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更新:2025年8月1日 
 事例

非法人(権利能力なき社団)である管理組合において,区分所有者以外の者や法人は,管理者(理事長)になれるか。

 解説

1.管理者とは
「区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる」(区分所有法25条1項)とされており,管理者は,その職務,すなわち,共用部分等の保存,集会決議の実行及び規約で定められた事項の実行に関し,区分所有者を代理し,管理者の行う法律行為の効果は区分所有者の全員に帰属します(区分所有法26条1項及び2項)。

非法人(権利能力なき社団)である管理組合において,管理者を置くか否かは任意であり,区分所有者の数が少ない場合などは,管理者を選任していないマンションも多数ありますが,通常の規約では,理事長をもって「管理者」としているのが一般的です(国交省「マンション標準管理規約(単棟型)」(最終改正:令和6年6月7日)38条2項「理事長は、区分所有法に定める管理者とする」参照)。

また,理事長をもって「管理者」とする規約の定めがない場合でも,業務を執行する理事長が選任された場合には,特段の事情のない限り,理事長を管理者とする旨の議決があったものとみなされるのが通常です(【東京地裁平成2年5月31日判決】)。

【区分所有法25条1項】
区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。

【区分所有法26条】
1 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。

2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。

3 以下省略

【東京地裁平成2年5月31日判決】
区分所有建物の管理についての区分所有法の趣旨は、このような区分所有建物の管理は、区分所有者全員を構成員とする団体である管理組合が主体となって行うものであり、その管理組合の管理業務の執行者として管理者を置くものとしていると解される(区分所有法三条)。
すなわち、管理者は、管理の主体である管理組合の業務執行者であり、対外的には管理組合を代表する者として位置付けられているものと解される。
したがって、区分所有者集会において、従来なかった任意の組織体である管理組合が設立され、その業務を執行する理事長が選任された場合には、特段の事情のない限り、理事長を管理者とする旨の議決があったものと解するのが相当である。
本件の管理組合設立総会においても、従来の管理者の管理に不満を持った区分所有者が管理主体となるべき管理組合を設立し、その業務執行者として理事長を選任したのであるから、理事長の選任により、理事長を管理者とする議決をしたものと認めるのが相当である。

2.管理者の資格要件
管理組合法人の場合は,法人の代表者たる理事を置くことは任意ではなく義務とされており(区分所有法49条1項),理事は,区分所有者である必要はないものの,法人は理事になることができないと解されています(稻本洋之助ほか『コンメンタールマンション区分所有法(第2版)』〔日本評論社 2004年〕 267頁以下,丸山英氣編『改訂版 区分所有法』〔大成出版社 2007年〕 281頁参照)。

これに対し,非法人(権利能力なき社団)である管理組合の管理者(通常は理事長)は,区分所有者である必要はなく,また,通説的には,自然人か法人かも問わないと解されています(稻本洋之助ほか『コンメンタールマンション区分所有法(第2版)』〔日本評論社 2004年〕 140頁,丸山英氣編『改訂版 区分所有法』〔大成出版社 2007年〕 157頁参照)。

もっとも,とりわけ近時の裁判例では,(管理規約に「法人である組合員は理事長に就任することができない」旨定められていた事案で)「理事長は,権利能力なき社団である被告において,管理組合を代表し,その業務を統括するほか,各種の意思決定や実作業等をすることが予定されており,これらの意思決定や業務等を実施できるのは自然人であることから,前記のとおり定められたものと解される。」とし「法人である組合員が理事長に就任することができない旨の定めが,法人である組合員に対する不当な制約として,無効なものと解することは困難といわざるを得ない」旨判示しているものや(【東京地裁令和2年3月26日判決】),「マンションの管理組合においては、組合の性質として権利能力なき社団に該当することを念頭に置き、自然人が役員となることが一般的には想定される」旨判示しているもの(【東京地裁令和5年3月24日判決】)があります。

