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残置物処分の適否(自力救済禁止の原則)Menu 

更新:2024年8月17日 
 事例

マンションの賃貸借契約書に,「賃借人が2か月分以上賃料を滞納した場合,賃貸人は,賃貸借契約を解除の上,建物に立ち入り,残置物の処分等の適当な処置をとることができ,賃借人はこれに対し一切異議を述べない」旨の条項があった場合,賃貸人や管理会社が,当該条項を根拠に,賃料を滞納した賃借人の部屋に勝手に立ち入り,鍵を取り替えて賃借人を部屋に立ち入らせないようにしたり,賃借人の所有・管理にかかる残置物を賃借人の同意なく廃棄・処分することの適法性。

 解説

1.自力救済禁止の原則
賃借人が家賃を滞納したまま居座ってしまった場合,これを強制的に立ち退かせるには,仮に債務名義(裁判所の建物明渡認容判決)を取得していても,別途,建物明渡強制執行手続を採る必要があります。

上記の法的手続によらず,かつ賃借人の承諾なく勝手に室内に立ち入ったり,室内の残置物を廃棄又は処分したりした場合は,民事上違法となり損害賠償義務(民法709条)を負うことはもちろん,刑事上も,建造物侵入罪(刑法130条),文書毀棄罪(同法259条),器物損壊罪(同法261条)等に問われる可能性がありますので注意が必要です(自力救済禁止の原則)。

そして,賃貸借契約書にあらかじめ「建物に立ち入り,残置物の処分等の適当な処置をとることができる」旨の条項があっても,これをもって,上記「賃借人の承諾」とは認められません(その意味で当該条項は法的には無効ということになります)。

この点,【東京地裁平成18年5月30日判決】でも,頭書事例のような条項(特約)に基づき強制的に退去を実現することについて,「法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合を除くほかは,原則として許されない」と判示しています。

【民法709条】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

【刑法130条】
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

【刑法259条】
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。

【刑法261条】
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

【東京地裁平成18年5月30日判決】
※「賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は、賃借人の承諾を得ずに本件建物内に立ち入り適当な処置を取ることができる」(本件特約)と定められていた事案。

本件特約は、A【※賃貸人】がX【※賃借人】に対して賃料の支払や本件建物からの撤去を強制するために、法的手続によらずに、Xの平穏に生活する権利を侵害することを許容することを内容とするものというべきところ、このような手段による権利の実現は、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合を除くほかは、原則として許されないというべきであって、本件特約は、そのような特別の事情があるとはいえない場合に適用されるときは、公序良俗に反して、無効であるというべきである。
このことは、仮に、Xが本件特約の存在を認識した上で本件契約書や本件承諾書をAとの間で取り交わしたものであるとしても、変わらないというべきである。
この点について、被告【※管理会社】は、Xが賃料を滞納した後Xに連絡を取ろうと試みたが返答がなく、Xが本件内容証明郵便による解除を無視して占有権原がないのに本件建物に居座ったために、被告の従業員が本件特約に基づいて本件立入り等をしたものであり、本件立入り等は適法であると主張する。
しかし、仮に、Xが滞納賃料の支払を求める被告からの連絡に応答せず,更には、本件内容証明郵便等による解除が有効であり、実体的にはXの本件建物に対する占有権原が消滅していたとしても、それだけでは、被告が法的な手続を経ることなく、通常の権利行使の範囲を超えて、Xの権利を侵害するような方法によって、賃料の支払や本件建物からの退去を強制することが許される特別の事情があるとはいえないというべきである。
そして、他に、被告の従業員が、本件建物の管理責任を果たすために、法的な手続を経ずに、本件立入り等をする必要があったことを認めるに足りる証拠はない。 
以上によれば、被告の従業員による本件立入り等は、Xの本件建物において平穏に生活する権利を侵害する違法な行為というべきであり、本件立入り等は、被告の業務の執行としてされたものであるから、被告は、民法七一五条に基づき、本件立入り等によってXに生じた損害を賠償する責任があるというべきである。
⇒結論として,被告(管理会社)に対し,慰謝料5万円の支払いを命じた。
※【 】内は筆者加筆。

2.賃借人の承諾の有効性
前述1のとおり,賃貸借契約書にあらかじめ残置物処分等に関する賃借人の承諾を規定していても無効ですが,賃貸借契約終了の直前又は直後に,賃借人から,改めて,次の【条項例】による承諾書(所有権放棄書)を取得した上で,賃貸人が室内に立ち入り,室内の残置物を廃棄・処分することは,賃借人の承諾に基づくものとして適法となります。

