・News Access English

不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
電話03-3265-9601
info@tago-law.com 
法定更新時の更新料Menu 

更新:2022年8月6日 
 事例

「賃借人は契約更新時に賃料の1か月分の更新料を支払う」との約定がある場合,法定更新の場合でも,賃貸人は賃借人に対し更新料を請求することができるか。

 解説

1.更新料とは
賃貸借契約における更新料とは,契約期間満了時に契約を終了させずに契約を更新(継続)する場合に,賃貸人と賃借人との間の約定に基づき賃借人が賃貸人に支払うもので,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成し,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができる効果があります。

更新料は,法的には,「賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するもの」と解されており(【最高裁平成23年7月15日判決】),通常は,賃貸借契約締結時にあらかじめ契約書で「契約更新の際は賃料の●か月分の更新料を支払う」等の特約がある場合や契約更新時に更新料の支払いに関する新たな特約をした場合に支払義務が生じます。

以前は,とりわけ居住用物件で消費者契約法10条の適用があるケースで,このような更新料の特約自体の有効性が争われることがしばしばありましたが,現在では,一義的かつ具体的に記載された更新料の特約は,当該更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り原則として有効と解されています(前掲【最高裁平成23年7月15日判決】)。

なお,更新料は,上記の通り賃料の補充ないし前払の趣旨が含まれるものの,複合的な性質有することから,賃貸借契約が中途解約されたとしても,当然には,更新料を契約期間で除した残存期間に対応する金額の返還を請求できるものではありません(【東京地裁平成29年11月27日判決】)。

【消費者契約法10条】
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

【借地借家法9条】
この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。

【借地借家法30条】
この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

【最高裁平成23年7月15日判決】
更新料は,期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に,賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。
これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが,更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。
<中略>
賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記認定事実によれば,本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ,その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって,上記特段の事情が存するとはいえず,これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。
また,これまで説示したところによれば,本件条項を,借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。

【東京地裁平成29年11月27日判決】
建物賃貸借契約における更新料は,一般的に賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有すると解されているものであって(本件賃貸借契約において,別異に解すべき特段の事情は何らうかがわれない),更新料は,更新後の契約年数が複数年に渡る場合に,1年毎の賃貸借契約期間に対応するものとして単純に分割できるものではない
そうすると,本件は,前記のとおり,更新後の賃貸借契約がその期間の途中で合意解約されたものではあるが,更新料を契約期間で除して,残契約期間に相当する金額の返還を当然に請求できるものではない。 

2.合意更新の場合
賃貸借契約が更新されるケースは,大きく合意更新と法定更新とがあります。

このうち,合意更新には,更新時に当事者間で新たに更新契約書を締結する場合(明示的な合意更新)のほか,当初の賃貸借契約書に「期間満了の1か月前まで賃借人が異議を述べないときは,賃貸借契約は同一条件で同一期間自動更新される」というようないわゆる自動更新特約があり賃借人が期間内に異議を述べなかった場合(いわば黙示の合意更新)も含まれます。

この点については,「自動更新条項がある場合は契約期間満了までに契約を終了させないという不作為をもって更新の合意があった」と評価する見解もありますが(筒井健夫ほか『一問一答 民法(債権関係)改正』〔商事法務 2018年〕383頁参照),いずれにしても自動更新特約に基づく更新は合意更新に分類されます。

頭書事例のように「賃借人は契約更新時に賃料の1か月分の更新料を支払う」とのみ記載され,特に「合意更新か法定更新かを問わず更新料を支払う」というように更新の種類が明記されていない場合であっても,合意更新(自動更新含む)の場合に,当該更新料特約が適用され,更新料支払義務が生じることは問題ありません(なお,自動更新の場合につき【東京地裁令和2年12月9日判決】参照)。

【東京地裁令和2年12月9日判決】
※契約書に「賃借人からの本件賃貸借契約を終了させる旨の通知及び賃貸人からの更新拒絶の通知がなかった場合には,期間満了の翌月から起算して,更に2年間本契約は更新される」(契約書3条1項),「契約が更新された場合には,賃借人は,初回の更新時及び以後2年ごとに,賃貸人に対し,新賃料の1か月分相当額を更新期間の開始日の前日又は以後2年ごとの期間開始日の前日までに更新料として支払う」(契約書3条2項)と定められていた事案。

