| 解説 |
1.手付金とは
不動産売買契約においては,手付金の授受が行われるのが一般的です。
手付は,手付契約に基づき買主から売主に交付されるもので,単なる売買代金の一部(内金ないし頭金)という意味に留まらず,契約成立の証拠として授受される証約手付,債務不履行(違約)の場合の損害賠償額の予定として授受される違約手付,そして,「買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる」という解約権留保するために授受される解約手付(民法557条1項)を意味する場合がありますが,単に「手付」という場合は,原則として解約手付と推定されます(【最高裁昭和29年1月21日判決】)。
なお,売主が宅建業者で買主が非宅建業者の場合には,手付は,当然に解約手付となります(宅建業法39条2項,78条2項)。
これら各手付の性質は両立し得ないものではなく(【最高裁昭和24年10月4日判決】),実務上も,解約手付であると同時に,手付の振込や領収証の授受は契約成立の証拠として機能し,かつ,決済時に売買代金の一部に充当する旨約定されるのが一般的です。
手付(解約手付)の授受がなされた場合,相手方が「履行に着手」する前であれば,買主は手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供することにより、売買契約を解除することができます(この場合の解除を特に「手付解除」といいます)。
買主が手付解除をする場合,通説的には,契約解除の意思表示とは別に手付放棄の意思表示をすることは要しないと解されています(【東京地裁平成5年3月29日判決】【東京地裁平成28年10月11日判決】)。
他方,売主が手付解除をする場合,手付金の倍額を「現実に提供すること」が必要と解されておりますので(【最高裁平成6年3月22日判決】),手付金の倍額を準備して通知する(口頭の提供)だけでは手付解除は認められません。
【民法557条】
1 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。
【最高裁昭和24年10月4日判決】
違約の場合手附の没収又は倍返しをするという約束は民法の規定による解除の留保を少しも妨げるものではない、解除権留保と併せて違約の場合の損害賠償額の予定を為し其額を手附の額によるものと定めることは少しも差支なく、十分考へ得べき処である。
【最高裁昭和29年1月21日判決】
売買の当事者間に手附が授受された場合において、特別の意思表示がない限り、民法五五七条に定めている効力、すなわちいわゆる解約手附としての効力を有するものと認むべきである。
【東京地裁平成5年3月29日判決】
民法五五七条一項が「買主ハ其手附ヲ放棄シ」と規定するのは、買主が解除をすれば当然に手附の返還請求権を失うという意味、言い換えれば当然に返還請求権放棄の効果を生ずるという意味であるに過ぎないのであって、契約解除の意思表示と別個に手附放棄の意思表示を要するという趣旨ではない。右は通説の認めるところであって、当裁判所もまた右見解を採用するものである。
【最高裁平成6年3月22日判決】
民法五五七条一項により売主が手付けの倍額を償還して契約の解除をするためには、手付けの「倍額ヲ償還シテ」とする同条項の文言からしても,また、買主が同条項によって手付けを放棄して契約の解除をする場合との均衡からしても、単に口頭により手付けの倍額を償還する旨を告げその受領を催告するのみでは足りず、買主に現実の提供をすることを要するものというべきである。
【東京地裁平成28年10月11日判決】
民法557条1項は,買主はその手付を放棄し,解除することができると定めているところ,同条は,買主が解除すれば当然に手付の返還請求権放棄の効果を生ずるという意味であるのに過ぎないのであり,契約解除の意思表示とは別に手付放棄の意思表示を要すると解すべきものとはいえず,これと異なる原告の主張は採用することはできない。
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2.履行の着手とは
相手方が契約の履行に着手した後は、手付解除は認められません(民法557条1項但書)。
