|
「借主が1年未満で解約した場合,違約金として賃料の6か月分を支払う」との条項の有効性。
解説 |
1.中途解約違約金とは
頭書事例の違約金条項は,借主が賃貸契約期間の途中で解約した場合に借主は何万円を貸主に支払うという,いわゆる「中途解約違約金」と呼ばれるもので,「損害賠償の額の予定」(民法420条)と同じ性質を有します。
このような中途解約違約金は,借主仕様の建物を賃貸人(オーナー)の費用負担で建設して賃貸するいわゆるオーダーメイド賃貸のような場合には必ずといって良いほど見受けられるものです。
中途解約違約金の目的は様々ですが,「貸主が次のテナントを確保するまでの間の賃料を借主に負担させる」という動機が一つの大きな目的となります。
例えば3年間の賃貸借契約であれば,貸主は「3年間は賃料収入が得られる」との期待があるわけですが,解約されてしまうと,以降,次のテナント入居者が決まるまで賃料収入が得られなくなってしまいます(賃料収入を見込んで資金計画を立てていた場合に予期せぬ損害を蒙ることになります)。
違約金条項は,まさにこのような貸主の損害を補填するものです。
2.中途解約違約金の有効性
中途解約違約金条項も,その金額が高額に過ぎる場合には,消費者契約法9条1項1号(この場合は10条ではなく9条1項1号の問題となります)や民法90条により無効となることがあります。
では,どのような基準で「高額に過ぎるか」(無効になるか)を判断したらよいのか,その判断基準が問題となります。
この点,敷引特約は,主として,「長く借りていたことによる物件の老朽化に伴う経年劣化分(減価分)を敷金で補填する(償却する)」という趣旨ですが(したがって,賃貸期間が長いほど,より多額の敷引が認められる可能性があります),中途解約違約金は,むしろ,早く解約されてしまったことによる不測の損害に備えるというもので,ベクトルが逆なわけですから,敷引特約の有効性の判断と同様の基準(月額敷引比率等)は必ずしも妥当しません。
以下の裁判例は借主が会社(事業者)で消費者契約法の適用のない事案ですが,借主が賃貸期間(4年)の満了前に解約した場合の違約金につき,次の賃借人を確保するまでに1年以上の期間を要したことはないこと等を理由に,約3年2か月分の賃料及び共益費相当額の違約金条項は,1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効(残りの2年2か月分は無効公序良俗に反して無効)としました。
【東京地裁平成8年8月22日判決】
建物賃貸借契約において1年以上20年以内の期間を定め,期間途中での賃借人からの解約を禁止し,期間途中での解約又は解除があった場合には,違約金を支払う旨の約定自体は有効である。
しかし,違約金の金額が高額になると,賃借人からの解約が事実上不可能になり,経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに,賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから,諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もあるといえる。
<中略>
被告会社が本件建物の6階部分を使用したのは約10か月であり、違約金として請求されている賃料及び共益費相当額の期間は約3年2か月である。
被告会社が本件建物の6階部分を解約したのは、賃料の支払を継続することが困難であったからであり、第一契約においては、本来一括払いであるべき保証金が3年9か月の期間にわたる分割支払いとなっており、被告会社の経済状態に配慮した異例の内容になっているといえる。
原告は、契約が期間内に解約又は解除された場合、次の賃借人を確保するには相当の期間を要すると主張しているが、被告会社が明け渡した本件建物について、次の賃借人を確保するまでに要した期間は、実際には数か月程度であり、1年以上の期間を要したことはない。
以上の事実によると、解約に至った原因が被告会社側にあること、被告会社に有利な異例の契約内容になっている部分があることを考慮しても、約3年2か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人である被告会社に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできず、平成6年3月5日から1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する。
