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更新:2024年1月14日 
 事例

毎月「利用料」と「追加サービス料」(バーチャル秘書サービス,電話応答サービス等)のみ発生し(電気代は利用料に含まれる),電話回線,インターネット回線,会議室,OA機器,給湯室等は他の部屋とシェアするシステムのいわゆる「レンタルオフィス」は,借地借家法の適用される「建物の賃貸借」と言えるか。

 解説

1.借家の要件
借地借家法上の「建物」とは,土地に定着し、周壁、屋蓋を有し、住居、営業、物の貯蔵等の用に供することのできる永続性のある建造物をいい、その限界は、結局、社会通念、立法の趣旨等に照らして決められるべきであるとされ、建物の一部であっても、障壁その他によって他の部分(他の物)と区画され、独占的排他的支配が可能な構造、規模を有するものは同法にいう「建物」であると解されています(【大阪高裁昭和53年5月30日判決】)。

そして,借家すなわち,「建物の賃貸借」といえるためには,原則として概ね次の3つの要件をいずれも満たす必要があると考えられています(判例タイムズ677号『昭和62年度主要民事判例解説』100頁等)。

(1)建物の構造上の独立性

(2)建物の使用が主眼であること

(3)建物の使用上の独立性

【借地借家法1条】
この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。

【大阪高裁昭和53年5月30日判決】
借家法一条にいう「建物」とは土地に定着し、周壁、屋蓋を有し、住居、営業、物の貯蔵等の用に供することのできる永続性のある建造物をいうが、その限界は、結局、社会通念、立法の趣旨等に照らして決められるべきであるとされ、建物の一部であっても、障壁その他によって他の部分(他の物)と区画され、独占的排他的支配が可能な構造、規模を有するものは同条にいう「建物」であると解されている。
<中略>
本件屋上はその周囲およびその下方の階下部分とは障壁その他によって区画されているとはいえ、その上方の空間部分とは全く区画されていないのであるから、右基準にいう「他の部分」と区画されているといえるかどうか疑問であるばかりでなく、独占的排他的支配が可能な構造、規模を有するものとはいえても、現実には控訴人と被控訴人の占有支配が競合していたのであるから、控訴人の本件屋上の占有をもって利用上完全に独立した部分の占有とみることはできない。
次に、本来借家法が制定された趣旨は、借地法、小作関係の法律などとともに経済的な弱者を保護しその居住権、生活権ないしは営業権を保障しようとする点にあることはいうまでもなく、建物の一部であっても一定の基準を充たすものに限つて借家法一条にいう「建物」にあたるとして借家法の適用範囲の拡張を認めるべきであるとするのは、ひっきょう経済的な弱者である借家人を保護する必要があるからにほかならない。
本件賃貸借は広告塔建設を目的とするものであって人の住居ないしは店舗、事務所等とは直接に関係はなく、何ら借家法による保護を必要とするものではない。
したがって、本件屋上は本件建物の一部であるが社会通念、立法の趣旨等に照らし、借家法一条にいう「建物」またはこれに準ずべきものであるとみるべきではないと解するのが相当である。

2.建物の構造上の独立性
建物の構造上の独立性は,建物の構造が「障壁等によって他の部分と区画され独占的支配が可能な構造・規模」を有するか否かで判断されます(【最高裁昭和42年6月2日判決】【東京高裁平成元年7月6日判決】)。

そして,「独占的支配(独立的支配とも)」とは,例えば出入口を別個に有しているか否かや施錠方法等で判断されます(【神戸地裁昭和28年12月10日判決】【大阪高裁昭和31年5月21日判決】)。

また,それ単体では「建物」に該当しない場合であっても,営業内容の関連性及び管理上の関連性等の観点から建物と一体として利用されているスペースについては,全体として「建物の賃貸」に該当すると判断される可能性があります(【神戸地裁令和元年7月12日判決】

