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更新:2024年3月21日 
 事例

東京地裁の裁判例において直近約30年間に実際に認定されている立退料の金額の平均的な相場と算定方法の統計。

 解説

1.借地(土地賃貸借)の立退料の裁判例
※東京地裁管内,居住用又は事業用,月額地代は期間満了時点。

【東京地裁昭和63年11月14日判決】
月額地代14万0580円
更地価格8億8289万7000円(期間満了時点)
19億5186万6000円(立退料申出時点)
借地権割合80%
借地権価格7億0638万9600円(期間満了時点)
15億6149万2800円(立退料申出時点)
立退料8億円(立退料申出時点借地権価格の50%強)
算定方法・本件土地の明渡しによって被告が被る損害の経済的評価を参考とし,当該事案に現れたすべての事情を考慮して,原告の必要性が被告のそれより大きいものと認められるに至る程度の金額を算定すべきである。
・被告が被る損害の経済的評価に当たり参考とすべき借地権価格の基準時は,原則として期間満了時であるが,その後になって立退料の申出がされた場合には,申出時の借地権価格も参照されるべきである。
【東京地裁平成23年11月25日判決】
月額地代146万円
更地価格4億5700万円
借地権割合70%
借地権価格3億1990万円
立退料1億4000万円(借地権価格の約45%弱)
算定方法 ・被告は,本件土地においてガソリンスタンドを全面改装して再開する計画を有しており,その事業計画も合理的なものであると認められるから,本件土地を使用する必要性があると認められるのに対し,原告が新たに賃貸駐車場経営を開始するために本件土地を使用する計画を有していることは否定できないにしても,その事業計画には高い信頼性があるとまでは認めがたいのであって,本件土地をA又はそのグループ会社に譲渡せざるを得なくなる可能性が相当高く,原告もこれを認識しながら本件土地を取得したと推認することができるのであるから,原告が本件土地を使用する必要性は,被告に比較して相対的に低い。
・被告は,現に本件土地を使用してガソリンスタンドを営業しているわけではなく,いったんは,B【※前貸主】との間において本件終了合意をし,立退料の支払を受けることを前提としてではあるが,本件土地の使用の継続を断念していること,さらに,被告は会社であり,本件土地をその事業のために使用する計画であるから,本件借地契約の存続の可否をもっぱら経済的観点からみることが可能であって,原告からの相当額の金銭の支払があれば,本件土地を返還することとなっても必ずしも不当とはいえないことを考慮すれば,上記正当事由は,原告から相当額の金銭の支払を受けることによって補完されうると解するのが相当である。
・被告は,本件終了合意において,本件土地の借地契約を終了させる前提として,立退料として合計1億9625万2980円の支払を受けることを合意しているところ,被告は,本件土地においてガソリンスタンドの運営を継続することと,立退料の支払を受けた上で借地契約を終了させて本件土地におけるガソリンスタンドの運営から撤退することとの損益を比較考量し,撤退を選択したものであるから,上記金額は,被告が撤退を選択する上で極めて重要な要素であったことは明らかである。したがって,上記金額は,本件において正当事由を補完するための金銭の額を検討する上でも,重要な要素となると解するのが相当である。
・正当事由を補完する金銭の額は,本件終了合意における立退料の額のみを要素として定めるのではなく,本件借地権の価格の観点からも検討するのが相当である。
・被告は,Bから,本件終了合意に基づく立退料として,既に7625万2980円の支払を受けていることとなるから,上記立退料の金額(合計1億9625万2980円)のみを基準とすれば,本件において正当事由を補完する金銭の額は,1億2000万円となる。
・被告は,本件土地から地下タンク等のガソリンスタンドとしての設備を撤去し,ガソリンスタンドの営業をしないまま,原告に対して賃料相当額である月額146万円を支払ってきており,本件借地契約の期間満了の日から本件口頭弁論の終結の日までの間の約22か月分に対応する支払額は,約3212万円となっている。このように,被告は,本件土地を有効に利用できず,何らの収益を上げられないまま上記金額を支払う事態となっているのであるから,正当事由を補完する金銭の決定に当たっては,経済的観点から,このような事情をも考慮するのが相当である。もっとも,上記のような事態は,被告がBとの交渉において本件借地契約を終了させることを決断したことによって,自ら招いたものである面があることも考慮する必要がある。
・以上の事情を総合して勘案すると,正当事由を補完する金銭としては,1億4000万円が一応相当であると考えられる。
・更地価格に対する借地権割合によって借地権価格を試算してみると,双方の評価書において,本件借地権の価格評価の過程で本件土地の更地価格が評価されており,その価格は,吉村評価書においては約4億2900万円,清水評価書においては4億8500万円とされているので,双方の中間値である4億5700万円を更地価格とし,これに借地権割合として70パーセントを乗ずると,3億1990万円が得られる。これを借地権価格の一応の目安とみると,上記の正当事由を補完する金銭として一応相当と考えられる1億4000万円は,その約45パーセントに相当するが,前記の原告と被告それぞれの本件土地を使用する必要性の程度,被告がいったんは本件土地の借地契約を終了させることを決断してガソリンスタンドの設備を撤去し,現に営業を行っていないことなどの諸事情を考慮すれば,正当事由を補完する金銭の額が,上記の借地権価格の目安に対してこのような割合となることも不当とは考えられない。
【東京地裁平成30年6月27日判決】
月額地代12万円
更地価格3億1600万円
借地権割合80%
借地権価格2億5200万円
立退料1億3000万円(借地権価格の50%強)
算定方法 ・本件事業による道路予定地の買収に伴い,本件土地及び本件隣地,とりわけ本件隣地の残地部分が狭隘なものとなってしまうことから,原告において本件土地の残地と本件隣地の残地を一体として使用することに合理性があるといえること,本件事業による本件土地の一部の買収に伴い本件建物について少なくともその柱や梁の移転等の改築が必要になり,本件建物を現状のまま維持することが見込めないこと,被告は全国に店舗を展開するドラッグストアチェーンであり本件建物で営業する店舗につき移転等の対応が可能であると見込めることに,本件消滅合意がされたことを考え合わせると(なお,被告が主張するとおり,本件事業に伴う道路予定地の買収により本件土地全体が買収されるわけではないから,本件消滅合意により本件賃借権が消滅するわけではないが,本件では,本件事業による道路予定地の買収を契機として,原告による本件土地の使用の必要性が生じたというものであることを考えると,公共用地としての収用を想定する本件消滅合意がされたことを本件における正当事由の有無の判断の際に考慮することができるものと解される。),本件においては,相当額の立退料の提供により,正当事由があるということができる。
・立退料の相当額については,本件賃借権の評価額(2億5200万円)を基礎とするほか,被告の店舗営業の移転に伴う補償(移転に必要な費用及び移転に必要な期間の営業利益の補填)をも考慮すべきところ,本件においては,被告は,移転ではなく廃業を前提とした主張をしていることから,このような移転に伴う補償の額は必ずしも明らかではないが,移転に伴う費用の支出や逸失利益の発生が一定程度避けられないことを考慮して,本件賃借権の評価額(約2億5200万円)を基礎とし,その約5割強である1億3000万円とすることが相当である(仮に,被告の本件建物における店舗の年間営業利益を1753万3845円とすると,公共用地取得の際の損失補償基準によれば,その2か月相当分である292万2308円が逸失利益に相当することになるところ,これを本件賃借権の評価額に加えた加えた約2億5500万円を基礎とするとしても,立退料をその約5割強である1億3000万円とすることが相当である。)。
・本件建物の簿価相当額は,本件建物が収去義務の対象となりあるいは建物買取請求権行使の対象となることを考えると,立退料の算定に際して斟酌すべき営業補償の範囲に含まれるものではない
【東京地裁令和2年9月8日判決】
月額地代9万5180円
更地価格1億3400万円
借地権割合不明
借地権価格不明
立退料9341万円(更地価格の約70%弱)
算定方法 ・本件土地の借地権付建物の正常価格である7760万円は,借地契約の当事者以外の第三者が本件土地の借地権付建物を購入する場合に客観的に正当と考えられる市場価格として算出されたものであり,底地(2620万円相当)の権利を有する地主が借地権付建物(7760万円相当)を買い受けることによってこれらが併合し,自用の不動産に復帰する結果生じる増分価値(2520万円相当)の配分を考慮に入れていない金額である。
・本件では,原告が自己の都合で借地期間満了時に本件土地の借地権を買受けることによって,完全な所有権の回復を遂げることができ,本件土地の更地価格(1億3400万円)から建物解体費用(500万円)を控除した最有効使用を前提とする経済的価値(1億2900万円)を把握することが可能になることに鑑みると,この増分価値を底地と借地権付建物に割り付けた上で,底地を有する原告が借地権付建物を購入して併合する場合の限定価格により立退料を算出するのが相当である。
・本件鑑定書によれば,増分価格の借地権付建物への配分率は70.7%であるから,本件土地の地主が底地に借地権付建物を併合する場合の限定価格は9541万6400円(7760万+(2520万×70.7%)=9541万6400)となる。
・本件鑑定書の鑑定基準日は平成29年9月1日で,平成11年更新契約の借地期間満了日が平成30年12月31日であり,この間都心部の地価が上昇傾向にあったことに弁論の全趣旨を併せると,地価上昇による限定価格の補正等を勘案して,9641万6400円に約11.16%上乗せした1億0606万円(9541万6400×1.1116=1億0606万4870,1万円未満四捨五入)が本件建物の買取りも含めた立退料として相当な金額である。
・この1億0606万円の中には,本件建物自体の買取価格も含まれているので,被告が建物買取請求権を行使していない現状では,同金額から本件建物の価格を控除した金額により立退料を定めておかないと,将来建物買取請求権が行使された場合に,原告に本件建物の価格に相当する金額の二重負担を強いる不都合が生じるおそれがある。
・本件鑑定書では,借地権付建物の正常価格を算出する過程で用いられた原価法(借地権付建物の積算価格)の試算において,積算価格に占める建物の割合が16.3%とされているので,借地権付建物の正常価格7760万円の16.3%に相当する1265万円(7760万×0.163=1264万8800,1万円未満四捨五入)を本件建物の価格と考えるのが相当である。
・本件の正当事由を補完するに足りる立退料は,借地権付建物の限定価格1億0606万円から,建物買取請求権の行使によって補填されるべき本件建物の価格1265万円を控除した9341万円の限度にとどめるのが相当である。 

