解説 |
1.宗教法人法上の「境内地」とは
宗教法人法では,「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成する」という目的のために必要な「当該宗教法人に固有の建物及び工作物」を「境内建物」,当該目的のために必要な「当該宗教法人に固有の土地」を「境内地」と定義付けています(宗教法人法2条,3条)。
具体的には,本殿等の宗教施設そのものが存する土地(同条2号)及び参道(同条3号)に限らず,神饌(しんせん)用の農作物を育てる田畑(同条4号),庭園・山林等社寺の尊厳・風致を保持する土地(同条5号),降臨地等社寺の歴史に密接な縁故のある土地(同条6号),これらの施設・土地の災害防止地(同条7号)が含まれます。
【宗教法人法2条】
この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。
一 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体
二 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体
【宗教法人法3条】
この法律において「境内建物」とは、第一号に掲げるような宗教法人の前条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の建物及び工作物をいい、「境内地」とは、第二号から第七号までに掲げるような宗教法人の同条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいう。
一 本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の前条に規定する目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)
二 前号に掲げる建物又は工作物が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。以下この条において同じ。)
三 参道として用いられる土地
四 宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せん田、仏供田、修道耕牧地等を含む。)
五 庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地
六 歴史、古記等によつて密接な縁故がある土地
七 前各号に掲げる建物、工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地
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境内地は,その宗教法人の所有権に基づくものであることまでは要求されませんので(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕65頁,神社本庁編『新編 神社実務提要(平成25年版)』〔神社新報社 2013年〕34頁),借用地であっても,上記宗教法人法3条2号~7号に該当する限り境内地となります。
また,同条2号「一画の土地」とは,一筆単位ではなく,「土地の相互関係から一体的に考慮されるべき範囲の土地」と解されています(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕66頁)。
なお,不動産登記法上の「地目」としての「境内地」は,上記宗教法人法3条2号及び3号のみが該当し(不動産登記事務取扱手続準則68条13号),宗教法人法上の「境内地」よりも相当狭い概念となります。
従って,登記上の地目が「宅地」「山林」等となっていたとしても,宗教法人法上の「境内地」に該当している場合があり,その場合には,売買等の処分をする際に,後述2の手続が必要になるので注意が必要です。
【不動産登記事務取扱手続準則68条】※平成17年2月25日法務省民二第456号通達(最終改正令和5年3月28日)
次の各号に掲げる地目は,当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には,土地の現況及び利用目的に重点を置き,部分的にわずかな差異の存するときでも,土地全体としての状況を観察して定めるものとする。
一~十二 省略
十三 境内地 境内に属する土地であって、宗教法人法(昭和26年法律第126号)第3条第2号及び第3号に掲げる土地(宗教法人の所有に属しないものを含む。)
十四 以下省略
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宗教法人法上の「境内地」に該当するか否かについては,財産目録に境内地として掲げているか否かという形式のみによって判断すべきものではなく,いわゆる現況主義に基づき,対象となる土地の現況や利用状況,課税関係等をも総合して,当該土地が,当該宗教法人の目的のために通常供されている土地かどうかという観点から社会通念に従って判断されます(【大阪高裁昭和45年9月30日判決】【東京地裁昭和50年9月4日判決】【東京地裁平成21年3月27日判決】)。
【大阪高裁昭和45年9月30日判決】
既に当該寺院自身が自己の境内地たることを廃する意思をもつて処分し、その結果客観的に境内地でなくなった以上、もはや法二四条の適用については、これを境内地とするにあたらない。