「履行に着手」とは,債務の内容たる給付の実行に着手すること,すなわち,客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし,又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合をいい(【最高裁昭和40年11月24日判決】),債務者が履行期前に債務の履行のためにした行為が,「履行の着手」に当たるか否かについては,当該行為の態様,債務の内容,履行期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合勘案して決すべきであり,債務に履行期の約定がある場合であっても,ただちに,履行期前には,民法557条1項にいう履行の着手は生じ得ないと解すべきものではないものの(【最高裁昭和41年1月21日判決】),履行の着手の有無を判定する際には,履行期が定められた趣旨・目的及びこれとの関連で債務者が履行期前に行った行為の時期等もまた,右事情の重要な要素として考慮されるべきであると考えられています(【最高裁平成5年3月16日判決】【東京地裁平成25年4月19日判決】参照)。
なお,履行の着手後に,履行の着手をした相手方に対する手付解除が許されないのは,履行の着手に要した費用の損害をてん補するためだけではなく,契約が履行されるものとして行動した者の期待を保護し,売買契約が履行されなかったことによって不測の損害が生じ得ることを防止するためですので,履行の着手の有無は,手付解除の意思表示をするまでの相手方の行為から客観的に判断すべきであり,単に,結果として手付金相当額を超える損害が生じたか否かを判断基準とすべきではないと解されています(【東京地裁平成25年9月4日判決】)。
【最高裁昭和40年11月24日判決】
民法五五七条一項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべきところ、本件において、原審における上告人の主張によれば、被上告人が本件物件の所有者たる大阪府に代金を支払い、これを上告人に譲渡する前提として被上告人名義にその所有権移転登記を経たというのであるから、右は、特定の売買の目的物件の調達行為にあたり、単なる履行の準備行為にとどまらず、履行の着手があつたものと解するを相当とする。従つて、被上告人のした前記行為をもつて、単なる契約の履行準備にすぎないとした原審の判断は、所論のとおり、民法五五七条一項の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。
【最高裁昭和41年1月21日判決】
民法五五七条一項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または、履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべく、債務に履行期の約定がある場合であつても、当事者が、債務の履行期前には履行に着手しない旨合意している場合等格別の事情のない限り、ただちに、右履行期前には、民法五五七条一項にいう履行の着手は生じ得ないと解すべきものではない。
【最高裁平成5年3月16日判決】
解約手付が交付された場合において、債務者が履行期前に債務の履行のためにした行為が、民法五五七条一項にいう「履行ノ著手」に当たるか否かについては、当該行為の態様、債務の内容、履行期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合勘案して決すべきである。
そして、「債務に履行期の約定がある場合であっても……ただちに、右履行期前には、民法五五七条一項にいう履行の着手は生じ得ないと解すべきものではない」こと判例(最高裁昭和三九年(オ)第六九四号同四一年一月二一日第二小法廷判決・民集二〇巻一号六五頁)であるが、履行の着手の有無を判定する際には、履行期が定められた趣旨・目的及びこれとの関連で債務者が履行期前に行った行為の時期等もまた、右事情の重要な要素として考慮されるべきである。
【東京地裁平成25年4月19日判決】
本件手付解除条項にいう「履行に着手」とは,債務の内容たる給付の実行に着手すること,すなわち,客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし,又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解するのが相当であるが,債務者が履行期前に債務の履行のためにした行為が,「履行の着手」に当たるか否かについては,当該行為の態様,債務の内容,履行期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合勘案して決すべきであるから,債務に履行期の約定がある場合であっても,ただちに,履行期前には,民法557条1項にいう履行の着手は生じ得ないと解すべきものではないものの,履行の着手の有無を判定する際には,履行期が定められた趣旨・目的及びこれとの関連で債務者が履行期前に行った行為の時期等もまた,右事情の重要な要素として考慮されるべきである。
