HOMENEWSアクセスEnglish
不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
電話 03-3265-9601
info@tago-law.com
概要 弁護士 取扱業務 依頼費用
多湖・岩田・田村法律事務所エントランス
借地借家法
敷金
中途解約
転貸借
賃料増減額請求
正当事由と立退料
更新料
原状回復
修繕義務
連帯保証人
仲介業者の責任
残置物処分
明渡完了時期
明渡遅延違約金
債務不履行解除
所有者変更
売買相談

敷金(保証金)返還義務
*本項は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
【事例】敷引特約の有効性
「敷金6か月分のうち,契約終了時に2か月分を償却する」との条項の有効性。

【解説】多湖・岩田・田村法律事務所/平成29年7月改訂版
【1】敷金」とは,賃貸借契約時に借主が貸主に対し,賃料や退去時の原状回復費用の担保として預ける金銭のことで,オフィスビルの賃貸においては「保証金」と呼ぶのが一般的です。基本的には,「保証金」≒「敷金」と考えて良いですが,厳密には,「保証金」は「敷金」より多義的でもう少し広い法的概念です。「保証金」は,「敷金」としての意味だけでなく,建設中のオフィスビルに入居予定のテナントが「建設協力金」として建築主たるビルオーナーに貸し付ける「貸金」としての性質を含む意味で用いられることや約定期間よりも早期に退去した場合の残存期間分の賃料相当額の補填のための担保金としての性質を含む意味で用いられることもあり,しばしばその法的性質が争われることがあります(【東京地裁平成13年10月29日判決】は,「保証金という名目で金員が授受された場合に、そのいずれの趣旨のものであるかは、当該契約書における規定の仕方、授受された金額の多寡、賃貸借契約が建物新築の直後かどうか等を考慮してこれを決するのが相当である」として,賃料の約39か月分の「預託金」名目の保証金のうち10か月分の範囲で「敷金としての性質を有する」とし,残りについては,建設協力金の趣旨と判断しています)。金額は各地方によって多少異なりますが,居住用物件の場合は月額賃料の2か月分程度,オフィスビルの場合は月額賃料の6か月〜10か月分程度が相場と思われます。
【2】敷金(保証金)は,あくまで「預ける」ものですので,賃貸借契約終了し退去明渡が完了した場合には,貸主は借主に全額返金しなければならないのが原則です。この点で,「敷金」は,返還義務のない「礼金」や「権利金」とは異なります(【最高裁昭和43年6月27日判決】は,「権利金」につき,場所的利益の対価であるとして返還義務を否定)。
ただし,敷金の返還を受けるためには契約が終了しただけでは足りず,現実に退去明け渡しが完了して初めて敷金返還義務が生じるとされています(【最高裁昭和49年9月2日判決】)。また,【最高裁昭和48年2月2日判決】では,「家屋賃貸借における敷金は,賃貸借存続中の賃料債権のみならず,賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し,賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において,それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として,その残額につき敷金返還請求権が発生する」とし,【最高裁平成14年3月28日判決】も,「目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することになる。このような敷金の充当による未払賃料等の消滅は,敷金契約から発生する効果であって,相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではない」としていることから,敷金は明渡時において一切の未払い債務に当然充当され,相殺の意思表示すら不要と解されています。
【3】もっとも,実際の契約書においては,頭書事例のように,契約終了時に敷金を償却(「償却」とは,法的には「償却費として貸主が受領する」という意味で用いられます)するという,いわゆる敷引特約(しきびきとくやく)が定められていることがあります。
実務上は,この敷引特約が消費者契約法10条(貸主が事業者で借主が個人の場合)あるいは民法90条(事業者間または個人間の契約の場合)により,公序良俗違反として無効とならないかどうかがしばしば争われます。ちなみに,国土交通省の調査によれば,大阪では約30%,東京では約5%の割合で,敷引特約が結ばれているようです(【最高裁平成23年7月12日判決】の田原睦夫裁判官の補足意見等参照)。