本件賃貸借契約を終了する又は更新を拒絶する旨の通知がされた事実がない以上,本件賃貸借契約は,本件契約書第3条1項に基づいて,平成30年6月の契約期間満了の翌日から2年間契約が自動更新されたと認められるから,被告は,同条2項に基づき,原告に対し,賃料1か月分の更新料を支払うべき義務を負っているというべきである。 

3.法定更新(借家)の場合
これに対し,当事者の合意による更新ではなく,借地借家法5条又は同法26条に基づき法律上当然に更新されるいわゆる法定更新の場合は,更新料の特約の適否がしばしば争われます。

まず,借家については,法定更新の場合には,更新料特約(契約)で「法定更新の場合も含む」旨が明示されておらず,かつ重要事項説明書等他の資料からもその趣旨が明確に読み取れない限り,原則として更新料の支払義務は生じないというのが裁判実務の大勢といえます。

【東京地裁平成25年3月19日判決】
※「賃借人は,期間更新を欲する場合は,前項の期間満了の2か月前までに,賃貸人に申し込むことを要する。更新された場合,賃借人は,改定後賃料の1か月分を更新料としてに支払う」との条項があった事案。

法定更新の場合には,期間の定めのない賃貸借契約となる(借地借家法26条1項)から,合意更新の場合に比して,賃貸借期間の定めの点において,賃借人にとって不利益であることは明らかである上,賃貸借契約の締結に当たり,更新条項を含む賃貸条件を決めて賃貸借契約書を作成するのは通常賃貸人であって,本件賃貸借契約においても同様であったことが認められ(当事者間に争いない。),原告において,本件更新料条項に,「法定更新」を含むことを明記することも,更新時に新たな契約書が作成されない場合に備え,自動更新特約条項を入れることも,可能であったというべきであるから,本件賃貸借契約上,法定更新の場合に更新料の支払義務があるか否かについて明記されていない本件において,賃借人である被告に更新料の支払義務を認めることは,かえって賃貸人と賃借人間の公平を失するものと言わざるを得ない。

【東京地裁平成25年10月21日判決】
賃借人が賃貸人に対し,更新料の支払を約する条項は,賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において,任意規定の適用による場合に比し,賃借人の義務を加重するものであること(最高裁判所平成23年7月15日第二小法廷判決民集65巻5号2269頁参照),契約書上,更新料に関する条項の文言は,「互いの合意があれば,本契約を更新出来るものとし,更新料として乙(被告)は新賃料の1ヵ月分を更新時に甲(原告)へ支払い,再契約を締結するものとする。」となっており,同文言の趣旨は,直接的には,被告の更新料支払義務が合意による更新の際に生じることを示すにとどまっているというべきであって,法定更新の場合にも被告に更新料の支払義務が発生することが一義的かつ具体的に記載されているとは言い難いこと、また,同じく同契約にかかる重要事項説明書上,更新料に関しては,「更新料」との欄に「新家賃の1ヶ月分相当額」との記載があるのみであって,合意更新と法定更新のいずれの場合にも更新料支払義務が発生するのか否かについて特に明示がされているとはいえないこと,その他に原被告間において,被告が原告に対し法定更新に際しても更新料支払義務を負うことが明確に合意されたことを示す客観的証拠はないことからすれば,一般的に,更新料の支払につき一定の経済的合理性がないとはいえないこと等の事情を考慮しても,原被告間の賃貸借契約上,法定更新の場合に被告が原告に対し更新料支払義務を負うことが合意されていると認めることはできないというべきである。

【東京地裁平成27年1月26日判決】
本件賃貸借契約に係る契約書においては,第一条において,賃貸借期間について「本件契約の賃貸借期間は満3年間とする。但し,期間満了に際し,必要があれば協議の上,本件契約を更新することができる。尚,更新料は新賃料の1.5ヶ月とする。」と定めている。
この定めは,更新契約が締結された場合に更新料が発生することを前提として,これを新賃料の1.5か月分とするものと解することができるところ,上記契約書中には,同条以外に更新料に関する定めはなく,更新料に限らず法定更新の場合を想定した定めは存在しない。
そうすると,本件賃貸借契約が法定更新された場合に更新料を支払うことが合意されていたとは認められないのであり,本件賃貸借契約が法定更新により期間の定めのないものとなったこととの均衡を考慮しても,法定更新に伴う更新料の支払義務を負わない

