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更新:2023年5月29日 
 事例

賃料は年間の固定資産税相当額のみとの約定で土地付建物を貸与した場合における借地借家法の適用の有無。

 解説

1.使用貸借契約とは
使用貸借契約とは,無償で他人の物を借りて使用収益した後その物を返還することを約する契約をいいます。

旧民法593条では,貸与物を現に引渡して初めて契約が成立するいわゆる要物契約とされていましたが,新民法593条では,貸与することを約することにより契約が成立するいわゆる諾成契約に改められました。

【民法593条】
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

2.使用貸借契約の終了事由
使用貸借契約には借地借家法は適用されませんので,契約終了時の法定更新もありません。

そのため,期間を定めた場合は期間の満了により(民法597条1項,旧民法も同じ),期間を定めなかった場合は契約で定めた目的に従い使用収益を終えたとき(民法597条2項,旧民法597条2項本文)又は目的に従い使用収益をするのに足りる期間の経過したとき(民法598条1項,旧民法597条2項但書)に,契約を終了(又は解除)して貸与物の返還を請求することができます。

さらに,期間,目的いずれも定めなかった場合は,いつでも契約を終了(又は解除)して貸与物の返還を請求することができます(民法598条2項,旧民法597条3項)。

また,使用貸借契約は,原則として借主の死亡により当然に終了しますので(民法597条3項,旧民法599条),借家権や借地権と異なり,使用借権は相続もされません。

もっとも,民法597条3項(旧民法599条)は任意規定ですので,特約により排除可能であり,また,とりわけ建物所有目的の土地の使用貸借や家族の居住を確保するための家屋の使用貸借については,相続人において当該土地や家屋の使用収益を継続すべき必要性が認められる限り,同条の適用が排除される場合が多いと解されます(【東京地裁昭和56年3月12日判決】【東京地裁平成元年6月26日判決】【東京高裁平成13年4月18日判決】)。

【民法597条】
1 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。

2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。

3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。

【東京地裁昭和56年3月12日判決】
建物所有を目的とする土地の使用貸借においては、当該土地の使用収益の必要は一般に当該地上建物の使用収益の必要がある限り存続するものであり、通常の意思解釈としても借主本人の死亡により当然にその必要性が失われ契約の目的を遂げ終るというものではないから、本件のような建物所有を目的とする土地の使用貸借につき、任意規定・補充規定である民法五九九条【※現597条3項】が当然に適用されるものではない
そして、前記のとおり、A以外の被告らは相続により本件建物を共有するに至ったものであるから、これと同時に本件土地の使用借権をも相続したものと認められ、また、右認定の事実に見られる本件土地・建物の使用状況からすれば、本件においては、いまだ本件土地の使用収益に必要な期間が経過したものと認めることはできない。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁平成元年6月26日判決】
本件建物の使用貸借は、右にみたように原告においてAの妻Bが自己の妹であることからその住居を確保する必要があるとの配慮から認めたものであるから、このような配慮が必要と認められる事情の存する限り、民法五九九条【※現597条3項】の規定にかかわらず、右使用貸借契約はAの死亡によって直ちに終了するものではないというべきである。
そして、A及びBの間には被告及びその姉の二人の子があるところ、長男である被告はA死亡の当時二四歳であっていまだ一家の生活を支えるに足る十分な資を得る年齢に達していなかったことが認められる。
したがって、A死亡の当時、B及び被告らにおいて居住のためなお本件建物の使用を継続すべき必要があり、原告による前記のような配慮を肯認すべき事情がいまだ存していたとみるのが相当である。
そうすると、本件建物の使用貸借契約はAの死亡によっても終了しなかったものというべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【東京高裁平成13年4月18日判決】
民法五九九条【※現597条3項】は借主の死亡を使用貸借の終了原因としている。これは使用貸借関係が貸主と借主の特別な人的関係に基礎を置くものであることに由来する。
しかし、本件のように貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合、貸主と借主の家族との間には、貸主と借主本人との間と同様の特別な人的関係があるというべきであるから、このような場合に民法五九九条【※現597条3項】は適用されないものと解するのが相当である。
※【 】内は筆者加筆。

3.通常の必要費とは
使用貸借契約は,無償である点で賃貸借契約と区別されます。

もっとも,使用貸借契約においては,「借主は、借用物の通常の必要費を負担する」(民法595条1項,旧民法も同じ)とされていますので,借主が「通常の必要費」を負担しているだけでは「有償」すなわち賃貸借契約とはなりません。

そこで,頭書事例のように,借主の負担が,借り受けている土地建物にかかる固定資産税のみという場合,当該契約が有償すなわち賃貸借契約(民法601条,旧民法も同じ)なのか,それとも無償すなわち使用貸借契約(民法593条,旧民法も同じ)なのかが問題となります。