【4】これについては近時判例が続発し,【最高裁平成23年3月24日判決】は,「本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて月額賃料の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,借主は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない」として,これを有効とし,前掲【最高裁平成23年7月12日判決】も,「本件敷引金の額はその(月額賃料の)3.5倍程度にとどまっており,高額に過ぎるとはいい難く,本件敷引金の額が,近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して,大幅に高額であることもうかがわれない」として有効と判断しました。なお,両判例はどちらも,借主が個人消費者であった(消費者契約法の適用される)事例ですので,事業者間の取引の場合に妥当するものではありません(事業者間の取引では敷引特約はより認められ易くなるでしょう)。 
【5】もっとも,前掲【最高裁平成23年3月24日判決】は,同時に,「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる」とも判示しているため,敷引特約を一律に有効あるいは無効と判断することはできず,結局は,入居期間との相関関係で割り出される「敷引金額の(月額)賃料に対する比率」(以下「月額敷引比率」といいます。)により判断されていると思われます(前掲【最高裁平成23年7月12日判決】の田原睦夫裁判官の補足意見参照)。
【6】すなわち,「敷引される金額」÷「実際に入居していた月数」÷「月額賃料」=「月額敷引比率」が,前掲【最高裁平成23年3月24日判決】では5.9%程度,前掲【最高裁平成23年7月12日判決】では4.9%程度の事案で,いずれも月額敷引比率が少額であったことが重視されていると思われます。
逆にいえば,例えば,月額30万円で保証金10か月(300万円)の契約において,保証金全額の敷引特約が結ばれた場合に,借主が6か月で契約を解約して建物から退去したとすると,敷引比率は300万円÷6か月÷30万円=160%超となりますので,このような場合は,敷引特約は一定の範囲で無効とされる可能性が高いでしょう。もっとも,借主の意向・注文に沿って建物を建築した上,その建物を賃貸するという,いわゆるオーダーメイド賃貸の場合,せっかく借主仕様の建物にしたのに早期に退去されると貸主の損害が大きいので,投下資本の回収リスク分配の観点から,月額敷引比率を高く設定しても無効とはされ難いでしょう(【東京地裁平成13年5月14日判決】(『判例タイムズ1117号293頁』解説より)参照。)。
【結論】
以上より,頭書事例のような条項は,原則として有効ですが,敷引金額が月額賃料に比して著しく高額な場合は一定の範囲で無効とされます。過去の裁判例等に照らし,借主が個人消費者である消費者契約法適用事例でも,敷引金額は概ね月額賃料の3.5か月分程度に留めておけば安全圏(有効の可能性大)といえるでしょう。
他方,事業者間の取引などでは,消費者契約法は適用されませんので,3.5か月分を超えるような敷引特約も有効とされる可能性は高いでしょう。
【補足】
余談ですが,『広辞苑』(岩波書店)によると,「償却」は,上記敷引特約におけるような「減価償却」としての意味のほかに,「借金をかえすこと」という意味があります。そのため,一般の方は,敷引特約における「償却」の意味を,「返却」(すなわち敷金を返してもらえる)というように逆の意味に理解してしまうケースがあります。そこで,多湖・岩田・田村法律事務所では,敷引特約を含む賃貸借契約書の校正等のご依頼を受けたときは,「敷金6か月分のうち,契約終了時に2か月分を償却することとし,貸主はこれを借主に返還することを要しない」と記すよう助言しています。
【改正民法】2020年4月1日施行
622条の2
1 賃貸人は,敷金(いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において,次に掲げるときは、賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
(1) 賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。
(2) 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
多湖・岩田・田村法律事務所コメント
これまでは,前掲【最高裁昭和49年9月2日判決】前掲【最高裁昭和48年2月2日判決】前掲【最高裁平成14年3月28日判決】等の判例の蓄積により,解釈上,敷金の返還時期や返還範囲が画されていましたが,今回の改正により,敷金の返還時期が賃貸物件の明渡完了時であること及び敷金から未払賃料等が控除されることなどが条文上明記されました。


〒102-0083 東京都千代田区麹町4-3-4 宮ビル4階・5階
電話 03-3265-9601 FAX 03-3265-9602

Copyright © TAGO IWATA& TAMURA. All Rights Reserved.