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更新:2020年11月10日 
 事例

ビルのオーナーであるA(委託者)が飲食店経営者B(受託者)に対し,ビル一階部分を使用してレストランを開店するよう委託し,「BはAに対し毎月の店の売上の中から20万円を支払い,残りを委託料(Bの報酬)として取得できる」「光熱費その他の経費はBが負担する」「店の名称,従業員の採否,店内のレイアウト等はBが決定する」との「業務委託契約」を締結した場合,借地借家法の適用はあるか。

 解説

1.業務委託契約とは
業務委託契約とは,委託者が受託者に対し,委託者の業務の全部又は一部を委託し,受託者がその業務を遂行する契約をいいます。

委託契約は,民法上,準委任契約(民法643条,656条)にあたりますので,借地借家法は適用されず,各契約当事者は,特に理由がなくても,契約をいつでも解除することができます(相手方当事者の承諾は不要。民法651条1項)。

【民法643条】
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

【民法651条】
1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる

2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

【民法656条】
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

2.業務委託契約該当性
そのため,実質は賃貸借契約であるにも拘わらず,形式的に委託者と受託者との間で「業務委託契約」を締結し,物件オーナーが借主に飲食店等の業務を委託し,借主は物件オーナーからの当該委託に基づき飲食店の営業行為をする形にして,借地借家法の適用を免れようとすることがあります。

しかしながら,仮に,形式上は(契約書の題名は)「業務委託契約」であっても実質的に「賃貸借契約」と評価される場合には,なお借地借家法が適用されます。

すなわち,受託者の業務内容について委託者が受託者を指揮監督する関係にあるなど,依然として委託者が当該店舗の使用につきイニシアティブを有しているといえる場合には,業務委託といえますが,受託者が当該店舗の収入,支出について自己の計算,責任でこれを行い,委託者においてこれを指揮監督する関係に全くない場合には,受託者が独立して当該店舗を使用,収益していると判断され,委託者は受託者に対して賃貸したものとみなされます。

【東京地裁平成7年8月28日判決】
(1)受託者が行う美容院店舗の名称については,受託者が決定し,委託者が全く関与しないものとされていること,(2)受託者が毎月定額の運営費を委託者に支払うものとされていること,(3)店舗の毎月の光熱費については受託者がその責任において支払うものとされていること,(4)設置されていた什器備品についても大半は受託者において取りそろえて設置したものであったこと,等から「本件業務委託契約は、契約の呼称こそ業務委託契約となっているが、その実質は本件建物の転貸借というべきである」と判示。

【東京地裁平成15年10月29日判決】
(1)受託者が建物を賃借して自ら営業するとすれば,飲食店の営業許可も必要になるところ,その営業許可を受けているのは,委託者であって受託者ではないこと,(2)委託者が自ら営業を続けていた場合であっても月額20万円以上の収入を得ることができたと認められること,等から「業務委託契約であったと解釈するのが合理的である」と判示。

【東京地裁令和元年10月25日判決】
(1)営業による売上げ及び利益は受託者がすべて取得していたこと,(2)(委託者からではなく)受託者から委託者に営業委託料が支払われていたこと,(3)本件賃貸部分について発生した諸費用を受託者の負担とする旨規定されていたこと,(4)受託者が委託者に対して保証金180万円を差入れたこと,(5)委託者が経営していたものとは全く異なる業種が営まれていること,等から「業務委託契約の形式をとっているものの,その法的な性質は転貸借契約であったと認めるのが相当」と判示。

 結論

以上より,頭書事例では,BがAに支払う毎月の金額が売上に連動せず定額(20万円)であること,経費一切はBが負担するとされていること,人事経営もBの判断に任されていること,等から,Aにはレストラン経営につきイニシアティブがあるとは言えず,BにおいてAの意向に左右されず独立してレストランを経営しているといえます。

従って,AB間の「業務委託契約」は実質的には賃貸借契約といえ,借地借家法が適用される可能性が高いといえるでしょう。

 補足

3.正当事由として斟酌される可能性
旧借家法下の判例ですが,【東京高裁昭和51年8月31日判決】は,「借主は貸主の要求あり次第直ちに明渡す」との条項は,「借主に不利な特約として効力を生じない」としつつも,解約申入の「正当事由の有無の判断に全く無関係なものとはいいがたい」旨判示しています。

従って,形式上,業務委託契約の形を採り,契約更新されないことが約定されていた場合,当該約定は賃借人に不利なものとして借地借家法30条により無効でも,更新拒絶の正当事由を基礎付ける一事情として事実上斟酌される可能性はあるといえます。

借地借家法の適否チェック表
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参考裁判例
契約書の表題が「賃貸借契約」ではなく,「業務委託契約」「委任契約」となっている。【最判昭和32年10月31日】
【東京地判平成21年4月7日】
賃貸借契約であれば通常行われる「礼金」「権利金」「敷金」「保証金」等の授受がない。【大阪地判平成4年3月13日】
【東京地判令和元年10月25日】
物件オーナーの取得する金員が固定金額ではなく売上金の割合をもって定められている。【大阪地判平成4年3月13日】
【最判昭和39年9月24日】
【東京地判平成7年8月28日】
【大阪高判平成9年1月17日】
【東京地判平成21年4月7日】
物件オーナーの取得する金員につき最低保証額が定められていない。【東京地判平成8年7月15日】
店舗の売場の設定・変更等において物件オーナーの強い権限が及んでいる又は商品の種類・品質・価格等の営業方針に干渉している。【最判昭和30年2月18日】
【大阪地判平成4年3月13日】
営業許可申請や深夜酒類販売の届出等の行政手続を物件オーナー名義で行っている。【東京地判平成15年10月29日】
物件オーナーが自ら営業した場合であっても同等以上の収益を得ることができると認められる。【東京地判平成15年10月29日】
店舗内の什器備品を物件オーナーが取り揃えて設置している。【東京地判平成15年10月29日】
店舗の業務が物件オーナーの指示・監督の下に行われている。【東京地判昭和55年1月31日】
【東京地判昭和58年9月30日】
【東京地判平成8年7月15日】
【東京地判平成15年12月19日】
物件オーナーが自身の名義,営業資金(計算)によって経営を行い,営業利益も取得している。【東京地判昭和55年1月31日】
【大阪高判平成9年1月17日】
【東京地判平成21年4月7日】
【東京地判令和元年10月25日】
店舗の名称決定に関し物件オーナーが関与している。【東京地判平成7年8月28日】
店舗の毎月の光熱費については物件オーナーが負担し,電力会社等に直接支払うものとされている。【東京地判平成7年8月28日】

※上記チェック表は過去の裁判例から「業務委託契約」と判断される一定の基準を列挙したもので,これが絶対的な基準となるわけではありません。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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