2.借家(建物賃貸借)の立退料の裁判例
※東京地裁管内,事業用(事務所・倉庫),月額賃料及び築年数は契約終了時点。

【東京地裁平成24年8月28日判決】
月額賃料57万6219円(税込,共益費込)
築年数16年
立退料1400万円(24.2か月分)
算定方法 借家権価格(算定方式不明)610万円と評価されていること,賃借期間6年,移転に伴い予想される支出や不利益等総合勘案し,「立退料は賃料等の約2年分」と算定。
賃貸人側の必要性 ・原告の再開発計画は,原告自身が本件建物を直接に使用するというものではないが賃貸人の建物使用の必要性に準じるものとして考慮できないわけではない。
・平成6年の建築で,老朽化による建替えの必要性は認められない。
・本件建物全体が他の賃借人の理解により,ほとんどが空室(10室のうち8室が空室)になっている。
賃借人側の必要性 ・期間2年の契約が,更新拒絶の時点で2回更新されたにとどまる。
・被告において,特段,信頼関係を破壊するような背信行為があったとも認められない。
・設備投資の内訳や裏付けが明らかでなく移転した場合使用できなくなるものか不明である。
・紛失等の事故発生のリスクは抽象的であり,事故に備えた保険料や精神的な危惧感に対する補償を立退料の評価において考慮することは可能であるが,正当事由を否定するほどの事情とはいえない。
・被告は本件建物で法律事務所を営む弁護士であるが,弁護士業務に対する信頼は,被告自身の技量等によるところが大きく,本件貸室の周辺環境によるところが大きいとはいえない。
・本件建物の周辺には,他にも相当数の代替物件(事務所用貸室)が存在する。
【東京地裁平成24年11月1日判決】
月額賃料5万6162円(税込,共益費込)
築年数50年以上
立退料311万7300円(55.5か月分)
算定方法 「正当事由の補完としての立退料」として,借家権価格(算定方式不明)372万円×3分の2+通損補償額63万7300円(工作物補償額21万9600円,動産移転補償額6万9900円,移転雑費補償額34万7800円)
賃貸人側の必要性 ・本件建物は,本件賃貸借契約の解約申入れの時点で,竣工後50年以上を経ており,老朽化が相当に進行し,耐震性の点でも危険性を否定することができず,耐震補強を行うには相当の費用がかかるのであって,建て替えることが望ましい。
・原告は,本件建物の敷地を含む周辺土地全体について開発計画を有し,その一環で本件建物を取得し,本件建物の近隣の計画地については取り壊しが進んでいる。
・本件建物についても本件貸室ともう一室を除き空室になっている。
賃借人側の必要性 ・被告は,本件貸室において,22年間の長きに渡りゴルフ場会員権売買等を業とする会社の事務所として使用している。
・本件貸室の所在地は,資金調達に必要な企業が近隣に多く存在し,地の利もよく,被告会社の営業に便利な場所で,被告が本件建物の周辺で営業を行うことによるメリットは大きい。
・本件貸室を利用する必要性は認められるものの,被告会社の営業が本件貸室でなければ行えないというほどの必要性があるとまではいえない。
【東京地裁平成25年9月17日判決】
月額賃料 26万7150円(税別)
築年数 40年
立退料 896万6285円(33.5か月分)
算定方法 本件賃貸借契約は,約30年にわたって継続してきたものであること等に照らし,借家権として一定額を立退料に加算して補償するのが相当であるが,立退料は,借家人の蒙る損失の全てを補償しなければならないものではないとし,借家権価格(控除方式,差額賃料補償方式,割合方式を相互に関連付け)1060万円を採用し,その2分の1(530万円)をもって「加算すべき借家権価格」とした上,これに移転にかかる補償(移転先選定補償30万9300円,就業不能補償21万3000円,工事契約費用1000円,動産移転補償26万8000円,工作物補償63万2000円,家賃差額補償45万2400円,礼金に係る補償29万4000円,移転先賃料補償58万8000円,開店広告費の補償68万円,商業登記費用5万4000円+税)366万6285円を加えた合計額。
賃貸人側の必要性 ・本件建物の属する地域は都市再生緊急整備地域に指定されており,新たに高層ビル建築が予定されている。
・築後40年以上経過し,その維持管理には相当な費用を要することから,今後相当額の費用をかけて本件建物を存続させるのではなく,本件建物を取り壊して周辺土地と一体として有効利用しようという原告の計画には合理性・相当性を認めることができる。
賃借人側の必要性 ・被告は,約30年にわたり本件建物で継続して留学生の出航手続及び介護事業を営んでおり,今後も継続する予定である。
・本件建物の最寄駅と同じ駅から徒歩5分程度で,かつ従前の電話番号を継続使用できる物件を探すことは比較的容易である。
【東京地裁平成27年12月16日判決】
月額賃料 合計28万7700円(同一建物内の5階事務所部分23万5200円+地下1階倉庫部分5万2500円)
築年数 48年
立退料 合計530万円(約18.4か月分)
算定方法 ・本件建物が鉄筋コンクリート造の建物の経済的耐用年数を経過し,「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し,又は崩壊する危険性が高い」耐震上の危険性の高い建物であること,立退料があくまで前記認定の正当事由の補完として支払われるべきものであることに照らせば,本件において,被告の立退きに伴う移転費用や営業補償に加え,立退きにより消滅する借家権そのものの経済的利益としての借家権価格を立退料として補償する必要があるとまではいえない
・1坪当たりの内装工事費用の一般的な目安は10万円(1平方メートル当たり約3万円),簡易な場合は3万円(1平方メートル当たり約1万円),大掛かりな場合は20万円(1平方メートル約6万円)であること,パソコン端末1台当たりのパソコン・電話等移設費用の一般的な目安は2万円,小規模な場合は1万円,大掛かりな場合は5万円であるが,本件貸室及び本件倉庫に備えられたパソコン端末の台数は明らかでないこと,本件貸室及び本件倉庫には造り付けの棚等が多数存在しており,新たに書庫等の什器の不足分を購入するのに60万円を要することが認められるところ,造作工事の内容は移転先の貸室の広さや形状等によって大きく異なることも考慮すると,内装造作工事費補償は,内装工事費用202万4300円(簡易な場合に準じて1平方メートル当たり1万円×賃貸面積202.43平方メートル),不足分の什器購入費用60万円,コピー機・パソコン類移設費用及び電話架設工事等費用として原告の認める計14万円,以上合計276万4300円と認めるのが相当である。
・被告は,動産移転補償210万円(上記金額は,書類溶解・廃棄作業を含む引越費用の見積額195万円に15万円を加算したもの)も主張するが,本件貸室及び本件倉庫からの移転に伴い書類溶解・廃棄作業を要するか否かは必ずしも定かでないこと,上記見積金額の内訳や根拠が明らかでないことからして,これをそのまま立退料算定の基礎とするのは相当でない。
・被告の事務所に勤務している従業員は9名であることが認められるところ,1人当たりの引越費用の一般的な目安は3万円,小規模の場合の目安は2万円,大掛かりな場合の目安は5万円であることが認められるから,動産移転補償は18万円(小規模の場合に準じて1人当たりの単価2万円×従業員数9名)と認めるのが相当である。
・サービス業の平均給与は339万円であることが認められ,また,移転に伴い就業できなくなると見込まれる日数は5日程度と認めるのが相当であるから,就業不可に伴う損失補償は,33万9000円(想定平均年収339万円÷想定就業日数250日×対象従業員数5人×補償日数5日)と認めるのが相当である。
・原告は,礼金,仲介手数料,前家賃,火災保険料の合計117万0800円の支払を申し出ているため,これを移転先取得費用として認めるのが相当である。
・被告は,その他移転雑費に属する封筒印刷代等49万4800円(長3封筒1000枚の印刷代1万4500円及び角2封筒1000枚の印刷代2万4000円を含む),ホームページ変更費用15万円,官公庁等への諸届出変更等費用30万円,以上合計94万円の支払が必要であると主張するが,長3封筒1000枚は5920円,角2封筒1000枚は1万0200円でもそれぞれ印刷可能であることがあることが認められ,被告主張の金額は過大というべきであるから,その他移転雑費は上記94万円の約2分の1に相当する50万円と認めるのが相当である。
・移転に伴い就業できなくなると見込まれる日数は5日程度と認めるのが相当であるから,収益減補償は,36万円(1日当たりの売上高144万円×売上高営業利益率5%×補償日数5日)と認めるのが相当である。
・被告の業務の内容や形態からして,事務所や倉庫の移転が取引先や収入の減少に直結するものとはいえないから,得意先喪失の補償を立退料算定の基礎とするのは相当でない
・原告が被告に対して支払うべき立退料の額は530万円(276万4300円+18万円+33万9000円+117万0800円+50万円+36万円=約530万円)と認めるのが相当である。
賃貸人側の必要性 ・本件建物は,鉄筋1階から3階のX方向のIsが0.3未満であり,建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針(国土交通省告示第184号)の定める安全性の評価のうち「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し,又は崩壊する危険性が高い」に該当する。
・本件建物について耐震補強工事を実施しても,これにより本件建物の機能が増加するものではなく,かえって,鉄骨ブレース等が設置されることにより使用収益が大幅に制限され,その利用価値が著しく低下すること,本件建物の耐震補強工事に要する費用は3億9139万2000円を下らないこと,原告は,本件建物を取り壊して耐震性能を備えた地上12階建ての建物を新築することを計画しているところ,本件建物の所在地である新宿区α×丁目は都市再生特別措置法上の都市再生緊急整備地域に指定され,都市再生の拠点として,都市開発事業等を通じて緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域として政令で定められているとともに,特定都市再生緊急整備地域に指定され,都市開発事業等の円滑かつ迅速な施行を通じて緊急かつ重点的に市街地の整備を推進することが都市の国際競争力の強化を図る上で特に有効な地域として政令で定められており,原告の上記計画はかかる政令の趣旨にも適ったものであることが認められ,これらの事情によれば,原告には,耐震上の危険性の高い本件建物を取り壊してこれを建て替えるため、本件貸室及び本件倉庫を自ら使用することを必要とする事情があると認められる。