|
3.消費者契約法が適用される場合
他方で,消費者契約法が適用されるケース(貸主が事業者で借主が個人消費者の場合)は,同法9条1項1号に基づき,より広範囲で無効とされる可能性があります。
この点,賃貸住宅標準契約書(国土交通省住宅局)をはじめ,一般的な居住用建物の賃貸借契約においては,途中解約の場合に支払うべき違約金額を賃料の1か月(30日)分とする例が多数と認められます。
従って,【東京簡裁平成21年2月20日判決】及び【東京簡裁平成21年8月7日判決】等でも,次の入居者を獲得するまでの一般的所要期間としても相当と認められることなどを理由に,1か月分の範囲でのみ違約金を認め,これを超える部分につき消費者契約法9条1項1号により無効と判示しました。
もっとも,上記賃貸住宅標準契約書は一般的な契約条項のひな形を示したものに過ぎないこと等を理由に,2か月分を有効とした裁判例もあり(【東京地裁平成27年11月4日判決】),多湖・岩田・田村法律事務所では,単に違約金が「何か月分か」という金額面だけではなく,契約期間やフリーレントの有無等,事案ごとの諸事情を総合的に考慮して判断するようにしています。
【消費者契約法9条1項】※令和5年6月1日改正法施行後
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 省略
【東京簡裁平成21年2月20日判決】
本件のような解約予告期間を設定することは賃借人の解約権を制約することは明らかであるが,このような解約予告期間の設定は,民法上にも期間の定めのない建物賃貸借につき3ヶ月間とし,期間の定めのある場合でも期間内に解約する権利を留保したときはこれを準用するとの定めがある(民法617条1項2号,同法618条)ことからすると,本件契約上の解約予告期間の定めが民法その他の法律の任意規定の適用による場合に比して,消費者の権利を制限し又は義務を加重して,民法1条2項の信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものとして一律に無効としなければならないものとはいえない。
しかし,解約予告に代えて支払うべき違約金額の設定は,消費者契約法9条1号【※現9条1項1号】の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たると解されるので,同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超えるものは,当該超える部分につき無効となる。
これを本件についてみると,一般の居住用建物の賃貸借契約においては,解約予告期間及び予告に代えて支払うべき違約金額の設定は1ヶ月(30日)分とする例が多数であり,解約後次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間として相当と認められること,及び弁論の全趣旨に照らすと,解約により原告が受けることがある平均的な損害は賃料・共益費の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である(民事訴訟法248条)。
そうすると,原告にこれを超える損害のあることが主張立証されていない本件においては,1ヶ月分を超える違約金額を設定している本件約定は,その超える部分について無効と解すべきである。
本件解約が1回目の更新がなされ更新料が支払われた直後である8月上旬にされたこと,契約時に預け入れた保証金(賃料・共益費の1ヶ月分)は解約に伴い償却され返還されていないこと等を総合して考えると,解約時における賃貸人,賃借人双方の公平負担の観点からも妥当な結論であると解する。
※【 】内は筆者加筆。
【東京簡裁平成21年8月7日判決】
本件契約は,事業者たる被告と一般消費者である原告との間の消費者契約に該当する(消費者契約法2条3項),一般の居住用マンションの賃貸借契約である。
賃貸借契約において,賃借人が契約期間途中で解約する場合の違約金額をどのように設定するかは,原則として契約自由の原則にゆだねられると解される。
しかし,その具体的内容が賃借人に一方的に不利益で,解約権を著しく制約する場合には,消費者契約法10条に反して無効となるか,又は同法9条1号に反して一部無効となる場合があり得ると解される。
