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更新:2024年4月3日 
 事例

不動産売買において,売買契約書を締結前に買主候補者から買付証明書や売主から売渡承諾書が交付された場合,法的拘束力を有するか。

 解説

1.買付証明書・売渡承諾書とは
不動産の所有者が,物件の売却のため買主候補者を募集する際,買主候補者が宅建業者等の事業者の場合には,不動産取引の慣例で,買主候補者から「買付証明書」(買受申込書)を差し入れてもらうのが通例です。

買付証明書とは,買主候補者が購入希望価格や希望する決済時期及び決済方法等の基本条件を記載して売主側に交付する書面のことです。

そして,売主は,買付証明書を交付してきた買主候補者の中から,売主側の希望金額や条件に見合う候補者を選んで,その候補者に売り渡す意思があることを示すため,売主が希望する基本条件を記載した「売渡承諾書」を買主候補者に交付します。

この点,民法の大原則としては,契約は申込の意思表示と承諾の意思表示の合致があれば口頭でも成立しますが(民法522条),とりわけ宅建業者等の事業者が買主又は売主となる宅地又は建物の売買契約においては,買付証明書や売渡承諾書の授受があってもその後に売買契約書の作成が予定されているため(宅建業法37条参照,78条2項反対解釈),売買契約書の作成・締結がされないうちは,未だ正式な契約成立とはみなされないのが不動産業界では一般的です。

この考え方は判例実務上もほぼ確立しているといえます(【東京地裁昭和63年2月29日判決】【名古屋地裁平成4年10月28日判決】【東京地裁平成22年1月15日判決】。なお,売買予約ともならないことにつき【東京地裁昭和59年12月12日判決】)。

【民法522条】
1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない

【宅建業法37条】
宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。

一 当事者の氏名(法人にあつては、その名称)及び住所

二 当該宅地の所在、地番その他当該宅地を特定するために必要な表示又は当該建物の所在、種類、構造その他当該建物を特定するために必要な表示

二の二 当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項

三 代金又は交換差金の額並びにその支払の時期及び方法

四 宅地又は建物の引渡しの時期

五 移転登記の申請の時期

六 代金及び交換差金以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的

七 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容

八 損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容

九 代金又は交換差金についての金銭の貸借のあつせんに関する定めがある場合においては、当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置

十 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容

十一 当該宅地若しくは建物が種類若しくは品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置についての定めがあるときは、その内容

十二 当該宅地又は建物に係る租税その他の公課の負担に関する定めがあるときは、その内容

【宅建業法78条2項】
第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない

【東京地裁昭和59年12月12日判決】
売渡承諾書については、売買契約の交渉段階において、交渉を円滑にするため、その過程でまとまつた取引条件の内容を文書化し明確にしたものと解するのが相当であつて、特に、債務者には、借家人らの立退問題を未解決のまま、売渡承諾書の交付をもつて、直ちに売買契約あるいは売買予約を成立させようとする意思が存在していたとは認められないことなどが認められ、右認定に加えて、交渉の経緯等の諸事情を考慮すると、本件における売渡承諾書は交渉を円滑にするため既に合意に達した取引条件を明確にしたにすぎないもので、昭和五五年一二月一六日、借家人らの立退問題が解決されず、そのために契約締結時期について対立したまま債権者と債務者との本件土地建物の取引交渉は中止されており、債権者と債務者との間の本件土地建物の売買の交渉の過程のいずれかの時点において本件土地建物に関する売買契約または売買予約等何らかの契約が成立したことを認めることはできないものといわざるをえない。

【東京地裁昭和63年2月29日判決】
売買契約が成立するためには、当事者双方が売買契約の成立目的としてなした確定的な意思表示が合致することが必要であるが、証人の証言及び弁論の全趣旨によれば、不動産売買、とりわけ本件のように高額な不動産売買の交渉過程においては、当事者間で多数回の交渉が積み重ねられ、その間に代金額等の基本条件を中心に細目にわたる様々な条件が次第に煮詰められ、売買の基本条件の概略について合意に達した段階で、確認のために当事者双方がそれぞれ買付証明書売渡承諾書を作成して取り交わしたうえ、更に交渉を重ね、細目にわたる具体的な条件総てについて合意に達したところで最終的に正式な売買契約書の作成に至るのが通例であることが認められるから、こうした不動産売買の交渉過程において、当事者双方が売買の目的物及び代金等の基本条件の概略について合意に達した段階で当事者双方がその内容を買付証明書及び売渡承諾書として書面化し、それらを取り交わしたとしても、なお未調整の条件についての交渉を継続し、その後に正式な売買契約書を作成することが予定されている限り、通常、右売買契約書の作成に至るまでは,今なお当事者双方の確定的な意思表示が留保されており、売買契約は成立するに至っていないと解すべきである。

【名古屋地裁平成4年10月28日判決】
不動産の売買、特に本件のように、住宅産業関連の業者が市街地をマンション用地として取得しようとするような場合では、代金額が高額に及ぶ上、権利の確保に万全を期する必要があることから、慎重に条件が煮詰められ、少なくとも、代金の支払時期と方法、引渡しと移転登記の時期と方法、不履行になった場合の処置等について合意されるのが通常であり、売買対象との不動産が特定され、代金額について合意ができたとしても、これによって売買の合意がなされたものとはいえないことはいうまでもない。
買受申込書に記載された事項は前記のとおりであり、手付金の支払時期さえ合意されておらず、残代金の支払が不動産の引渡し及び移転登記との引換えになされるとしても、地積更正登記ができる時期との兼ね合いからその段階では明確にできなかった事情にあるから、売買の条件が定まったとはいえず、その段階で契約が成立したとは到底いえない。