【東京地裁平成29年11月16日判決】
賃貸借契約における更新料条項は,一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものに当たる。
このことからすると,更新料条項によって賃借人に更新料の支払義務を認めるためには,少なくとも,賃貸借契約書においてその趣旨が一義的かつ具体的に記載されていることを要するものと解される。
<中略>
本件賃貸借契約における契約の更新に関する規定は,その2条で,「賃貸借の期間は,平成22年12月10日から平成24年12月9日まで向こう2年間とする。但し,賃借人が契約の更新を希望する場合は,期間満了1か月前までにその旨を賃貸人に申し出,かつ,賃貸人と賃借人で協議の上更新することができる。」旨が規定されているほか,本件更新料条項(20条)で,「契約期間更新に際して,賃借人は賃貸人に対し更新料として新賃料の1か月分を納入し,第6条(賃料等の改定)により賃料等が改定された場合は,敷金を新賃料の2か月分に改定することによって契約期間を更新することができる。」旨が規定されているのみである。
2条の規定は,合意更新に関する記載であることが明らかであるところ,本件賃貸借契約において,法定更新について特に言及した記載は見当たらない。
そして,本件更新料条項(20条)において,「契約期間更新に際して,賃借人は賃貸人に対し更新料として新賃料の1か月分を納入し,(中略)契約期間を更新することができる。」と規定されていることからすれば,賃借人が契約の更新を希望する場合には,賃料1か月分を支払うことにより合意更新ができる旨を定めたものと解するのが自然である。
加えて,法定更新の場合には,従前と同一の条件で(ただし,賃貸借期間については定めがないものとして)更新されることになるから,本件更新料条項における「新賃料」との記載も,合意更新を想定しているものとみるのが自然である。
以上からすると,本件更新料条項は,合意更新の場合を定めたものと解されるのであって,賃借人に対して合意更新と法定更新の場合を区別せずに更新料の支払義務を負わせることを具体的かつ一義的に規定していると評価することは困難であるというほかはない。
これに対し,原告は,一般に,更新料が賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するのであり,更新料の存在を前提として賃料相場が形成されていることを考慮すれば,更新料に対する賃貸人の経済的な期待は保護されるべきである旨を主張する。
しかしながら,被告らも指摘するとおり,本件賃貸借契約の契約書は,賃貸人である原告の側で作成したものであり,法定更新の場合にも更新料の支払義務を課すことを意図していたのであれば,その旨を契約上の規定で明確にしておくことや,あるいは,自動更新特約条項を規定することもできたのであるから,契約書の規定が上記で指摘したとおりの記載ぶりにとどまっていたことによる不利益を原告が負うことになっても,やむを得ないものというべきである。
以上の次第で,本件更新料条項は,法定更新について規定したものとは認められないから,被告らは,同条項に基づき更新料の支払義務を負わない

4.法定更新(借地)の場合
これに対し,借地の場合は,法定更新の場合も期間の定めのない賃貸借契約とはならず,最初の更新時20年,その後の更新時10年の期間が自動的に設定されますので(借地借家法4条,5条1項。但し,旧借地法下の借地契約の場合,堅固な建物につき30年,その他の建物につき20年となる。旧借地法6条1項後段,5条1項),「合意更新の場合に比して,賃貸借期間の定めの点において,賃借人にとって不利益である」(前掲【東京地裁平成25年3月19日判決】)とはいえず,借家の場合と当然に同列に考えることはできません。

すなわち,借地契約では,合意更新と法定更新とで,賃貸借契約期間の点において差異はなく,法定更新でもいわば半永続的に土地の使用が見込まれるにも関わらず,法定更新だからという形式的理由だけで更新料の支払義務を免れるとすれば,事案によっては,合意更新の場合に比して,賃貸人との公平が害される可能性があります

従って,例えば,契約更新すること自体に争いはないものの更新後の賃料の額や更新料の額等の協議が整わず合意に至らず形式的に法定更新されてしまったに過ぎない場合などは,法定更新の場合にも更新料の支払義務を免れないと考えられる余地は十分にあるといえます(【東京地裁平成25年2月22日判決】【東京地裁平成27年2月12日判決】【東京地裁平成28年3月29日判決】等)。