途中解約について違約金支払を合意することは賃借人の解約権を制約することは明らかであるが,賃貸借開始より1年未満で解約する場合に違約金として賃料の2ヶ月分,1年以上2年未満で解約する場合に違約金として賃料の1ヶ月分を支払うという本件契約上の違約金の定めが,民法その他の法律の任意規定の適用による場合に比して,消費者の権利を制限し又は義務を加重して,民法1条2項の信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものとして一律に無効としなければならないものとまではいえない。
しかし,途中解約の場合に支払うべき違約金額の設定は,消費者契約法9条1項1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たると解されるので,同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超えるものは,当該超える部分につき無効となる。
これを本件についてみると,一般の居住用建物の賃貸借契約においては,途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の1ヶ月(30日)分とする例が多数と認められ,次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間としても相当と認められること,被告が主張する途中解約の場合の損害内容はいずれも具体的に立証されていないこと(賃貸人が当然負担すべき必要経費とみるべき部分もある),及び弁論の全趣旨に照らすと,解約により被告が受けることがある平均的な損害は賃料の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である(民事訴訟法248条)。
そうすると,被告にこれを超える損害のあることが主張立証されていない本件においては,1年未満の解約の場合に1ヶ月分を超える2ヶ月分の違約金額を設定している本件約定は,その超える部分について無効と解すべきである。
【東京地裁平成27年11月4日判決】
控訴人らは,国土交通省作成の「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」において解約予告期間が30日と記載されていることからすれば,中途解約により被控訴人に生じる「平均的な損害の額」は賃料等1か月分相当額であり,本件解約予告条項のうち上記限度を超える部分は無効である旨を主張する。
しかしながら,上記標準契約書は一般的な契約条項のひな形を示したものに過ぎないから,上記記載をもって,本件居室賃貸借契約における中途解約により生ずべき「平均的な損害の額」を認定することはできない。
また,一般的な賃貸借契約においても解約予告期間を1か月とするものと2か月とするものがみられるところであり,その他の証拠に照らしても,本件解約予告条項所定の賃料等2か月分という金額が,中途解約により被控訴人に生ずべき平均的な損害の額を超えるものであったと認めることはできない。
なお,礼金や更新料は,中途解約の場合に賃貸人に生じ得る損害を填補することを予定した性質の金銭ではないから,これらの金銭が支払われていたとの事実は,上記「平均的な損害の額」を認定するに当たり考慮すべきではない。
|
|
結論 |
以上より,頭書事例の条項は,原則として有効です。
もっとも,次のような事情を総合考慮し,中途解約により被る賃貸人の損害と中途解約が制限されることによる賃借人の損害を比較衡量して,事業者間契約の場合は民法90条(公序良俗違反)により,事業者・消費者間契約の場合は消費者契約法9条1項1号により,一定額を超える部分が一部無効となる可能性があります。
(1)賃借人の実際の貸室利用期間
(2)当該賃借人確保のために要した賃貸人の投下資本
(3)次の賃借人募集・確保にかかる所要見込期間
(4)敷金(保証金)の償却金額
(5)更新料の支払時期
この点,上記の裁判例等に照らし,違約金額は,借主が会社(事業者)の場合は概ね月額賃料の6か月以内,借主が個人消費者で消費者契約法が適用される場合は概ね月額賃料の1か月以内に留めておけば安全圏(有効の可能性大)といえるでしょう。
|
実務上の注意点 |
4.解約予告の撤回
賃借人が一旦解約予告をしてしまうと,その予告した時点で解約の効果が確定し,予告期間満了時をもって契約終了するという効果が生じます。