賃借人側の必要性 被告は,昭和54年11月以降,本件建物内に事務所を賃借し,これを本店事務所として使用していたこと,その業務内容は,建物のメンテナンス業務及び管工事であり,新宿区からも工事を受注しているため,被告の従業員が毎日のように新宿区役所まで出向いているところ,本件建物は新宿区役所から徒歩での移動が可能な800メートル圏内にあること,本件建物には倉庫や駐車場が併設されており,被告の従業員は,本件倉庫や本件駐車場を使用することにより,同一建物内で倉庫の荷物を車に搬入しているため,その動線が変更された場合,被告の業務に支障を来すおそれがあることが認められ,これらの事情によれば,被告においても,その営業を継続するため,本件建物の使用を必要とする事情があるものの,被告の業務の内容や形態からして,事務所や倉庫の移転が取引先や収入の減少に直結するものとはいえないから,その必要性は被告が主張するほど切実なものとは認められない。
【東京地裁平成28年8月26日判決】
月額賃料 18万9750円(税込)
築年数 46年以上
立退料 500万円(約26.3か月分)
算定方法 ・〔1〕借家権価格につき,控除方式による価格(自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除し,所要の調整を行って価格を求める方式)及び賃料差額方式(評価対象建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料と現在の実際支払賃料との差額の一定期間に相当する額に,賃料の前払的性質を有する一時金の額等を加えた額を求める方式)による価格を試算して検討した上で158万円と,〔2〕営業補償相当額につき,公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱等を準用しつつ,被告の業種及び経営内容等を総合的に考慮して284万円と,それぞれ査定し,立退料相当額を442万円と評価した鑑定が存在することから,これを基準とすることが相当である。
・本件の鑑定の結果が基準とされるべきであるものの,被告が本件建物の使用を必要とする程度も相応に高いと認められるから,本件における相当な立退料の額を定めるに当たっては,この点も勘案されるべきである。
賃貸人側の必要性 ・平成24年9月ころに実施された耐震性に係る調査によっても,震度6ないし7程度の地震が発生した場合に中破又は大破となる可能性が指摘されるなど耐震性に重大な問題を抱える一方で,これに対処する補強工事には5000万円を超える多額の費用を要することが見込まれていたのであり,これを建て替えるという選択肢にも相応の合理性があったと考えられる。
・本件ビルを賃借していたテナントのうち被告以外の者の多くについては退去が見込まれる状態になっていた。
賃借人側の必要性 被告が営業しているのは,公認会計士・税理士事務所であって,顧客から事務を受任して処理する者の信用が重視される業務であり,業務の性質上,事務所の立地によって業績が大きく左右されるとはにわかには想定し難く,物販や飲食店などの店舗等と比較すると,代替物件に移転することが比較的容易な業種であると考えられる。
・被告が賃借している本件建物は,本件ビルの5階に所在しており,本件ビルの前を通行する者も容易にはこれを視認し得ないから,事務所を移転することによる影響は自ずと小さくなることが想定され,被告が他所において営業を継続することに大きな困難は生じないと考えられる。
・被告が公認会計士・税理士事務所の経営を継続するに当たって,本件建物の使用を継続することが必須であるとまでは考え難く,むしろ適当な代替物件を見つけて移転することにつき支障が比較的少ないと考えられる
【東京地裁平成29年2月14日判決】
月額賃料 4万3200円(税込)
築年数 47年以上
立退料 43万2000円(10か月分)
算定方法 ・原告側の使用の必要性が現状においてそれほど高いといえるわけではないが,それ以上に,被告側の使用の必要性が低いといわざるを得ない。
・原告は,本件賃貸借契約の直近の賃料月額の10か月分に相当する43万2000円を立退料として提供する意思がある旨主張しているところ,それぞれの使用の必要性に加え,データのバックアップや書類保管のために代替物件を探すとしても本件建物と同等の立地である必要はないこと,本件建物の面積と所在している物に照らして,引越費用がそれほど高額になるとは考え難いことを併せ考えれば,上記金額の立退料があれば,本件更新拒絶の正当事由を補完するものとしては十分というべきである。
賃貸人側の必要性 ・本件ビルは,築47年以上のもので,昭和56年の建築基準法改正による新耐震基準が施行される前に建築されたものであるところ,平成23年4月26日時点で,X方向では1階から5階,Y方向では1階及び2階におけるIs値(0.4以下の建物の多くが大地震において倒壊又は大破するとされている。)が0.3を下回っている柱があること,その他の状況からも含めた評価として,その時点で構造上特に致命的な損傷はなく,すぐに心配するような状況ではないと思われると評価されている一方,極めてまれに起こる大地震(震度6強から7程度)においては可能性として危険な状況が想定されるとされ,かつ,部分的な補強は建物全体の耐震性バランスを崩すことから勧められないとして,上記程度の大地震に対応するには建て替えが合理的であると評価されている。
・平成24年9月に本件ビルにつき耐震改修工事を行っているとしても,数年のうちに本件ビルを建て替えるべきであることまで否定されるものではない。
・原告が,被告以外のテナントとの契約を順次定期建物賃貸借契約に切り替えていることも,その必要性を認識した上での行動であると考えられ,その意味では,原告において,本件ビルを建て替えることを現実的に想定しているものといえる。
・上記定期建物賃貸借契約において,最も遅く契約が終了するもので,平成31年4月20日である以上,少なくとも,それまでの間に,本件ビルの建て替え工事が開始されるということは考え難い。
・被告が現在でも本件建物を継続使用しているという事情があるとしても,現時点で,新たに建築する建物がどのような規模になるのか,どのように利用するのかなど,具体的な計画があることを認めるに足りる証拠はない
賃借人側の必要性 ・被告は,本件建物を被告の事務所として使用しているが,本件建物の他に,本店所在地に事務所を構え,被告のホームページ上,本店所在地は被告の技術・管理部とされているのに対し,本件建物は経営推進室とされている。
・本件建物には,11平方メートル余りの室内に,契約書や領収書等の書類が保管されるとともに,データ保管用のパソコンが設置され,それ以外に社員が使用できるパソコン2台とこれを使用するための机,丸テーブルとこれを挟むように椅子が2脚設置されている。
・被告は,平成25年8月から平成28年1月までの30か月間で,本件建物に現に入館して使用した日が10日以下である月が21か月,うち5日以下である月が11か月(平成27年10月においては,1日も入室していない。)であること,現実に入館した日の1日当たりの利用時間は10時間を超えることはほとんどなく,1時間に満たない日も相当の日数にのぼること,平成28年2月から同年9月までの間の現に入館して使用した日が同年4月に12日であった以外は,全て10日未満であること,同月においても,1日の利用時間が最短で1時間34分,長くても9時間48分であることが認められる。
・上記のような入室の日数及び時間であることに照らせば,本件建物を利用する必要性は非常に低いというべきである。実際,被告代表者においては,本件建物に入らなくても,ノートパソコンを利用するなどして,不具合なく業務ができている。
【東京地裁令和元年12月6日判決】
月額賃料 20万円
築年数 33年
立退料 500万円(25.0か月分)
算定方法 立退料の額として,原告は500万円を提示しているところ,これは本件賃貸借契約における賃料の25か月分に相当することに加え,原告は,可能な限り移転先候補となり得る物件の提示をしたり,新建物において被告が引き続き賃借する場合の代替案を提示したりするなど,相当程度話合いを試みたものの,被告からの立退料の提案は,被告が倉庫として利用可能な物件への建替費用1億1660万円の半額程度というものであって,被告が他に実現可能な提案や,具体的な営業補償の算定根拠となり得る事情を示すには至っていないことも併せ考慮すれば,原告の提示額による立退料の支払をもって,本件更新拒絶の正当事由が補完されるというべきである。
賃貸人側の必要性 ・本件建物は現在およそ築35年となっていること,そのため,本件建物全体の家賃収益が近隣相場よりも低廉であり,敷地のローン返済金や公租公課,維持管理費用を考慮すると,年間の利益が数十万円程度にとどまり,今後大規模な修繕を行う必要が生じたとしてもその費用を捻出することが困難である。
・原告は,被告から本件建物1階部分の明渡しを受けた場合,他の賃貸人からも明渡しを受けた上で,本件建物を取り壊し,新建物を建築する予定であり,既に建築業者と建築請負契約を締結し,新建物の設計も完了している。
賃借人側の必要性 ・原告が検索した限りにおいても,本件建物に近接した駅である綾瀬駅から半径5km圏内には5件,本エリア内及びその近辺に限定しても3件の貸倉庫物件があり,対象エリアを広げれば更に多数の貸倉庫物件があることが認められる。
・被告は,その関連会社が管理するアパート等の保守・点検を行うことのほか,これらの物件で発生する見回りや電気関係のトラブルに対応することを主な業務としており,本件建物を,業務に使用する資材等を備置する倉庫として使用している。
・被告は,本エリア内の物件については広さが十分でないなどとし,また,本エリア外の物件については移転先候補とはなり得ないとするが,被告の要望を完全に満たす物件を見つけることは容易とまではいえないとしても,移転先を見つけることが不可能ということはできない