これに対し,「合意更新の場合に更新料を支払う」というように更新料特約が合意更新を前提としていることが明らかであり,かつ賃借人の更新請求に対し賃貸人が異議(借地借家法5条1項但書)を述べるなどして名実ともに法定更新されたと認められる場合には,更新料特約は法定更新には適用されず,更新料の支払義務は生じないと考えられます(【東京地裁令和2年7月31日判決】

また,そもそも契約書上,更新料に関する規定が(合意更新か法定更新かに拘わらず)一切記載されておらず,かつ契約締結の経緯や従前の更新経過等に鑑み更新料の支払いが黙示的に合意されているとも認められないような場合には,借地においても,更新料の支払義務は生じません(【最高裁昭和51年10月1日判決】【東京地裁平成26年8月29日判決】【東京地裁平成28年9月15日判決】)。

なお,契約締結の経緯や前回更新時に更新料を支払っていること等の更新経過に鑑み,更新料の支払いが黙示的に合意されていると判示したものとしては,【東京地裁平成24年11月30日判決】【東京地裁平成27年2月12日判決】【東京地裁平成28年3月29日判決】等があります。

もっとも,前回の更新時に更新料を支払っているとの一事実のみで,当然に次回更新時にも更新料を支払う旨の合意が(黙示的に)成立していたと認められるわけではありませんので(【東京地裁平成25年10月1日判決】【東京地裁平成28年5月20日判決】【東京地裁平成29年3月10日判決】等),多湖・岩田・田村法律事務所では,更新料支払義務に関し,前回更新時に更新料が支払われた経緯や次回更新に向けた交渉経過等に鑑み,総合的に判断しています。

【借地借家法4条】
当事者が借地契約を更新する場合においては、その期間は、更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては、二十年)とする。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。

【借地借家法5条1項】
借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。

【借地借家法6条】
前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

【最高裁昭和51年10月1日判決】
宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りないとした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができ、その過程に所論の違法はない。

【東京地裁平成24年11月30日判決】
※契約書には更新料の支払いに関する条項自体が記載されていなかった事案。

本件合意により,D【※前賃借人】は,平成4年6月17日,足立簡易裁判所において,平成3年3月3日の500万円の授受によって,本件契約が更新されたことが調停条項の中で確認されている。
この500万円の性質については,上記調停条項の中では明らかではないか,その授受によって,本件契約が更新されているとの関係にあるので,更新料であると解するのが相当である。
この点,原告は,本件合意は次回の合意更新の際にも更新料を支払う記載がないし,仮に,その合意があったとしても法定更新にはその効力がないと主張している。
しかし,本件合意により,本件契約の賃貸借期間が平成3年2月22日から20年間更新されたに過ぎず,20年後には再度合意更新ないし法定更新が予定されていること(本件契約が昭和の時期から更新されていることを考慮すると明白である。)を考慮すると,本件合意が今回の本件契約更新限りの更新料であったと解釈することは妥当ではない
また,更新料は,更新時期の賃借権の価格と密接な関係にあるため,更新の際,更新料の額を合意することが困難であることを考慮すると,具体的な価格の定めがないことは更新料の合意を否定する事情にはならないと言うべきである。
したがって,本件合意の当事者の合理的な意思解釈としては,上記更新期間満了後には再度更新料を支払う旨の合意があるものと認める。
なお,原告は,更新料の合意があったとしても,法定更新には適用がないと主張するが,更新料の合意は,賃貸借期間の再度の延長の際に賃借人から賃貸人に交付される金員であって,合意更新か法定更新かで区別する理由がないこと,更新料の価格は当事者間で直ちに合意できないこともあるので,法的更新にはその適用がないとすると賃貸人に一方的に不利益であることなどを考慮すると,法定更新の際にも合意更新と同様に更新料は発生するものと言うべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁平成25年2月22日判決】
※「本件賃貸借契約をさらに合意更新するときは,協議により新たな更新料を定める」と規定されていた事案。

