので注意が必要です。

 実務上の注意点

4.マンション標準管理規約
国土交通省では,【マンション管理標準規約(最終改正 令和3年6月22日 国住マ第33号)】を公表していますが、区分所有マンションの中には、そもそも管理組合規約が制定すらされていないマンションも相当数見受けられます。

しかしながら,区分所有者の共通財産であるマンションの適切な管理は,区分所有者全員の利益やマンションの資産価値の維持に不可欠であり、近時は,【マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針(令和3年9月28日国土交通省告示第1286号)】等によりマンション管理の適正化が推進されています。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,未だ管理組合規約を整備していないマンションでは,その適切な管理・運営のためにも,区分所有者全員が協力し,しっかりとしたマンション管理組合規約の制定を検討するよう助言しています。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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