・News Access English

不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
電話03-3265-9601
info@tago-law.com 
借地借家法

借地の要件

借家の要件

社宅契約との区別

使用貸借契約との区別

業務委託契約との区別

敷金返還義務

中途解約違約金

賃貸人からの中途解約

転貸借(サブリース)

無断転貸と解除制限

賃料増減額請求

法定更新拒絶の正当事由

裁判例にみる立退料の相場と算定方法

法定更新時の更新料

原状回復義務

修繕義務

連帯保証人の責任

残置物処分の適否

明渡義務の完了時期

明渡遅延違約金

債務不履行解除の可否

賃貸人の地位の移転

宅建業法

区分所有法

社宅契約との区別全画面 

更新:2020年11月10日 
 事例

社宅契約における「従業員でなくなった場合には社宅の使用権限を失い2週間以内に退去しなければならない」との条項の有効性。

 解説

1.借地借家法とは
借地借家法は,それまで借地に関する借地法(大正10年4月8日法律第49号)と借家に関する借家法(大正10年4月8日法律第50号)とで別々の法律であったものを合体する形で,平成4年8月1日に施行されました。

旧借地法及び旧借家法の多くの条文は借地借家法に引き継がれていますが,特に借地に関しては,現在の借地借家法と異なる部分もいくつかあります(例えば,旧借地法では,堅固な建物と非堅固な建物とで借地権の存続期間が異なり,また,建物朽廃による借地権消滅制度がありました)。

借地借家法が平成4年8月1日施行される前に締結された賃貸借契約に関しては,更新後も原則として借地借家法ではなく,旧借地法あるいは旧借家法が適用されます。

そのため,特に借地に関しては,契約期間が長期に及び,令和になった現在でも多くのケースで旧借地法が適用される場面がありますので,当該借地契約の最初の締結日に注意する必要があります。

2.借地借家法の特徴
借地借家法は,ひと言でいえば「借主を保護する法律」といえます。

例えば,期間の定めのない建物賃貸借契約の場合,貸主からの解約予告は民法では3か月前に行なうこととされていますが(民法617条1項2号,旧民法も同じ),借地借家法では6か月前にしなければならないとか(借地借家法27条1項),正当事由がなければ解約を主張できないなど(借地借家法28条),借主にとって非常に有利な条文が設けられています。

逆にいえば,貸主は,一旦貸してしまうと,しばしば,これを返してもらうのに苦労するわけです(この点については正当事由と立退料参照)。

借地借家法は,賃貸借契約に適用される法律ですので,雇用契約,使用貸借契約(無償貸与契約),業務委託契約などには,適用されません。

そこで,当該契約が「賃貸借契約」なのか否かが問題となることがあります。

3.社宅契約の法的性質
頭書事例は,雇用契約の一体として,会社がマンションを社宅として各従業員に貸すという社宅契約ですが,これに借地借家法の適用があるならば,解雇等で職員の身分を失った場合でも,当該従業員を退去させる場合には6か月前の解約予告(借地借家法27条1項)や正当事由(借地借家法28条)が必要となります。

この点については,以下のような裁判例があります。

【最高裁昭和30年5月13日判決】
「一般の家賃とは比較にならないいわゆる維持費にも足らない程度の低廉なものであつて,家屋使用の対価たる賃料と目し得るほどのものではないことが認められる。右認定の事実関係に徴すると,本件社宅の使用関係は通常の賃貸借関係とは異り,会社の従業員たることを前提とする特別の関係であつて,その関係は社宅使用者が会社の従業員たる身分を失えば当然終了するものと解するを相当とする」とした原審(【仙台高裁昭和28年6月10日判決】)の結論を維持。

【最高裁昭和31年11月16日判決】
世間並みの家賃相当額を使用料として支払っている等の事情から,賃貸借契約であるとして,「解雇されたときは雇傭契約終了のときから三ケ月後に,当然明渡をなす」との特約を借家法6条(借地借家法30条)により無効とした原審(【東京高裁昭和29年10月30日判決】)の結論を維持。

【千葉地裁平成3年12月19日判決】
宿舎及び寮への居住の指定を受けた者が支払う所定の使用料金を一般人が右宿舎及び寮と同一の立地条件にある同一の構造、規模、設備等で同一の程度の建物を賃借する場合における賃料と対比すると、右使用料金は右賃料の数分の一であることを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右の事実によれば、被告らが支払う本件各宿舎の使用料金は、本件各宿舎の使用・収益の対価である賃料ではなく、公共企業体である国鉄の職員等及び主としてその収入により生計を維持する者として国鉄が所有しかつ管理する厚生施設を利用する料金に過ぎないというべきであるから、被告らが本件各宿舎を利用する法律関係をもって賃貸借とすることはできない
<中略>
被告らは、本件各宿舎について公舎基準規程の規律を受ける特殊な法律関係に基づく利用権を取得したというべきである。