そして,上記認定事実のとおり,本件売買契約において,被告が金融機関から融資の承諾を得られなかったときは,売主及び買主に解除権が留保されていたこと,本件売買契約の残代金2900万円の支払及び引渡しの時期は,被告が金融機関から融資を受けるのに必要な期間の見込みから平成23年9月30日と変更されたこと,本件売買契約締結時には,建築条件は付さない合意があったにもかかわらず,原告が被告に対し,原告との建物建築請負契約の締結を強引に勧めたことに起因して,同年8月8日ころから同月30日ころまで,融資申込み手続が中断した状態にあったことが認められ,このような売主である原告の行為に起因して,本件売買契約の履行の前提となる金融機関からの融資手続が中断していたという事実関係の下においては,原告が依頼した土地家屋調査士が測量をしたことをもって,原告が履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたとして,手付解除を制限すべき「履行に着手」したと認めることはできない。
【東京地裁平成25年9月4日判決】
被告は,原告から本件売買契約の決済日を前倒しする旨の申入れを受け,本件売買契約の残代金の支払,所有権移転及び根抵当権抹消各登記手続,並びに本件土地の引渡しを行う決済日を平成24年3月27日とすることに同意したことから,原告は,前記各手続を行うための準備をして,同日,本件土地の登記簿謄本,印鑑証明書,所有権移転登記手続等のための委任状,測量図面,国税の精算書,資格証明及び領収書等を準備して本件決済場所に赴いたこと,同日,原告から依頼を受けた本件土地の根抵当権抹消登記手続に必要な書類等を持参した根抵当権者である銀行の担当者,並びに原告が本件土地の所有権移転及び根抵当権抹消各登記手続を委任した司法書士も本件決済場所に赴いたことが認められ,これらは,客観的に外部から認識し得る本件売買契約の所有権移転及び根抵当権抹消各登記手続,並びに本件土地の引渡義務の履行の提供と認めることができる。
被告は,原告が前記履行の提供をした状態において,原告に本件売買契約を解除したい旨を伝えたというのであるから,原告は,被告が手付解除の意思表示をする前に,履行の着手をしたと認められる。
なお,被告は,手付金相当額ではてん補できない不測の損害を生じさせない行為は,履行の着手には当たらないと主張するが,履行の着手後に,履行の着手をした相手方に対する手付解除が許されないのは,履行の着手に要した費用の損害をてん補するためだけではなく,契約が履行されるものとして行動した者の期待を保護し,売買契約が履行されなかったことによって不測の損害が生じ得ることを防止するためであるから,履行の着手の有無は,手付解除の意思表示をするまでの相手方の行為から客観的に判断すべきであり,結果として,手付金相当額を超える損害が生じたか否かを判断基準とすべきではないと解するのが相当である。
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3.履行の着手の具体例
実務では,具体的に何をもって履行に着手したと認定されるのか,しばしば問題になります。基本的には前述2の基準に従い判断することになりますが,多湖・岩田・田村法律事務所では,相談を受ける都度,同種の裁判例を参考にしながら,契約ごとに個別具体的に判断するようにしています。
【最高裁昭和43年6月21日判決】
農地を農地以外の土地に転用する目的のもとに売買契約を結んだ売主は、買主と協力して農地法五条所定の知事に対する許可申請手続をして権利移転の許可を受け、売買契約を効力あらしめるよう、信義則上要求されるところに従つて努力すべき義務を負うものであり、買主も亦売主と協力して右同旨の所為にいずべき義務を負うものである。
そして、右のような農地の売買契約につき民法五五七条所定の解約手附が交付された場合において、売主、買主が連署の上農地法五条に基づく許可申請書を知事宛に提出したときは、特約その他特別の事情のないかぎり、売主、買主は、夫々、民法五五七条一項にいわゆる契約の履行に着手したものと解するのが相当である。
【東京地裁平成21年9月25日判決】
本件売買契約においては,原告らは,その責任において,本件土地と隣接地(道路を含む。)との境界を,本件不動産の引渡しまでに確定した上,被告に明示し,また,土地家屋調査士が作成した実測図,隣地所有者及び道路管理者の署名捺印のある境界確認書,越境覚書等の原本を交付することとされている。
<中略>