なお,「構造上の独立性」云々以前の問題として,そもそも「建物」と言えるか否かが問題となる場合もあります。

例えば,容易に組立・解体の可能なテントなどは,「土地に定着している」とはいえず「建物」には該当しませんが,テントの設置費用,設置期間,土地への固定方法によっては,いわゆるテントも「土地に定着している」といえ,「建物」に該当する可能性があります(【東京地裁平成29年5月19日判決】)。

【神戸地裁昭和28年12月10日判決】
被告Aの借用部分は他人の使用部分との区劃すら判然としない全くの店先の一小部分で原告の店の間を通らねば出入も出来ない有様であり、被告Bの借用部分も被告Aの部分に比較すれば区劃はやゝ明かではあるが、その東側は仕切というほどのものはなく、北側の出入口も幅一尺八寸に過ぎない仮設のものであつて、全く一店舗の一角に過ぎず両者とも営業時間内に限り出入してその賃借部分の使用を許される実情にあり、右原被告の店舗は全体として原告により管理されており、被告等の賃借部分は独立性の極めて弱い店舗内の一部分に過ぎない事実とに徴すれば本件賃貸借には借家法の適用はないものと解するのが相当である。
けだし、借家法は借主が独立して占有使用する建物の賃借権を引渡のみにより登記なくして第三者に対抗せしめることを主要な目的の一とする立法であつて、本件のように、むしろいわゆるケース貸に近い日々の時限的使用関係でその占有の独立性の不明瞭なものにこれを及ぼすときは却つて法律関係をあいまいにして第三者に不測の損害をかける結果になるからである。
このことは被告等が本件賃借権を取得するにつき叙上の権利金を支払つていることを考慮に入れるもその結論を異にしない。 

【大阪高裁昭和31年5月21日判決】
被控訴人は借家法第一条【※現・借地借家法1条】にいわゆる建物とは独立の不動産として登記のできるものであることを要し、建物の一部である本件土間のようなものはこれに含まれないと主張する。
しかしながら、同法条にいわゆる建物とは必ずしも一戸独立の建物のみを指称するものではなく、賃貸借の目的が一戸の建物の一部であつても、当該賃貸借の部分が障壁その他によつて他の部分と客観的に明白に区画せられ、独占的排他的の支配を可能ならしめる構造と規模を有するものであるときは、なおこれを同法条の建物というに妨げないものと解するのが相当である。
思うに、かような構造と規模を有する建物の一部は、あたかもそれだけの範囲の一戸の建物に近い独立性と使用効能を発揮することができるのであつて、それゆえに経済的にも社会的にも一戸の建物の賃貸借と同様に行われる右の部分賃貸借における賃借権は、建物全部の賃借権と同様に借家法による保護を受けるに値いするとともに、その引渡があつたときは、爾後建物について物権を取得した第三者も右賃貸借の存在と範囲を識別することが困難ではないのであるから、右賃借権を対抗させても第三者に不測の損害を及ぼすものでないことは、建物全部の賃貸借の場合と異なるところはないからである(建物の一部がそれぞれ上述のような独立性を有するとき、これを一括した一個の賃貸借の場合にのみ借家法の適用があり、互いに独立する右数部分につき別個の賃貸借が存する場合には同法の適用がないとすることの不合理は、現時の借家事情として、店舗と居宅、あるいは数世帯同居の区分賃貸借が当然のこととして行われている世情と、賃貸借の解約申入の正当性が時に賃貸借の目的である建物全部について存せず一部にのみ存し、従つて一部の賃貸借の残存成立が是認される裁判例に照し極めて明白であろう)。
※【 】内は筆者加筆。

【最高裁昭和42年6月2日判決】
建物の一部であつても、障壁その他によつて他の部分と区画され、独占的排他的支配が可能な構造・規模を有するものは、借家法一条【※現・借地借家法1条】にいう「建物」である。
※【 】内は筆者加筆。

