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更新:2024年2月23日 
 事例

土壌汚染や放射能汚染に伴う不動産(土地)の価格下落に対する損害賠償請求の金額を算定する基準。

 解説

1.不動産(土地)の価格の種類
不動産の価格を評価する公的な基準としては,次のものがあります。

(1) 地価公示価格
地価公示価格とは,地価公示法2条1項及び6条に基づき,国土交通省所管の土地鑑定委員会が判定し毎年3月20日ころに公示するその年の1月1日時点(基準日)における「標準地」(令和5年は2万6000地点)の単位面積(1㎡)当たりの「正常な価格」のことで,単に「公示地価」とか「公示価格」とも呼ばれます。

地価公示価格は,国交省「標準地・基準地検索システム」平成9年以降のものがオンラインで閲覧可能です。

【地価公示法2条】
1 土地鑑定委員会は、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第四条第二項に規定する都市計画区域その他の土地取引が相当程度見込まれるものとして国土交通省令で定める区域(国土利用計画法(昭和四十九年法律第九十二号)第十二条第一項の規定により指定された規制区域を除く。以下「公示区域」という。)内の標準地について、毎年一回、国土交通省令で定めるところにより、二人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行つて、一定の基準日における当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、これを公示するものとする。

2 前項の「正常な価格」とは、土地について、自由な取引が行なわれるとした場合におけるその取引(農地、採草放牧地又は森林の取引(農地、採草放牧地及び森林以外のものとするための取引を除く。)を除く。)において通常成立すると認められる価格(当該土地に建物その他の定着物がある場合又は当該土地に関して地上権その他当該土地の使用若しくは収益を制限する権利が存する場合には、これらの定着物又は権利が存しないものとして通常成立すると認められる価格)をいう。

【地価公示法6条】
土地鑑定委員会は、第二条第一項の規定により標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定したときは、すみやかに、次に掲げる事項を官報で公示しなければならない。

一 標準地の所在の郡、市、区、町村及び字並びに地番

二 標準地の単位面積当たりの価格及び価格判定の基準日

三 以下省略

(2) 地価調査価格
地価調査価格とは,国土利用計画法施行令9条1項に基づき,都道府県(知事)が判定し毎年9月20日ころに公表(都道府県の発表に合わせ国土交通省が全国の状況をとりまとめて公表)するその年の7月1日時点(基準日)における「基準地」(国土利用計画法施行令9条1項の規定により選定された画地をいい(同法施行令7条1項1号イ),令和5年は2万1381地点)の単位面積(1㎡)当たりの「標準価格」のことで,単に「基準地価」とか「都道府県地価調査」とも呼ばれます。

地価調査価格は,国交省「標準地・基準地検索システム」平成9年以降のものがオンラインで閲覧可能です。

【国土利用計画法施行令9条】
1 都道府県知事は、自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域(法第十二条第一項の規定により指定された規制区域を除く。)において、土地の利用状況、環境等が通常と認められる画地を選定し、その選定された画地について、毎年一回、一人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行つて、国土交通省令で定める一定の基準日における当該画地の単位面積当たりの標準価格を判定するものとする。

2 前項の標準価格は、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引(農地又は採草放牧地の取引(農地及び採草放牧地以外のものとするための取引を除く。)を除く。)において通常成立すると認められる価格(当該土地に建物その他の定着物が存する場合又は当該土地に関して当該土地の使用及び収益を目的とする権利が存する場合には、これらの定着物又は権利が存しないものとして通常成立すると認められる価格)とする。

3 都道府県知事は、第一項の規定により標準価格を判定するに当たつては、その標準価格に係る基準地が地価公示法第二条第一項に規定する公示区域内に所在する土地(森林の土地を除く。)であるときは、公示価格を規準とし、その標準価格に係る基準地が当該公示区域内に所在する森林の土地であり又は当該公示区域外に所在するときは、近傍類地の取引価格から算定される推定の価格、近傍類地の地代等から算定される推定の価格及び同等の効用を有する土地の造成に要する推定の費用の額を勘案して行うものとする。

4 以下省略

(3) 相続税路線価
相続税路線価とは,市街地的形態を形成する地域にある宅地に関し相続税や贈与税の算定の基礎となる「時価」(相続税法22条)について,国税庁財産評価基本通達14項に基づき,国税庁(国税局長)が毎年7月1日に公表するその年の1月1日時点(基準日)における1㎡当たりの価格をいい,「宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。)」ごとに設定されます。

単に「路線価」という場合は,通常,この相続税路線価のことを指します。

なお,市街地的形態を形成する地域にある宅地以外の宅地純山林純原野等の場合には,相続税法22条の「時価」は,路線価方式ではなく,「固定資産税評価額×何倍」(倍率方式)で算定され,このような地域を「倍率地域」といいます。