3.借家(建物賃貸借)の立退料の裁判例
※東京地裁管内,事業用(店舗),月額賃料及び築年数は契約終了時点。

【東京地裁平成24年1月27日判決】
月額賃料14万6853円
築年数50年弱
立退料4850万円(330.2か月分)
算定方法 借家権価格(収益価格控除方式70%,割合方式10%,賃料差額還元方式20%考慮)3470万円+営業補償相当額1380万円(減収補償25万7000円,得意先喪失補償680万円,固定経費補償112万円,従業員休業補償220万円,移転広告費等180万円,移転雑費34万7000円,動産移転補償30万円,内装設備工事費等100万円)
賃貸人側の必要性 ・本件ビルに耐震補強工事を行う場合,工事関連費用を併せると1億2000万円以上の費用がかかる上,床面積が減少するなど,ビルとしての利用価値が著しく低下する。
・エレベーターもないため上層階は有効利用されていない。
・平方メートル当たりの工事費単価で比較すると,耐震改修の場合約41万円,建替えの場合約62万円となり,建替えを行うと約1.5倍のコストで安全性の高い快適なテナントビルを建設することが可能となるから,費用対効果は明白である。
・他のテナントは全てすでに退去しているか,明渡判決が確定している。
賃借人側の必要性・本件建物で営まれている洋装店は,被告の曾祖父が本件ビルの近くで開業し,被告の祖父がこれを継承して本件建物新築直後から本件店舗で営業を行い,被告の父これを継承し,その後被告がこれを継承したものであり,現在,被告及びその母親と4名のアルバイトがその営業に従事しており(本件店舗での営業は祖父の代から通算50年弱),被告及びその母親の生活の糧となっている。
・至近の建物を本件賃貸借契約と同程度の賃料で新たに借りるのは容易でないとしても,他に移転すること自体は不可能でない。
【東京地裁平成24年4月24日判決】
月額賃料5万円
築年数36年
立退料232万4000円(46.4か月分)
算定方法 移転実費(近隣地域の平均賃料相場に基づく賃料の6か月分)32万4000円+営業補償(移転に伴う合理的な予想される減収分)200万円。なお,借家権価格の補償については,「特に被告に分配される利益はなく採用できない」とした。
賃貸人側の必要性 ・現在,要支援2の認定を受け,子の介護を受けながら生活しており,その病状に照らすと,ホームエレベーターや2階にトイレを設置する必要があるところ,本件建物の状態のまま取り付けることは事実上困難である。
・本件建物は,既に地震や風雨のあるたびに倒壊の危険を強く感じるまでに老朽化し,柱には大きなヒビが入り,天井は抜けており,床には大きな穴が空いている状況で,耐震対策を早急に必要とする(上部構造評点は0.26)。
・本件建物を維持した上での修繕改修は本件建物の全面建て替えよりも高額である。
・コンクリート造りの6階建の共同住宅を計画している。
賃借人側の必要性 ・21年以上,本件店舗においてたこ焼き屋を営業し,月額約30万円の売上を上げている。
・店舗に顧客が飲食できるスペースはなく,下水関係も原告の本件建物の庭で仮設トイレを使用している状態である。
・たこ焼き屋の性質上,近隣で類似の物件が見つけられないとは到底思われない。
【東京地裁平成24年8月27日判決】
月額賃料19万9500円(税別)
築年数50年
立退料769万2486円(38.5か月分)
算定方法 本件賃貸借契約は,原告による解約申入れの時点では約4年間存続していたにすぎないため,被告にいわゆる借家権があるかどうかについては検討すべき点がないわけではないが,本件において借家権の存否が問題となるのは,不随意の立ち退きを迫られる被告に対し,いかなる補償をすべきかという観点から,法的に保護すべき(補償すべき)権利,利益があるかを検討する必要があるからであり,正当事由の存否についての検討に照らせば,被告に対しては,借家権といわれるもののうちの一定額に当たる金員の補償をすべきであるとして,借家権価格(割合方式,差額方式,控除方式を均等に関連付け)549万円とした上,「正当事由の補完としての立退料の金額を検討する場合,借家権価格の全てが必ずしも補償されるものではない」として,そのうち350万円のみ補償額として認定し,これに移転に伴う内装費等244万4571円+動産移転料6万6300円+移転雑費30万1625円+営業休止補償137万9990円を加算して算定。
なお,新規支払賃料との差額や一時金の額を考慮して借家権価格を認定しているため,「このような観点から借家権価格を検討して補償を行う以上,賃料差額についての補償(借家人補償)は,借家権評価に含まれるものとして,別途,補償を要しない」とした。
賃貸人側の必要性 ・原告は,本件建物を取り壊して,その敷地を周辺土地と一体として鉄骨造・一部鉄骨鉄筋コンクリート造の地下1階,地上8階建ての店舗・事務所用ビル(延床面積6,600平方メートル)を建築する再開発計画を有している。
・本件建物の本件貸室を含む2室以外については計画地内の立ち退き及び建物解体が完了している。
・本件建物は,建築から50年以上が経過しており,外見上,東側外壁面のコンクリートに,浮き・剥離が見られるほか,樋等の変形や劣化,建物内外部のひびわれが散見される状態であり,また,コンクリート中性化調査では,調査箇所の80%で中性化深さがコンクリートのかぶり厚さの基準値を超えていて鉄筋がさびやすい環境になっていると推測されている。
・本件建物の耐震性能は,Is値が,X方向(南北方向)正加力(北→南)に対して1階と2階が,同方向負加力(南→北),Y方向(東西方向)正加力(西→東)及び同方向負加力(東→西)に対して1階ないし3階が構造耐震判定指標0.6を下回っており,震度5強以上の地震が発生した場合,本件建物が中破する可能性は高く,場合によっては大破する状況も想定される。
・これを踏まえた耐震補強工事及び保全改修工事の概算費用は,耐震補強について1300万円,保全改修について5600万円ないし5800万円(工期4か月)を要するものであり,耐震補強のみを行うとしても再調達価格の約2割,コンクリートの中性化対策やひび割れ補修など建物の保全に必要な費用を含めれば再調達価格に匹敵する支出が必要となる。
・本件建物がすでに建築後50年を経ていることからしても,建物所有者である原告が,再調達価格に比して高額な負担をして,耐震補強及び保全改修工事を行って,現状の本件建物を維持するのは,競合する物件との競争力の観点からも必ずしも推奨されるものではなく,原告が建替を選択する場合には,当該選択には合理性があるものというべきである。これは,原告が建替目的で本件建物を取得したとしても,また,当該建替えによって周辺土地の再開発の目的が達せられる場合であっても,何らかわるものではない。
賃借人側の必要性 ・被告は,自らの稼働により蓄えた独立資金をもって,約4年間本件貸室で鍼灸マッサージの治療室を経営して生計をたてており,相応の資本投下を行って,年間1000万円を超える売上を計上していることがうかがえ,本件貸室での営業継続の必要性は高い。
・その業態に鑑みると,店舗は必ずしも建物一階の路面店でなければならないものではなく,また,本件貸室周辺への移転であれば顧客離れの懸念等も大きなものではないところ,本件建物周辺は中高層の事務所ビルが建ち並ぶ地域であることからすると,代替物件への移転は可能である。
【東京地裁平成25年4月16日判決】
月額賃料2万6000円
築年数約57年以上
立退料720万円(276.9か月分)
算定方法 借家権価格(割合方式)240万円+営業補償(補償されるべき得べかりし利益の3年分)360万円+引越費用50万円+住居補償等(礼金等の一時金,月額賃料の負担増,住居移転に関する種々の手続等に伴う精神的負担等)70万円
賃貸人側の必要性 ・本件建物は,建築基準法の想定する大地震動での倒壊の可能性が高く,1階の建物長辺方向の耐力壁が少ないこと等から,中規模地震でも倒壊する可能性が強くあるとの指摘もされている。