【条項例】
私は,令和6年8月末日をもって本物件内に存する造作・動産等一切の残置物の所有権を放棄し,同日の翌日以降,賃貸人が本物件に立ち入り,これらの残置物を廃棄又は処分することについて,一切の異議を述べません。

もっとも,上記【条項例】による承諾書(所有権放棄書)の取得のプロセスが脅迫的な場合など社会的相当性に欠ける場合は,公序良俗に反するものとして民法90条により無効となり,有効な賃借人の承諾があるものとは認められません(【東京地裁平成24年3月9日判決】参照)。

そのため,多湖・岩田・田村法律事務所では,賃借人の承諾を取得する場合には,次の要件を極力充足するよう助言・指導しています(この点については,大阪市が,平成18年2月9日から公園からの退去を示唆して原告に自立支援センターへの入所を勧め,3月3日の勧告書手交,3月16日の所有権放棄承諾書への署名,4月26日から28日にかけての退去の予告を経て,5月2日に本件撤去に至ったことを考慮し,「所有物を持参して公園から立ち退く権利と機会が与えられていた」とし,「本件撤去及びこれにより撤去した物品の廃棄処分は,承諾書によってされた原告の承諾に基づいて行われたものであって,不法行為としての違法性は認められない」とした【大阪地裁平成20年12月11日判決】も参考になります)。

(1) 承諾書の取得日を,できる限り,残置物の処分期限日と近接させ,処分する残置物の範囲を明確にすること。
※仮に承諾日と処分日が大きく離れていると,その間に賃借人が室内に新たに搬入・設置した物についても,真に所有権放棄の意思があるのか疑義が生じるため(賃貸借契約締結時にあらかじめ承諾書を取得してもほぼ無意味)。

(2) 残置物の処分日までに一定の猶予期間を設けるなど,賃借人に所有物を搬出する十分な機会を確保すること。

(3) 賃借人にとっても残置物の所有権を放棄するメリット(処分費用免除等)を持たせておくこと。

(4) 署名捺印時に複数人で取り囲んで威圧するなど,承諾書の取得方法が社会的相当性を逸脱しないこと。

【民法90条】
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

【大阪地裁平成20年12月11日判決】
※大阪市にある公園内に違法にビニールシートのテントを設置して野宿生活をしていた者に対し,公園を管理する大阪市の職員が,テント等を撤去した事案。

被告は,平成18年2月9日から公園からの退去を示唆して原告に自立支援センターへの入所を勧めており,3月3日の勧告書手交,3月16日の承諾書署名,4月26日から28日にかけての退去の予告を経て,5月2日に本件撤去に至ったのであるから真正な協議も行われており,原告には,所有物を持参して公園から立ち退く権利と機会が与えられていた
更に,被告は自立支援センターへの入所も勧めており,これを希望しなかった原告に対し,それ以上の自立支援策を具体的に示さなかったからといって,それが自立支援法1条,3条,11条の趣旨に反するとはいえない。
以上のとおり,本件撤去が強制立ち退きに当たるかどうかはさておき,いずれにしても,本件撤去が社会権規約の一般的意見に違反しないことは明らかである。
そして,上記認定の事実によれば,承諾書が,自立支援法のみならず,憲法13条,29条1項,25条1項,生活保護法1条,民事執行法131条,168条の2の趣旨にも違反しないことは明らかであり,承諾書が公序良俗に反し,民法90条により無効であるとの原告の主張は,採用できない

【東京地裁平成24年3月9日判決】
※賃貸物件の管理会社である被告Y1(担当者C)及び被告Y2(代表者B)が,5か月分の家賃及び共益費を滞納した賃借人に対し,着の身着のままでの退去を迫り,その場で「本件物件の残置物を処分しても異議を申し立てないこと」等を内容とする確認書(本件確認書)に署名捺印させた上で即座に退去させ,後日,賃借人の家財も処分した事案。