相続税路線価は,実務上,公示価格×80%程度を目途に定められています(国税庁「令和5年分の路線価等について」3-2参照)。

相続税路線価は,国税庁「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」直近7年分がオンラインで閲覧可能です(所轄の各税務署窓口では直近10年分の閲覧可能。また,国立国会図書館では東京国税局編『路線価図』等で昭和30年以降の年度分が概ね閲覧可能)。

【相続税法22条】
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

国税庁財産評価基本通達14項
前項の「路線価」は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。以下同じ。)ごとに設定する。
路線価は、路線に接する宅地で次に掲げるすべての事項に該当するものについて、売買実例価額、公示価格(地価公示法(昭和44年法律第49号)第6条(標準地の価格等の公示)の規定により公示された標準地の価格をいう。以下同じ。)、不動産鑑定士等による鑑 定評価額(不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が国税局長の委嘱により鑑定評価した価額をいう。以下同じ。)、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した1平方メートル当たりの価額とする。
(昭41直資3-19・昭45直資3-13・昭47直資3-16・平3課評2-4外・平11課評2-2外・平11課評2-12外改正)

(1)その路線のほぼ中央部にあること。

(2)その一連の宅地に共通している地勢にあること。

(3)その路線だけに接していること。

(4)その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形又は正方形のものであること。

(4) 固定資産税評価額
固定資産税評価額とは,不動産にかかる固定資産税の算定の基礎となる価格について,地方税法403条1項に基づき,市町村長(東京23区内の場合は都知事)原則3年ごとにに評価するその年の1月1日時点(基準日)における課税対象地の価格をいいます。

固定資産税評価額は,固定資産評価基準(地方税法388条1項,昭和38年12月25日自治省告示第158号)に基づき,原則3年毎に改定(評価替え)されます。

直近では,令和3年が評価替えの年でしたので,次回評価替えは,令和6年となります。

なお,新型コロナウイルス感染症の影響により社会経済活動や国民生活全般を取り巻く状況が大きく変化したことを踏まえ、納税者の負担感に配慮する観点から、令和3年度に限り、負担調整措置等により課税標準額が増加する土地について前年度の課税標準額に据置くという特別な措置が採られておりますので,これに該当する土地については,令和3年度の評価替えにより土地の評価額が上昇しても同年に限り固定資産税額が添え置かれています(総務省「固定資産税の令和3年度評価替えへの対応」参照)。

宅地の固定資産税評価額は,実務上,公示価格×70%程度を目途に定められています。

固定資産税評価額は,その土地の所有者等一定の者に限り,毎年4月1日から最新年度の評価証明書が取得可能となります(各都道府県により異なりますが都税事務所(東京23区内)では直近6年分取得可能)。

各土地(地番)ごとの固定資産税評価額は一般公表はされておらず,所有者等一定の者しか評価証明書を取得できませんが,その評価額の算定根拠とされた固定資産税路線価は公表されています。

また,所有者でなくても,借地人は賃料増減額請求等の賃料交渉などをするにあたっての固定資産税額を把握する必要から,賃貸借契約書等の書類の原本を提示することで,固定資産税評価証明書を取得することができます(地方税法382条の3,同法施行令52条の15)。

なお,不動産の明渡し等の訴訟を提起する際に裁判所に納付する貼用印紙代(税金)については,この固定資産税評価額を基準に算定することとされています(昭和31年12月12日民事甲第412号最高裁民事局長通知「訴訟物の価額の算定基準について」参照)。

【地方税法382条の3】
市町村長は、第二十条の十の規定によるもののほか、政令で定める者の請求があつたときは、これらの者に係る固定資産として政令で定めるものに関して固定資産課税台帳に記載をされている事項のうち政令で定めるものについての証明書を交付しなければならない。ただし、当該証明書に記載されている住所が明らかにされることにより人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場合その他当該証明書を交付することが適当でないと認められる場合には、当該証明書に総務省令で定める措置を講じたものを交付することができる。

【地方税法388条1項】
総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。この場合において、固定資産評価基準には、その細目に関する事項について道府県知事が定めなければならない旨を定めることができる。

【地方税法403条1項】
市町村長は、第三百八十九条又は第七百四十三条の規定によつて道府県知事又は総務大臣が固定資産を評価する場合を除く外、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、固定資産の価格を決定しなければならない。

【地方税法施行令52条の15】
法第三百八十二条の三に規定する政令で定める者は、次の表の上欄に掲げる者とし、同条に規定するこれらの者に係る固定資産として政令で定めるものは、同表の上欄に掲げる者について、それぞれ同表の中欄に掲げる固定資産とし、同条に規定する固定資産課税台帳に記載をされている事項のうち政令で定めるものは、同表の上欄に掲げる者について、それぞれ同表の下欄に掲げる事項とする。

一 土地について賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利(対価が支払われるものに限る。)を有する者

当該権利の目的である土地

法に規定するすべての登録事項

二 家屋について賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利(対価が支払われるものに限る。)を有する者