・本件建物を補修する上では,規模範囲が大きく,新築をする場合とほとんど変わらない費用を要すし,多額の費用をかけて補修をすることを求めることは,補修後の本件建物の耐用年数や投下資金の回収可能性の観点からしても,原告に対して著しく酷な結果をもたらす。
・現状のまま本件店舗等を賃貸し続けた場合に,地震等によって本件建物が倒壊し,被告らの生命・身体又は財産に損害が生じたときには,原告において,その賠償義務を負うこととなる可能性があることを考慮すれば,原告には,被告らに本件店舗等を明け渡してもらうことにより,本件建物を取り壊すなどして,上記結果を回避すべき一定程度の必要性がある。
賃借人側の必要性 ・被告は,本件店舗等において,50年以上にわたって青果小売業を営むとともに,本件店舗等を居住建物として使用している。
・本件建物の近隣地域において,被告が転居して,引き続き青果小売業を営むことができるような賃貸物件を見つけることは,必ずしも容易なことではない。
【東京地裁平成25年6月14日判決】
月額賃料 315万円
築年数 50年以上
立退料 4130万円(13.1か月分)
算定方法 「不随意の立退要求を行う場合の賃貸借当事者間の借家権価格」(算定方式不明)を8260万円とし,「補完的な意味合いの立退料額」として,その半分で算定。
賃貸人側の必要性 ・本件建物の現況としては,その立地が商業地として優れている一方で,敷地の容積率を十分に活かしているとはいえず,原告において敷地の有効利用につながる具体的な建替え計画を策定している。
・本件建物は,建築士の調査により,〔1〕増築後に30年以上が経過し老朽化が進んでいる,〔2〕鉄筋量の不足の問題,建物の重量・剛性のバランスを設計に反映していない問題,木造,鉄骨造及び鉄筋コンクリート造という異種構造建物がエキスパンションジョイントなしに一体化している問題から,震度5弱程度の地震でも接続部分の天井・壁・床が破損脱落するおそれがある,〔3〕震度7程度の地震発生時には建物全体の崩壊ないし屋根天井の脱落が予想される,という指摘がされ,至急耐震補強ないし建物全体の建替えを要する状態であると判断された。
・耐震性能の問題は,耐震補強工事によっても対処が不可能ではないが,本件建物は,元々の施工の質等が劣っている上,老朽化により耐用年数が経過するとともに経年相応以上の劣化を生じており,建物全体に構造的問題も抱え,耐震補強工事には建物の現在価値を遙に上回る費用を要する状態にあるから,耐震補強工事の実施は合理的かつ現実的な問題解決方法とはいいがたく,建替えによる対処を否定すべき理由になりえない。
賃借人側の必要性 ・被告は,10年以上,本件建物をゲームセンター店舗として使用しているが,本件契約を締結した動機は競合他社による賃借開業の阻止にあったのであり,ゲームセンター経営自体は赤字であるから,本来的用法として被告が本件建物を利用する必要性は乏しく,かつ,建物の利用状況の観点からも,本件契約の存続を積極的に保護すべき状況にはない。
【東京地裁平成25年11月14日判決】
月額賃料 33万円(税別)
築年数 65年以上
立退料 3005万円(91.0か月分)
算定方法 借家権価格(割合方式による金額と差額賃料還元方式による金額の中間値)1475万円+建物付属設備・機械・器具・備品合計138万円+新規内装工事費用の10分の1(117万円)+営業補償費1275万円(休業期間の補償371万円+固定的経費補償20万円+従業員休業手当659万円+移転に伴う引越代等225万円)
賃貸人側の必要性 ・経年変化に伴う傷みが激しく,耐震性に乏しい。
・耐震補強工事を行って本件建物を維持していくことが,社会的・経済的にみて合理的であるとは認められない。
賃借人側の必要性 ・被告は本件建物で10年以上飲食店の営業を続けているが,被告の基幹店舗であり,本件店舗が立地条件やたたずまいを利用した営業を行っており,本件建物を利用する必要性は高いが,その営業が本件建物でなければ行えないというほどの必要性があるとは言えない。
【東京地裁平成26年7月1日判決】※複数物件のうち一部抜粋
月額賃料 96万6293円
築年数 41年
立退料 5215万円(53.9か月分)
算定方法 「立退料の額を算定するに当たっては,移転実費のほか,借家権そのものが有する財産的価値(借家権価格)及び営業上の損失に対する補償額を考慮した上,そのうち立退料以外の事情による正当事由の充足度を踏まえた一定額とするのが相当である」とし,借家権価格(割合方式)5430万円,移転実費162万円以上,及び営業損失(内装費用,什器備品の整備,営業再開までの休業損失,営業再開後の顧客の喪失等による損失,従業員の解雇予告手当などの合計)4000万円(「ただし立退料に加算するのは正当事由を補完するのに必要な限度」)と算定した上,借家権価格の2分の1に移転実費と営業損失のうち2500万円を加算した金額で算定。
賃貸人側の必要性 ・本件ビルを取り壊し,道路を挟んで隣接する他の所有ビルと一体として再開発を行う計画を有している
・本件ビル周辺では,集客力のある大型商業施設の開発・再生が続いている。
・本件ビルは相当程度老朽化している。
・本件ビルのテナントの多くが退去しており,空室率は95%となっている。
賃借人側の必要性 ・被告は,本件ビル竣工当初から40年以上,本件店舗を喫茶店として利用しており,長年の営業により固定客が付いている。
・被告の営業内容に鑑みると,十分な金銭的補償がなされれば,適当な代替物件を選定し,店舗を移転することも不可能ではない。
【東京地裁平成26年8月29日判決】
月額賃料 6万5000円
築年数 80年以上
立退料 1000万円(153.8か月分)
算定方法 借家権価格(400万円),移転実費及び営業補償の合計額の一部
賃貸人側の必要性 ・少なくとも築後80年を超える木造建築で,相当程度老朽化が進んでいることが推認される。
・一部の柱が腐食していて構造的にも耐震性能に乏しい状態にある。
・本件店舗の賃料は近隣相場と比較してかなり低額であり,本件建物のうち空室部分を今後新たに賃貸することも相当困難であり,原告は,本件建物につき経済的に有利な利用ができていない状態である。
・本件建物を取り壊し新たな建物を建てるなど敷地の有効利用を計画しており,解約申入れ当時から一定程度具体性を帯びている。
賃借人側の必要性 ・被告は,本件店舗で理髪店を経営しているが,代替店舗において営業を行うことができないとは認められない。
・本件店舗の賃料がかなり低額であり,被告はこれまで相当長期間にわたり多くの収益を上げてきたことが窺われ,本件店舗から立ち退くことが直ちに生活を窮することに繋がるというべき事情はない。
【東京地裁平成26年10月8日判決】
月額賃料 52万0640円(税別)
築年数 40年
立退料 3760万円(72.2か月分)
算定方法 借家人が不随意に立ち退く事案においては,借家権割合方式による借家権価格(3500万円)ではなく,公共用地の取得に伴う損失補償基準に従った移転補償額(3720万円)をもって「借家権価格」とした鑑定評価につき「基本的な考え方自体は妥当」と認定。
ただ,そこには動産移転費用が200万円しか見積もられていないが,実際に新たな場所で歯科医院を開設する場合の診療機器等の購入費用4000万円を下ることはないとして,移転補償額を基準にした「借家権価格」を(3720万円+4000万円-200万円)=7520万円とした上,「以上の借家権の評価は原告に正当事由が一切存在しない場合において賃借人に対し本件建物からの立退きを求める場合の移転補償額を算定したものである」のに対し,立退料は「一定程度は認められる正当事由を補完する性質のものである」から,その全額を立退料として認めることはできないとして,立退料を7520万円×50%で算定。
賃貸人側の必要性 ・本件貸室のあるビルは新宿駅西口に近接する交通至便の場所にあり,その敷地は特定都市再生緊急整備地域内にあり,原告は,本件ビルを取り壊して新たに原告の店舗の入るビルの建築を計画している。
・本件ビルの賃貸区画の空室率は90%を超えているのに対し,本件貸室(3階の一部)の本件ビルの総床面積に占める割合は0.28%に過ぎない。