【東京地裁平成28年2月9日判決】
本件各建物の賃料相当額は本件建物1につき月額9万1000円,本件建物2につき月額30万5559円であったところ,被告らはそれぞれ寮費として月額5万円を支払っていたにすぎないことからすると,いずれの建物についても,対価的な均衡を欠くものであって,賃貸借契約を締結していたということはできず,上記関係は,原告における従業員としての身分を前提とした使用貸借契約であったというべきである。

 結論

以上より,頭書事例の場合,社宅の賃料が近隣相場の数分の1であれば,賃貸借契約とはいえず借地借家法は適用されない可能性が高く,事前に社宅基準規程や雇用契約書等で「職員でなくなった場合には社宅の使用権限を失い2週間以内に退去しなければならない」等と定めておけば,退職した従業員を早期にマンションから退去させることが可能であると思われます。

 実務上の注意点

4.明渡訴訟の併合提起
過去に,多湖・岩田・田村法律事務所でも,顧問先の従業員(期間雇用)が期間満了後も契約更新を主張して毎月の給与を請求し,さらに社宅(無償貸与)にも居座り続けたというケースで,雇用契約終了確認請求訴訟を提起する際,念のため社宅明渡請求併合して訴訟提起したことがあります。

この事件では,こちら側が勝訴しましたが,案の定,判決後も従業員は社宅を明け渡さなかったため,やむを得ず建物明渡強制執行を断行しました。

もし,明渡請求を併合して訴訟提起していなければ,雇用契約に関する争いが決着したあと,さらに社宅明渡請求のためもう一度訴訟を提起しなければならなくなり,時間も労力も無駄に費やすところでした。

社宅住まいの従業員と退職や解雇云々で揉めているときは,念のため社宅明渡請求訴訟についても検討しておくべきでしょう。

 補足

5.通常の賃貸料とは
会社が,従業員個人と社宅契約を締結する場合,「通常の賃貸料の額(月額)」と当該従業員が負担する社宅費用との差額部分が「経済的利益」として課税対象とされますが,ここでいう「通常の賃貸料の額(月額)」は,

当該年度の家屋の固定資産税の課税標準額(いわゆる固定資産税評価額)×0.2%+12円×家屋の総床面積÷3.3㎡+当該年度の敷地の固定資産税の課税標準額(土地の場合は固定資産税評価額と必ずしも一致しません)×0.22%

で算出します(所得税基本通達36-41,36-45)。

従って,例えば家屋の課税標準額が1200万円,敷地の課税標準額が2000万円,家屋の床面積が50㎡の場合,

1200万円×0.2%+12円×50÷3.3㎡+2000万円×0.22%=6万8181円(通常の賃貸料の月額)

ということになります。

もちろん,この「通常の賃貸料」は借地借家法の適否には法的に直接には影響しませんので,「通常の賃貸料」を下回るからと言って当然に社宅契約になる(借地借家法が適用されなくなる)わけではありません。

6.相当の地代とは
また,借地についても,権利金の認定課税(法人が借地権の設定により他人に土地を使用させる場合、通常、権利金を収受する慣行があるにもかかわらず権利金を収受しないとき)が免除される基準として,「権利金の収受に代えて相当の地代を収受しているとき」という要件があります。

「相当の地代」は、原則として、その土地の更地価額のおおむね年6パーセント程度の金額をいうと解されています(所得税基本通達法基通13−1−2,13−1−8平成元年3月30日直法2-2)。

なお,上記でいう「更地価額」とは、その土地の時価をいいますが、課税上弊害がない限り次の金額によることが認められています。

(1)その土地の近くにある類似した土地の公示価格などから合理的に計算した価額

(2)その土地の相続税評価額(いわゆる路線価)又はその評価額の過去3年間の平均額

もちろん,この「相当の地代」も,借地借家法の適否には法的に直接には影響しませんので,「相当の地代」を下回るからと言って当然に借地借家法が適用されなくなるわけではありません。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


〒102-0083 東京都千代田区麹町4-3-4 宮ビル4階・5階
電話 03-3265-9601 FAX 03-3265-9602
Copyright © Tago Iwata & Tamura. All Rights Reserved.