解説 |
1.改正に必要な集会決議の要件
規約を改正するためには,管理組合の集会(実務上「総会」ともいいます)を開催し,区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による決議が必要となります(区分所有法31条1項前段)。
上記の決議要件(区分所有者及び議決権の各四分の三以上)は,規約でこれを緩和することも厳格化することもできない「強行法規的」なものとして解されています(稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法(第4版)』〔日本評論社2019年〕186頁)。
もっとも,法務省法制審議会区分所有法制部会「区分所有法制の見直しに関する要綱案」(令和6年1月16日)(2頁)において,上記決議要件のうち,多数決割合(四分の三以上)は維持しつつ、法律上の原則的な集会の定足数を過半数とした上で(規約でこれを上回る割合を定めることも可能とし),母数を「出席した区分所有者及びその議決権」に緩和する改正案が検討されているところです。
【区分所有法14条】
1 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。
2 前項の場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれその区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。
3 前二項の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による。
4 前三項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
【区分所有法30条】
1 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
3 前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
4 第一項及び第二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。
5 規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、これを作成しなければならない。
【区分所有法31条】
1 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
【区分所有法34条】
1 集会は、管理者が招集する。
2 管理者は、少なくとも毎年一回集会を招集しなければならない。
3 区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、管理者に対し、会議の目的たる事項を示して、集会の招集を請求することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
4 前項の規定による請求がされた場合において、二週間以内にその請求の日から四週間以内の日を会日とする集会の招集の通知が発せられなかつたときは、その請求をした区分所有者は、集会を招集することができる。
5 管理者がないときは、区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、集会を招集することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
【区分所有法35条】
1 集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる。
2 専有部分が数人の共有に属するときは、前項の通知は、第四十条の規定により定められた議決権を行使すべき者(その者がないときは、共有者の一人)にすれば足りる。
3 第一項の通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかつたときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててすれば足りる。この場合には、同項の通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなす。
4 建物内に住所を有する区分所有者又は前項の通知を受けるべき場所を通知しない区分所有者に対する第一項の通知は、規約に特別の定めがあるときは、建物内の見やすい場所に掲示してすることができる。この場合には、同項の通知は、その掲示をした時に到達したものとみなす。
5 第一項の通知をする場合において、会議の目的たる事項が第十七条第一項、第三十一条第一項、第六十一条第五項、第六十二条第一項、第六十八条第一項又は第六十九条第七項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない。
【区分所有法36条】
集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。
【区分所有法37条】
1 集会においては、第三十五条の規定によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議をすることができる。
2 前項の規定は、この法律に集会の決議につき特別の定数が定められている事項を除いて、規約で別段の定めをすることを妨げない。
3 前二項の規定は、前条の規定による集会には適用しない。
【区分所有法38条】
各区分所有者の議決権は、規約に別段の定めがない限り、第十四条に定める割合による。
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2.特別の影響とは
管理組合規約の変更が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないとされています(区分所有法31条1項後段)。
なお,管理組合規約そのものを直接に変更する場合に限らず,例えば,規約で「管理費の金額については別に定める」とし,これを受けた管理費の細則等で「管理費は月額5000円とする」と定められていた場合に,当該細則を変更する場合も区分所有法31条1項後段が類推適用されます(【最高裁平成10年10月30日判決(民集52巻7号1604頁)】)。
また,細則の変更も伴わない集会決議自体(規約に基礎を置かないいわゆる裸の集会決議)による管理費等の増額のような場合も,区分所有法17条2項ではなく(同項の「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」の文言に鑑み管理費等の増額の場合にこれを適用するのは困難なため),「法31条1項後段により区分所有者間の利害の調整を図るのが適当である」と解されています(『判例タイムズ991号』291頁解説,【最高裁平成10年11月20日判決】参照)。