この点については,以下のような裁判例があります。

【民法595条1項】
借主は、借用物の通常の必要費を負担する。

【最高裁昭和36年1月27日判決】
「建物の占有者が建物の敷地の地代及び建物の固定資産税を支払ったとしても,右の如き地代及び固定資産税はいずれも建物の維持保存のために当然に支出ぜらるべき費用ではあるが,右は民法595条1項の『通常の必要費』に属するものというべきである」と判示。

【最高裁昭和41年10月27日判決】
「建物の借主がその建物等につき賦課される公租公課を負担しても,それが使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特別の事情のないかぎり,この負担は借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げとなるものではない」と判示。

【名古屋地裁平成2年10月31日判決】
「賃貸借契約と認められるためには,右地代が本件土地の利用の対価としての性格を有していなければならないが,賃借目的土地に賦課される租税はその通常の必要費に過ぎず(民法595条1項参照)〜右地代が本件土地の利用の対価としての性格を有していたものとは認められない」と判示。

 結論

以上より,頭書事例のように,借りている不動産の固定資産税相当額しか支払っておらず,その他に何ら経済的負担をしていない場合には,対価性を欠き,当事者間に特段の事情(例えば一定期間に限り賃料を低額に抑えるフリーレントの合意がある場合,賃貸借契約として借地借家法上の規律が適用されることを当然の前提として契約締結したと認められる場合等)が無い限り,原則として賃貸借契約とは認められず,借地借家法は適用されないと考えられます。

 実務上の注意点

4.使用貸借契約終了に伴う立退料
借地借家法の適用のある賃貸借契約の場合,いわゆる立退料は,「財産上の給付」(借地借家法28条)として明文で考慮することが認められています。

これに対し,使用貸借契約や借地借家法上の「建物」の賃貸とはいえず借地借家法の適用の無い賃貸借契約の場合は,財産上の給付に関する明文はありません。

もっとも,使用貸借契約の終了又は第三者に譲渡され使用借権の対抗要件欠如に基づく明渡請求が,権利濫用(民法1条3項)と判断される場合があり(例えば著しく低廉な価格で物件を買い受けた第三者が使用借人に対抗要件が無いことを奇貨として明渡請求したような場合),このような場合に,「無条件の建物明渡請求は信義則に反し権利濫用となる」としても,立退料の支払いにより「権利濫用であるとの非難を免れることができる」として,立退料との引換給付判決により明渡請求が認容される場合があります(【大阪高裁平成2年9月25日判決】【東京高裁平成5年12月20日判決】【東京地裁平成20年6月30日判決】【東京地裁平成22年11月2日判決】【東京高裁平成30年5月23日判決】等)。

なお,前掲【東京高裁平成5年12月20日判決】では「補償金」という言い方をしていますが,実質的に立退料と意味合いは同じです。

【民法1条3項】
権利の濫用は、これを許さない。

【民法598条1項】
貸主は、前条第二項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。

【大阪高裁平成2年9月25日判決】
控訴人は被控訴人に対し、民法五九七条二項但書【※現598条1項】の類推適用により、本件使用貸借を解約することができるものというべきである。 
<中略>
しかしながら、亡Aの死亡後未だ五年に満たないこと、亡Aの生前の世話も不満ながらも相当程度は被控訴人らにおいてもこれを行ったこと、被控訴人も五六歳でそれほど裕福な生活をしているものでなく、本件建物は同被控訴人の低収入を補うに貢献していたことなど、諸般の事情を考慮して考えると、控訴人による無条件の本件建物明渡請求は信義則に反し、権利濫用となるとの誹りを免れない。
しかし、以上認定の控訴人に有利な事情に併せ、控訴人が右明渡請求につき、八二五万円又は相当額の金員の支払いの意向を示しているので、この意向にそって考えるに、控訴人が八五〇万円の金員を支払うことにより、右明渡請求が権利濫用であるとの非難を免れることができるというべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【東京高裁平成5年12月20日判決】
被控訴人としては、右使用借権という権利の性質上、控訴人から本件土地の所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを求められたときには、これを控訴人に対して本件土地の占有権原として主張することができるとは、当然には言えない。もっとも、控訴人の右収去明渡請求が、権利の濫用に当たるとの特段の事情が認められるときは、この限りではない。
<中略>
(1)控訴人が知らなかったとはいえ、被控訴人は、本件土地の実質的所有者ともいえる者であって、本件土地上の本件建物に適法に既に五〇年近くも居住し、本件土地に深い愛着を有していること、(2)被控訴人は現在高齢で病弱であること、(3)控訴人代表者は、不動産取引についての知識も有している者であるのに、本件土地の所有権取得に当たり、その地上建物の所有者が有する利用権限の有無を調査していないし、被控訴人と十分に明渡しの交渉をしたとも言い難いこと、(4)控訴人が、本訴で補償金として支払うことを申し出ている四二〇〇万円では、熱海市での不動産取引の実情からみて、被控訴人が、本件土地の利用を含む本件建物と同程度の土地建物を、本件土地周辺で取得することは困難であること、その他、本件記録に現れた一切の事情を考慮すると、控訴人の被控訴人に対する本件土地の明渡請求は、控訴人が被控訴人に補償金として五〇〇〇万円を支払うことにより初めて、権利の行使として是認され、濫用にはならないものと認められる。