原告は、平成一九年六月三〇日、被告らの要求を受けて、本件物件から退去しているが、原告が退去したのは、着の身着のままで退去してはホームレスになってしまうので退去したくはなかったが、家賃を滞納している負い目があり、また、同日までの交渉で、Cから怒鳴られ、Bから名刺をベランダに置かれるなどしていたことから、退去を断れば、悪質な嫌がらせを受けるかもしれないと思い、やむを得ずに退去したものである。
通常、賃借人が、転居先も決まっていないのに、退去するとすれば、ホームレスになるしかないのであって、そのような選択を自主的に行うはずがないことは不動産管理を行っている者であれば、当然に分かっていることであり、それなのに、Cらは転居先も決まっていない原告に対して、本件物件から退去することを求め、原告に今後の見通しもなく、家財を置いたまま退去させざるを得なくしたのであるから、Cらが原告に対し、本件物件からの退去を強制したものであるといえる。
Cらは、平成一九年六月三〇日の交渉の際、原告に対して本件物件からの退去は求めたものの、暴力的な行為までは行っておらず、また、退去要求の態様が、その行為自体が刑法上の脅迫、強要行為に該当する程度には至らない行為であったとしても、家賃を滞納しているという負い目のある賃借人に、法的手続によることなく、着の身着のままでの退去を迫ること自体が社会的相当性に欠け、違法行為である
<中略>
原告がやむを得ず本件物件から退去したのと同様に、原告が本件確認書に署名捺印したのも同様の事情によるものであると認められるから、原告が本件確認書に署名捺印していることをもって、Cらの行った行為が社会的に相当な行為と評価されるものではない
また、被告らは、原告を着の身着のままで本件物件から強制的に退去させたのであるから、原告が残置した家財を被告らが処分する権限は何もない。
本件確認書に原告が署名捺印したことによって、原告が本件物件から退去し、家財を被告らが処分することに同意したものと評価できるわけではないことは、先に説示したとおりである。
被告らは、原告の家財を原告に返還することなく、処分している(処分行為を行ったのは被告Y1であるが、BとCが共同して原告を本件物件から追い出していることからすれば、Bは原告の家財を廃棄処分することは理解していたと認められるから、家財の廃棄処分についても被告らが共同して行ったと認められる。)。
これは、原告の有する財産権を侵害するものであって、不法行為に該当する

 結論

以上より,頭書事例のような条項は無効ですので,これを根拠に残置物を廃棄処分すると不法行為責任を問われる可能性が高いため,多湖・岩田・田村法律事務所でも,賃借人の承諾がない限りは,建物明渡強制執行手続を採るよう助言しています。

また,賃借人の承諾を取得した上で残置物を処分する場合でも,(1)承諾の範囲が明確になっていること,(2)賃借人に所有物を搬出する十分な機会を確保すること,(3)賃借人にも残置物の所有権を放棄するメリットを持たせておくこと,(4)承諾書の取得方法が社会的相当性を逸脱しないこと,に留意する必要があります。

なお,高齢の賃借人の死後の残置物の処分については,国土交通省及び法務省において、令和3年6月に残置物の処理等に関するモデル契約条項が策定されております。

 実務上の注意点

3.緊急やむを得ない特別の事情がある場合
前掲【東京地裁平成18年5月30日判決】でも,「法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合」には,賃借人の承諾なく室内に立ち入ったり家財を処分すること(自力救済)が認められる余地を認めています。

もっとも,自力救済が認められる「緊急やむを得ない特別の事情」については,多額の未払賃料があった賃借人が営業を中止し所在不明になったため,保安上の不安から,賃貸人が立入禁止の告示書を掲示した上,ドアの鍵を変えた行為につき不法行為を構成しないとした【東京高裁昭和51年9月28日判決】や,再三の警告にもかかわらずアパートの廊下に無断で荷物を置いたため,これを賃貸人が撤去した事案につき,撤去された荷物が不要なもので量も多くなかったこと等を考慮し社会通念上許容されるとした【横浜地裁昭和63年2月4日判決】等,若干の事例はあるものの,総じて非常に限定的に解される傾向にあります(【最高裁昭和40年12月7日判決】【東京地裁平成16年6月2日判決】【東京地裁令和3年3月24日判決】)。

また,「緊急やむを得ない特別の事情」に該当するか否かの判断も容易ではありません。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,各状況に応じて,その都度,専門家にご相談頂くよう助言しています。

【最高裁昭和40年12月7日判決】
私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。
しかしながら、原審認定の本件における事実関係のもとにおいては、右のごとき緊急の事情があるものとは認められず、上告人は法律に定められた手続により本件板囲を撤去すべきであるから、実力をもつてこれを撤去破壊することは私力行使の許される限界を超えるものというほかはない。
したがつて、右と同趣旨の見解のもとに、右板囲を実力によつて撤去破壊した上告人は不法行為の責任を免れないとした原審の判断は、正当である。