上記「特別の影響」とは,規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいいます(【最高裁平成10年10月30日判決(民集52巻7号1604頁)】【最高裁平成10年11月20日判決】)。
もっとも,その判断は容易ではなく,具体的にどのような場合に「区分所有者の受忍すべき限度を超える」といえるのか,しばしば問題となります。
なお,前述1のとおり,区分所有法31条1項前段の決議要件は強行法規と解されていますが,同項後段も強行法規と解されていますので(【東京地裁平成25年7月4日判決】),「規約の変更が組合員の権利に特別の影響を及ぼすべきときでも,正当な理由がなければ承諾を拒否してはならない」というような規約の規定は無効となります。
この点,国土交通省「マンション標準管理規約」(最終改正:令和6年6月7日)47条7項でも「規約の制定、変更又は廃止が一部の組合員の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。この場合において、その組合員は正当な理由がなければこれを拒否してはならない」と規定されていますが,この「正当な理由がなければこれを拒否してはならない」の部分は,法的にはあまり意味を持たないと考えられます。
【区分所有法17条】
1 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
【区分所有法31条1項】
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
【最高裁平成10年10月30日判決(民集52巻7号1604頁)】 ※シャルマンコーポ博多事件
法三一条一項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、右の「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
<中略>
本件のように、直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議により管理費等に関する細則の制定をもって使用料が増額された場合においては、法三一条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。
【最高裁平成10年11月20日判決】 ※高島平マンション事件
法三一条一項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
そして、直接に規約の設定、変更等による場合だけでなく、規約の定めに基づき、集会決議をもって専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化した場合においても、法三一条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である(最高裁平成八年(オ)第二五八号同一〇年一〇月三〇日第二小法廷判決参照)。
本件においては、専用使用権に関する新規約一四条が設定された後、その定めに基づき、集会決議をもって被上告人の専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化したものであるところ、右新規約の定め自体はいまだ被上告人に現実的、具体的な不利益を及ぼすものではないから、右の「特別の影響」の有無は、消滅決議及び有償化決議について見るべきものである。
【東京地裁平成25年7月4日判決】
本件管理規約47条7項後段では,本件マンションの組合員は,規約の変更が組合員の権利に特別の影響を及ぼすべきときには,正当な理由がなければこれを拒否してはならないと定められているが,かかる規定は強行法規である区分所有法31条1項後段に抵触するものとして無効と解する。
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3.「特別の影響を及ぼす」場合の規約変更の効力
規約の変更が,「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす」と判断された場合,当該規約の変更は無効となりますが,裁判所の判決では,管理組合が当該決議内容に固執しているような場合でない限り,社会通念上相当な範囲で一部有効とし,一部認容(一部棄却)することも許容されます(【最高裁平成10年10月30日判決(民集52巻7号1604頁)】【最高裁平成10年11月20日判決】)。
例えば,【東京高裁平成13年1月30日判決】では,駐車場専用使用料につき従前無償(0円)だったものを2万5000円×4台分=合計月額10万円とする有償化決議につき,その10分の1(合計月額1万円)の範囲で有効と判示し,【福岡地裁小倉支部平成13年8月31日判決】は,従前約500円の管理費のみであった駐車場の専用使用料を1台月額7000円とする増額(有償化)決議につき,その約半分の1台月額4000円(従前の管理費約500円込み)の範囲で有効と判示しています。
【最高裁平成10年10月30日判決(民集52巻7号1604頁)】 ※シャルマンコーポ博多事件
使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。
そして、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情、例えば、(1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、(2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、(3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、(4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、(5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきものである。
<中略>
しかるに、原審は、使用料増額に関する前記集会決議が上告人らの専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものではないとする理由として、区分所有者相互間における駐車場利用の公平化・適正化と増設駐車場の使用料額との均衡を図るために使用料が増額されたことを挙げるのみであって、前記のような観点から、月額七〇〇円から月額四〇〇〇円等への増額が社会通念上相当なものか否か、さらには、もし月額四〇〇〇円等が相当な額と認められない場合には幾らへの増額であれば相当といえるかについて、所要の審理判断を尽くしていないといわなければならない。