上記裁判例は,いずれも,法人を管理者(理事長)に選任することができないと断定的に判断したものではありませんが,国交省「マンション標準管理規約(単棟型)」(最終改正:令和6年6月7日)コメント26頁でも,「本標準管理規約における管理組合は、権利能力なき社団であることを想定しているが、役員として意思決定を行えるのは自然人であり、法人そのものは役員になることができないと解すべきである。したがって、法人が区分所有する専有部分があるマンションにおいて、法人関係者が役員になる場合には、管理組合役員の任務に当たることを当該法人の職務命令として受けた者等を選任することが一般的に想定される。外部専門家として役員を選任する場合であって、法人、団体等から派遣を受けるときも、同様に、当該法人、団体等から指定された者(自然人)を選任することが一般的に想定される」と記載されています。

【区分所有法49条】
1 管理組合法人には、理事を置かなければならない。

2 理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は、理事の過半数で決する。

3 理事は、管理組合法人を代表する。

4 理事が数人あるときは、各自管理組合法人を代表する。

5 以下省略

【東京地裁令和2年3月26日判決】
管理規約は,「法人である組合員は理事長に就任することができない」旨定めているところ,理事長は,権利能力なき社団である被告において,管理組合を代表し,その業務を統括するほか,各種の意思決定や実作業等をすることが予定されており,これらの意思決定や業務等を実施できるのは自然人であることから,前記のとおり定められたものと解される。
他方,管理規約は,「理事会活動へ出席する者が当該法人の従業員等代表権のない場合」の手続について定めており,これは,組合員である法人の代表者や従業員が理事会活動に出席することを前提とする定めであると解されるから,前記定めは,法人である組合員の関与を排除する趣旨のものではないというべきである。
これらの事情を総合的に考慮すれば,法人である組合員が理事長に就任することができない旨の定めが,法人である組合員に対する不当な制約として,無効なものと解することは困難といわざるを得ない。

【東京地裁令和5年3月24日判決】
マンションの管理組合においては、組合の性質として権利能力なき社団に該当することを念頭に置き、自然人が役員となることが一般的には想定されるのであるから、本件組合の設立に当たっても、本件マンションの各区分所有者は、本件組合の役員が有効となるよう、自然人を選任したと解されるところ、本件創立総会の議事録には、本件組合の役員として、原告【※株式会社】、A【※有限会社】及びB【※株式会社】が理事に、C【※株式会社】が監事にそれぞれ選任された旨の記載が存在すると同時に、理事長として「株式会社〇〇【※原告】 代表取締役D」が、副理事長として「有限会社A 取締役E」が、会計担当理事として「株式会社B 代表取締役F」がそれぞれ個人として選任されたと解することができる旨が記載されているのであるから、本件創立総会においては、本件組合の役員として、本件マンションの区分所有者である原告、A、B及びCの代表者たる個人がそれぞれ選任されたことがうかがわれ、したがって、本件選任決議が無効であるとはいえない。
※【 】内は筆者加筆。

 結論

以上より,非法人(権利能力なき社団)である管理組合の管理者(通常は理事長)は,区分所有者である必要はなく,また,区分所有法上は法人であっても管理者(理事長)となることは否定されていませんが,少なくとも実務上は,自然人であることが想定されているといえ,法人そのものを管理者(理事長)に選任することは避けた方が良いと思われます。

もっとも,法人を管理者(理事長)に選任した場合も,当然に無効となるものではなく,当該法人の代表取締役等の個人(自然人)が選任されたものとみなされる余地があります。

 実務上の注意点

3.管理者(理事長)の訴訟追行権限
管理者(理事長)は,規約又は集会の決議により,その職務に関し,区分所有者全員のために、自ら当事者(原告又は被告)となり,訴訟を追行することができます(区分所有法26条4項)。

すなわち,管理者(理事長)は,管理組合を当事者(原告又は被告)とする訴訟においてその代表者(「○○管理組合 同代表者理事長△△」)として訴訟追行することができますが(区分所有法26条2項参照),自ら当事者(「○○管理組合 管理者△△」)として訴訟追行することもできます。