原告らは,被告が手付解除をする前である平成20年6月10日及び同月12日,道路を含む隣接土地の境界を確定する作業をしたものであり,客観的に認識し得るような形で本件売買契約に定められた債務の履行行為の一部をしたものということができる(上記確定に要する費用を被告が負担したからといって,原告らが上記作業をしたことが否定されるわけではない。)。
また,原告らは,本件不動産を明け渡すため,上記手付解除がされる前に,転居先であるAの事務所の3階のリフォーム工事に着手したものであり,履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたものということもできる。
【東京地裁平成21年10月16日判決】
原告は,本件売買契約における合意に基づき,本件物件に対する抵当権等の担保権及び賃借権等の用益権その他被告の完全な所有権の行使を阻害する一切の負担を消除する義務を負担していたところ,売買契約の売主による「契約の履行」(民法557条1項)とは,目的物の引渡しや登記の移転という点に限られず,契約によって負担した債務の履行をいうと解すべきであるから,本件賃貸借契約を解除して本件物件に関するA社の賃借権を消滅させることも,原告による本件売買契約の「履行」といえると解される。
そうすると,原告は,平成19年12月20日,A社との間で,本件建物の具体的な明渡時期及び立退料の金額について合意しているのであるから,この時点において,原告によって,客観的に外部から認識し得るような形で本件売買契約の履行行為の一部がなされたか,又は,少なくとも履行の提供をするために欠くことのできない前提行為がなされたと認められる。
<中略>
また,原告は,残置動産等買取合意によって,A社が残置した動産の処理方法についても手当てしているが,A社の所有する動産が残置された状態では同社の本件建物に対する占有権が消滅したとはいい難い場合も想定できるのであるから,原告がA社との間で残置動産等買取合意を結んだことについても,原告による本件売買契約の履行行為の一部がなされたか,又は,少なくとも履行の提供をするために欠くことのできない前提行為がなされたと評することができる。
なお,実質的にみても,原告は,本件売買契約によって平成20年5月30日までにA社の本件建物からの明渡しを完了させなければならないということを必須の条件として,第1覚書において別途協議するとされていた本件建物の具体的な明渡時期,立退料の金額及び残置動産の買取価格等をA社との間で交渉し,第2覚書による合意及び本件残置動産等買取合意を結ばざるを得なかったのであるから,本件売買契約が履行されるという原告の期待は保護に値するというべきである
【東京地裁平成25年4月18日判決】
新築建物を分譲して販売する不動産業者は,建物新築後未登記のままにし,買主が決定後に買主名義で売主が建物表題登記をし,代金決済日に買主名義の所有権保存登記をすることにより,売主(建築主)名義の建物表題登記及び所有権保存登記をした上で買主に所有権移転登記をする登記手続に代える慣習があること,同慣習に基づく登記手続においては,金融機関が住宅ローンの査定や担保権設定登記の準備のため建物表題登記のみを融資実行日よりも前に備えていることを求めることがあり,建物表題登記と所有権保存登記を同時に行うことができないため,売主は建物表題登記のみを代金決済日(融資実行日)よりも前に履行するのが通常であることは顕著な事実である。
そして,上記各認定事実によれば,原告が,本件売買契約に係る本件建物の所有権移転登記手続について,上記慣習による登記手続を行うため,代金決済日より前に本件建物の建物表題登記を行う必要があるという認識を有し,被告らに対し,被告ら名義による建物表題登記及び所有権保存登記手続に係る必要書類を予め提出するよう求め,被告らも,本件建物に係る登記手続について認識した上で,原告に対して必要書類等を交付したことが認められるのであるから,本件売買契約においては,原告と被告らとの間で,本件建物に係る登記手続につき,上記慣習と同様,原告が被告ら名義で本件建物の建物表題登記を行い,その後に被告らの所有権保存登記を行うとの合意があったと認められ,そうすると,上記のとおり,原告が,被告ら名義で本件建物についての建物表題登記を行ったことは,正に上記合意に基づき,本件建物に係る被告ら名義の建物表題登記を行ったことが認められるのであるから,遅くとも本件建物に係る建物表題登記がなされた平成24年5月18日には,原告が本件売買契約において定められた履行の一部ないしその前提行為を行ったものと認めることができる。