【東京地裁昭和50年9月4日判決】
宗教法人令【※現宗教法人法】において、不動産を処分する場合に、総代の同意および所属宗派の主管者の承認を受けることを必要とした法意は、不動産のような主要な財産を処分することが宗教法人存立の基礎である財産の維持保存のうえで重大な影響を与えることがあると解せられるからであり、また、処分行為と管理行為とは、その行為によって財産の滅失毀損又は財産の性質の変更或いは財産権の変更を生ぜしめたか否かにより区別すべきであり、かつ、その財産の性質の変更の有無は社会の取引通念により決せらるべきものと解せられる。
しかるに、本件賃貸借契約の期間が二〇年であり、かつ、借地法によりその期間が満了しても地上に建物の存する限り正当の事由がなければこれを解消せしめえない等強い保護が与えられている点を考えれば、本件賃貸借契約は土地所有権に対する重大な制約であると云わざるをえないから本件賃貸借契約は管理行為の範囲を越えた処分行為に該ると解すべきである。
<中略>
境内地かどうかは、その土地の処分時においてその現況などから、宗教活動に供される土地と解されるか、否かによって決すべきところ、<中略>本件土地は、原告の現在の境内地と合わせて一筆の土地であったところ、明治初年から大正の初期にかけて寺院の境内地は没収されて官有地とされたところから、右没収を免がれるために、同土地を宅地として登記をしたこと、しかるに、原告は、今次大戦前に、右土地から本件土地を含む一角を区分して、同所に貸家を建てて賃貸していたところ、右建物が昭和二〇年三月一〇日戦災により焼失したため、その敷地を建物所有のための賃貸地とする目的でその賃借人を求めていたので被告が本件土地部分を賃借りし、同土地上に本件建物を建築したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
そうだとすると本件土地は到底宗教活動に供される土地とはいえず、従って、いわゆる境外地と云わざるを得ない。
※【 】内は筆者加筆。
【東京地裁平成21年3月27日判決】
宗教法人法3条所定の境内地にあたるか否かは,当該宗教法人が,財産目録に境内地として掲げているか否かのみによって判断すべきものではなく,対象となる土地の現況や利用状況,課税関係等をも総合して,当該土地が,当該宗教法人の目的のために通常供されている土地かどうかを社会通念に従って判断すべきであると解するのが相当である。
この観点から本件土地の境内地性について検討するに,昭和49年以来,本件土地の殆どがAビルの敷地として利用されてきており,同建物は,当初,「B文化会館」と称していたものの,実態は,当初から商業ビルであり,入居者の殆どは店舗又は事務所であり,原告がAビルを購入した平成13年11月2日当時も,同ビルのテナントは,店舗又は事務所用途のものが殆どであり,被告神社の宗教活動に関係する組織等は入居していなかったこと,平成18年度時点で,被告神社は,本件土地について固定資産税を納付していたことが認められる。
上記認定事実によれば,本件地上権,本件地役権が設定された平成16年4月の時点において,本件土地が,被告神社の本来の目的のために供される建物が存する一画の土地(宗教法人法3条2号)にあたると解することはできず,同条3号以下の各号に該当しないことは明らかであるから,本件土地が境内地にあたるということはできない。
被告神社は,本件賃貸借契約や本件地上権・地役権設定契約において,本件土地上の事業が,被告神社境内地内における事業であり,「B神社の尊厳の保持に寄与し,且つB神社の維持,運営及びその活動に資する」ことなどが確認されていたことから,本件土地の賃借人であったCは,本件土地を「境内地にふさわしい方法」でのみ使用しており,本件土地上に建築された建物が「B文化会館」という被告神社の名称の一部を冠した名称とされたのも,そのためであるなどと主張するが,境内地にあたるか否かは,現実の利用実態等を勘案して判断すべきことは前記のとおりであり,上記各契約上の文言は,被告神社の財産目録上,本件土地が境内地として扱われていることに鑑み,被告神社における取扱いを尊重する趣旨で挿入されたものにすぎず,Aビルが通常の商業ビルと何ら変わらない実情にあったことは上記認定のとおりであるから,上記文言の存在は,本件土地が境内地であるか否かの判断を左右するものではなく,被告神社の上記主張は採用することができない。
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2.境内地の売買の有効要件
宗教法人は,境内地に限らず,その所有する不動産につき売買等の処分をする場合は,原則として,その宗教法人の規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、宗教法人法19条に基づく「責任役員の定数の過半数」の議決)によるほか,その行為の少なくとも1か月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告する必要があります(宗教法人法23条)。