賃借人側の必要性 ・被告は,本件貸室において歯科医院を経営し,被告の所得の大半を占めている。
・新宿駅から至近の距離にある本件建物から立退き,新たに歯科医院を開設する場合,患者を失うおそれがある。
・現在使用している診療機械の中には,移転困難なものもあり,新たな診療機械の購入設置費用等が発生する。
【東京地裁平成27年1月30日判決】
月額賃料 72万7000円(税別)
築年数 20年
立退料 2376万円(32.6か月分)
算定方法 「不随意の立退きに伴う立退料については,借家権価格と通損補償額の合計額とみるのが相当」として,借家権価格(差額方式と控除方式を総合的に判断)108万円+通損補償(営業補償,工作物補償,動産移転補償及び移転雑費補償の合計)2268万円で算定し,「月額賃料である72万7000円の33か月分に相当するものであって,この点からも立退料として合理的な範囲のものと認められる」と判示。
なお,「公共事業における損失補償において採用される方法」(=用対連基準)については,「資本的利用形態に係る借家権の立退料の算定において有効な方法と認められるものであって,本件において,上記基準に基づいて算出した営業補償を踏まえて立退料を算出することが不合理とはいえない」とした。
賃貸人側の必要性 ・渋谷駅周辺は,都市再生緊急整備地域に指定されている。
・本件再開発計画は,地域社会の発展に大きく貢献する計画として地域社会の支持を得ているだけでなく,国家的にも都市再生緊急整備地域における新たなまちづくりの必要性に応えるという重要な意義を有する。
・本件建物を残した場合,歩行者動線の確保等の観点から再開発計画に重大な影響を生じさせる。
・本件建物の被告以外の賃借人は全て退去している。
賃借人側の必要性 ・本件建物において20年間,成人向けDVD等の買取・販売を行っている。
・半径200メートル圏内に競合店舗が存在しない等上記営業に資する立地条件である。
・本件店舗以外にも営業を営んでおり,本件店舗の売上は被告の売上全体の1割にも満たない。
【東京地裁平成27年3月6日判決】
月額賃料 260万7000円(税別)
築年数 56年以上
立退料 1億3000万円(49.8か月分)
算定方法 「借家権につき通常の市場における取引慣行はなく,そもそも比準価格の算定は困難である」などとして借家権割合方式による借家権価格(1億3800万円)を採用し,「これに加え」,移転期間中の営業休止補償,内装造作設備廃棄費用,「正当の事由の充足の程度」等を考慮。
賃貸人側の必要性 ・壁面に亀裂が生じたり,構造物が一部傾斜したり,壁面タイルが一部剥落してネットカバーの設置を余儀なくされたり,設備についても経年劣化が進行している(但し,耐震診断は行われていない)。
・本件建物を含むビル及び隣接ビル全体の36.52%を占める映画館や37.03%を占めるボウリング場は閉館している(他方,被告店舗は3.84%に過ぎない)。
・明渡の合意が成立していないテナントは被告のみである。
・本件建物を含むビル及び隣接ビルを解体して一体として再開発予定である(但し,具体的な利用計画は明らかにしていない)。
賃借人側の必要性 ・本件建物において14年間「笑笑」の屋号で居酒屋チェーンを経営していた。
・被告は2000店舗以上のチェーン店を展開する大手事業者で,近接ビルでさらなる居酒屋チェーン店の展開も計画しており,本件店舗の移転先の確保が困難とまではいえない。
【東京地裁平成30年8月28日判決】
月額賃料195万5000円(税別・共益費込)
築年数約49年
立退料2億円(102.3か月分)
算定方法 ・立退料の算定要素のうち借家権価格相当分については,賃貸借契約の終了により喪失することになるのであるから,終了時を基準とすべきである。
・営業補償等の損失分については,実際に明け渡す際に現実化するものであり,その調整の趣旨を有するものではあるが,解約申入れに正当事由が具備されてから6か月が経過した時点で賃貸借契約終了の効力が生じ,賃借人としては,その時点で立退料の支払を受けるのと引換えに明渡義務を負うことになることからすると,少なくとも,その効力が生じる前に立退料の提供がされている場合には,終了時を基準として算定すべきである。
・原告は,耐震強度不足等を認識しつつ本件建物を購入しており,その際に,その点も購入価格において考慮済みであるか考慮することができたこと,耐震改修工事費用等は賃貸人において負担すべき性質であること,他方,被告には本件賃貸借契約上の義務に違反したなど正当化事由を基礎付ける積極的事情は見当たらないこと等の諸事情からすると,被告の経済的損失は,できる限り補填されるべきであり,本件賃貸借契約の終了により喪失することになる借家権価格相当分と,本件建物部分の明渡しに伴い生ずる営業補償等の損失補償分とを合算して,立退料を算定するのが相当である。
・本件鑑定の結果によれば,適正立退料として,借家権価格(対価補償)を1億1900万円と,営業補償等の補償額を7785万6013円と査定され,1億9700万円と算定されている。
・被告は,近隣地域において本件店舗と同等の代替店舗を確保することが困難であることが推察され,この点は,正当事由の有無に際して重視すべき事情ということはできないものの,経済的損失として考慮されるべき事情であるから,立退料の算定に際しては,これを斟酌することが相当であるが,本件鑑定の営業補償等の補償額の査定において,この点が,充分に考慮されているとまではいえないから,この点は修正することが相当である。
賃貸人側の必要性 ・耐震強度が不足し,大規模な地震により倒壊又は崩壊の危険性が高いと判定されている。
・耐震診断報告書や定期調査報告書において,老朽化によると考えられる鉄筋錆,爆裂破壊,構造クラック,外壁コンクリート部分や煙突部分の劣化等が指摘され,モルタル片が落下する等の事故も発生している。
・耐震強度不足については,耐震改修工事により対処することが可能であるものの,その費用として2億3000万円を要するとされており,上記のとおり老朽化による破損事故等が生じ,その対策工事費用として2000万円余を要していることからすると,本件建物を補修して維持していくことは経済的合理性に乏しく,建替えの必要性が相当程度に高い
・原告の使用の必要性については,本件建物を取り壊し,同敷地及び隣接地と併せて,ビジネスホテルを建築するというものであり,本件建物の状況を前提とすると,使用の必要性は認められるものの,原告は,その状況を認識した上で,あえて本件建物を取得したことからすると,さほど重視することはできず,被告の使用の必要性に比べると,その程度は低い。
賃借人側の必要性 ・本件建物において,「白木屋」の名称で飲食店を営んでいる
・近隣地域においては供給が少なく,同等の代替店舗の確保が困難であることは推察されるが,条件を緩和することによっても代替店舗の確保が困難であることを認めるに足りる証拠はなく,被告の企業規模(国内外に2167店舗を有し,全体の売上高は約1454億8700万円,営業利益は約25億8600万円)にも照らすと,この点は,経済的損失の域を出るものではなく,正当事由の有無に際して,重視すべき事情ということはできない。
【東京地裁令和4年6月27日判決】
月額賃料 55万8000円(税別,共益費込)
築年数 約59年
立退料 2043万3000円(36.6か月分)
算定方法 借家人補償額は、本件ビルの近傍類似の賃貸事例による標準家賃月額を1か月76万8600円、敷金、礼金等の一時金及び標準家賃と現行家賃との差額2年分の合計額を623万5000円。
動産移転料(引越し費用)76万8000円、移転雑費106万8000円及び工作物補償額367万8000円。
営業休止補償868万4000円については、被告の確定申告書等が入手できなかったため、美容業の全企業平均の損益計算書に基づいて、売上高を7729万1000円とするなどして算定。
本件契約の直近の更新による期間は、令和3年2月21日までであり、その後も、原告は、1年以上にわたり本件物件を使用し,社会通念に照らして、移転の準備に備える期間は、これまでに十分あったといえることなどから、上記営業休止補償の額は相当なものと認められる。