管理者が自ら当事者として訴訟追行する場合も,一種の任意的訴訟担当として(【札幌高裁平成10年6月25日判決】,稻本洋之助ほか『コンメンタールマンション区分所有法(第2版)』〔日本評論社 2004年〕 155頁),その判決の効力は区分所有者全員に及ぶことになります(民事訴訟法115条1項2号)。

もっとも,管理者が自ら当事者として訴訟追行できるのは,その職務に関する事項(区分所有法26条1項及び2項)に限られ,職務の範囲外の事項については、たとえ集会で決議されたとしても、管理者が区分所有者のために原告又は被告となることはできません(【福岡高裁平成25年2月27日判決】)。

また,この管理者による訴訟追行権限はあくまで,区分所有者全員のためにのみ行使できるものであるため,区分所有者全員に当該請求権がそれぞれ帰属し,管理者が区分所有者全員を代理できる場合に限り認められますので,当該請求権が一部の区分所有者にのみ帰属しているに過ぎない場合は,当事者として訴訟追行することはできないと考えられます(【東京地裁平成28年7月29日判決】)。

そして,管理者は,その地位にあれば当然にその職務に関し当事者として訴訟を追行できるのではなく,あくまで,規約又は集会の決議による特別の授権が必要となります(【大阪地裁平成20年11月28日判決】【東京地裁平成25年9月11日判決】【仙台地裁令和5年2月20日判決】)。

以上より,管理者(理事長)が自ら当事者として訴訟追行するためには,①その職務に関する事項であること,②対象となる訴訟物(請求権)が区分所有者全員に帰属すること,③(規約に定めが無い限り)総会で単に訴訟提起することのみが決議されただけでは足りず管理者(理事長)に当該訴訟の追行権限を付与する旨の決議があることが必要となります(【東京地裁昭和54年4月23日判決】参照)。

そのため,裁判実務では,管理者(理事長)が自ら当事者となって訴訟追行する場合には,授権の根拠となる規約あるいは総会決議の議事録の提出を求められるのが一般的です。

なお,とりわけ管理組合が被告側になる場合は,基本的に管理者ではなく管理組合を訴訟当事者とするパターン(「○○管理組合 同代表者理事長△△」)になると思われますが,この場合は,理事長は,代表者として訴訟行為を行うに過ぎず自ら当事者として訴訟追行するわけではないため(【大阪地裁平成20年11月28日判決】参照),区分所有法26条4項に基づく規約又は集会の決議による特別の授権は不要と解されます(【東京地裁平成30年3月28日判決】【東京地裁令和6年3月8日判決】参照)。

【区分所有法26条4項】
管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。

【民事訴訟法115条1項】
確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。

一 当事者

二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人

三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人

四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者

【東京地裁昭和54年4月23日判決】
管理組合の意思決定機関である総会において本件訴訟の提起が議決されたとしても、それが直ちに各区分所有者による原告への訴訟追行権の付与を意味しないことは多言を要しないところである。

【札幌高裁平成10年6月25日判決】【最高裁平成23年2月15日判決】の上告受理申立理由書より抜粋)
区分所有法26条4項は、管理者の職務の遂行に必要な場合には、管理者が区分所有者全員に代わって訴訟を追行することができるようにすることこそ、区分所有建物のより適切な管理を可能にするものであるとの立場から、管理者は、規約又は集会の決議に基づき、一種の任意的訴訟担当(訴訟信託)を認めたものと解することができる。
右の観点からすれば、同条項は、規約又は集会の決議による授権がある場合には、管理者に対し、共用部分であることの確認の訴えを提起することも認めたものと解するのが相当である。