この点,「処分」とは,典型的には売買,贈与,交換,放棄,地上権又は地役権又は永小作権の各設定等を言いますが,民法602条の反対解釈から,少なくとも土地につき「5年」(同条2号)を超える賃貸借契約の締結も「処分」に該当すると解されています(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕184頁。【最高裁昭和37年7月20日判決】前掲【東京地裁昭和50年9月4日判決】。なお,民法602条所定の期間を超えない短期賃貸借は管理行為であり処分に該当しないことにつき【東京地裁昭和42年9月14日判決】)。
従って,借地借家法の適用がある土地の賃貸借(同法25条の一時使用目的のものを除く)は,最低でも30年以上(同法3条。なお,旧借地法2条2項でも20年以上)となるため,その締結(借地権の設定行為)は全て処分に該当します。
また,建物の賃貸借についても,民法602条の反対解釈から「3年」を超える賃貸借契約の締結は「処分」に該当すると解されているところ(文化庁文化部宗務課編『宗教法人実務研修会資料(平成10年版)』〔1998年〕45頁),私見ですが、借地借家法の適用のある賃貸借契約(同法40条の一時使用目的のもの及び更新の無い定期借家契約を除く)の場合は,法定更新により長期間継続することが当然に予定されていることから,3年以下の契約期間であっても,「処分」に該当すると解される余地があります。
もっとも,私見ですが,借地でも借家でも,借地借家法の適用のある賃貸借契約を一旦締結したあとの契約更新は,実質的に「再契約」と同視できる場合でない限り,「処分」には該当しないと考えられます。
というのも,借地借家法の適用のある賃貸借契約(一時使用目的のもの及び更新の無い定期借家契約を除く)は,前記のとおり,一度締結すると,法定更新により長期間継続すなわち更新されることが法律上当然に予定されているため,「(更新されることが法律上当然に予定されている)契約の締結」(=処分)について公告等の諸手続が適正に採られていれば,その段階で,契約を締結することだけでなく更新されることも含めて,不当な処分に該当しないかのチェックが済んでおり(不当な処分を防止するという法の趣旨は達成されており),更新はいわばすでに適正に処分(公告等)された財産の現状(処分された状態)を維持する行為に過ぎないと考えられるためです。
また,使用貸借契約も,期間が長期にわたる場合は,「処分」に該当する余地があります(期間20年の使用貸借につき【名古屋高裁昭和52年1月31日判決】参照)。
また,地上権,地役権,永小作権,採石権(採石法4条3項)はいずれも物権であり,また,民法602条に相当する規定もないことから,これらの設定行為は,5年以下でも「処分」に該当します(地上権につき渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕184頁,採石権につき【広島高裁昭和40年5月19日判決】)。
宗教法人法23条1号の処分に該当し,かつ当該処分にかかる不動産が,境内地に該当する場合には,例えば公告を怠るなど宗教法人法23条の手続に違反して締結した売買契約は,原則として無効となります(宗教法人法24条本文)。
なお,賃貸借については,民法602条の期間の範囲で有効(これを超える期間についてのみ無効)とする見解もあります(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕184頁)。
もっとも,善意かつ無重過失の相手方及び第三者に対しては,無効を対抗できません(宗教法人法24条但書。通常の契約締結行為ではなく調停による場合も無効となること及び善意だけでなく「無重過失」を要することにつき【最高裁昭和47年11月28日判決】)。
従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,宗教法人の境内地につき売買契約を締結する相手方に対しては,後々,「重過失」を認定されないよう,最低限,責任役員会の議事録,包括宗教法人の承認書及び公告の各写しの交付を受けて,これらの手続が履践されていることを確認するよう助言しています。
【宗教法人法19条】
規則に別段の定がなければ、宗教法人の事務は、責任役員の定数の過半数で決し、その責任役員の議決権は、各々平等とする。
【宗教法人法23条】
宗教法人(宗教団体を包括する宗教法人を除く。)は、左に掲げる行為をしようとするときは、規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第十九条の規定)による外、その行為の少くとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。但し、第三号から第五号までに掲げる行為が緊急の必要に基くものであり、又は軽微のものである場合及び第五号に掲げる行為が一時の期間に係るものである場合は、この限りでない。
一 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること。
二 借入(当該会計年度内の収入で償還する一時の借入を除く。)又は保証をすること。
三 主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除却又は著しい模様替をすること。
四 境内地の著しい模様替をすること。
五 主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し、又はこれらを当該宗教法人の第二条に規定する目的以外の目的のために供すること。
【宗教法人法24条】
宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について、前条の規定に違反してした行為は、無効とする。但し、善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない。
【民法602条】
処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年
三 建物の賃貸借 三年
四 動産の賃貸借 六箇月
【借地借家法3】
借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
【採石法4条3項】
採石権は、物権とし、地上権に関する規定(民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十九条の二(地下又は空間を目的とする地上権)の規定を除く。)を準用する。
【最高裁昭和37年7月20日判決】
建物所有を目的とし、民法第六〇二条所定の存続期間を超える土地の賃貸借契約は、宗教法人令第一一条【※現宗教法人法23条1号】にいう不動産を処分することに当ると解すべきである。
<中略>
昭和二六年四月三日施行の宗教法人法においては、本件の土地賃貸借契約の如き財産処分行為につき右と同趣旨の制限規定がないが、宗教法人令による右神社が宗教法人法による宗教法人に組織変更されたとしても、そのことにより当然に右の結論が左右されるものではない。
※【 】内は筆者加筆。
【広島高裁昭和40年5月19日判決】
※契約期間5年の採石契約を締結した事案。
右契約は、採石権の設定を目的とし、所有権に対する制限を加えることになるから、前記第二三条にいう不動産の処分行為にあたると解すべきであるが、右第二三条によれば、宗教法人が不動産の処分をするには規則で定めるところ(規則に別段の定めがないときは、第一九条の規定)によるほか、所定の公告をしなければならないことになつており、同法第二四条が宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について第二三条の規定に違反してした行為は無効とする旨定め、第二三条に違反する行為のうち無効となる場合を限定している趣旨から考えれば、境外地である不動産の処分については、宗教法人の代表役員がたとえ、第二三条の規定に違反して、所定の公告を経ず又は前記第一九条或は宗教法人の規則所定の責任役員の決議を経ないで処分した場合にも、第二四条の規定の適用がなく、その代表役員が過料の制裁を受け或は法人に対し内部的な責任を負う場合があるとしても、その処分行為は無効とはならないと解される
【東京地裁昭和42年9月14日判決】
宗教法人法二三条、浅草寺規則三五条所定の手続を踏んでいないから無効という点は、そのような手続をふまない限り浅草寺代表役員は処分の権限がない者たるに止まり、従って単なる管理行為たる短期賃貸借は有効になしうる(民法六〇二条)。
【最高裁昭和47年11月28日判決】
当時被上告人の代表役員であつたAは、宗教法人法二三条および宗教法人B寺規則二〇条所定の手続を履践することなく、本件調停により原判決添付目録第一記載の境内地を上告人に譲渡したというのである。
したがつて、右譲渡は、宗教法人法二四条本文の規定により、無効であるというべきである。
もっとも、同条但書は、「善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない」と規定するが、同条本文に記載する物件が宗教法人の存続の基礎となるべき重要な財産であり、特殊な利害関係人を多数擁する宗教法人の特性に鑑みるときは、右但書の規定は、善意であっても重大な過失のある相手方又は第三者までも保護する趣旨のものではないと解するのを相当とする。
【名古屋高裁昭和52年1月31日判決】
規則二四条の規定によれば、「基本財産」を処分しようとするときは、役員会の議決を経て、役員が連署の上統理の承認を受けなければならない、とあり、使用貸借契約ではあるが、賃借期間が二〇年にも及びものは右に定める不動産たる「基本財産」を処分することに該当すると解すべきである
【京都地裁昭和63年9月29日判決】
本件賃貸借契約に基づく本件土地の賃貸借行為は単なる一時使用ではなく、建物所有を目的とする借地法上の保護を受ける権利設定行為であるから、宗教法人法二三条の「不動産の処分」に該当することは明らかであるところ、本件賃貸借契約につき同条所定の公告手続がとられていないことは当事者間に争いがない。
<中略>
被告神社は不動産その他の基本財産を処分するときは責任役員で構成する役員会の議決を必要とし、かつ、役員が連署のうえ神社本庁統理の承認を要することになっているが、本件賃貸借契約につき右規則上の諸手続がとられてないことについても当事者間に争いがない。
そうすると、本件賃貸借契約は、宗教法人である被告神社の不動産処分であるにもかかわらず、宗教法人法及び被告神社規則上の所定の各手続を経ていないことにより、宗教法人法二三条の規定に違反した法律行為であることは明白であるが、その効力については、同法二四条が宗教法人の境内建物もしくは境内地である不動産または財産目録に掲げる宝物に限定して前条の違反行為を無効としている反対解釈からして、本件土地が被告神社の境内地に該当する場合は無効となり、そうでない場合は代表役員に対する罰則規定の発動等が生じるとしても対外的には無効とはならないものと解される。