【東京高裁昭和51年9月28日判決】
本件催告及び停止条件付解除の意思表示に定められた期間が徒過されたことにより、被控訴人が控訴人に対し本件建物の明渡を求める権利を有するに至つたことは先に引用した原判決認定のとおりであるが、さればといつて控訴人が右解除の効力発生を認めて被控訴人に対し任意に明渡をしない限り、本件建物に対する直接占有は依然として控訴人にあり、その明渡は最終的には判決等の債務名義を得た上で実現するのが本来の筋であり、被控訴人が右解除により当然に本件建物の直接占有が被控訴人に復帰したものとして、一般第三者はともかく控訴人をも含めて本件建物に無断で立ち入ることを禁止する旨刑事上の制裁をも付記して告示したこと及び戸口の従来の鍵をとりかえて控訴人の本件建物への出入りを妨げたことは、いささか穏当さを欠く措置であつたものとみられないではない。
しかしながら、控訴人は先に引用した原判決認定のとおり契約成立後約半年しか経ていない昭和四八年一月以来約一年にわたつて賃料等の支払義務を相当額遅滞し、同年一二月一二日現在でその額は金五七九万五三五二円にも達していたところ、被控訴人から後記のように同年一一月半ば頃にも督促をうけ、更に本件催告をうけたにも拘らず、これを履行しようとする誠意ある態度を被控訴人に示さなかつたこと、控訴人は都税事務所から本件建物におけるレストランクラブ営業に伴う分を含む料理飲食等消費税の金三〇〇万円を超える滞納のため本件賃貸借の保証金返還請求権を差押えられ、同年一〇月三一日及び一一月一日その旨の通知が被控訴人宛にあり、その直後頃から店を閉めて本件建物に姿を現わさなくなり、債権者と称する者が被控訴人代表者のところへ来て控訴人の所在を尋ねたり、右保証金から控訴人の債務を支払つてもらいたい旨申入れたりすることもあつたこと、その間同年一一月半ば頃被控訴人代表者が偶々控訴人と出会つて賃料等の滞納について督促した際、控訴人は本件建物における営業を訴外Aに譲渡したい旨申し出て、被控訴人代表者が右訴外人と会つて交渉したところ、控訴人が滞納賃料等の額を過少に偽つて右訴外人に告げていたことが露見し、右訴外人の方から手を引いて右交渉は結局不調に終わつたこと、その後同年一二月に入つてからも控訴人はほとんど営業を休み、被控訴人に連絡がないまま推移したこと、本件建物は右のように休業状態が続いており、従業員等が時折り合鍵を使つて出入りしている形跡も見られたので、被控訴人代表者としては保安上の不安を感じるに至つていたこと、なお控訴人は本件催告及び停止条件付解除の意思表示の前後を通じて被控訴人に対し賃料等の滞納及びその額自体については特に異議を申し出ていなかつたことをそれぞれ認めることができる。
以上の事実関係に照らすと,被控訴人としては、従来の行動等から控訴人に対する信頼の念を全く失い、本件建物の明渡義務の円滑な履行について危惧の念を抱き、この際一日も早く自己の権利を実現して損害の拡大化を防止し、あわせて保安上の問題をも解決する必要があるとの考えから前記のような措置に出たものと推認され、右のような考えに至つたことについてあながち被控訴人を責めることはできないものというべく、このことと、先に認定した右措置の具体的態様も、右認定の事実関係の下では、契約解除により明渡請求権を有する賃貸人の権利行使として社会通念上著しく不相当なものとまではいえないこととをあわせ考慮すると、被控訴人が前記のような措置をとつたことをもつて直ちに違法であるということはできないと解すべきである。