【大阪地裁平成20年11月28日判決】
本件には、原告となって本件各請求をすべき者が間違っているという問題と、原告の代表者が間違っているという二つの問題がある(原告はそもそもこの二つの問題を混同している感があるが、後述のようにこの二つの問題は全く異なっている。)。
上記二点を検討する前提として、別件損害賠償請求訴訟をはじめとした、本件訴訟を含む一連の訴訟において、関係者間に、当事者適格、訴訟追行権及び代表権といった民事訴訟法上の基本概念の理解並びに現行区分所有法二六条四項及び民事訴訟法二九条といった法規の理解等に誤解がある状況にかんがみ、はじめに上記各点について本件の処理に必要な範囲で整理する。
(1)民事訴訟法上の基本概念について
ア 当事者適格とは、訴訟物たる権利又は法律関係について、当事者として訴訟を追行し、本案判決を求めることができる資格をいう。そして、訴訟追行権とは、当事者適格を権限の面から言い換えた概念であり、当事者として訴訟を追行し、本案判決を求めることができる権限をいう。
なお、給付訴訟においては、原則として自己に給付請求権があると主張する者に当事者適格(原告適格)がある。
イ これに対して、代表権とは、法人等が当事者となる場合(民事訴訟法二九条、三七条等参照)に、当該団体自体はその性質上自ら実際に訴訟行為を行うことができないことを考慮して、法人等の代表機関がその法人等の名で、自己の意思に基づいて訴訟行為を行うことによって、その効果を法人等に帰属させる権限をいう。
法人等の代表者が当該法人等を代表して訴訟行為(訴えの提起)を行うについては、当該法人等からの授権が必要な場合がある(民事訴訟法二八条後段参照)。この授権のことを、訴訟行為の授権とか、訴訟追行の授権という場合があるが、上記からも明らかなように、訴訟追行権とは明らかに異なる。すなわち、訴訟追行権は、当該法人等について検討すべきであり、代表者が行使するのはあくまで代表権である。
(2)法規の理解について
ア 現行区分所有法二六条四項
現行区分所有法二六条四項は、その条文上、「管理者は、…原告又は被告となることができる」と規定していることからも明らかなように、管理者自身が当事者(原告又は被告)となって、訴訟を追行し、本案判決を求めることができることを定めた規定であり、管理者に訴訟追行権(任意的訴訟担当としての当事者適格)を与えた規定である。
本件でいえば、後述のとおり、管理者とは、理事長や店舗等部会部会長のことであり、上記規定は、理事長や店舗等部会部会長自身が原告又は被告として本案判決を受けることができる場合について規定したものということができる。
イ 民事訴訟法二九条
民事訴訟法二九条は、法人でない社団又は財団が当事者能力(民事訴訟の当事者となることができる一般的な資格)を与えられる場合について定めたものであり、本件でいえば、原告や店舗等部会自体が原告又は被告となる(理事長や店舗等部会部会長は、その代表者となる。)ことができるかについて規定したものということができる(ただし、当事者適格を有する場合まで規定したものではない。)。
<中略>
現行区分所有法二六条四項は、管理者が原告又は被告になるためには、規約又は集会の決議が必要であると規定しているが、管理規約には理事長に訴訟追行権を与える旨の規定がないから、理事長が任意的訴訟担当として自ら当事者になるためには、集会の決議が必要というべきである。

【福岡高裁平成25年2月27日判決】
区分所有法上の管理者が、規約又は集会の決議により、区分所有者のために、原告又は被告となることができるのは、「その職務(二項後段に規定する事項を含む。)に関」する事項に限られる(区分所有法二六条四項)。
そして、管理者の職務は、共用部分等を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をし(同条一項)、区分所有者を代理し、共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領について区分所有者を代理する(同条二項)ことであり、共用部分等に関しない事項については、その職務の範囲外であるから、そのような事項については、たとえ集会で決議されたとしても、管理者が区分所有者のために原告又は被告となることはできないと解すべきである。

