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不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
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債務不履行解除の可否
*本項は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
【事例】債務不履行解除の可否
賃貸借契約書に「賃借人は法令を遵守し,違法な方法による営業を行ってはならない」との条項(法令遵守規定)があった場合に,これに違反したこと(債務不履行)を理由に契約解除することの可否。

【解説】多湖・岩田・田村法律事務所/平成29年9月改訂版
【1】賃貸借契約書に限らず,一般的な契約書では,上記【事例】のようないわゆる「法令遵守規定」が設けられていることが多いと思います。
それでは,例えば,原則深夜0時以降営業してはならないとされている麻雀店(平成27年6月24日改正後の風俗営業法2条1項4号,13条1項。但し,同法13条1項但書2号,東京都風営法施行条例4条の2第2項,4条の3第2号,同施行規則6条2項等により,一定の地域では午前1時以降)を営む賃借人が,深夜0時以降も営業を継続していた場合,法令遵守規定違反を理由に,賃貸人は賃貸借契約を解除して賃借人を追い出すことができるのでしょうか?
【2】そもそも,一般に債務不履行に基づく解除については,【最高裁昭和36年11月21日判決】で「法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は,契約の要素をなす債務の履行がないために,当該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり,当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には,特段の事情の存しない限り,相手方は当該契約を解除することができない」と解されており(同趣旨のものとして【最高裁昭和43年2月23日判決】等),賃貸借契約に限らず,一旦締結した契約を解除するには,それなりにハードルが高いということがいえます。

そして,とりわけ賃貸借契約は,1回限りで契約関係が終了する売買契約と違い,契約関係が一定期間継続する性質を有するため,契約違反(債務不履行)を理由に契約解除するには,「契約に違反したこと」だけでなく,さらに「(その契約違反により)契約当事者間の信頼関係が破壊される程度に至ったこと」が判例上要件とされています(借家につき【最高裁昭和39年7月28日判決】等,借地につき【最高裁昭和41年4月21日判決】【最高裁昭和43年6月21日判決】等)。

例えば,賃料は,1か月でも滞納すれば「契約に違反したこと」にはなりますが,借家については3〜4か月分(4か月の滞納で無催告解除特約に基づく解除を認めたものとして【最高裁昭和43年11月21日判決】),借地については6か月〜1年分程度を滞納した場合には(他に特段の事情がなければ)信頼関係が破壊されたものとして解除権行使を認めるのが「一般的な裁判実務」であるとも言われています(青林書院『実務解説借地借家法』282頁)。
【3】それでは,風俗営業法に違反して深夜0時以降も営業してしまったという場合はどうでしょうか?