他方,本件売買契約においては,本物件引渡日について「平成24年5月31日予定」と定められているものの,本件売買契約がいわゆるローン特約を定めた土地建物の売買契約であることからすれば,原告にとっては,本件建物に係る所有権保存登記手続や本件土地に係る抵当権設定登記抹消登記手続及び所有権移転登記手続に係る実施日の目安となり,被告らにとっては,代金決済日として金融機関からの融資実施日の目安とする意味を有するものであって,原告及び被告らの上記各履行が確実に確保できるよう,別途金融機関や登記所等の履行場所と日時を指定するのが通常であることを考慮すれば,飽くまでも上記各手続の決済日を暫定的に定めたものに過ぎず,本件売買契約における本物件引渡日の定めをもって同日より以前に約定の手付解除権の行使を制限することを許容しない趣旨までも有していたと認めることはできない。
以上からすれば,原告は,遅くとも平成24年5月18日には本件売買契約について,客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし,又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたと認められる。
【東京地裁平成29年2月27日判決】
住宅ローンの申込み,投資信託の解約,親族からの資金の調達といったことは,売買代金の支払の原資を確保する関係上,各買主にとって必要な準備行為であるとは解されるが,売主に対する支払義務の履行との関係では,資金の調達という準備行為がされたにとどまり,不可欠な前提行為が行われたとまでは言い難い。
実際上も,上記のような行為がされたことにより,各買主に不可逆的に何らかの負担が生じたということはうかがわれない(この理は,住宅ローンについて承認を得た買主の場合も,異なるものではない。)ため,上記各行為を行った後における契約存続への期待の要保護性が,それ以前の段階と比べて有意に高まるともいえない。
また,その余の行為,すなわちオプション工事の申込み,インテリアオプションの申込みやそれに関する打合せ,駐車場の申込み等,家具の購入等については,いずれも,本件共同住宅への転居とは関連する行為であるものの,本件共同住宅の売買代金の支払とは直接関係しない行為であるから,当該支払のために不可欠な前提行為であると解する余地はない。
この点,原告は,特にオプション工事代金の支払については,オプション工事に係る請負契約と本件共同住宅の売買契約とが実質的に一体であることに鑑み,履行の着手に当たると解すべきであるなどと主張する。
しかし,同じ建物に関する契約であるとはいえ,別々の機会に契約がされており,売買契約を結ぶ場合に必ずオプション工事に係る契約を結ばなければならないという関係にもない以上,オプション工事代金と売買代金は別個に定められたというほかなく,オプション工事代金の支払をもって,売買代金の支払の一部が履行されたか,支払に不可欠な前提行為がされたと見ることには無理があるといわざるを得ない。
以上で検討したほか,各買主について履行の着手に当たり得る事情は見当たらないから,本件において,いずれの買主についても,履行の着手があったことは認められない。
【東京高裁令和5年1月31日判決】
第一次的には消費者契約法による取消しを主張しつつ、それが認められない場合に備えて予備的に手付解除を主張することも許されるというべきである。
そのように解さなければ、買主は手付解除の権利を放棄しない限り、消費者契約法による取消しを主張できないことになって不当である一方、いずれにせよ、売買契約を解消する意思表示であることに変わりは無いから、売主を不当に当該売買契約に拘束させることにはならない。
<中略>
控訴人らの注文した工事中オプションの内容はいずれも特殊なものではなく、控訴人ら以外の者に売却するに当たり障害となるような性質のものとはいえないこと、買主が売買契約を解除する場合には買主の費用負担で標準プランへ復元する義務が生じる旨の規定があることを踏まえると、被控訴人としては、万一本件売買契約が解除されることがあっても、他の者に売却するのに支障はないとの前提で、工事中オプションを施工したものとみるのが相当である。
そうすると、本件においては、工事中オプションの施工の完了が本件売買契約の履行に欠くことのできない前提行為の着手であると評価することはできない。
また、被控訴人が最終支払日まで手付解除が可能であると回答しておきながら、工事中オプションを施工して、控訴人らに手付解除の機会を失わせることは、信義則に反し、許されないというべきである。
被控訴人は、同年8月30日、本件物件の表題登記手続を行ったから履行の着手があると主張する。