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結論 |
以上より,宗教法人法上の「境内地」に該当する場合は,宗教法人の規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、宗教法人法19条に基づく「責任役員の定数の過半数」の議決)によるほか,その行為の少なくとも1か月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告する必要があり,これらの手続をしないと,売買契約は原則として無効となります(但し,善意無重過失の相手方には無効を対抗できません)。
具体的には,例えば神社本庁に包括される神社の場合には,通常は,①責任役員会の議決,②包括宗教法人たる神社本庁統理への承認申請,③神社本庁統理の承認,④公告,というプロセスを全て履践する必要があります(神社規則23条,24条)。
このうち,神社本庁の運用上,上記②神社本庁統理への承認申請は,①役員会の議決後6か月以内に行うよう指導されていますが,当該6か月を経過後に申請したとしても,そのことのみを理由に申請が受理されないとか承認されないということは普通ありません。
ただし,①役員会の議決後数年経過しているような場合には,再度役員会の議決を経るよう要請される可能性があります。
また,処分する土地の面積が1万㎡以上の場合や処分する不動産の価格が1000万円以上になると見込まれる場合は,原則として神社本庁常務理事会による審議対象となるため(平成21年2月7日神社本庁通達第1号「財産処分等の承認事務に関する取扱について」一・2及び3),上記③神社本庁統理の承認が得られるまでに相当程度の期間がかかる場合があります。
また,上記③神社本庁統理の承認後,6か月経過すると当該承認は効力を失うので,原則として,6か月以内には処分行為(売買契約の締結)を完了する必要があります(神社本庁庁規94条)。
なお,神社規則24条1号「基本財産」を形式的に解釈すれば,不動産であっても,「基本財産」に該当しなければ(普通財産に該当すれば),上記のうち②神社本庁統理への承認申請及び③神社本庁統理の承認の手続は不要ということになるため(これに対し宗教法人法23条1号では文言上「不動産」としか規定されておらず「基本財産」か否かで区別されていないため上記①責任役員会及び④公告はいずれにしても必要),「基本財産」の意義が問題となります。
この点,宗教法人法12条1項8号「基本財産」については,一般的には「宗教法人の業務や事業を維持運営するための基礎となるべき財産で,一定の手続によって基本財産として設定されたもの」と定義されているのに対し(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕128頁),神社規則23条2号では「基本財産」は,「不動産(立木を含む。)その他本神社永続の基根となる財産」と定義され,同条の基本財産は「境内境外を問はず土地建物(不動産)の一切と,基本財産若しくは基本金として蓄積された証券,預貯金等を指す」と解されています(神社本庁編『新編 神社実務提要(平成25年版)』〔神社新報社 2013年〕144頁)。
従って,結局,不動産は,(神社規則23条2号の「基本財産」に含まれる結果)その具体的な用法・種類等に関わらず全て神社規則24条1号の「基本財産」に分類されることになり,その処分には,上記②神社本庁統理への承認申請及び③神社本庁統理の承認の手続も,当然に必要になると考えられます。
もっとも,登記実務上は,当該不動産の所有権移転登記申請の際に,包括宗教法人たる神社本庁統理の承認書自体の添付は不要と解されています(昭和39年8月7日民事甲第2732号民事局長通達「不動産登記法第35条1項第4号の書面の要否について」)。
また,神社本庁統理の承認を欠いていたとしても,処分行為後に承認を得たときは,一種の無効行為の追認となり,当該処分行為は,承認のときから有効になると解されています(【最高裁昭和43年11月19日判決】)。
いずれにしても,境内地の売買契約書には,念のため,「この契約の各条項は,神社が神社本庁統理の承認を受け,更に公告等法律所定の手続を経て後にその効力を生ずるものとする」との条項を必ず加えておく必要があります(神社本庁編『新編 神社実務提要(平成25年版)』〔神社新報社 2013年〕199頁参照)。
【宗教法人法12条1項】
宗教法人を設立しようとする者は、左に掲げる事項を記載した規則を作成し、その規則について所轄庁の認証を受けなければならない。
一~七 省略
八 基本財産、宝物その他の財産の設定、管理及び処分(第二十三条但書の規定の適用を受ける場合に関する事項を定めた場合には、その事項を含む。)、予算、決算及び会計その他の財務に関する事項
九 以下省略
【神社規則23条】
1 財産は基本財産、特殊財産及び普通財産とする。
2 基本財産とは不動産(立木を含む。)その他本神社永続の基根となる財産を,特殊財産とは宝物及び特殊の目的によって蓄積する財産を、普通財産とは基本財産及び特殊財産以外の財産をいふ。
3 不動産の取得並びに不動産以外の基本財産,宝物その他の特殊財産の設定及び変更は,役員会の議決を経なければならない。
【神社規則24条】