そのため,契約終了となるのは予告期間満了日ですが,すでに解約の効力が確定してしまっている以上,解約の意思表示を撤回することはできないと考えられます(民法540条2項参照)。
なお,渡辺晋『建物賃貸借—建物賃貸借に関する法律と判例(改訂版)』〔大成出版社 2019年〕664頁でも同様に解されています。
したがって,解約申し入れをする際は,撤回できないことに注意して,その時期等について慎重に判断する必要があります。
【民法540条】
1 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは,その解除は,相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は,撤回することができない。
【東京地裁平成28年8月19日判決】
解約日を同年8月15日と記載した「住宅賃貸借契約解約届」を差し入れて,本件賃貸借契約を解約する旨の意思表示をしたのであるから,この時点において,本件賃貸借契約は,賃貸借終了日を同年8月15日として解約されたものと認められる。
|
5.解約禁止期間の解釈
「借主は,2年6か月間は本契約を解約することはできないものとし,2年6か月経過以降は,解約の効力が生じる日の1年前までに貸主に対して書面による解約予告通知をすることにより本契約を解約できる」との条項があった場合,解約禁止期間の2年6か月は,解約予告通知をすること自体の禁止期間なのか,それとも解約効力発生禁止期間なのか,問題となります。
例えば,令和5年1月1日に賃貸借契約締結し,解約禁止期間を「令和5年1月1日~令和7年6月30日迄」(2年6か月間)とした場合に,1年6年か月経過後の令和6年7月1日に「令和7年6月30日限り解約する」との解約予告通知をした場合有効でしょうか。
これにつき,【東京地裁平成25年1月29日判決】は,「賃料起算日から2年6か月後には賃貸借契約を解約して退去することも可能であることを条件として交渉」していたことなどを踏まえて,「本件解約規定の中途解約禁止期間とは,中途解約が禁止される期間を意味することは明らかであって,本件解約通知が無効である旨の原告の主張を採用することはできない」と判示しました。
この点,当該特約が定められた経緯にもよるため一概には言えませんが,「解約予告通知をすることはできない」ではなく,「解約することはできない」との文言からすれば,基本的には,解約禁止期間中も解約予告通知自体はでき,ただ,実際に解約の効果が発生するのは解約禁止期間経過後と解釈すべきと思われます。
従って,前述の例では,令和7年6月30日に契約終了となります。
【東京地裁平成25年1月29日判決】
本件解約規定の中途解約禁止期間とは,中途解約が禁止される期間を意味することは明らかであって,本件解約通知が無効である旨の原告の主張を採用することはできない。
|
6.解約予告金(中途解約違約金)に消費税が課税されるか
消費税法2条1項8号では、消費税が課されることになる「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいうとされていますが,国税庁「No.6261建物賃貸借契約の違約金など」においては、「建物の賃貸人は、建物の賃貸借の契約期間の終了前に入居者から解約の申入れによる中途解約の違約金として数か月分の家賃相当額を受け取る場合があります。この違約金は、賃貸人が賃借人から中途解約されたことに伴い生じる逸失利益を補填するために受け取るものですから、損害賠償金として課税の対象とはなりません」とされています。
従って,中途解約違約金には,消費税は課税されません(【東京地裁平成25年3月12日判決】【東京地裁平成25年12月17日判決】参照)。
なお,これに対し,敷引特約による保証金や敷金の償却は,賃貸借の終了に伴い当然に発生する旨が定められ、これを含めて本件建物の賃貸借が締結されていることからすれば、権利の設定の対価又は建物利用の対価として,消費税の課税対象となります(【国税不服審判所平成22年10月18日裁決】【東京地裁令和4年12月23日判決】)。
そして,国税庁消費税法基本通達9-1-23(保証金等のうち返還しないものの額を対価とする資産の譲渡等の時期)によれば,賃貸借契約が締結された時点において、当該契約が期間満了まで継続するか、期間内に終了するかを問わず、償却分を返還を要しないことが確定しているのであれば,その時点(契約締結時点)の属する課税期間において課税されるべきものということになります。