この点,「信頼関係が破壊される程度に至った」か否かは,(1)契約締結に至る経緯,(2)契約期間中の当事者の態度,(3)契約違反の態様等を「総合判断」して決せられますので,必ずしも一概には言えませんが,単に営業時間の規制に違反したという一点のみでは,契約違反(法令遵守規定違反)ではあるものの,それにより「当事者間の信頼関係が破壊される程度に至った」とまでは言えず,契約違反(債務不履行)を理由とする賃貸借契約の解除は認められないと言って良いでしょう。
【4】 【東京地裁昭和55年5月29日判決】でも,「営業時間の規制を遵守しないことの点は,接客業として立場上あまり客に強いことを言えないとの事情があることや,右規制時間が必ずしも遵守されていないのが業界一般の例であることが窺われることからすると,一概に被告のみを責められないところがあり,右各誓約条項違背をもって,直ちに本件賃貸借契約の解除理由となすことには躊躇せざるを得ない。原告においては,他の賃借人に比し被告の行為に対しては,些事をも見逃さず,やや過敏とも思われる反応を示しているふしが窺われるが,一般の事務室とマージャン屋の店舗ではその使用方法に自ら差異の生ずることは避けられないところであり,不詳不詳とはいえ,本件貸室を一旦マージャン屋営業店舗として使用することを許諾した以上は,事務室として利用する場合と全く同様の使用方法を期待し,その間に多少とも差異がある毎に,これを取り立てて問題とするのは当を得ないものといわざるを得ない。かかる観点からみるとき,営業規制時間を遵守しないこと等,被告の従来の使用方法には,接客業としての特殊性を考慮してもなおかなり反省を要すべき点の存することは上述したとおりであるが,以上の判示の諸点を総合判断しても,未だ本件賃貸借の解除を是認し得るほどの信頼関係の破壊があるものとは認めがたい」として,契約解除を認めませんでした。
【5】また,【東京地裁平成28年5月23日判決】でも,中華料理店を経営している賃借人が,(1)公道上に,当該公道の一部(本件1階部分前の歩道の幅の4分の1程度)をふさぐ形で看板を設置し,国道事務所から道路法等に違反する旨の指導を受けた賃貸人が,賃借人に数度にわたり看板の撤去を求めたものの,賃借人は,指摘を受ける都度,看板を敷地内に移動させるなどの対応を採っているものの,数週間で元の位置に戻しており,現在においても看板の設置を継続し,さらに,(2)共用部分(階段の踊り場部分等)に通路をふさぐ形で造作・動産類を設置するなどしていた(すでに撤去されている)という事案で,いずれも賃貸人が承諾をしていたとは考えられないとしたうえ,(1)看板設置行為につき,「公道上における看板の設置行為は違法」であり,「関連法規又は公序良俗に違背する行為」に当たるとし,(2)造作・動産類の設置行為につき,「本件賃貸借契約書に違反するものと認められる」としつつ,(1)看板設置行為につき,賃借人が短期間ではあるものの,指摘を受けた都度看板を敷地内に移動させるなどの対応を行っていること,ここ数年は賃貸人が看板の撤去等を求めたことをうかがわせる証拠がないこと等からすれば,看板設置行為により,「信頼関係が破壊されたとまで認めることはできない」とし,(2)造作動産類の設置行為につき,「本件建物4階の共用部分に設置していた造作・動産類を既に撤去していることや,ここ数年は賃貸人が当該造作・動産類の撤去を求めたことをうかがわせる証拠がないこと,当該造作・動産類の設置の態様等に照らせば,信頼関係を破壊するものであるとまでいうことはできない」として,「賃借人に関連法規又は公序良俗に違背する行為があったときや,賃借人が契約条項等に違反し,契約時の信頼関係を失ったときは,賃貸人は,催告を要せず契約を解除できる」という契約条項に基づく解除(≒債務不履行解除)を認めませんでした。
【6】また,【東京地裁平成29年1月24日判決】も,賃借人が造作・設備の現状を変更する工事を行う際には賃貸人の事前の承諾を得なければならないとの条項が定められていたケースで,「ガスエアコンの撤去及び設置は現状を変更する工事を行う際に賃貸人の事前の承諾を得る義務に違反する」としながら,「上記工事は,それまで使用していたエアコンと同一の形状の機器への交換であること」等を理由に「義務違反の程度が重大であったとはいえない」から「信頼関係を破壊するほどの重大な義務違反を犯したとは評価できない」として契約解除を認めませんでした。
【結論】
以上より,頭書事例では,違反の程度が社会通念上軽微で,公序良俗に著しく反するとはいえず,実際に賃貸人に対し損害を生じさせているわけでもないということであれば,信頼関係が破壊される程度に至っているとは言えず,契約解除は認められないと解されます。
【改正民法】2020年4月1日施行
541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。ただし,その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは,この限りでない。
多湖・岩田・田村法律事務所コメント
これまでも,上記判例等により,軽微な債務不履行(契約違反)に過ぎない場合には,契約解除は認められていませんでしたが,今回の改正により,「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除が認められない旨明記されました。
なお,今回の改正では,「契約の目的」を達成できるとしても,契約違反の程度が「軽微」といえない場合には契約解除が可能とされているため,「契約の目的を達成できる=軽微⇒契約解除できない」と単純に考えることはできません(法制審議会部会資料79-3-13頁)。


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