【東京地裁平成25年9月11日判決】
原告は,平成24年度の理事長である被告Aについては,本件管理組合のため被告となる旨主張するようである。
しかし,原告の請求が,本件管理組合の負担する義務の支払を求める趣旨であると解する余地があるとしても,本件管理組合の管理規則その他の細則に,理事長が当然に本件管理組合の区分所有者のため被告となる旨の規定はなく,被告A(あるいは平成25年度の理事長)を被告とする旨の集会の決議がされたと認めるに足りる証拠もないから,区分所有法26条4項を根拠として被告Aに本件管理組合のための訴訟追行権を認めることはできない。
また,区分所有法3条の団体の管理者は,団体の代表者としてではなく,区分所有者のための代理人としてその地位が規定されているにすぎないから(区分所有法26条2項),被告A(あるいは平成25年度の理事長)につき民訴法29条による本件管理組合のための訴訟追行権を認めることもできない。

【東京地裁平成28年7月29日判決】
区分所有法26条4項は,管理者に区分所有者のための訴訟追行権を認めているが,これは,〔1〕例えば管理組合が共用部分について第三者と修繕契約の締結等の取引をした場合の第三者との法律関係や管理費の支払を各区分所有者に対して請求する場合の法律関係など,区分所有者全体に団体的に帰属する法律関係について,管理組合がいわゆる権利能力なき社団の要件を満たすか否かにかかわらず,管理者による区分所有者全員のための訴訟追行を認めて一元的に法的解決を図るのが適当であると考えられること,また,〔2〕共用部分の共有持分権に基づく権利や共用部分について生じた損害賠償請求権など,各区分所有者に権利が帰属し,本来的には各区分所有者において行使すべき権利についても,その権利に係る訴訟追行の結果が区分所有者全員の権利に影響するものは,区分所有者全員を代理する立場にある管理者が区分所有者全員のために訴訟追行することを認めるのが,建物の適正な管理及び紛争の一元的解決に資すると考えられることから,創設的に規定されたものである。
また,管理者が規約又は集会の決議により原告又は被告となった場合のその訴訟追行による判決の効力は,勝訴,敗訴を問わず区分所有者全員に及ぶところ(民事訴訟法115条1項2号参照),これは,共用部分等について生じた損害賠償請求権等の実体的権利を有する区分所有者全員から管理者に対し,規約又は集会の決議により訴訟追行権限を授与されていることがその前提とされているものと解される。
以上述べたところによれば,区分所有法26条4項の「区分所有者のために」とは「区分所有者全員のために」と解釈すべきであり,本件のように各区分所有者に個別的に発生し帰属する請求権に係る訴えについては,区分所有者全員に当該請求権がそれぞれ帰属し,管理者が区分所有者全員を代理できる場合に限り,規約又は集会の決議により,管理者が区分所有者全員(規約の設定又は集会の決議における反対者を含む。)の利益のために訴訟追行をすることを認めたものと解するのが相当である。
なお,このように解しても,共用部分について生じた損害賠償請求権等が帰属する区分所有者は,各自又は全員の名で訴訟を追行することができるし,区分所有者のうちの一人又は数名が選定当事者(民事訴訟法30条)となって訴訟追行することもできるから,管理者に区分所有者の一部の者についても訴訟追行権を認めなければ上記区分所有者の権利の実現が困難になるものではない。
また,区分所有法26条2項後段によれば,管理者は共用部分について生じた区分所有者の損害賠償金等の請求等につき区分所有者の一部の者を代理できるものと解されるが,同条4項による訴訟の追行は,上記のとおり結果として区分所有者全員に対する既判力を伴うものであり,訴訟外の代理行為と同列に論じることはできない。
本件においては,本件口頭弁論終結時において,本件各請求権は本件マンションの区分所有者全員に帰属してはおらず,管理者は,本件マンションの区分所有者全員が本件各請求権を有することを前提とする区分所有法26条4項の授権決議を得ていない。
したがって、本件管理組合の管理者たる原告が区分所有者全員を代理することはできないから,原告は,本件各請求権に係る本件訴えの原告適格を欠くといわざるを得ない。