もっとも,課税対象となる償却金額は明記されているものの,「税込」か「税抜」が明記されていない場合に,いずれと解するかは,税務上消費税が課税されるか否かとは別問題であり,契約当事者の合理的意思解釈に委ねられることになります(【東京地裁平成17年3月18日判決】)。
【消費税法2条1項】
一~七 省略
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
八の二~八の五 省略
九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
九の二 以下省略
【東京地裁平成17年3月18日判決】
不動産賃貸借契約に関して差し入れられた保証金のうち返還を要しないものとされた償却費については,課税実務上,消費税法上の課税取引に該当するものと取り扱われていることが認められる。
もっとも,上記は課税庁における実務上の取扱いであって,不動産賃貸借契約において賃借人から差し入れられた保証金につき,契約終了時に一定額ないし一定割合の金額を償却する旨の合意がされている場合に,同合意に係る償却費等の数額に消費税相当分が含まれているか否か(換言すれば,いわゆる内税方式,外税方式のいずれが採用されているか)は,専ら契約当事者の意思により決定されるべき事柄であるというべきである。
しかして,経験則上,売買における代金につき原則として消費税が課税されることは,取引通念上も当然の前提をなすに至っているといえるのに対し,不動産賃貸借契約に係る敷金ないし保証金に係る償却費について消費税法上の課税取引に該当するものとして取り扱われるとの事情は,不動産賃貸借契約の当事者間における一般的な共通認識になっているとまでは必ずしも解し得ない。
それゆえ,いわゆる保証金等の償却について合意がされている場合であっても,特に消費税相当額を外税として取り扱うとの特段の合意がされていない場合については,同消費税相当額は内税として約定の償却分に含めるとするのが不動産賃貸借契約の当事者間における合理的意思であると解するのが相当である。
そこで,これを本件についてみるに,本件全証拠を精査しても,XY間で本件償却費に消費税相当額を加算した額を本件保証金から控除する旨の合意がされたことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,XとYとの間においては,本件各賃貸借契約の締結あるいはその更新契約の際に,本件償却費の消費税相当額を別途Yが負担する旨の合意は一切されていないことが認められる。
以上の事実に基づき,本件償却費の消費税相当額の負担に関するXYの合理的意思を解釈すれば,XY間では,償却費に係る消費税相当額は約定の償却費に含める趣旨(いわゆる内税方式)とする意思であったと認めるのが相当であり,他に同認定を覆すに足りる証拠はない。
よって,本件償却費とは別個に,その消費税相当額についてもYが負担し,本件保証金から控除することができる旨のXの主張は理由がない
【国税不服審判所平成22年10月18日裁決】
本件建物賃貸借契約において、本件敷引金が契約開始後に請求人の任意の方法で償却できるものとされていることからすれば、本件敷引金は、本件建物賃貸借契約が締結された時点において、当該契約が期間満了まで継続するか、期間内に終了するかを問わず、請求人において返還を要しないことが確定していたものと認められる。
そうすると、本件建物賃貸借契約が締結された時点において、本件敷引金は、一種の権利の設定の対価として返還されない請求人の確定収入となり、請求人は、本件敷引金を自己の所有として自由に処分することができると認められるから、本件敷引金は、本件建物賃貸借契約が締結された平成17年11月24日の属する平成18年10月期において、その全額を収益として計上すべきものと解するのが相当である。
<中略>
請求人は、本件建物賃貸借契約の中途解約に関する定めにおける敷金の取扱いから本件敷引金は除外されておらず、請求人の都合により当該契約を中途解約した場合には、本件敷引金の返還義務が生じる旨主張する。
しかしながら、本件敷引金は、本件建物賃貸借契約が締結された時点において、返還を要しないことが確定していたものと認められるところ、仮に、請求人の主張どおり請求人の都合によって本件建物賃貸借契約が中途解約され本件敷引金について返還債務が生じたとしても、当該返還債務は中途解約を原因として新たに発生する請求人の賃借人に対する債務と認められ、上記の判断に影響を与えるものではないから、請求人の主張には理由がない。