当該権利の目的である家屋及びその敷地である土地

法に規定するすべての登録事項

三 以下省略

2.不動産取引における価格概念
上記のような国や地方自治体の公的な評価額のほか,宅建業者の査定書等では,土地の価格を示すものとして,次のような用語も用いられています(不動産業者により定義が多少異なる場合があります)。

(1) 査定価格
売却スタートから,約3か月以内に成約可能と思われる価格。

(2) 売出価格
売却スタート時の価格。

(3) 実勢価格
実際の売却価格で,いわゆる市場価格のこと(流通性比率等により,特に都心部では,公示地価を大きく上回る場合もあるし,逆に地方では公示地価を下回ることもあります)。

3.裁判実務における土地の時価
それでは,頭書事例のような場合,不動産価額の下落に対応する損害賠償金額の算定する際に,いかなる基準を用いるべきでしょうか。 この点につき【東京地裁平成16年9月27日判決】は次のとおり判示しています。

(1) 公示価格及び地価調査価格(公示価格等)について

土地の価格は,地域を異にする場合はもとより,同一の近隣地域に所在するものであっても,地積,形状,接面道路の状況のほか,人口,産業構造,団地の開発,道路・ガス等の整備,大型店舗の開店等個別の価格を形成する要因の違いに応じて異なるものであり,標準地の近隣に所在する土地であっても,公示価格等と均衡のとれた価格を算定するに当たっては,標準地と当該土地との個々の価格を形成する要因を十分比較する必要があり,適正な地価の算出は容易ではない。

公示価格については,地方では参考にする取引事例が都市部に比べ格段に少なく,実勢価格を反映していない,

地方自治体や金融機関への配慮がある,安易な鑑定手法である等の問題点の推摘があり,特に,本件土地のような大規模開発地については,不確定な要素が多く,取引実績がないことから,公示価格等がそのまま妥当するものではない。

しかし,公示価格の鑑定評価の基準は,近傍類地の取引価格から算定される推定の価格(比準価格),近傍類地の地代等から算定される推定の価格(収益価格)及び同等の効用を有する土地の造成に要する費用の額(積算価格)を勘案して,これを行なわれなければならないとされており(地価公示法四条),二人以上の不動産鑑定士等が,同一地点について,市場性(比準価格),収益性(収益価格)及び費用性(積算価格)から合理的に求め,その開差を調整して一つの鑑定評価額にまとめあげるものであり,一般の土地の取引価格に対する指標の提供(同法一条の二),不動産鑑定士等の鑑定評価の規準(同法八条),公共用地の取得価格の算定の規準(同法九系),収用委員会の補償金額の算定の規準(同法一〇条)などの役割があり,特殊な事情がない取引において成立すると認められる価格(正常な価格)を示すもので,近隣地域の標準的な画地の価格であるとされている。

地価調査価格は,公示価格を補足する役割を担うものであるが,価格の信頼性・評価手法は公示価格に準じられているものである。

したがって,公示価格等には前記のような難点・問題点があり,本件においては,東海村(茨城東海)の基準地が平成六年から平成一〇年までの間に二か所で変わっており,本件土地が大規模開発地であるという事情があるとしても,なお,本件臨界事故が本件土地の価格に与えた影響を推知するための重要な資料になると考えられる。

(2) 当初設定価格と実際の売出価格

当初設定価格については,その価格であれば,完売あるいはそれに近いような売却が見込めるということを判断できるだけの客観的な資料が存在していたと認めることはできず,本件臨界事故がなかったとしたら,平成一三年三月には当初設定価格で,平成一四年三月には当初設定価格から土地の下落率三パーセントを控除した価格で本件土地が売却できたとの原告の主張については,これを認めることができない。

実際の売出価格についても,原告が実際の売出価格を一坪当たり平均二一万円とした際に考慮したのは,本件臨界事故後の東海村及びその周辺の不動産取引の実情,特に南台団地が一坪当たり一八万円から二〇万円程度で販売していることや,常葉台団地,さわ野杜団地等で実質的に売出価格から値引きして販売しているとの情報や,販売開始前(平成一三年六月)の現地説明会等の顧客の声,不動産鑑定士の意見であったのは,さきに認定したとおりであり,実際の売出価格についても,完売あるいはそれに近いような売却が見込める価格が一坪当たり平均二一万円であるという客観的な資料は存在しない(一坪当たり平均二一万円で売り出す場合と,二一万円より高い価格で売り出す場合とで売れ行きに差があるかどうかも分からない。)。

したがって,そもそも,当初設定価格と実際の売出価格との差額をもって損害とする原告の主張はこれを認めることはできない

(3) 本件臨界事故と本件土地の価格の下落の因果関係について

本件臨界事故直後に本件土地を含む東海村の土地の価格が下落した理由には,本件臨界事故によって本件土地が放射能に汚染されているおそれがあるということや被告が再び同様の事故を起こすおそれがあるということもあったものと認められるが,それだけではなく,本件臨界事故によって,本件土地の近くに原子力関連施設が存在すること自体から生じる一般的な危険性が再認識されたということがあったものと認められる。