【横浜地裁昭和63年2月4日判決】
X荘の共用部分たる廊下の一画に原告Aにおいては四か月近く、同Bにおいては二か月近くにわたり荷物を賃貸人たる被告に事前に断ることなく放置しておいたものであり、原告らの右行為は賃貸人たる被告の利益を害し、社会通念に著しく反する非常識なものといわざるを得ない。
のみならず、原告らはそれぞれX荘に転居する前は、部屋数ないしその広さがX荘より倍近く大の部屋を借りており、荷物もそれだけ多かったこと、原告らは、それにもかかわらず荷物を整理処分することなくそのまま漫然と四畳半一間のX荘に転居してきたことが認められ、当初からX荘の共用部分をも自らのために利用する意向を持っていたといわざるを得ない。
これに対し、被告は、口頭で原告らに対し整理方を要請し、書面によっても二度にわたり同旨を要請し、特に最後の書面では期限を付して同旨を要請すると共にそれに応じられない場合には被告において片付ける旨の警告をした上で、猶予期限後に本件持去行為に及んだものである。
しかも、片付けられた原告らの荷物は不要といってよいもので、それ程量も多くなかったわけである。
以上のような共用部分たる本件動産設置場所についての原告ら側による違法な使用状態、これを是正するために催促ないし警告を重ねた被告の行為態様及び右警告後に片付けられた対象物件の価値の乏しさと量の少なさ等を勘案すると、被告による本件持去行為は自力救済禁止の原則に形式的には反する面があるものの、実質的には社会通念上許容されるものとして違法性を欠くと解するのが相当である。

【東京地裁平成16年6月2日判決】
本件賃貸借契約は、本件解除通知及び平成一一年六月四日の経過によって、原告の債務不履行(賃料等不払)を理由とする解除により終了したものと認められ、原告は、本件鍵交換当時、本件賃貸借契約に基づく使用収益権限を失い、被告に対し、賃貸借契約終了に伴う目的物返還債務を負うに至ったものと認められる。
しかしながら、原告が、本件建物に対する占有権を有していたことは論を俟たないところ、本件鍵交換は、被告において、原告の実質的経営者であるAが身柄拘束中であり、本件建物明渡の要否について判断することが困難な状況にあることを了知した上でなされたものであり、本件解除通知において予告はされていたものの、本件解除通知到達から僅か六日後に事前に具体的な日時の指定をなすことなく、本件建物内の動産類の持ち出しの機会を与えることなく、たまたま居合わせた原告の関係会社の従業員を立ち合わせて行われたものであり、前後の経過に照らせば、原告代表者がこれを事前事後において、承諾ないし容認したものとは認められないことからすると、本件鍵交換は、未払賃料債務等の履行を促すために行われた、原告の占有権を侵害する自力救済に当たるものと認めるのが相当である。
そして、自力救済は、原則として法の禁止するところであり、ただ、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合において、その必要の限度を越えない範囲内でのみ例外的に許されるにすぎない(最判昭和四〇年一二月七日民集一九巻九号二一〇一頁)。
この点、被告は、原告の賃料滞納を理由に原告との間の本件建物に関する賃貸借契約を解除する旨の通知をしたが、原告から連絡もなく、家賃の支払もなされなかったため、鍵を交換した旨述べる。
しかし、前記のとおり、本件賃貸借契約が解除され、その後の原告による本件建物の占有が権限に基づかないものであることを前提にしても、単に本件建物の鍵を交換して原告による利用を妨害することは、現状を維持して原告【※「被告」の誤記と思われる】の権利を保護することにはならないし、本件においては、法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情は何ら認められない
したがって、本件鍵交換は違法な自力救済に当たり、不法行為が成立するものと認められる。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁令和3年3月24日判決】
被告が本件処分を行う旨の判断をした当時,本件動産類は,その多くが雨ざらしの状態で雑然とした状態で置かれており,さびや傷がひどいものが大半であり,本件各バイクの大半はパーツが欠けていたことが認められ,本件動産類が無価値であるとの被告(被告代表者)の判断が明らかに不合理であったとはいえない。
もっとも,客観的に経済的価値を有しない物であるからといって所有者がその所有権を放棄するとは限らないのであって,原告が被告からの本件動産類の撤去要求を無視する対応を繰り返した事実を踏まえても,原告が,本件動産類を保管するために,本件土地を賃借し,川崎駐車場から本件土地まで本件動産類を運ぶなどの手間をかけ,本件処分の2か月近く前まで賃料の支払を継続したことは,被告も認識していたことを考慮すると,被告において,原告の意向を直接確かめることなく,原告が本件動産類の所有権を放棄したと判断し本件処分が許されると考えたことについて,やむを得ないというべき事情があったとは認められない
よって,被告には,本件動産類につき本件処分を行って原告の所有権を侵害したことにつき,過失があったというべきであり,被告がした本件処分は原告に対する不法行為を構成する

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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