【東京地裁平成22年1月15日判決】
売買契約が成立したといえるためには,契約の中心部分の給付内容を確定できるだけの内容的確定性と,即時に効果を発生させ,その法的拘束力を引き受けるという意思を伴う合意の終局性を要するというべきである。
これを本件についてみると,前提事実によれば,被告らとA商事は,買付証明書本件承諾書の交付の後,本件土地の売買について契約書を作成することを予定していたものである。
そして,本件承諾書交付の時点では売買目的物と代金額がおおむね確定されていたものの,本件土地の引渡方法,移転登記の時期などの不動産売買の一般的に主たる要素といえる点について確定していたことは認められないし,本件承諾書とその後の土地売買契約書案とでは,売買代金額の支払方法も異なっている(厳密にいえば代金額も異なっている)。更に原告がその主張において,本件土地の売却先の選定を極めて困難にした事由として挙げ,契約書案に記載されるに至っている埋設物処理の費用及び土壌汚染関係費用の負担に係る条項も本件承諾書には記載されていない。
また,代替地の取得は,原告代表者においても,一定期間内に取得できなければ当然売買契約が白紙になる旨供述するほどの重要性を有するものであるにもかかわらず,取得不能時の売買契約関係の処理も本件承諾書交付の時点において確定していなかったことが認められる。
更に,原告主張のように本件承諾書の内容で売買契約が成立していたとすれば,契約書案において,その後の手付金の交付,手付解除が予定されていたことは,成立済みで,完全な法的拘束力を有するに至っていた契約について,あえて約定解除権を設定するものであって,特段の事情がない限り不合理であるところ,特段の事情の存在は特に認められない。
これらからすれば,本件承諾書に「下記条件で…売渡すことを約します。」との文言の下,代金額とその支払方法が記載されていたことを考慮しても,売買契約の成立を認めるに足りる,給付内容の確定性,合意の終局性は認められない。
すると,被告らとA商事との間で本件土地の売買契約が成立したとは認められない。

2.基本合意書とは
より複雑な不動産投資スキーム等においては,前述1のような単純な買付証明書や売渡承諾書の取り交わしではなく,売買当事者間で基本合意書(基本契約書)を取り交わす場合もあります。

この点,基本合意書の内容にもよるので一概には言えませんが,基本合意書も,買付証明書や売渡承諾書と同様,その後に正式な売買契約の締結が予定されている限り,未だ正式な売買契約の成立とはみなされないのが通常です。

もちろん,この種の基本合意書に通常盛り込まれる秘密保持条項,暴排条項,優先交渉条項等については,基本合意書の締結自体により直ちに法的拘束力が生じるため,当事者は誠実に交渉する義務等は生じますが,売買契約を締結する義務が生じることはなく,最終的に交渉がまとまらずに売買契約の締結に至らなくても,双方とも損害賠償義務等を負うことは原則としてありません。

疑義が生じることを避けるため,多湖・岩田・田村法律事務所では,基本合意書には,有効期限を定めた上,次のような【条項例】を定めておくよう助言しています。

【条項例】
基本合意書は当事者に売買契約を締結する法的義務を生じさせるものではなく,有効期限内に売買契約締結に至らなかった場合でも当事者双方は損害賠償義務等を一切負わない。

 結論

以上より,売主と買主候補者間で買付証明書(買受申込書)や売渡承諾書の授受がなされたとしても,これをもって売買契約や売買予約が成立したとはみなされず,また,最終的に売買契約を締結する法的義務も生じません。

 実務上の注意点

3.他人物売買の原則禁止規定
宅建業法33条の2では,宅建業者は,原則として「自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない」とされているため(なお,同条は宅建業者間の取引には適用無し。宅建業法78条2項),いわゆる他人物売買は原則として禁止されています。

もっとも,「当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているとき」は,他人物売買も締結することができます(同条1号)。

例えば,A所有の建物について,BがAとの間で売買契約を締結した後で,売買代金支払前(よって所有権がAからBに移転する前)に,BがCとの間で売買契約を締結することは認められます。

ただし,この場合,BはAと売買契約を「締結」していなければならず,前述1の買付証明書や売渡承諾書の授受又は前述2の基本合意書の締結だけでは未だ売買契約「締結」とは言えないため(前者につき岡本正治ほか『逐条解説 宅地建物取引業法(三訂版)』〔大成出版社 2020年〕340頁),この状態でBC間で売買契約を締結することはできません。

【宅建業法33条の2】
宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

一 宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令・内閣府令で定めるとき。

二 省略

【宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方】(令和6年4月1日施行版)13頁以下
第33条の2第1号関係

1 「宅地又は建物を取得する契約を締結しているとき」について
売買契約の締結は、民法上は口頭でも可能であるが、宅地建物を取得する契約の存在は宅地建物取引業者が立証しなければならないものであるので、この点からは書面による契約が適当である。

2 「効力の発生が条件に係るもの」について
契約の効力の発生が条件に係るものについては適用除外とはしないこととしているが、ここに「条件」とは、いわゆる停止条件及び法定条件をいう。なお、農地法第5条の都道府県知事の許可を条件とする売買契約も「効力の発生が条件に係る契約」に該当する。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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