【最高裁平成10年11月20日判決】 ※高島平マンション事件
まず、消滅決議について、上告人は、南西側駐車場の専用使用権を消滅させることは、区分所有者全体にとって、管理用自動車、緊急自動車の駐車場を設置し、また、全員のための自転車置場を設置するという高度の必要性があると主張している。
しかしながら、本件区分所有関係についての前記諸事情、殊に、(1)被上告人は、分譲当初から、本件マンションの一階店舗部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用のため、南側駐車場及び南西側駐車場の専用使用権を取得したものであること、(2)南西側駐車場の専用使用権が消滅させられた場合、南側駐車場だけでは被上告人が営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないとはいえないこと、(3)一方、被上告人以外の区分所有者は、駐車場及び自転車置場がないことを前提として本件マンションを購入したものであること等を考慮すると、被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益は、その受忍すべき限度を超えるものと認めるべきである。
したがって、消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって被上告人の承諾のないままにされた消滅決議はその効力を有しない。
<中略>
次に、有償化決議については、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
また、設定された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である(前掲平成一〇年一〇月三〇日第二小法廷判決参照)。
しかるに、原審は、被上告人が管理費等をもって相応の経済的な負担をしてきた権利を更に有償化して使用料を徴収することは被上告人に不利益を与えるものであるというだけで、有償化決議により設定された使用料の額が社会通念上相当なものか否か等について検討することなく、有償化決議は、被上告人の承諾がない以上、無効であると判断している。
<中略>
そして、設定された使用料の額が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情を総合的に考慮して判断すべきものであるところ(前掲平成一〇年一〇月三〇日第二小法廷判決参照)、有償化決議により設定された南側駐車場月額一〇万円、塔屋外壁月額四万円、屋上月額一万円、二階屋上月額二万円、非常階段踊り場月額一万五〇〇〇円という使用料の額が社会通念上相当なものか否か、さらには、もし右の使用料の額が相当な額と認められない場合には幾らであれば相当といえるかについて、所要の審理判断を尽くさせる必要がある。
【東京高裁平成13年1月30日判決】 ※前掲【最高裁平成10年11月20日判決】の差戻控訴審
※管理組合総会において,従前無償であった南側駐車場の専用使用料につき,「1台分当たり月額2万5000円、合計月額10万円とする」旨の有償化決議がされた事案。
控訴人は、その営業のため、長年にわたって共有部分となっている南側駐車場、搭屋外壁、屋上、二階屋上及び非常階段踊り場につき、これを無償で使用してきており、他の区分所有者との関係で公正さを欠く結果となっているということができるから、有償化する必要性と合理性が認められる。
そこで、本件定期総会における有償化決議によって定められた各専用使用料の額が社会通念上相当なものか否かについて検討する。
被控訴人は、有償化決議の対象となった各設備について、他の同種の賃貸事例を引き合いに出すなどして、有償化決議で定められた各専用使用料は社会通念上相当な額である旨主張する。
しかし、本件マンションは住居及び店舗併用型のマンションであって、控訴人による専用使用権の取得を考慮して分譲価格が設定され、本件マンションの区分所有者らは、本件マンションの一階部分において、控訴人がサウナ、理髪店等を営業すること及びその営業に必要な駐車場等の設備を控訴人が自ら費用を負担して設置し、その敷地及び床部分を無償で使用することを承知の上、各区分所有建物を購入し、現に、控訴人はこれまで無償で右設備を使用してきたのである。
これらの事情を考慮すると、本件定期総会における有償化決議によって、前記認定したような本件区分所有関係の経過を前提としていない純粋の経済活動としての賃貸借における通常の賃料相場等を参考にして、多額の使用料を控訴人に一挙に課するのは過大な要求というべきである。
これによる控訴人の負担増は大きく、そのため事実上営業を断念せざるを得ないような事態を招来するに至っているものである。
したがって、有償化決議によって定められた各専用使用料の額は、社会通念上相当な額とは認め難い。
本件では、右に挙げた事情に加えて、問題とされている各設備が、駐車場を含めていずれも控訴人の営業上必要なものと認められること、その管理は控訴人において行っていて、当該各共用部分の専用使用によって住居部分の区分所有者らの本件マンションの利用に特に支障があるとは認められないことなども、本件区分所有関係における事情として考慮する必要がある。そこで、以上を前提に、住居及び店舗併用型マンションである本件マンションにつき、住居部分の区分所有者と店舗部分の区分所有者の利害をどのように調整すべきかという観点から、どの程度の額であれば専用使用料として社会通念上相当であるかを検討する。
<中略>
本件マンションの区分所有者らは、本件マンションには駐車場がないため、昭和四八年ころは五〇〇〇円程度の賃料を支払い、平成元年ころ以降は平均二万五〇〇〇円程度の賃料を負担して近隣に駐車場を求めてきたこと、現在、近隣にある駐車場の月額賃料は、二万二〇〇〇円ないし二万八〇〇〇円程度であり、平成四年ころは二万五〇〇〇円程度が相場であったことが認められる。
しかし、本件において、南側駐車場を有償化する必要があるとしても、その額を近隣の駐車場の賃貸料を基準とするのは、前述したとおり相当でない。
南側駐車場は、マンホールがあり、控訴人の営業する店舗の出入口もあって、しかも避難通路となっている部分である。
したがって、南側駐車場を他に賃貸して賃料収入を得ることは事実上不可能といってよい。
加えて、本件マンションの分譲に当たっては、控訴人の専用使用権があることを考慮して若干低めの価格で分譲されたことなどの本件区分所有関係に係る前記諸事情をも総合考慮すると、南側駐車場の専用使用料としては合計月額一万円とするのが相当である。