しかし,このような住民による一般的な危険性の再認識は,本件臨界事故の場合ほど顕著ではないにしても,平成九年三月に東海村に所在する核燃料サイクル開発機構(旧動力炉・核燃料開発事業団(平成一〇年に改組)のアスファルト固化処理施設で国際原子力事象評価尺度(NIES)でレベル三(重大な異常事象)と評価された火災爆発事故が発生した際にも,生じていたものと考えられる。

本件土地は,本件臨界事故時には既に売出しが予定されていたものであるから,本件臨界事故が,東海村の住民に本件土地の放射能汚染のおそれや,被告が再び同様の事故を起こすおそれを意識させ,その結果,本件土地の価格の下落が生じたのであれば,その下落は,本件臨界事故と相当因果関係のある損害につながるものということができるが,本件臨界事故が,原子力関連施設が存在すること自体から生じる一般的な危険性を再認識させ,それが本件土地の価格の下落の主たる原因であるとすると,原子力関連施設が存在すること自体から生じる危険性は,本件臨界事故の前後を通じて変化があったわけではないから,被告が主張するとおり,本件臨界事故と本件土地の価格の下落との間に相当因果関係を認めることはできない(そのような一般的な危険性の再認識は,東海村だけに限られず,日本各地の原子力施設の存在する土地に同様に生じうる。)。

したがって,仮に本件土地の価格に本件臨界事故の影響が残っていたとしても,それは,原子力関連施設が存在すること自体から生じる一般的な危険性の再認識によって生じていたものと推認されるので,本件臨界事故と相当因果関係のある損害につながるものと認めることはできない。

 結論

以上より,種々の評価基準の中で,とりわけ上記1(1)地価公示価格(公示価格)及び(2)地価調査価格(基準地価)は,(完全な基準とはいえないまでも)裁判実務において,損害賠償の前提として不動産価額を算定する際の重要なメルクマールとなり得ると考えられます。

したがって,頭書事例のようなケースで損害賠償請求訴訟を提起する場合には,事前に国土交通省の土地総合情報システム等で,公示価格等を事前にしっかりと調査しておく必要があります。

 実務上の注意点

4.詐害行為取消権の価格基準時
上記のとおり,土地の時価評価には様々な基準があるものの,売買契約においてその土地をいくらで売買するかについては,私的自治の原則(民法91条参照)から,結局は,売買契約の当事者(売主と買主)間で自由に決定されます。

従って,仮にその土地の一般的な相場と乖離する著しく低廉又は高額な価格であっても,それが当事者双方が納得した価格なのであれば,基本的に何の問題も生じません。

しかしながら,売主(所有者)が債務超過の状態にある場合に,買主が,これを知りつつ,当該売主(所有者)との間で,相場より著しく低廉な価格で不動産の売買契約を締結したような場合には,売主の債権者により当該売買契約を取り消されるリスクがあります(民法424条1項。これを「詐害行為取消権」といいます)。

また,不動産の売買契約は,売主にとっては「不動産の金銭への換価」(民法424条の2第1号)に該当するため,仮に相場どおりの価格(「相当の対価」)で売買契約を締結したような場合でも,次の2要件を全て満たす場合には,同様に売主の債権者により当該売買契約を取り消されるリスクがあります(民法424条の2)。

(1) 売主(債務者)が、売買契約締結当時、対価として取得した売買代金について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと(民法424条の2第2号)。

(2) 買主(受益者)が、売買契約締結当時、売主(債務者)が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと(民法424条の2第3号)。

もっとも,とりわけ上記(2)の要件,すなわち,買主が「売主(債務者)が隠匿等の処分をする意思を有していたこと」まで認識しているというケースは非常に稀であり,通常はその立証も容易ではないため,逆にいえば,相場どおりの価格(「相当の対価」)であれば,売主の債権者により当該売買契約を取り消されるリスクは,非常に低いと考えて良いと思います(仮に正当な価格での売買でも債権者により簡単に取り消されてしまうのであれば,競売や破産管財人による換価手続によらずに債務整理の一環として不動産を任意に売却して売却代金を借金の返済に充当するいわゆる「任意売却」の買い手が付かなくなり,債務整理の手続等に多大な不都合が生じかねません)。

なお,害意等の主観や価格として相当かどうか等の詐害性は,契約履行時(代金決済時及び所有権移転登記完了日)ではなく,あくまで詐害行為時(=売買契約締結時)を基準に判断されます(【東京高裁昭和33年1月16日判決】【最高裁昭和38年10月10日判決】【東京地裁令和2年2月6日判決】)。

これに対し,上記2要件を満たし,詐害行為取消権が認められた場合,買主には,原則として,当該不動産の現物を売主に返還する義務が生じますが,「財産の返還をすることが困難であるとき」は,当該不動産の価額の償還(価格賠償)の義務が生じます(民法424条の6第1項)。