<中略>
本件敷引金は一種の権利の設定の対価であり、本件敷引金の受入れは、消費税法第2条第1項第9号に規定する課税資産の譲渡等に該当し、また、その譲渡等の時期は、本件敷引金を返還しないことが確定した本件課税期間において行ったものと認められるから、本件敷引金から消費税等相当額を差し引いた金額を本件課税期間の課税標準額に算入して行われた本件消費税等更正処分は適法である。
【東京地裁平成25年3月12日判決】
※「6か月間の賃料に相当する金額,6か月分の共益費,テナント会費,経常販促費相当額を支払うことにより,賃貸借契約を解約することができる」との中途解約条項があった事案。
中途解約金の趣旨に照らすと,原告は,賃料等の支払を受けた場合と同様の金額を自ら保有することができると解するのが相当である。
この観点からすれば,中途解約金に賃料等と同様に消費税が課税され,原告が消費税相当額の納付を要するのであれば,中途解約金の賃料相当額等にも消費税相当額が含まれると解するのが相当である。
しかしながら,賃貸借契約の中途解約による逸失利益を補填するための違約金は,課税の対象とならないとされているところ,本件中途解約条項に基づく中途解約金も上記違約金に該当すると解される。
したがって,消費税は課税されないものと解されるから,賃料等の計算において消費税相当額を考慮する必要はないというべきである。
【東京地裁平成25年12月17日判決】
原告は,被告らに対し,1年未満解約違約金として1か月分の賃料相当額の支払を請求することができる。
ただし,原告は,これについても,消費税込で請求しているところ,違約金について消費税は課税されないので,本件賃貸借契約15条3項にいう賃料相当額は消費税抜きの賃料相当額を意味すると解すべきである。
【東京地裁令和4年12月23日判決】
償却料の支払が、消費税の課税対象取引になるかどうかについては、償却料のうち3か月分については、賃貸借の終了に伴い当然に発生する旨が定められており、これを含めて本件建物の賃貸借が締結されていることからすれば、この部分は建物利用の対価とみるほかなく、消費税の課税対象取引に当たるものと解される。
他方で、償却料のうち6か月分については、中途解約に結び付けて償却料の額が加算されるという定めになっており、中途解約かどうかにより建物利用の対価が変動するとは考え難いことからすれば、この6か月分の償却料の定めは、中途解約により原告の被る損害(逸失利益や次の賃借人確保までに要する期間の賃料相当額等が考えられる)について、その賠償の予定ないしその填補を定めるものと解される。
したがって、この部分については、建物利用の対価とはいえず、消費税の課税対象取引に当たらないものというべきである。
|
7.破産管財人による中途解約
賃借人が破産した場合,破産管財人は,破産法53条1項に基づき,当該賃貸借契約を一方的に解除することができます。
これは法律上破産管財人に認められる特別の解除権に基づくもの(法定解除)であるため,この場合にも,例えば「6か月前に予告するか6か月分の賃料相当額を支払うことにより中途解約できる」との中途解約条項や「中途解約する場合は敷金の50%相当額を違約金として支払う」との中途解約違約金条項が適用されるのか問題となります。
これについては,まず,少なくとも「6か月前に予告するか6か月分の賃料相当額を支払うことにより中途解約できる」という中途解約条項のうち,「6か月前に予告する」という解約予告期間部分は,「6か月経過しないと解除できない」という意味で破産法53条1項に反し破産管財人の権限を制限するものですので,同項に基づく解除には適用されないと解されます(【東京地裁平成23年4月21日判決】)。
これに対し,「6か月分の賃料相当額を支払うことにより中途解約できる」の部分及び「中途解約する場合は敷金の50%相当額を違約金として支払う」との違約金条項は,解除自体を制限する効果はなく,単に違約金を発生させる効果を有するに過ぎません(前者については「違約金」との文言はないものの,賃借人の都合による即時解除によって賃貸人に生じ得る損害を担保する趣旨であり実質的には違約金と同趣旨と解されます。【東京地裁令和1年11月22日判決】参照)。