しかしながら、被控訴人は、本件物件を含む本件マンションの販売業者であり、本件売買契約の成否に関わらず、本件物件の表題登記手続を行うことが通常であることに照らせば、これをもって改正前民法557条の履行の着手があったということはできない。
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| 結論 |
以上より,頭書事例では,次の3点をメルクマールとして判断することになります。
(1) オプション工事が不動産の売買契約とは別々の契約(機会)に基づき生じたものか。
(2) オプション工事を施工したことにより第三者への売却に特段の支障が生じるか。
(3) 買主が売買契約を解除する場合買主の費用負担でオプション工事前の状態に原状回復する旨の約定があるか。
従って、オプション工事の施工が売買代金の決済の条件となっている等売買契約と一体と評価できる場合で、かつ当該オプション工事に汎用性がある場合や、汎用性が無くても買主側に原状回復義務がある場合には、売主がオプション工事に着手後も、買主の手付解除が認められる可能性があります。
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| 実務上の注意点 |
4.手付金額の上限規制等
売主が宅建業者で買主が非宅建業者の場合には,手付金額の上限は売買代金総額の2割以下とする必要があり,これを超える部分は無効となります(宅建業法39条1項,78条2項)。
また,同様に,売主が宅建業者で買主が非宅建業者の場合には,解約手付に関する特約で買主に不利なものは無効になりますので(宅建業法39条2項,3項)、例えば、期限を設ける特約も無効となります(【東京地裁平成28年10月11日判決】【東京地裁令和2年1月30日判決】)。
【宅建業法39条】
1 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の十分の二を超える額の手付を受領することができない。
2 宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであつても、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
3 前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。
【宅建業法78条2項】
第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。
【東京地裁平成28年10月11日判決】
宅建業法39条2項は,宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地の売買契約の締結に際して手附を受領したときは,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手附を放棄して契約を解除することができると規定し,同条3項は,この規定に反する特約で,買主に不利なものは,無効とすると定めている。
そして,本件売買契約は,宅地建物取引業者である原告がみずから売主となって被告に宅地を売る内容の契約であるところ,手付放棄解除特約は,当事者の一方が契約の履行に着手するまでであっても,手付解除期限とされた平成27年3月7日が経過すれば,買主である被告が手付金を放棄して解除することができない内容のものであるから,買主に不利な特約であり,宅建業法39条3項により無効である。
【東京地裁令和2年1月30日判決】
宅地建物取引業者は,自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手付を放棄して契約の解除をすることができる(宅建業法39条2項)が,同条2項の規定に反する特約で買主に不利なものは無効とされている(同条3項)。
そして,原告は宅地建物取引業者であり,契約日から5日以内と限定した本件契約の手付解除期限条項は,買主に不利な条項であるから,無効である。
なお,この点,原告は,5日間という期間は,被告代表者も納得していたと主張する。しかし,宅建業法の定めは買主保護の観点から,特に宅建業者が売主の場合,手付解除期間を短くする,合意があったとしてもそれを無効とする規定であるから,仮に被告代表者が納得していたとしても有効となるものではない。
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※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
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