上記「財産の返還をすることが困難であるとき」とは,具体的には,売買契約締結当時その不動産に設定されていた抵当権が売買契約締結後に抹消された場合(【最高裁昭和63年7月19日判決】),逆に売買契約締結後に新たに抵当権が設定された場合(【東京地裁平成30年11月27日判決】),売買の目的とされた不動産がすでに第三者に転売され詐害行為取消訴訟の被告(受益者)の所有に属さない場合(【大審院昭和7年9月15日判決】)等が該当します。

そして,上記詐害性の判断と異なり,価格賠償となる場合の価格の判断は,原則として,「当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時」が基準となります(【最高裁昭和50年12月1日判決】)。

例えば,売買契約締結時(詐害行為時)には1000万円の土地が,その後,詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時には,2000万円に値上がりしていた場合,仮に詐害行為取消が認められかつ価格賠償になる場合の賠償額は,1000万円ではなく,2000万円が基準となります。

もっとも,目的不動産に抵当権が付着している場合には、その取消は、目的不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の部分に限って許されることから(【最高裁昭和63年7月19日判決】),上記の例で,売買契約当時その不動産に抵当権が付されており,その時点(売買契約締結時点)での被担保債権(残債)が1500万円であった場合には,2000万円から当該1500万円を控除した残額500万円についてのみ価格賠償義務が生じます(【東京地裁平成24年3月30日判決】)。

【民法91条】
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う

【民法424条】
1 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。

3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。

4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

【民法424条の2】
債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。

一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。

二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。

三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと

【民法424条の6】
1 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。

2 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。

【大審院昭和7年9月15日判決】
原審最終口頭弁論ノ時ニ於テハ上告人ハ登記簿上右土地ノ所有権者ニアラサルコト明ナルヲ以テ被上告人ハ上告人ニ対シ右土地ノ回復ニ代ヘ損害賠償ヲ求ムルハ格別最初求メタル登記抹消ノ手続ハ最早之ヲ訴求シ得サル地位ニ在リタルモノト云ハサル可カラス

【東京高裁昭和33年1月16日判決】
債務者が他に債務を弁済するに足りる資産がないのに、債務弁済の意思なくその所有の不動産を他へ売却し、消費し易い金銭に替えたときは、その行為は、民法第四二四条所定のいわゆる訴害行為に当ることはいうまでもない。
しかしながら、同条但書によれば、債務者の詐害行為も、受益者または転得者が「其行為当時」債権者を害すべき事実を知らなかつたときは、同条の取消権は成立しないものと定められているところ、右にいう「其行為当時」とは、売買の場合にあつては、売買契約成立の時をいい、代金の支払または登記手続等その履行行為の時をさすものではないと解するのが相当である。
けだし、同条但書の規定は、債務者の詐害行為に対して一般債務者の正当な利益を擁護するため債権者に付与した取消権も、善意の第三者を保護し、取引の安全をはかるため、受益者または転得者が善意である場合には成立しないものとし、もって右の取消権に一定の制約を加えようとする趣旨のものであるから、買主が売買契約の成立当時善意であつた以上、たとえその後の履行行為の時には悪意に陥つていたとしても、債権者はもはや取消権を取得しないものと解することが、よく右但書の法意にそう所以と解されるからである。

【最高裁昭和38年10月10日判決】
売買本契約の締結は、売買予約契約の履行としてなされたものであること前示のとおりであるから、たとえそれによって他の債権者の一般担保を減少ないし喪失せしめ、事実上弁済の途を断つとしても、それだけでは詐害行為とならないものというべきである。
<中略>
されば、本件については、売買予約契約締結の時において既に詐害行為の要件が具備していたか否かが審理判断されねばならない。

【最高裁昭和50年12月1日判決】
不動産の譲渡が詐害行為として取消を免れず受益者において現物返還に代る価格賠償をすべきときの価格の算定は、特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべきものと解するのが相当である。
けだし、右価格賠償における価格の算定は、受益者が事実審口頭弁論終結時までに当該不動産の全部又は一部を他に処分した場合において、その処分後に予期しえない価額の高騰があり、詐害行為がなくても債権者としては右高騰による弁済の利益を受けえなかつたものと認められる等特別の事情がないかぎり、詐害行為取消の効果が生じ受益者において財産回復義務を負担する時、すなわち、詐害行為取消訴訟の認容判決確定時に最も接着した時点である事実審口頭弁論終結時を基準とするのが、詐害行為によつて債務者の財産を逸出させた責任を原因として債務者の財産を回復させることを目的とする詐害行為取消制度の趣旨に合致し、また、債権者と受益者の利害の公平を期しえられるからである。