そして,このような違約金条項は,賃借人側の事情により期間中に契約が終了した場合に新たな賃借人に賃貸するまでの賃料収入を補填・担保する趣旨と解されるところ,破産管財人による破産法53条1項に基づく法定解除であっても,何ら落ち度のない賃貸人のこのような期待権を一方的に奪うことは賃貸人に酷であると考えられます。
したがって,原則として,上記違約金条項は破産法53条1項に基づく法定解除にも適用されるとするのが裁判実務の大勢といえます(【東京地裁平成20年8月18日判決】【東京地裁平成23年4月21日判決】【東京地裁平成24年3月9日判決】【東京地裁令和1年11月22日判決】等。但し,【東京地裁平成21年1月16日判決】【東京地裁平成23年7月27日判決】は適用を否定)。
【破産法53条1項】
双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
【東京地裁平成20年8月18日判決】
本件賃貸借契約は、10年間の定期建物賃貸借契約であり、原則として中途解約ができない旨を定めているから、賃貸人及び賃借人は、原則として10年間の契約期間満了まで賃貸借契約を継続し、賃貸人は賃料収入を得ることを、賃借人は本件建物を使用収益することができることを、それぞれ期待していたと解される。
他方、本件賃貸借契約においては、本件違約金条項のほか、「賃借人の債務不履行、破産申立等を理由に賃貸人が解除する場合」等、賃借人側の事情により期間中に契約が終了した場合には,「保証金は違約金として全額返還しない」旨が定められている。
以上からして、本件違約金条項は、賃借人側の事情により期間中に契約が終了した場合に、新たな賃借人に賃貸するまでの損害等を賃借人が預託した保証金によって担保する趣旨で定められたものと解するのが相当である。
<中略>
本件違約金条項が当事者間の自由な意思に基づいて合意され、その内容に不合理な点がない以上、破産管財人においても、これに拘束されることはやむを得ないと解すべきであるから、本件違約金条項が破産法53条1項に基づく破産管財人の解除権を不当に制約し、違法無効であるとはいえない。
【東京地裁平成21年1月16日判決】
※「借主は、賃料・共益費の6か月分相当額を甲に支払い、即時解約することができるものとする」(本件契約書20条3項)との中途解約条項があった事案。
本件契約書20条3項は、賃借人が賃料・共益費6か月分を支払うことにより本件契約を解除し得るとする趣旨であると解され、他の事由による本件契約の終了時にも賃借人が違約金を支払うべきことを規定したものであるとは解することができない。
そうすると、本件契約は、管財人と被告との間で合意解除されたもの又は管財人が破産法53条1項に基づき解除したものであるから、いずれにしても本件契約書20条3項が適用される場合に該当しないことは明らかであり、原告が被告に対し同条項に定める賃料・共益費6か月分の支払義務を負うべき理由はない。
【東京地裁平成23年4月21日判決】
※「第1項 賃借人の事業等やむを得ない事情により,契約期間の途中において,この契約を解約しようとするときは,契約終了の意思表示があったときから1年の経過をもってこの契約を終了するものとする。
第2項 前項の場合,賃貸人は,次の要領で保証金を償却し,その所得とすることができる。
賃貸物件の引渡時から契約終了の意思表示があったときまでの期間が(ア)5年以内のときは保証金の100%(イ)5年を超え10年に満たないときは保証金の70%(ウ)10年を超え15年に満たないときは保証金の40%(エ)15年を超え20年に満たないときは保証金の20%」(本件保証金没収条項)との中途解約違約金条項があった事案。
本件保証金没収条項は破産者に債務不履行があった場合のほか破産者側の事情に基づいて破産者に解約権を認める場合に適用される違約金条項と解するのが相当であり,破産者に破産手続開始決定がされたことは「事業等やむを得ない事情」に含まれるところ,1年もしくは6か月を経過しないと効力を生じないとする点は解除の効果を制限するものであるから,破産法53条1項による解除の場合には適用されないと限定的に解釈するにすぎないものであって,破産法53条1項による解除の場合に本件保証金没収条項が適用されないと解するべきではない。