本神社が左に掲げる行為をしようとするときは,役員会の議決を経て、役員が連署の上統理の承認を受け、更に法律で規定するものについては,法律で規定する手続をしなければならない。その承認を受けた事項を変更しようとするときもまた同様とする。但し、第三号及び第四号に掲げる行為が緊急の必要に基くものであり、又はその模様替が軽微で原形に支障のないものである場合及び第五号に掲げる行為が六月以内の期間に係るものである場合は,この限りでない。
一 基本財産及び財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること。
二 以下省略
【神社本庁庁規93条】
神社は,左に掲げる行為をしようとするときは,あらかじめ統理の承認を受けなければならない。その承認を受けた事項を変更しようとするときも,また同様とする。但し,第六号から第八号までに掲げる行為が緊急の必要に基くものであり,又は軽微のものである場合及び第八号に掲げる行為が一時の期間に係るものである場合は,この限りでない。
一~三 省略
四 不動産(立木を含む。)その他の基本財産又は財産目録に掲げる宝物を処分し,又は担保に供すること。
五 以下省略
【神社本庁庁規94条】
1 第七十七条又は前条の規定により承認を受けた事項は,六月以内に実施しなければならない。
2 前項の期間内に実施しなかったときは,当該承認は,その効力を失ふ。この場合においては,当該承認書を添へて,その旨を本庁に届け出なければならない。
【最高裁昭和43年11月19日判決】
法二三条本文が、宗教法人は、同条各号に掲げる行為をしようとするときは、規則で定めるところによるべき旨を規定していること、上告人が、その規則二八条二項において、上告人の境内地および境内建物その他重要な財産を処分しまたは担保に供しようとするときは、總長の承認を受けなければならない旨規定していることは、所論のとおりである。
しかし、前示法の趣旨によれば、所論のように、右總長の承認は、必ず当該行為の前にこれを受けなければ、右行為は無効であって、のちに總長の承認があっても有効とならないと解すべき理由はない。
けだし、行為ののちであっても、總長の承認があった以上、宗教法人のためにこれを無効とすべき何らの理由もなく、右承認のときから有効となると解するのを相当とするからである。
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実務上の注意点 |
3.境内地に該当しない場合
処分にかかる不動産が,境内地に該当しない場合でも,宗教法人法23条所定の手続は法律上必要ですが,同条所定の手続を履践しなくても,売買等の処分行為は無効とはなりません(宗教法人法24条反対解釈。前掲【広島高裁昭和40年5月19日判決】前掲【京都地裁昭和63年9月29日判決】参照)。
もっとも,その場合でも,あくまで手続違反(宗教法人法23条違反)にはなり,特に公告を怠ると,代表役員等には10万円以下の過料の制裁が科されることがあるので注意が必要です(宗教法人法88条3号)。
【宗教法人法88条】
次の各号のいずれかに該当する場合においては、宗教法人の代表役員、その代務者、仮代表役員又は清算人は、十万円以下の過料に処する。
一~二 省略
三 第二十三条の規定に違反して同条の規定による公告をしないで同条各号に掲げる行為をしたとき。
四 以下省略
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4.公告の方法と期間
通常の神社規則(5条)においては,「本神社の公告は,神社の掲示場に十日間掲示して行ふ」と規定されていますので10日間の掲示を要しますが(なお,初日不算入(民法140条)の適用あり。渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕184頁),これは,正味10日(24 時間×10 日分) という意味であり,公告文を掲示した日と取り外した日は当該10日間の中に含まれないので,実際には掲示してから取り外すまで12日間を要することになります(神社本庁編『新編 神社実務提要(平成25年版)』〔神社新報社 2013年〕200頁,東京都生活文化局都民生活部『宗教法人事務運営の手引(令和3年11月)』29頁参照)。
また,宗教法人法23条により要求される「その行為の少くとも一月前」の公告とは,当該10日間の掲示期間満了日の翌日から起算して処分行為時までに1か月が経過していることを意味します(神社本庁編『新編 神社実務提要(平成25年版)』〔神社新報社 2013年〕40頁,143頁)。
よって,先ず神社本庁統理の承認を受けた後(統理の承認が公告より先行することについては神社本庁編『新編 神社実務提要(平成25年版)』〔神社新報社 2013年〕200頁),処分行為をする「1か月と12日」以上前には,掲示(公告)を開始し,処分行為をする「1か月前」までには,正味10日間の掲示期間(掲示取り外しまで)を終えている必要があるということになります。
また,被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をする場合に必要とされる「認証申請の少くとも二月前」(宗教法人法26条2項)の公告も,公告掲示期間満了日の翌日から起算して認証申請までに2か月を経過している必要があります(東京都生活文化局都民生活部『宗教法人事務運営の手引(令和3年11月)』29頁参照)。
