・News Access English

不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
電話03-3265-9601
info@tago-law.com 
マンション管理組合の管理者Menu 

更新:2025年8月1日 
 事例

非法人(権利能力なき社団)である管理組合において,区分所有者以外の者や法人は,管理者(理事長)になれるか。

 解説

1.管理者とは
「区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる」(区分所有法25条1項)とされており,管理者は,共用部分等の保存,集会決議の実行及び規約で定められた事項の実行に関し,区分所有者を代理し,管理者の行う法律行為の効果は区分所有者の全員に帰属します(区分所有法26条1項及び2項)。

なお,管理者を置くか否かは任意であり,区分所有者の数が少ない場合などは,管理者を選任していないマンションも多数ありますが,通常の規約では,理事長をもって「管理者」としているのが一般的です(国交省「マンション標準管理規約(単棟型)」(最終改正:令和6年6月7日)38条2項「理事長は、区分所有法に定める管理者とする」参照)。

【区分所有法25条1項】
区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。

【区分所有法26条】
1 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。

2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。

3 以下省略

2.管理者の資格要件
管理組合法人の場合は,法人の代表者たる理事を置くことは任意ではなく義務とされており(区分所有法49条1項),理事は,区分所有者である必要はないものの,法人は理事になることができないと解されています(稻本洋之助ほか『コンメンタールマンション区分所有法(第2版)』〔日本評論社 2004年〕 267頁以下,丸山英氣編『改訂版 区分所有法』〔大成出版社 2007年〕 281頁参照)。

これに対し,非法人(権利能力なき社団)である管理組合の管理者(通常は理事長)は,区分所有者である必要はなく,また,通説的には,自然人か法人かも問わないと解されています(稻本洋之助ほか『コンメンタールマンション区分所有法(第2版)』〔日本評論社 2004年〕 140頁,丸山英氣編『改訂版 区分所有法』〔大成出版社 2007年〕 157頁参照)。

もっとも,とりわけ近時の裁判例では,(管理規約に「法人である組合員は理事長に就任することができない」旨定められていた事案で)「理事長は,権利能力なき社団である被告において,管理組合を代表し,その業務を統括するほか,各種の意思決定や実作業等をすることが予定されており,これらの意思決定や業務等を実施できるのは自然人であることから,前記のとおり定められたものと解される。」とし「法人である組合員が理事長に就任することができない旨の定めが,法人である組合員に対する不当な制約として,無効なものと解することは困難といわざるを得ない」旨判示しているものや(【東京地裁令和2年3月26日判決】),「マンションの管理組合においては、組合の性質として権利能力なき社団に該当することを念頭に置き、自然人が役員となることが一般的には想定される」旨判示しているもの(【東京地裁令和5年3月24日判決】)があります。

上記裁判例は,いずれも,法人を管理者(理事長)に選任することができないと断定的に判断したものではありませんが,国交省「マンション標準管理規約(単棟型)」(最終改正:令和6年6月7日)コメント26頁でも,「本標準管理規約における管理組合は、権利能力なき社団であることを想定しているが、役員として意思決定を行えるのは自然人であり、法人そのものは役員になることができないと解すべきである。したがって、法人が区分所有する専有部分があるマンションにおいて、法人関係者が役員になる場合には、管理組合役員の任務に当たることを当該法人の職務命令として受けた者等を選任することが一般的に想定される。外部専門家として役員を選任する場合であって、法人、団体等から派遣を受けるときも、同様に、当該法人、団体等から指定された者(自然人)を選任することが一般的に想定される」と記載されています。

【区分所有法49条】
1 管理組合法人には、理事を置かなければならない。

2 理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は、理事の過半数で決する。

3 理事は、管理組合法人を代表する。

4 理事が数人あるときは、各自管理組合法人を代表する。

5 以下省略

【東京地裁令和2年3月26日判決】
管理規約は,「法人である組合員は理事長に就任することができない」旨定めているところ,理事長は,権利能力なき社団である被告において,管理組合を代表し,その業務を統括するほか,各種の意思決定や実作業等をすることが予定されており,これらの意思決定や業務等を実施できるのは自然人であることから,前記のとおり定められたものと解される。
他方,管理規約は,「理事会活動へ出席する者が当該法人の従業員等代表権のない場合」の手続について定めており,これは,組合員である法人の代表者や従業員が理事会活動に出席することを前提とする定めであると解されるから,前記定めは,法人である組合員の関与を排除する趣旨のものではないというべきである。
これらの事情を総合的に考慮すれば,法人である組合員が理事長に就任することができない旨の定めが,法人である組合員に対する不当な制約として,無効なものと解することは困難といわざるを得ない。

【東京地裁令和5年3月24日判決】
マンションの管理組合においては、組合の性質として権利能力なき社団に該当することを念頭に置き、自然人が役員となることが一般的には想定されるのであるから、本件組合の設立に当たっても、本件マンションの各区分所有者は、本件組合の役員が有効となるよう、自然人を選任したと解されるところ、本件創立総会の議事録には、本件組合の役員として、原告【※株式会社】、A【※有限会社】及びB【※株式会社】が理事に、C【※株式会社】が監事にそれぞれ選任された旨の記載が存在すると同時に、理事長として「株式会社〇〇【※原告】 代表取締役D」が、副理事長として「有限会社A 取締役E」が、会計担当理事として「株式会社B 代表取締役F」がそれぞれ個人として選任されたと解することができる旨が記載されているのであるから、本件創立総会においては、本件組合の役員として、本件マンションの区分所有者である原告、A、B及びCの代表者たる個人がそれぞれ選任されたことがうかがわれ、したがって、本件選任決議が無効であるとはいえない。
※【 】内は筆者加筆。

 結論

以上より,非法人(権利能力なき社団)である管理組合の管理者(通常は理事長)は,区分所有者である必要はなく,また,区分所有法上は法人であっても管理者(理事長)となることは否定されていませんが,少なくとも実務上は,自然人であることが想定されているといえ,法人そのものを管理者(理事長)に選任することは避けた方が良いと思われます。

もっとも,法人を管理者(理事長)に選任した場合も,当然に無効となるものではなく,当該法人の代表取締役等の個人(自然人)が選任されたものとみなされる余地があります。

 実務上の注意点

3.管理者(理事長)の訴訟追行権限
管理者(理事長)は,その地位にあれば当然にその職務に関し訴訟を追行できるのではなく,規約又は集会の決議による特別の授権に基づいてのみ訴訟を追行することができます(区分所有法26条4項)。

かかる管理者による訴訟追行は,一種の任意的訴訟担当と解されていますが(稻本洋之助ほか『コンメンタールマンション区分所有法(第2版)』〔日本評論社 2004年〕 155頁),管理者(理事長)が訴訟追行するためには,規約に定めが無い限り,総会で単に訴訟提起することのみが決議されただけでは足りず,管理者(理事長)に当該訴訟の追行を委任する内容の決議が必要となります(【東京地裁昭和54年4月23日判決】参照)。

そのため,裁判実務では,管理者(理事長)が訴訟追行する場合には,授権の根拠となる規約あるいは総会決議の議事録の提出を求められるのが一般的です。

【区分所有法26条4項】
管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。

【東京地裁昭和54年4月23日判決】
管理組合の意思決定機関である総会において本件訴訟の提起が議決されたとしても、それが直ちに各区分所有者による原告への訴訟追行権の付与を意味しないことは多言を要しないところである。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


〒102-0083 東京都千代田区麹町4-3-4 宮ビル4階・5階
電話 03-3265-9601 FAX 03-3265-9602
Copyright © Tago Iwata & Tamura. All Rights Reserved.