算定した立退料は、「総額でみても、合計2043万3000円と高額なものであり、本件物件の賃料46万5000円及び共益費9万3000円の合計55万8000円の3年分にもなるから、移転のための資金を補填するものとして、適正」と判示。
賃貸人側の必要性 ・本件ビルは、新築後約59年が経過した老朽化建物であり、新築時の物理的耐用年数は69年であったものの、部分的には残存物理的耐用年数が0年となっている。
・本件ビルの1から6階まで及び8階は、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し又は崩壊する危険性があり、特に、本件建物の最上階である8階のIs値は、0.244と著しく低いから、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し又は崩壊する危険性が高い
・最上階である8階部分が崩壊すれば、その下の階にも大きな影響があり,大地震時に重大な被害を受ける可能性がある。
・本件ビルの耐震補強工事の費用は、それ自体で合計3259万3000円(消費税込み)と高額なものである上、耐震補強工事により、本件ビルの1階について、最も広い出入り口部分にブレースが配置され、店舗としての機能を果たせなくなる等の問題があり、本件ビルの耐震補強工事を行うのは容易なことではない。
・令和3年から令和8年までの5年間に要する本件ビルの中長期修繕更新費用は、合計6664万6000円と高額なものである。
原告は、具体的な建替え計画を有しており、被告以外の賃借人とは、期間令和5年5月27日を超えない定期賃貸借契約を締結するなどして、建替えの準備を進めている。
・多額の費用をかけて本件ビルを維持したとしても、物理的耐用年数が残り約10年以下であり、部分的には物理的耐用年数を経過していることからすれば、遅くとも約10年後には、改めて本件ビルの建替えを検討せざるを得なくなる。
・これらのことからすれば、本件ビルの耐震補強工事等に費用をかけることは経済的合理性を欠いており、現時点において、これらの費用をかけずに本件ビルを建て替える方が、経済的にみて、はるかに合理的である。
賃借人側の必要性 ・被告は、銀座店(本件物件)で、痩身・美顔・エイジングケア・美容整体等の店舗を営業しているところ、他にも、渋谷店及び表参道店でも営業しているが,被告の売上げや営業において、銀座店(本件物件)がどの程度の重要性を有するのか明らかではない。
・本件物件の近隣には、本件物件と同等の物件が多数あると認められるから、移転のために必要な補償をすれば、被告の経済上の不利益を填補することは十分に可能である。
【東京地裁令和4年8月3日判決】
月額賃料 30万円(税込)
築年数 約70年
立退料 2037万5000円(67.9か月分)
算定方法 立退料としては、借家権価格と移転に伴う損失補償の支払がされるべきである。
本件建物に係る借家権の限定価格は1200万円とされるところ、正当事由補完の観点からは、その3分の2である800万円を立退料算定の基礎とする。
損失補償については、周囲の賃借事例の比較から、移転時の家賃差額は発生しないものと解されるため、家賃差額補償、一時金補償は考慮する必要がなく、工作物補償及び営業補償については訴訟前の原告の提示額である970万円と400万円をもって相当な額として認め、移転雑費については仲介手数料、移転通知費、就業不能補償として賃料の2.25か月分の67万5000円を認め、営業補償については、被告の売上高は約2000万円であることから、利益率を10%として2年間の補償分として400万円を認める。
工作物補償及び移転雑費についてはそのまま立退料算定の基礎とし(合計1037万5000円)、営業補償についてはその2分の1である200万円を立退料算定の基礎とする。
その結果、正当事由を補完する立退料として相当な金額は、2037万5000円(=800万円+1037万5000円+200万円)となる。
賃貸人側の必要性 ・本件建物は既に建築後約70年を経過している木造建築であり、大規模修繕が行われた形跡はないなど、経年劣化に対する修繕はもとより、耐震補強等が十分にされていることをうかがわせる事情はないから、少なくとも築年数に応じた老朽化がみられる。
・そのような本件建物の状況に照らすと、修繕や耐震補強のために一定の費用をかけて工事を行ったとしても、その効用が相当な水準に回復するとはいい難く、本件建物の近隣地域が中高層の店舗事務所ビル等が建ち並ぶ商業地域であることからしても、修繕等の工事を行うよりも建て替えにより中高層のビルを建築する方が効率的な不動産の利用ができる状況にある。
・原告は、令和2年以降、本件建物の敷地や本件隣接地を併せて開発を行うことを企図して、これらの土地や土地上の建物を買受けてきたものであり、本件建物ないしはこれを建て替えた建物を自己利用する切実な必要性があるわけではなく、投下した資本の回収ができればよい
賃借人側の必要性 ・被告は、本件建物において生業である飲食店を経営しており、本件建物を利用する必要性は相当に高度なものであるといえるが、他方で、本件建物の近隣地域は、中高層の店舗事務所ビル等が建ち並ぶ中に、ごく一部に低層の店舗等もみられる商業地域であり、飲食店という業態に照らして常連客の存在が重要であって代替物件を比較的近傍で探すことになるとしても、相応に代替物件が存在し得る地域である。
【東京地裁令和4年10月28日判決】
月額賃料 20万7000円(共益費込,税別)
築年数 59年
立退料 3058万円(約147か月分)
算定方法 本件貸室の借家権価格を939万円、本件居酒屋の損失補償基準に基づく損失補償額を2550万円(家賃補償が201万8000円、営業補償が2039万円、居酒屋の設備機器が317万円であり、これらの合計を端数調整した額)とそれぞれ評価し、借家権価格については現実の市場性は少ない反面、損失補償基準は借家人が移転する場合の費用負担に重点を置いたものであるため、損失補償額を採用すべきであるとして、損失補償額である2550万円を採用した上で、原告が本件土地に加えて北側隣地を所有していることからすると、本件土地と北側隣地を併合して利用することが見込まれ、その場合には建て替え後の建築物の容積率が増加することなどから、併合による増分価格508万円を加算すべきとし,2550万円と508万円の合計3058万円と評価した鑑定結果を採用。
賃貸人側の必要性 ・本件建物は、その外観をみても、多数の外壁のクラック等が生じているなど老朽化が相当程度進行している。
・本件建物は、耐震性の観点でも、現在の耐震基準を満たしておらず、震度6強以上の短周期成分を含む直下型地震の場合には、本件建物の使用の継続が不可能になるとされ、相応の危険性があることが認められる。
・本件建物の5階の増築は、建築確認申請がされておらず、建築基準法に違反するものである上、本件建物の新築時及び増築時の図面は存在しないことからすると、本件建物について、耐震性を向上するために耐震補強工事を施工するとしても、本件建物の現在の図面の作成等を含めた各種の準備を経た上で、必要な耐震補強工事を施工する必要があるといえ、そのためには相当程度高額の費用を要することが容易に想定される。
・原告は、本件建物を建て替えることを予定し、賃借人との立退きに関する交渉をしたことにより、本件建物の貸室の大半は空室となっている。
賃借人側の必要性 ・被告は、父であるCが本件居酒屋を営業していた時期を含めると、昭和48年頃から本件貸室において本件居酒屋を経営しており、本件居酒屋には、背後地の官公庁街やオフィス街に勤務する相当数の顧客、常連等が存在することが認められる。
・本件居酒屋は、その性質上、本件貸室でなければ営業することが困難な代替性の乏しい特殊な居酒屋であるとまでは認め難いから、本件貸室でなければ営業を継続することが困難であるとまでは認められない。
【東京地裁令和年月日判決】※随時更新中
月額賃料
築年数
立退料 か月分
算定方法
賃貸人側の必要性
賃借人側の必要性