【東京高裁平成元年7月6日判決】(上告審である【最高裁平成4年2月6日判決】でも踏襲)
鉄道高架下の店舗につき「同法にいう建物とは,土地に定着し,周壁,屋根を有し,住居,営業などの用に供することのできる永続性のある建物を言い,必ずしも一戸独立の建物のみを指称するものではなく,当該賃貸借の部分が障壁その他によって他の部分と客観的に明白に区画され、独立的排他的な支配を可能ならしめる構造と規模を有するものであるときは,なおこれを同法の建物と言うに妨げないものと解するのが相当である。これを本件について見るに,右施設物は国鉄の高架下を利用して作られたものではあるが,なお土地に定着して,周壁を有し,鉄道高架を屋根としており,永続して営業の用に供することも可能であると認められるのみならず,本件店舗部分についても,隣の部分とはブロックにベニアを張って壁を作ることによって客観的に明確に区別されており,これに対して独立的排他的な支配を行うことは十分可能であると認めることができるから,本件店舗もなお借家法にいう「建物」に該当する」と判示。

【東京地裁平成29年5月19日判決】
本件テント倉庫は,鉄骨柱をエステル防災防水帆布が覆っているという簡易な構造ではあるものの,これが屋根及び外壁に相当する役割を果たしているということができるし,複数の鉄骨柱がアンカーボルトによって鉄筋コンクリート製の基礎に緊結されていることからすると,本件各土地に定着したものということができる。このことに,本件テント倉庫の建設費用が3500万円を超えるものであったこと,本件テント倉庫が建設されてから14年以上経過した現在においても,本件テント倉庫はその効用が維持されていることを併せ考えると,本件テント倉庫は,借地借家法上の建物に該当するというべきである。

【神戸地裁令和元年7月12日判決】
売店部分は,いずれもその三面を壁で区画され,残り一面に開閉式シャッターが設置されており,同シャッターを閉めることにより他の部分と明確に区画される構造である。加えて,売店部分の床面積は合計8.07㎡であることからすれば,売店部分は,独占的排他的支配が可能な構造・規模を備えている。したがって,売店部分は「建物」に当たるというべきである。
<中略>
本件各区画はいずれも本件建物内にあり,そのうち売店部分は,本件各区画の中にあって相対的にまとまった面積を占めているほか,その至近に5台分の自販機部分が存在する。
このような事情等に照らすと,本件各区画相互の関係は,一般にみられるような,店舗とその店舗外の自動販売機設置場所及び公衆電話機設置場所との関係に類似するということができる。
売店部分及び自販機部分についての本件賃貸借契約は1通の賃貸借契約書に記載されている。
電話部分に係る本件賃貸借契約は,本件賃貸借契約に係る契約書とは別の契約書により締結されているものの,その条項は,公衆電話の運営に特有のものを除き本件賃貸借契約と基本的に同一である上,本件各賃貸借契約の締結手続は1度の機会に行われている。
一般的に,同一建物内の売店と自動販売機とでは,提供商品の構成を調整するなどの営業内容の関連性があり得るほか,売店,自動販売機及び公衆電話相互間についても,売店の従業員が自動販売機や電話機の保守管理を行うといった管理上の関連性等があることが想定される。
本件各賃貸借契約が同一機会に締結されたことなどからすると,原告と被告との間においても,本件各区画間のこのような関連性を念頭において本件各賃貸借契約が締結されたとみるのが合理的である。
<中略>
以上のような本件各区画の位置,規模及び関連性,本件各賃貸借契約の内容及び契約締結状況並びに本件各賃貸借契約と類似する契約の内容等を総合すると,原告と被告との間では,被告が本件各賃貸借契約を一括して締結することが前提条件となっており,しかも,売店部分は,本件各賃貸借契約における重要部分であったということができるから,本件各賃貸借契約は,一体の契約として「建物の賃貸借」に当たるというべきである。

3.建物の使用が主眼であること
建物の使用が主眼であるか否かは,契約の主たる目的(主眼)が建物の価値(効用)の利用にあり,建物それ自体が有用かつ主眼達成のための必要不可欠なものか否かで判断されます。