【東京地裁平成20年6月30日判決】
本件出店区画は、構造上及び実際の使用上、他の出店者と共同してルミネ立川店八階にレストラン街を構成する建物内の一区画にとどまり、それ自体が建物としての独立排他性を有する営業施設であるとは認められないから、借地借家法上の適用がある建物ということはできない。 したがって、本件賃貸借契約は建物を目的とする賃貸借契約とはいえないから,本件賃貸借契約には同法の適用はないものというべきである。
<中略>
賃料増額に応じた直後に、しかも、予定された保証金返還期間も経過していない時期に本件賃貸借契約を終了させることは、被告が本件店舗において既に一〇年の営業を継続してきたことを考慮してもなお、支出した費用の回収等について不測の損害をもたらす可能性があることを否定することができないから、本件においては、その点の考慮をすべき必要があるというべきである。
この点につき、原告は、本件出店区画の原状回復義務(被告の見積りによれば一四五三万二五七五円)の免除に加えて、三〇〇〇万円の立退料の支払を申し出ている。
そこで、上記の事情に原告の上記申出を併せ考慮してみれば、被告の経済的損失も相当程度の填補がされるものと認められるから、原告による本件賃貸借契約の更新拒絶は権利の濫用に当たるものとまで認めることができないというべきである。

【東京地裁平成22年11月2日判決】
本件建物の上記使用貸借の期間及び目的は,Aが死亡するまでの間,被告を本件建物に居住させることにあったと解するのが相当であり,このように解すると,上記使用貸借契約の期間及び目的は,Aの死亡によって到来し,その目的を達成したというべきである。
<中略>
本件に現れた一切の事情をも斟酌して考えると,原告らが申し出ている300万円を,原告らが被告に対して支払うのであれば,被告の現況にかんがみても,原告らの被告に対する本件建物の明渡請求は,権利濫用には該当しないものと解するのが相当である。

【東京高裁平成30年5月23日判決】
本件土地の所有権は控訴人に帰属しており、被控訴人らは本件土地上に本件建物を共有し本件土地を占有しているが、その占有権原は使用貸借であって、控訴人に対抗し得る占有権原を有していないから、権利の濫用に当たるとの特段の事情が認められない限り、本件土地の所有権に基づき、控訴人は、被控訴人らに対し、本件建物を収去し、本件土地の明渡しを求めることができる。
<中略>
控訴人は、本件土地上に被控訴人らが本件建物を所有して、被控訴人Y1が本件建物で生活していることを認識しつつ、高齢で本件土地をめぐる権利関係を十分に把握しているとは思われないAから、極めて低廉な底地価格でもって本件土地を購入して巨額な経済的な利益を得た上、本件建物の敷地利用権が使用貸借であって対抗力を有しないことを奇貨として、本件土地の使用借人である被控訴人らの生活等に及ぼす影響等を考慮せず、Aに対して説明した一億円での本件建物の買い取りも提案することなく、巨額な利益を保持したまま本件主位的請求をしていることになるから、権利の濫用に当たるものというべきである。
<中略>
Aは、控訴人から被控訴人らに対して一億円で本件建物を買い取るという提案がされるとの前提で、本件第一売買契約に踏み切っており、控訴人もそのような説明をしたところ、仮にこのような高額の立退料が支払われるのであれば、控訴人の利益も著しい暴利とまではいえないし、被控訴人らの使用貸借に基づく本件土地の占有権原の予想される残存期間がそう長いものとは考えられないことからすれば、被控訴人Y2の利益は十分に保護されているとみられるし、被控訴人Y1については、本件建物での居住を継続したいとの心情は理解できるものの、客観的に見れば、残された老後の生活を維持するのに十分な資金を得られる上、そもそも今回の事態を招いたのは、自らのAに対する言動に原因があることを総合すれば、本件予備的請求は、被控訴人らに対し一億円の支払いをすることが引き換えであれば、権利濫用とはならないと考えられる。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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