原告と被告との間では,本件土地の賃貸借を継続すること自体には意見の不一致はなかったものの,賃料の額について合意に達することができなかったものであり,賃貸借契約の基本的要素である賃料の額について合意に達しなかった以上,本件賃貸借契約が合意により更新されたと認めることはできない
したがって,本件更新料条項の文言に形式的に従う限り,本件更新料条項は,被告の更新料支払義務の根拠とはならないこととなる。
<中略>
本件更新料条項は,期間の満了時に本件賃貸借契約の更新について賃貸人と被告との間で協議することを当然の前提とし,賃貸人が更新を拒絶し被告に対して本件土地の明渡しを求めるような事態となり,それにもかかわらず法の規定により賃貸借が継続するといった場合はともかく,協議の結果,賃料の額等の賃貸借契約の内容の一部について合意に達することができなくても,賃貸借契約を存続させること自体について意思の不一致がないような場合には,更新料を支払うことを定めたものであると解するのが相当である。
<中略>
被告が支払うべき更新料の額については,本件更新料条項は,協議が調わない場合には相当な額を支払うとの趣旨であると解するのが合理的であり,その場合の相当な額は,最終的には裁判手続により定めることが予定されている
<中略>
本件補足意見書によれば,他の賃貸借の事例では,更新料の額を借地権の価格の3パーセントから10パーセント程度とする例があり,本件土地の所在地に隣接する東京都江東区での事例では,借地の路線価の約10パーセントから20パーセント程度の例があることなどの事情をも勘案すると,本件における更新料の額は,借地権価格の6パーセント程度に相当する500万円が相当であると認める。 
<中略>
被告の更新料支払債務は,本件賃貸借契約の期間の満了により直ちに遅滞に陥ると解することはできないところ,本件更新料条項が,更新料の額を協議により定めるとしていることを考慮すれば,更新料支払債務は,原告から更新料の支払請求がされ,本件賃貸借期間の満了後,協議に要する合理的期間が経過したときに遅滞に陥ると解するのが相当である。
<中略>
原告は,被告との間で,本件賃貸借契約の期間満了の前から,相当額の更新料の支払を求めていたと認められるところ,協議に要する合理的期間は2か月を超えることはないというべきである。

【東京地裁平成25年10月1日判決】
前回更新に際して作成された本件契約書自体には,更新料に関する定めはない。そして,前回更新に際しては,更新料450万円を支払う旨の本件覚書が作成されているが,同覚書も,昭和47年6月29日付け本件賃貸借契約の賃貸借期間が経過した2年程後に,同契約を合意更新することとして,当該更新における更新料の金額の取決めを行い,本件契約書とともに作成されたものであり,その後の更新時の更新料支払義務や更新料の算定方法について何ら記載はない。
したがって,両書面の内容からして,本件覚書が,その後の更新における更新料支払義務まで定めたものと解することはできず,また,その他に,前回更新後の更新(しかも,法定更新も含む。)を含め,更新料支払の合意がなされたと認めるに足りる証拠はない。

【東京地裁平成26年8月29日判決】
宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり,賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生じる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものとは認められない。
原告は,他の賃借人との間の公平性を理由に,被告に対しても更新料の請求が認められるべきである旨主張するが,仮に,Cないし原告が,被告以外の全賃借人から一律の基準に従って算定された額の更新料の支払を受けてきた事実があったとしても,これら更新料の支払は,あくまで個々の賃貸借契約の更新時における契約当事者間の合意の結果によるものとみるほかなく,他の賃借人に対しても,更新料の支払を強制しうる慣習が成立しているということはできない。