この被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をする場合は,上記の公告のほか,公告と同時に当該関係を廃止しようとする宗教団体に対しその旨を通知しなければならないとされていますが(宗教法人法26条3項),「公告と同時」とは,公告の掲示がなされている期間中か,もしくは公告が掲載された機関紙が刊行されたのち速やかにという意味に解されていますので(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕235頁),必ずしも公告の掲示開始日当日に通知を送達する必要はなく,公告の掲示期間中(10日間)に通知が送達されていれば良いことになります。
なお,公告が、その時期や期間などの点において,法や規則の規定と若干相違するところがあっても,公告によって行為の要旨を信者その他の利害関係人に周知させ、不当な処分を防止しようとする法の趣旨が維持されている場合には,処分行為は無効とはならないと解されています(【最高裁昭和43年11月19日判決】)。
►公告文(記載例)
►公告証明書(記載例)
【民法140条】
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
【宗教法人法26条】
1 宗教法人は、規則を変更しようとするときは、規則で定めるところによりその変更のための手続をし、その規則の変更について所轄庁の認証を受けなければならない。この場合において、宗教法人が当該宗教法人を包括する宗教団体との関係(以下「被包括関係」という。)を廃止しようとするときは、当該関係の廃止に係る規則の変更に関し当該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の定がある場合でも、その権限に関する規則の規定によることを要しないものとする。
2 宗教法人は、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をしようとするときは、第二十七条の規定による認証申請の少くとも二月前に、信者その他の利害関係人に対し、当該規則の変更の案の要旨を示してその旨を公告しなければならない。
3 宗教法人は、被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更をしようとするときは、当該関係を設定しようとする場合には第二十七条の規定による認証申請前に当該関係を設定しようとする宗教団体の承認を受け、当該関係を廃止しようとする場合には前項の規定による公告と同時に当該関係を廃止しようとする宗教団体に対しその旨を通知しなければならない。
4 宗教団体は、その包括する宗教法人の当該宗教団体との被包括関係の廃止に係る規則の変更の手続が前三項の規定に違反すると認めたときは、その旨をその包括する宗教法人の所轄庁及び文部科学大臣に通知することができる。
【神社規則5条】
本神社の公告は,神社の掲示場に十日間掲示して行ふ。
【最高裁昭和43年11月19日判決】
宗教法人が、法二四条本文に掲げる財産を処分するに当たってした法二三条の公告が、その時期、期間などの点において、法および規則の定と相違するところがあるからといって、直ちに当該行為が無効となると解することは、法の趣旨に合致するものといえず、行為が有効か無効かを判断するに当たっては、公告によって行為の要旨を信者その他の利害関係人に周知させ、不当な処分を防止しようとする法の趣旨が維持されているかどうかを考慮することを要するものというべきである。
これを本件についてみるに、原判示によれば、上告人は、本件売買契約の締結について責任役員の承認を得、門徒總代に諮問したうえ、本件土地の処分について本堂に法二三条所定の公告をし、かつ、その間、責任役員はもとより總代、門徒らからも何らの異議が存しなかった事実を推認するに難くないというのであるが、その意味は、上告人は右処分の要旨を信者その他の利害関係人に周知させるに足りる公告をした旨認定しているものと解せられ、原判決挙示の証拠によれば、右認定判断は首肯するに足りるのである。
そうすれば、公告を規定した前示法の趣旨は、なお維持されているとみられるから、右公告のされた時期について、右二三条の規定と若干相違するところがあったとしても、右処分行為の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。
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5.仮代表役員の選任
境内地の売買に限らず,代表役員は,宗教法人と利益が相反する事項については,代表権を有しないため,契約の相手方の属性によっては,別途,仮代表役員の選任が必要になる場合があります(宗教法人法21条1項)。
この点,宗教法人法21条1項「利益が相反する事項」とは,法律行為に限らず両者の実質的利益が相反する場合をもすべて包含し(【洲本簡裁昭和29年8月2日判決】),また,個人的利益と宗教法人の利益が実質的に衝突し、代表役員の善管(忠実)義務の履行を期待しがたいような事項をも含むと解されています(【京都地裁昭和60年4月26日判決】)。