【最高裁昭和63年7月19日判決】
抵当権の設定されている不動産について、当該抵当権以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであって、当該詐害行為の後に弁済等によって右抵当権設定登記等が抹消されたようなときは、その取消は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格による賠償を請求する方法によるべきである。
けだし、詐害行為取消権は、債権者の共同担保を保全するため、詐害行為により逸出した財産を取り戻して債務者の一般財産を原状に回復させようとするものであるから、その取消は、本来、債務者の詐害行為により減少された財産の範囲にとどまるべきものであり、その方法は、逸出した財産自体の回復が可能である場合には、できるだけこれによるべきであるところ、詐害行為の目的不動産に抵当権が付着している場合には、その取消は、目的不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の部分に限って許されるが、右の場合において、その目的不動産が不可分のものであって、付着していた抵当権の設定登記等が抹消されたようなときには、逸出した財産自体を原状のままに回復することが不可能若しく著しく困難であり、また、債務者及び債権者に不当に利益を与える結果になるから、このようなときには、逸出した財産自体の返還に代えてその価格による賠償を認めるほかないのである(最高裁昭和三〇年(オ)第二六〇号同三六年七月一九日大法廷判決・民集一五巻七号一八七五頁、同五三年(オ)第八〇九号同五四年一月二五日第一小法廷判決・民集三三巻一号一二頁参照)。
そうすると、前記事実関係のもとにおいては、詐害行為として取消されるべき本件代物弁済予約及び譲渡担保契約の目的不動産に右詐害行為当時根抵当権が付着し、その後、その設定登記等が抹消されているのであるから、価格賠償によるほかない

【東京地裁平成24年3月30日判決】
本件売買契約は詐害行為に当たるが,本件売買契約の対象である本件建物には抵当権が設定されており,本件売買契約後に抵当権設定登記が抹消されている。抵当権の設定されている不動産について,当該抵当権者以外の者との間にされた売買契約が詐害行為に該当する場合において,前記不動産が不可分のものであって,当該詐害行為の後に弁済等によって前記抵当権設定登記が抹消されたようなときは,その取消は,前記不動産の価格から前記抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格による賠償を請求する方法によるべきである(最高裁昭和63年7月19日第三小法廷判決)。
<中略>
本件建物の価格については,同じ建物の複数の販売状況に基づいて査定している証拠により3900万円と認めるのが相当である。
そして,証拠によれば,本件売買契約締結時点における抵当権の被担保債権額は2393万7059円であることが認められるから,価格賠償の金額は,3900万円から2893万7059円を控除した1006万2941円となる。
なお,原告は,価格賠償に対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求めているが,詐害行為取消権の行使に基づく判決によって受益者からその利得の返還ないし賠償を求めうる権利は法律の定めにより発生する権利であり,営利性を考慮すべき債権ではないから,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものと解することはできない
したがって,その遅延損害金は,民法所定の年5分の割合によるべきものと解するのが相当である。

【東京地裁平成30年11月27日判決】
本件贈与の平成28年3月25日,本件不動産には,被担保債権の額を1800万円とする抵当権及び被担保債権の額を200万円とする抵当権が各設定されていることから,本件にかかる詐害行為取消権に基づく請求は,現物返還ではなく,価格賠償によることとなる。

【東京地裁令和2年2月6日判決】
本件売買契約締結時における各旧抵当権に係る被担保債権の価格は,同時点における本件不動産の価格を上回るものであったということができる上,同価格から算定することのできる本件共有持分の価格が2800万円程度であることからすると,本件売買契約に係る売買代金額は適正な価格の範囲内であると評価することができる。
そうすると,本件売買契約は,一般債権者である原告らの共同担保と評価することのできない本件不動産を適正価格で売却したものにすぎず,原告らを害するものと評価することはできない。
なお,原告らは,最高裁昭和50年12月1日第2小法廷判決・民集29巻11号1847頁を挙げて、本件売買契約の詐害性を判断する際の本件不動産の価格は本件口頭弁論終結時のものを基準とするべきであると主張するが,当該判例は,不動産の譲渡が詐害行為として取消を免れない場合に受益者において現物返還に代わる価格賠償をすべきときの価格算定の基準時について判示したものであって,不動産の譲渡が詐害性を有するかどうかの判断を事実審の口頭弁論終結時における不動産の価格を基準としてするべきであると判示したものではない

5.寄与分・特別受益・遺留分侵害額の価格基準時
特別受益(民法903条)・寄与分(民法904条の2)・遺留分算定の基礎となる財産(民法1043条)の各評価基準時は,原則として相続開始時すなわち被相続人死亡日となります(金銭につき【最高裁昭和51年3月18日判決】,土地使用借権につき【東京地裁平成15年11月17日判決】,借地権につき【東京地裁平成27年4月24日判決】,株式につき【東京地裁平成25年12月9日判決】【東京地裁平成27年11月26日判決】【東京地裁令和2年2月21日判決】。なお,寄与分につき【広島高裁平成5年6月8日決定】)。

上記のうち,特別受益は,明文上は「遺贈」と「贈与」の場合しか該当しませんが,「相続させる」旨の遺言も,民法903条の類推適用により,「特別受益」に該当すると解されており(【広島高裁岡山支部平成17年4月11日決定】),実務上も通常はこれに沿った運用がされています。