 結論

以上より,借地(土地賃貸借)の場合は,借地権価格を前提に様々な事情が総合的に考慮されますので,「月額賃料の何か月分」というような相場感を示すことは困難でありほぼ無意味です。

借家(建物賃貸借)の場合も,とりわけ事業用物件の場合は,借家権価格に加え,当該事業にかかる営業補償等が総合的に考慮されますので,ケースバイケースであり,一概に「月額賃料の何か月分」というような相場感を示すことは困難です。

なお,一般的には,居住用物件の場合は,営業補償等を考慮する必要がないため,事業用物件よりも立退料は相当低額になる傾向にあります。

また,事業用物件でも,事務所・倉庫は,看板・内装・造作工事費用がそれ程かからない点で,店舗よりも立退料は低額になる傾向にあります。

もっとも,借家(建物賃貸借)の場合は,借地の場合に比べると,事業用物件であっても,「月額賃料の何か月分に相当するか」という点も立退料の金額の合理性を判断する際に事実上一定の考慮要素となり得ます(前掲【東京地裁平成27年1月30日判決】【東京地裁令和元年12月6日判決】【東京地裁令和4年6月27日判決】参照)。

そこで,敢えて借家(建物賃貸借)における上記裁判例(事業用物件)の立退料の平均値を示すと,事務所・倉庫家賃27.5か月分程度,店舗家賃100.8か月分程度となっています。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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