従って,宗教法人の代表役員個人に対する売却や当該代表役員が取締役(代表取締役に限らない。【東京地裁平成7年12月20日判決】参照)を務める会社への売却はもちろん,当該代表取締役の親族が代表取締役を務める会社への売却も利益相反に該当し仮代表役員の選任を要する可能性があります(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕176頁,神社本庁編『新編 神社実務提要(平成25年版)』〔神社新報社 2013年〕55頁)。
なお,宗教法人が,代表役員個人から贈与や寄付を受ける行為等で新たな負担を伴わないものは,宗教法人にとって不利益を生じないため,利益相反行為には該当しません(【最高裁昭和49年4月30日判決】)。
仮代表役員の権限は,その選任の契機となった特定の利益相反行為に限られ,当該利益相反行為が終了すると同時にその地位も終了しますが,実務上は,仮代表役員を選任する段階で,「始期:本日,終期:相手方との契約が終了する日又は相手方との利益相反関係が解消される日のいずれか早い日」というように任期を定めることもあります。
仮代表役員を選任せずに行った利益相反行為は,民法上の無権代理として処理されます(渡部蓊『逐条解説 宗教法人法(第4次改訂版)』〔ぎょうせい 2009年〕177頁)。
すなわち,原則として(いわゆる表見代理が成立しない限り)本人すなわち宗教法人には効果帰属しませんので(民法113条1項),契約の相手方は,宗教法人に対しては契約の履行を請求できず,代表役員個人に対し,無権代理を理由とする損害賠償請求をすることができるのみとなります(民法117条1項)。
もっとも,無権代理行為は,本人が追認した場合には遡って有効となりますが(民法116条),利益相反行為をした代表役員が自らその行為を追認することは,それ自体が利益相反行為に該当するため,当該代表役員との利益相反関係を解消させた上で(例えば相手会社の代表取締役を退任した上で)追認するか,そうでない場合は(利益相反関係が継続している場合は),追認行為をするための仮代表役員を選任した上で,当該仮代表役員が追認する必要があると解されます。
【民法108条】
1 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
【民法113条】
1 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
【民法116条】
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
【民法117条】
1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
【宗教法人法21条】
1 代表役員は、宗教法人と利益が相反する事項については、代表権を有しない。この場合においては、規則で定めるところにより、仮代表役員を選ばなければならない。
2 責任役員は、その責任役員と特別の利害関係がある事項については、議決権を有しない。この場合において、規則に別段の定がなければ、議決権を有する責任役員の員数が責任役員の定数の過半数に満たないこととなつたときは、規則で定めるところにより、その過半数に達するまでの員数以上の仮責任役員を選ばなければならない。
3 仮代表役員は、第一項に規定する事項について当該代表役員に代つてその職務を行い、仮責任役員は、前項に規定する事項について、規則で定めるところにより、当該責任役員に代つてその職務を行う。
【神社本庁庁規84条】
仮代表役員及び仮責任役員は,当該代表役員及び当該責任役員以外の役員が選任する。
【神社規則12条】
1 代表役員又は責任役員が宗教法人法第二十一条第一項又は第二項に該当するときは、仮代表役員又は仮責任役員を置く。
2 仮代表役員及び仮責任役員は前項に該当する者以外の役員が選任する。
【洲本簡裁昭和29年8月2日判決】
宗教法人法第二十一条第一項前段の規定により「代表役員は、宗教法人と利益が相反する事項については、代表権を有しない。」ものであるところ、右にいわゆる「利益が相反する事項」とは、当該代表役員と当該宗教法人との間の法律行為に限るのではなく、両者の実質的利益が相反する場合をもすべて包含するものであると解するを相当とする。
【最高裁昭和49年4月30日判決】
宗教法人である被上告人の代表役員A個人が被上告人にした本件贈与につきAが相手方である被上告人の代表者として受諾したことは宗教法人法二一条ないし民法一〇八条の規定に違反するものではないとした原審の判断は、正当。
【京都地裁昭和60年4月26日判決】
宗教法人法二一条一項にいう利益相反事項とは、自己契約を典型的な場合とするが、それに限らず、代表役員の個人的利益と宗教法人の利益が実質的に衝突し、代表役員の善管(忠実)義務の履行を期待しがたいような事項をも含む。
【東京地裁平成7年12月20日判決】
本件担保設定及び本件登記は、当時の原告代表者であり訴外会社の常務取締役であった訴外Aが、訴外会社の債務を担保するために設定したものであるから、原告と利害が相反する行為であると認められるから、訴外Aは、宗教法人法二一条一項、原告の規則一五条により原告を代表する権限を有しないので、評議員会で仮代表役員を選任しなければならないというべきである。
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※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
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