【東京高裁昭和62年5月11日判決】
「本件建物部分のうちハイ・ガレージ部分は立体駐車場用の建物であり,自動車及び立体駐車場設備機械を格納し,これらを風雨,熱射,塵などから保護するものであって,それ自体有用なものであり,また,車路部分はハイ・ガレージ部分に自動車が出入りするために必要不可欠な施設であり,駐車場管理室も本件立体駐車場の営業管理上必要な施設であり,これらを賃借しなければ本件立体駐車場の営業は成り立たないこと,本件建物部分は独立した建物であり,その中に立体駐車場設備機械が存在しなくとも,立体駐車場用建物として賃貸借の対象となり得る」と判示。

4.建物の使用上の独立性
建物の使用上の独立性は,「独自の経営判断と計算において営業している」か否かで判断されます。

【最高裁昭和30年2月18日判決】
営業場はデパートの売場としての区別がされているに過ぎず,(デパート側が)店舗の統一を図るため商品の種類品質価格等の営業方針に干渉することができること,デパートたる外観を具備し,又はそのデパートの安全を図るため右売場の位置等についても適当の指示を与えることができること,営業場の設備は定着物でなく移動し得るものに限られ、且右造作等を設置する場合は必ず(デパート側の)許可を要し,営業方針に従わなければならないこと,営業方針は統一され、使用人の適否についてもデパート側の指示に従うべきと定めであること,包装用紙もこれを一定せしめデパート側で調製の上配布していること等の事情から,デパート1階の売場につき「店舗の一部を支配的に使用しているものとは解することができない」として借地借家法の適用を否定。

【東京地裁平成8年7月15日判決】
被告らは、本件店舗の中において原告の経営するスーパーマーケット部分とは明瞭に区画されている本件売場部分において、昭和四五年から現在に至るまでの長年の間、場所を移動することもなく、内装工事費や設備機材費等全て自己負担のうえ、独自の経営判断と計算において、自ら開発した焼き立てパンの製造販売技術を用いて、営業を行ってきたものである。
他方、原告は、被告から一旦売上金全額の入金を受け、経理上は全額売上げとして計上したうえで、売上金の一定割合の歩合金や諸費用を控除した残額を被告へ支払う方式により、右歩合金等を取得するものであるが、原告は、本件売場部分での営業自体には関与していないばかりか、内装工事費や設備費用等すら負担することもなく、まさに本件売場部分を提供することの対価として、保証金や歩合金を取得しているものである。
したがって、本件契約は、本件売場部分の使用関係に関する限り賃貸借に関する法の適用を受けるべきものと解するのが相当であって、その使用関係の終了については被告らは借家法の規定による保護を受けるべきものというべきである。

5.レンタルオフィスの法的性質
それでは,レンタルオフィスのレンタルスペースは,「建物の賃貸借」と言えるのか問題となります。

この点については,以下のような裁判例があります。

【東京地裁平成26年11月11日判決】
「建物の一部であっても,障壁その他によって他の部分と区画され,独占的排他的支配が可能な構造・規模を有するものは,借地借家法第3章にいう『建物』であると解される」ことを前提に,「本件区画は,面積3.5平方メートルと狭小とはいえ,四方を天井まで隙間のない障壁で囲まれ,共用スペースとは鍵付きのドアによって区画されており,ドアを開けなければ共用スペースから本件区画内部の様子をうかがうことはできない構造になっていることが認められるから,本件区画は障壁その他によって他の部分と区画された独占的排他的支配が可能な構造・規模を有するものであり,借地借家法第3章にいう『建物』に該当する」とした上,「本件契約の中核的な内容は,被告が本件区画を原告に使用収益させ,原告がその対価である利用料金を毎月被告に支払うというものであると解され,しかも,原告による本件区画の使用収益は,建物の独占的排他的な使用を内容とするものと認められるから,その法的性格は,建物の賃貸借契約にほかならないというべきである。本件契約第13条第1項には『賃借権は発生しないものとする』との定めがあるが,民法が定める特定の任意規定の適用を合意によって排斥するのであればともかく,目的物の使用収益を基本的な内容とする有償契約である以上,その法的性格は賃貸借にほかならないというべきであるし,少なくとも,借地借家法の強行法規定の適用を合意によって排斥することができないことはいうまでもない」と判示。