また,令和元年7月1日の改正民法施行前(に発生した相続)は,遺留分侵害が生じている場合,侵害された遺留分の回復方法として,贈与又は遺贈された物の現物返還を原則としつつ,遺留分減殺請求権行使前に当該減殺対象財産を処分(転売等)していた場合は価額弁償のみ認められていましたが(旧民法1040条1項「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。」),その弁償価額の評価基準時は原則として当該処分時と解されていました(【最高裁平成10年3月10日判決】で「贈与」ではなく「遺贈」にも同条を類推適用)。

同様に改正民法施行前は,遺留分減殺請求権を行使された側に価額弁償の抗弁が認められていましたが(旧民法1041条1項「受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。」),その場合の弁償価額の評価基準時は,事実審の口頭弁論終結時と解されていました(【最高裁昭和51年8月30日判決】)。

これに対し,令和元年7月1日の改正民法施行後(に発生した相続)は,遺留分侵害が生じている場合,侵害された遺留分の回復方法としては価額弁償たる「遺留分侵害額請求」(金銭債権)に一元化されましたが,その侵害額の評価基準時は,遺留分侵害となった財産の贈与時でも遺留分侵害額請求時でも遺留分侵害額弁償時でもなく,相続開始時とすることが実務上定着してきています。

なお,遺留分算定の基礎となる財産の価額(=遺留分額)の算定においては,相続人に対する特別受益については原則として相続開始前10年以内のもののみ算入(加算)しますが(民法1044条3項),遺留分の侵害額の算定においては,期間の限定はなく,10年より前に贈与等された特別受益についても控除されます(民法1046条2項1号)。そして,当該算入又は控除される特別受益についても,相続開始時を基準に評価されます。

他方,遺産分割審判(民法907条2項)において裁判所が各相続人の具体的な取得財産を決定する際は,遺産分割時の価額を基準に各取得財産を評価しますので(【東京家裁昭和33年7月4日審判】【最高裁平成28年12月19日決定】木内道祥裁判官の補足意見参照),遺留分侵害額請求等の場合と混同しないよう注意が必要です。

【民法903条】
1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

【民法904条の2】
1 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

【民法907条】
1 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

【民法1043条】
1 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

【民法1044条】
1 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

【民法1046条】
1 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

【東京家裁昭和33年7月4日審判】
相続分決定についての遺産評価の時期について、(イ)相続開始当時の時に有した財産及び相続開始前の生前贈与分等について何れもの相続開始の当時の価額より計算する。(ロ)何れも分割時の価額によるべきである。(ハ)民法九〇三条による相続分の計算は何れも相続開始当時の価額により計算しこの相続分の割合により分割対象の遺産を分割時の評価額により分割すべきものとするとの三つの見解が考えられるが、(ハ)説によるを相当とする。
蓋し(イ)説のように相続開始当時の評価により分割するとすれば、分割当時より現在値上りの著しい遺産を取得したものは非常に有利になるが、そうでない遺産の分割をうけたものは不利になる。
次に(ロ)説によれば相続開始後遺産分割迄の間における、未分割遺産に対する各相続人の民法九〇三条により計算される相続分が物価の変動に従って絶えず変動する不合理が生ずる。
(ハ)説はこの前二者の欠点を補うものである。即ち民法九〇三条にて相続分を計算するについては、すべて相続開始当時の評価額によるものとするが、これにより遺産に対する相続分、即ち相続の割合が確定した上は、その相続分に従つて、現在分割時の事情に則して分割の対象となる遺産を分割することになり最も妥当な結論が得られることになるからである。

【最高裁昭和51年3月18日判決】
被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきものと解するのが、相当である。
けだし、このように解しなければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、かつ、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損う結果をもたらすものではないからである。

【最高裁昭和51年8月30日判決】
遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当であつて(最高裁昭和三三年(オ)第五〇二号同三五年七月一九日第三小法廷判決・民集一四巻九号一七七九頁,最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和四二年(オ)第一四六五号同四四年一月二八日第三小法廷判決・裁判集民事九四号一五頁参照)、侵害された遺留分の回復方法としては贈与又は遺贈の目的物を返還すべきものであるが、民法一〇四一条一項が、目的物の価額を弁償することによつて目的物返還義務を免れうるとして、目的物を返還するか、価額を弁償するかを義務者である受贈者又は受遺者の決するところに委ねたのは、価額の弁償を認めても遺留分権利者の生活保障上支障をきたすことにはならず、一方これを認めることによつて、被相続人の意思を尊重しつつ、すでに目的物の上に利害関係を生じた受贈者又は受遺者と遺留分権利者との利益の調和をもはかることができるとの理由に基づくものと解されるが、それ以上に、受贈者又は受遺者に経済的な利益を与えることを目的とするものと解すべき理由はないから、遺留分権利者の叙上の地位を考慮するときは、価額弁償は目的物の返還に代わるものとしてこれと等価であるべきことが当然に前提とされているものと解されるのである。
このようなところからすると、価額弁償における価額算定の基準時は、現実に弁償がされる時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあつては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である。