また,原告は,破産法53条1項に基づく解除は,破産管財人に与えられた特別の権能であり,解約の相手方に不利益を受忍させても破産財団の維持・増殖を図るために破産者の従前の契約上の地位よりも有利な法的地位を与えたものと解される旨を主張するが,破産法53条1項は,双務契約における双方の債務が法律上及び経済上相互に関連性をもち,原則として互いに担保視しあっていることから,破産管財人に解除か履行請求かの選択権を与えることにより,破産財団の利益を守ると同時に,破産管財人のした選択に対応した相手方の保護を図る趣旨の規定であると解されるから,対価的均衡の維持にも配慮する必要がある。
そうすると,本件保証金没収条項が違約金条項として不合理な点があるなどの特段の事情がない限り,破産法53条1項による解除も途中解約の場合として本件保証金没収条項が適用されるべきである。
【東京地裁平成23年7月27日判決】
保証金残金の返還請求権を放棄することにより即時解約することができる旨の合意がされていたものと認められるところ、これは合意に基づく解約権(約定解約権)の行使の要件を定めたものと解され、破産管財人による破産法53条1項に基づく解除権の行使についての要件とは解されない上、同項は、契約の相手方に解除による不利益を受忍させても破産財団の維持増殖を図るために破産管財人に法定解除権を付与し、もって破産会社の従前の契約上の地位よりも有利な法的地位を与えたものと解されることをも併せ考えると、原告【※破産管財人】による解除により、保証金残金の返還請求権が消滅するものとは解されない。
※【 】内は筆者加筆。
【東京地裁平成24年3月9日判決】
※「賃借人である破産会社は,引渡日より2年を経過する日までの間に本件建物賃貸借契約を解約しようとするときは,敷金の50%相当額を違約金として支払う」(本件賃貸借契約の40条19項2号)との中途解約違約金条項があった事案。
破産管財人に双務契約の解除権を付与した破産法53条の趣旨が,契約当事者双方の公平を図りつつ,破産手続の迅速な終結を図ることにあることに照らせば(最高裁平成12年2月29日第三小法廷判決参照),破産管財人が双務契約の解除を選択した場合に,当該双務契約の相手方において,破産管財人による解除権の行使を受け入れざるを得ないこととなるのは当然であるが,それ以上に,当該双務契約に基づいて実体法上有していた地位を当然に失い,その不利益を甘受しなければならないとすることは,明らかに公平を害するものであり,かつ,破産手続の迅速な終結を図るために必要不可欠なこととも認められないから,破産法53条1項に基づいて破産管財人が双務契約を解除した場合でも,当該双務契約の相手方が同契約に基づいて実体法上有していた地位を当然に失うことはないと解するのが相当である。
以上によれば,破産管財人が破産法53条1項に基づき本件建物賃貸借契約を解除した本件においても,被告は,本件建物賃貸借契約の40条19項2号に基づく違約金請求権を失うことはないと解する。
【東京地裁令和1年11月22日判決】
本件条項を含む本件賃貸借契約4条は,「乙(賃借人)の都合により本契約を解除する時は3ヶ月以上前に通告し,期間終了と同時に乙は完全に甲(賃貸人)に明け渡し,立ち退き料又はこれに類する物質的請求は絶対にしないこと,また造作部分を取り外し,本件店舗を賃貸借成立当時の原状に復した上で,甲に完全に明け渡すものとする。但し,この際甲は前家賃を期間に応じて精算し,保証金(敷金)は乙に返還すること。又,乙は,通告日より起算して3ヶ月分の家賃を支払い即日解約することもできる。」との規定であり,その中には「違約金」の文言はないものの,同条を全体として見ると,本件条項は,賃借人の都合による即時解除の場合に,賃貸人において解除の通告日から3か月分の家賃相当額を回収可能とすることで,賃借人の都合による即時解除によって賃貸人に生じ得る損害を担保する趣旨の規定であるといえる。
したがって,本件条項は,賃借人の都合による即時解除について違約金を定めた規定であると解される。
訴外会社の破産管財人は,破産法53条1項に基づき,本件賃貸借契約を即時解除したところ,上記解除は,破産という訴外会社の事情によるものであるといえるから,賃借人の都合により本件賃貸借契約を即時解除した場合に該当すると認められる。
そうすると,訴外会社の破産管財人による上記解除にも本件条項が適用される。
|
►さらに詳しく知りたい方は,多湖章『難局を乗り切る!商業ビルテナントのための賃料減額・猶予・解約交渉』〔レガシィ 2020年5月〕もご参照願います。
※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
|
|