バーチャル秘書サービス,電話応答サービス等の付加的サービスの法的性質については,「法的には本件契約と別個独立の契約か,そうでないとしても建物賃貸借契約としての本件契約に付加された付帯サービスにすぎないものであって,本件契約の基本的な法的性格の判断に影響を及ぼすものとはいえない」と判示。

【東京地裁平成27年9月15日判決】
「本件契約に基づくオフィスの利用形態は,原告のみならず,被告と契約した複数の者が同時に利用でき,本件オフィスにある5つの椅子と机は固定ではなく,そのうち1席の空席を利用できるにとどまり,その利用時間もAセンターの営業時間内(午前9時から午後6時まで)に限られ,営業時間終了時までには本件オフィスから私物を撤収し,完全に席を空けて退去しなければならないというものであることは前提事実のとおりである。そうすると,本件契約が,本件オフィスについて,独占的排他的支配を伴う使用収益の便益を原告に付与するものでないことは明らかであり,借地借家法の適用のある建物の賃貸借ということはできない」と判示。

 結論

以上より,頭書事例のようないわゆるレンタルオフィスについては,(1)建物の構造上の独立性があり(=各区画が壁で仕切られ,部屋ごとに施錠できる構造となっている),(2)建物の使用が主眼であり(=レンタルスペースの使用が主眼であり,バーチャル秘書サービスや電話応対サービスなどは付従的なサービスに過ぎない),(3)建物の使用上の独立性(独占的排他的使用)が認められている(=入室退室時間の指定や指定区画の入れ替えがほぼない,特に業種の制限もされておらず,賃貸人はオフィス利用者の経営方針に一切関与しない)という点が具備されている限り,「建物の賃貸借」といえ,借地借家法が適用されるものと解されます。

他方で,部屋や席が固定ではなく,一日毎または極めて短期間でその都度入れ替わる場合には(その日又はその期間中空いている部屋や席を利用するシステムの場合には)独占的排他的支配が無く借地借家法は適用されません。

もっとも,独占的排他的支配が認められても,賃料が近隣相場に比して極端に低額であるとか,数日単位の一時使用目的(借地借家法40条)であるなどの特殊事情がある場合には,借地借家法が適用されない場合もあり,「レンタルオフィス=借地借家法適用あり」というように単純に考えることはできません。

そのため,多湖・岩田・田村法律事務所では,必ず契約書の契約条件や実際の利用実態等を詳細に検討したうえで判断しています。

 補足

6.遅延損害金
家賃を滞納した場合,通常は遅延損害金が発生します(民法419条1項,旧民法でも同じ)。

契約で特に定めていなければ,年3%の法定利率(民法404条2項)を付して支払わなければならないため,例えば,月10万円の家賃を1年間滞納した場合には,10万3000円を支払わなければなりません。

但し,「その利息が生じた最初の時点」(同条1項),「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」(419条1項)が基準となるため,債務不履行時点=支払期限経過時点の法定利率が仮に年3%であれば,その後,不履行が解消されるまで(支払がされるまで)はずっと年3%のままとなります。

なお,2020年4月1日の改正民法施行日より前は,法定利率は原則年5%(旧民法404条),当事者の一方が会社の場合は年6%(旧商法514条)でしたが,改正民法施行後は原則年3%となり(404条2項),3年毎に変動(同条3項)することになりました(年6%の商事法定利率を定めた旧商法514条も削除され,民事法定利率に一元化されました)。

【民法404条】
1 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。

2 法定利率は、年3パーセントとする。

3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。

4 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。

5 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の六年前の年の一月から前々年の十二月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が一年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を六十で除して計算した割合(その割合に〇・一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。