【広島高裁平成5年6月8日決定】
遺留分算定にあたっての特別受益の評価が相続開始時を基準時点としてすべきものとされていること(最高裁昭和五一年三月一八日民集三〇巻二号一一一頁)、との整合性などからすれば、遺産・特別受益・寄与分を相続開始時を基準時点として評価してするのが相当であると解される。

【最高裁平成10年3月10日判決】
遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に減殺を受けるべき受遺者が遺贈の目的を他人に譲り渡した場合には、民法一〇四〇条一項の類推適用により、譲渡の当時譲受人が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときを除き、遺留分権利者は受遺者に対してその価額の弁償を請求し得るにとどまるものと解すべきである(最高裁昭和五三年(オ)第一九〇号同五七年三月四日第一小法廷判決・民集三六巻三号二四一頁参照)。
そして、右の弁償すべき額の算定においては、遺留分権利者が減殺請求権の行使により当該遺贈の目的につき取得すべきであった権利の処分額が客観的に相当と認められるものであった場合には、その額を基準とすべきものと解するのが相当である。

【東京地裁平成15年11月17日判決】
本件土地の使用貸借権の価値は,原告の特別受益であると認められる。
そして,持戻し分(贈与財産)の額の算定基準日は相続開始時とすべき(最判昭和51年3月18日民集30巻2号111頁参照)である。

【広島高裁岡山支部平成17年4月11日決定】
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,当該遺産を当該相続人をして単独で相続させようとする趣旨のものと解すべきであり,また,上記のような遺言があった場合には,遺産分割の方法が指定されたものとして,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,当該遺産は,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される(最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決・民集45巻4号477頁)。
<中略>
被相続人の公正証書遺言の「相続させる」旨の記載は,遺贈の趣旨であるとは解されないのであるが,特定物を相続させる旨の遺言により,当該特定物は,被相続人の死亡と同時に当該相続人に移転しており,現実の遺産分割は,残された遺産についてのみ行われることになるのであるから,それは,あたかも特定遺贈があって,当該特定物が遺産から逸出し,残された遺産について遺産分割が行われることになる場合と状況が類似しているといえる。
したがって,本件のような「相続させる」趣旨の遺言による特定の遺産承継についても,民法903条1項の類推適用により,特別受益の持戻しと同様の処理をすべきであると解される。

【東京地裁平成25年12月9日判決】
A銀行か、平成21年1月4日に端数等無償割当てにより株式を実質的に100倍にしたことは、公知の事実であるから(A銀行ホームページ)、贈与当時の1株は、平成21年1月7日時点の100株に相当する。
被告らが平成15年から平成16年にかけて贈与を受けた株式については、平成21年3月7日の相続開始時の評価額として、直近取引日(平成21年3月6日)の終値3420円(公知の事実)の100倍である34万2000円を贈与当時の1株の相続開始時における評価額とみることになる。
上記事実によれば、被告らは、Bから生計の資本としてA銀行の株式5株ずつの贈与を受けたと認められ、民法903条1項の特別受益にあたるといえる。
そして、その評価額は、相続開始時の評価として、被告ら各自につき5株で171万円(1株34万2000円)と評価できる。

【東京地裁平成27年11月26日判決】
被告は,原告が相続したA社の株式について,公平の理念に沿うように,遺産分割の場合と同様に解決時点(判決の場合は事実審の口頭弁論終結の時。それ以前に財産の処分がされたときはその処分時)とされるべきであると主張する。
しかし,遺留分が相続開始時点において算定されるものである以上,遺留分の算定に当たっての遺産や特別受益の評価は相続開始時点をもって行うべきであるから,採用できない。

【最高裁平成28年12月19日決定】木内道祥裁判官の補足意見
遺産分割の審判においては,各相続人の具体的相続分の算定と取得財産の決定という二つの場面で,個別の相続財産の価額を評価することが求められる。前者については,被相続人が相続開始時において有した財産,遺贈や生前贈与として持ち戻される財産の価額に基づいて,寄与分を考慮した上で,各相続人の具体的相続分の価額及び割合が算定される(民法903条,904条の2)。
後者については,遺産分割時に存在する財産をその時点の価額で評価した上で,各相続人の具体的相続分の割合に応じて,各相続人が取得する財産が定められる。

【東京地裁令和2年2月21日判決】
遺留分の基礎となる財産の算定に当たっての財産の評価の基準時は,相続開始時を基準とすべきであるところ,上場株式の評価については,その公表されている売買値段を基準とすることが相当である。
本件各有価証券は,いずれも上場株式であることからすると,遺留分の基礎となる財産の算定に当たっては,被相続人の死亡した平成18年12月4日の終値とするのが相当。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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