【福岡地裁小倉支部平成13年8月31日判決】
※管理組合総会において,従前約500円の管理費のみであったC駐車場(区分所有者兼分譲業者でもあった被告専用の駐車場で,被告は,区分所有部分を月額170万円,C駐車場部分を1台当たり約500円で第三者たる「レッツ」に賃貸していた)につき,「専用使用料を1台月額7000円とする」旨の増額(有償化)決議がされた事案。
法31条1項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、右の「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規定の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
そして、直接規約の設定、変更等による場合だけでなく規約の定めに基づき集会決議をもって専用使用権を有償化した場合も右規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。
有償化決議については、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が、右必要性及び合理性にも照らしたうえで当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくても有効なものであると解するのが相当である。
<中略>
A・C駐車場については、被告がレッツの経営安定(究極的には、被告の賃料収入の確保)のため、その専用使用権を自己に留保しているのであって、右A・C駐車場と、専用使用権を被告に留保していないB・E駐車場との間で性質上差異が生じているのは根拠がないわけではない(また、D駐車場は分譲を受けた者に専用使用権があり、その性質上はA・C駐車場に近いということができる。それゆえ、A・C・D駐車場は月額約500円を被告に支払っていることとなるのである)。
したがって、C駐車場につき被告が賃貸料を支払わない状況がB・E駐車場につき居住者が賃貸料を支払っている状況に比して不公平・不合理であるということは、少なくとも本件マンション分譲当初の段階では、直ちにはいえないというべきである。
また、原告は、将来の本件マンション修繕費が不足することも有償化決議有効の理由として挙げているところ、今のままでは将来必要となる修繕費が確保できないとの原告の主張を基礎付ける証拠に乏しい(また、そもそも、右は第一次的には修繕管理費の増額で対処すべき問題であると考えられる)。
<中略>
しかしながら他方、一旦無償の専用使用権を留保すれば、永遠に無償で使用できるというのも不合理な感は免れず、時の経過とともに、有償で使用している者との間で不公平さが生じてくることは認めざるを得ないところである。
そして、本件有償化決議がなされたのは、分譲からすでに約10年を経過しており、その間被告はレッツより前記賃料を取得し続けていること、1台につき月額7000円という駐車場賃貸料は近隣の相場として相当なものであると認められること、他方、本件では無償の専用使用権につき本件三者契約により明示的になされていること、その他、前記事情を総合考慮すると、C駐車場について、1台当たり4000円(従来の管理費約500円込み)の範囲であれば、被告としては、有償化を受忍すべきであると認めるのが相当である。
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結論 |
以上より,規約を改正するためには,区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による決議が必要となり,これにより「特別の影響」すなわち受忍すべき限度を超える区分所有者がいるときは,その承諾も必要となります。
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実務上の注意点 |
4.特別の影響を主張する区分所有者の承諾を得ずに規約変更の決議がされた場合の対応
仮に規約の変更が結果的に有効(一部有効)とされた場合であっても,「特別の影響」の有無は、裁判所の最終的な判断を待たなければ明らかにならない場合が少なくないため,区分所有者がその規約変更の効力を争っているような場合には、裁判所の判断を待つことなく、当該区分所有者が変更後の規約に従わないことのみを理由に直ちに管理組合との契約関係を解除するなど債務不履行責任を負わせることは,許されない場合もあります(駐車場使用料の増額につき【最高裁平成10年10月30日判決(民集52巻7号1604頁)】)。
とりわけ,管理費や駐車場使用料の増額(有償化)決議については,賃料増額請求において裁判で増額が「正当」と認められるまで借主は「相当と認める額」の賃料(原則として従前賃料と同額)を貸主に支払えば債務不履行責任を免れるとされていることと「類似した法律関係にある」とも解されています(判例タイムズ991号292頁解説)。
従って,区分所有者が,訴訟において増額(有償化)決議の効力(特別の影響の有無)を争っている場合には、裁判所の判断を待つことなく、当該区分所有者に対し管理組合が当該増額(有償化)決議に従った要求(費用の徴収等)をしたとしても,一見して当該決議内容が社会通念上相当であることが明らかであるような場合以外は,原則としてこれに従う必要はないと考えられます。
【最高裁平成10年10月30日判決(民集52巻7号1604頁)】 ※シャルマンコーポ博多事件
管理組合は、規約の設定、変更等又は規約の定めに基づく集会決議をもって使用料を増額することができ、これが専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものでない限り、専用使用権者は増額された使用料の支払義務を負うことになる。
しかし、この「特別の影響」の有無、殊に、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、裁判所の最終的な判断を待たなければ明らかにならない場合が少なくない。
したがって、専用使用権者が訴訟において使用料増額の効力を争っているような場合には、裁判所の判断を待つことなく、専用使用権者が増額された使用料の支払に応じないことを理由に駐車場使用契約を解除し、その専用使用権を失わせることは、契約の解除を相当とするに足りる特段の事情がない限り、許されないものと解するのが相当である。
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※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
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