【419条1項】
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

7.遅延損害金の上限利率
この遅延損害金の利率を,契約で法定利率より高めに設定することも認められておりますが,余りに高過ぎる利率は,暴利となり,公序良俗に反し一定範囲で無効となります。

この点,賃借人が個人で,消費者契約法が適用される場合には,年14.6%までしか認められません(消費者契約法9条1項2号)。

また,賃借人が会社で消費者契約法が適用されないケースでも【東京地裁平成24年5月9日判決】は,年29.2%を超える部分について公序良俗に反し無効と判示しました。

これは,(貸金元本10万円未満の場合)上限を最大年20%とする利息制限法1条1号及び遅延損害金の上限をその1.46倍(すなわち20%×1.46=年29.2%)とする同法4条1項を考慮したものと思われます。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所でも,一般の賃貸借契約の場合には,賃借人が会社の場合でも,遅延損害金の利率は,最大でも年29.2%以内に留めておくよう助言しております。

【消費者契約法9条1項】※令和5年6月1日改正法施行後
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

一 省略

二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

【東京地裁平成24年5月9日判決】
本件賃貸借契約における約定遅延損害金率は日1%(年365%。うるう年を除く)であり,利息制限法,「出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律」や消費者契約法に規定された制限金利と比較しても,著しく高率であるということができる。

もちろん,これらの法令による規制は,金銭消費貸借契約や消費者契約を対象としたものであって本件賃貸借契約はその対象に含まれるものではなく,契約自由の原則が当てはまるものである。

そして,被告は相当な規模を持つ法人であり,原告らと比較して経済的弱者の立場にあるとはいえないこと,本件建物は宿泊所事業に使用するため原告らが購入したもので,賃料が支払われない場合は原告らは不利益を受けるものであることを考慮すれば,賃料滞納を抑止するために高率の約定遅延損害金を定めることに一応の合理性はある。

しかし,これらの事情を考慮しても,約定遅延損害金率は余りに高率であって,社会通念上許容できないものといわざるを得ない。

上記各法令の制限利率や,本件にあらわれた諸般の事情を総合的に考慮すると,本件においては,本件賃貸借契約の約定遅延損害金にかかる合意は,年29.2%を上回る部分につき公序良俗違反として無効とすべきである。

8.レンタルオフィスの遅延損害金
他方で,【東京地裁平成27年8月6日判決】は,単なる賃貸借契約ではなく,いわゆるレンタルオフィスとして,秘書・ITサービスの提供も含まれており,滞納の場合に賃貸人が負担する経費等の不利益が「通常の賃貸借の場合より大きい」という特殊性を考慮し,遅延損害金が年60%とされていた約定利率を有効と判示しました。

もっとも,レンタルオフィスの特殊性を考慮しても,約定で利息制限法を超える利率を定めることには,慎重になるべきで,原則的には,利息制限法の上限(年29.2%)を超えない範囲で定めておくほうが無難といえます。

【東京地裁平成27年8月6日判決】
本件契約における遅延損害金の約定割合は月5%(年60%)であるところ,本件契約は,対価を支払ってオフィスの使用及び秘書・ITその他のサービスの提供を受ける旨の法人間契約であり,金銭消費貸借契約や消費者契約ではないから,利息制限法や出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律,消費者契約法がそれぞれ規定する制限利率や予定損害賠償額の制限の各適用を受けないものといえる。

また,本件契約は,前記のとおり,原告がオフィスの使用のみならず秘書・ITその他のサービスを提供するものであり,料金が支払われない場合に原告が負担すべき経費等の不利益は,通常の賃貸借の場合より大きいものと認められるから,料金の滞納を抑止するために高率の遅延損害金に合意することに相応の合理性が認められるというべきであり,前記原告に予想される不利益の程度に照らせば,月5%の割合による遅延損害金は,社会通念上容認できないほど高率とまではいえないというべきである。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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