【東京地裁平成30年3月28日判決】
原告は,被告代表者が建物の区分所有等に関する法律26条4項に定められた訴訟追行権の授権を受けておらず,区分所有者のために被告となることができない旨主張する。
しかし,本件訴訟は,管理組合を被告として帳票類の閲覧を請求する事案であり,区分所有者が被告となるべき事案ではないから,被告代表者が被告を代表して応訴するに当たり,上記授権を受ける必要はない

【仙台地裁令和5年2月20日判決】
管理者が、区分所有者に分割的に帰属する損害賠償請求権について、訴訟追行をし、その判決の効力が区分所有者全員に及ぶとするためには(民事訴訟法115条1項2号)、管理者は、上記損害賠償請求権につき、区分所有者全員から訴訟追行権限を授与されていることを要するものというべきであり、区分所有法26条4項の「区分所有者のために」とは「区分所有者全員のために」を意味するものと解される。
そして、本件各損害賠償請求権のような、共用部分に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は、共用部分の共有持分権を有することに基づく請求権であり、区分所有者の共有持分に応じて分割的に帰属するものというべきところ、区分所有者が変動した場合、転得者たる区分所有者は、瑕疵の存在を知りながら、これを前提として区分所有権を買い受けたなどの特段の事情がない限り、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を有するものと解される(最高裁平成17年702(受)第号同19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1769頁参照)。
本件マンションの○○○号室について、本件訴訟の提起後に売買代金1648万円で売買されたことが認められるが、転得者たる区分所有者が瑕疵の存在を知りながら、これを前提として区分所有権を買い受けたことを認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
また、本件訴訟の提起より前にも区分所有権の変動があったものの、これらの変動に際して、転得者たる区分所有者が、瑕疵があることを知りながら、これを前提として区分所有権を買受けたと認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、本件各損害賠償請求権は、本件マンションの区分所有者全員に、その共有持分に応じて分割的に帰属するものと認められる。
したがって、管理者である原告は、本件各損害賠償請求権につき、「区分所有者のために」(区分所有法26条4項)訴訟追行するものということができる。
また、被告らは、原告の主張する、仮住まい費用及び移転費用といった専有部分に関する費用や、専有部分を含む建替費用に係る損害についての損害賠償請求権の行使は、「職務」(区分所有法26条4項)に当たらないから、原告は、本件訴訟の当事者適格を有しない旨主張する。
しかしながら、原告は、本件マンションの共用部分に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があることを理由とする不法行為に基づく損害として上記の損害を主張するものであると解されるところ,共用部分に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があることを理由とする不法行為に基づく損害賠償金は、「共有部分等について生じた損害賠償金・・・の請求」(区分所有法26条2項後段)に当たるというべきである。
したがって、本件訴訟は、管理者がその「職務(第2項後段に規定する事項を含む。)に関し」(区分所有法26条4項)、訴訟追行するものということができる。 
以上によれば、原告は、本件訴訟につき当事者適格を有しているといえる。

【東京地裁令和6年3月8日判決】
原告は、被告管理組合の理事長は、区分所有法26条4項を充足せず、本件で被告管理組合について訴訟追行ができる者はいないため、被告ら訴訟代理人が被告管理組合の訴訟代理人となる法的根拠を有しないと主張するため、この点から検討する。
被告管理組合は、権利能力なき社団であるから、当事者能力を有するところ(民事訴訟法29条)、令和5年12月16日に開催された第43期第2回臨時総会において、本件訴訟を被告ら訴訟代理人に委任すること及びそのための費用を管理組合費用から支出することについて承認決議がなされた上で、被告管理組合(代表者理事長A)の名で訴訟委任状が提出されており、以上によれば、被告ら訴訟代理人は、被告管理組合の訴訟代理権を有すると認められる。
原告が指摘する区分所有法26条4項は、区分所有者のために管理者(被告管理組合の理事長)が訴訟当事者となる場合の定めであるが、本件訴訟においては、被告管理組合が、訴訟当事者として(原告自身、被告管理組合自体を被告としている。)被告ら訴訟代理人に委任しているもので、原告の主張は当たらない。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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