【東京地裁平成27年2月12日判決】
※契約書には更新料の支払いに関する条項自体が記載されていなかった事案。

ア 被告は,平成5年4月14日の更新の際,D【※前賃貸人】に対し,契約書に記載がないにもかかわらず更新料として180万円を支払っていること,イ D及び原告は,被告ら以外の借地契約においても,契約書に記載がないにもかかわらず,更新の際には,借地権価格の10パーセントに相当する更新料の支払を受けていることが認められ,さらに,Dと被告との間では,良好な賃貸借関係が形成され,建物の建替や譲渡の承諾についても協議が円満に成立していることなど経過があったことからすると,本件賃貸借契約において,原告と被告との間には,契約書の記載にかかわらず,賃貸借期間の満了の際にはその都度合意で更新がなされ,その際には相当額の更新料の支払がなされるとの合意があったと認められる。
<中略>
更新料については,そもそも賃料の補充ないし異議権の放棄の対価の性質を有しており,合意の協議が整わないで法定更新された場合に賃借人が更新料の支払義務を免れるとすると,賃貸人との公平を害することになることに加え,本件では,Dの承諾のもと,平成18年の時点で,本件土地上の建物が新築されて,今後も賃貸借関係が長く続くことが見込まれることが認められ,合意更新がなされなかった背景には,前記1(1)及び同(2)で認定した事実経過※(更新時期を迎えるまでの間の原告と被告との関係は良好だったが原告が被告に対し更新料の請求をしたことを契機として関係が悪化したこと)があることも併せ考慮すると,法定更新の場合にも更新料の支払義務を免れないとすべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁平成28年3月29日判決】
※契約書には更新料の支払いに関する条項自体が記載されていなかった事案。

ア 被告は,昭和48年3月1日及び平成5年3月1日の更新契約の際には,任意の協議により,原告らに対し,路線価の3から4パーセントに相当する更新料の支払を行ってきたこと,イ 被告は,全体敷地を構成する土地の他の賃貸人にも同様に更新料の支払をしてきたこと,ウ 少なくとも,前件賃料増額訴訟が提起される契機となった大幅な賃料増額請求がなされるまでは、原告らと被告との間では,良好な賃貸借関係が形成され,賃料の増額等の協議が円満になされてきたことなどの経過があったこと,エ 本件のように,更新料の合意が,その時点での経済情勢や使用状況等に鑑みて,契約更新の合意と,個別密着してなされてきた経緯があったことを考慮すると,仮に被告が上場企業であることを考慮しても,合意事項を予め文書に明確に定めることまで不可欠とまではいえないとまではいえないことなどからすると,<中略>契約書の記載にかかわらず,賃貸借期間の満了の際にはその都度合意で更新がなされ,その際には相当額の更新料の支払がなされるとの合意があったと認められる。。
<中略>
合意更新された場合に支払われる更新料については,賃貸期間に賃貸人が受領する経済的給付という意味では賃料の補充の性質を有することは否定できない上,更新期間中における異議権の放棄の対価の性質を有していることを考慮すると,合意の協議が整わないで法定更新された場合に,半永続的に土地の使用が見込まれるにもかかわらず,賃借人が更新料の支払義務を免れるとすれば,更新料の支払いを伴う合意更新の場合に比して,賃貸人との公平が著しく害されることになることは明らかである。
本件では,被告の事業規模,全体敷地の使用形態等に鑑みると,被告においては今後も長期間にわたり継続的に同所で事業展開を図ることが見込まれる上,<中略>賃貸借契約において定められた使用目的や転貸譲渡可能などの契約条項からすると,本件借地の場合は,法定更新の場合においてもなお,住宅建物所有目的とする一般の借地よりも正当事由による明渡し請求がより困難であることに変わりがなく,法定更新の場合にも更新料の支払義務を免れないと認めるのが相当である。

【東京地裁平成28年5月20日判決】
前回更新に際して,Dが,Cに対し,更新料として300万円を支払った事実が認められる。原告は,この支払の事実から,CとDは,本件契約の更新の際には社会的相場に従った更新料を授受するとの合意をしていた事実が当然に認められると主張する。
しかし,上記の更新料の支払は,旧契約を合意更新して堅固建物所有目的に変更するという状況下において行われたのであるから,このことから直ちに,将来の,目的変更等を伴わない法定更新の場合についても更新料を支払う旨の合意をしたことが推認されるものともいえない。
加えて,本件契約は,そもそも更新料についての定めを含んでいないのであって,少なくとも本件契約の締結当時において,CとDとの間に,将来の更新料の授受について合意がなかったことは明らかに認められる。
さらに,CとDとは,上記の更新料の授受に際しても,将来の契約更新時における更新料の支払について,契約書や覚書等の書面を取り交わしていないことが認められる。
これらの事情を総合考慮すると、前回更新に伴い更新料を授受した時点において,CとDとの間に,将来の更新時において更新料を支払う旨の合意が成立したと認めることはできない。 

【東京地裁平成28年9月15日判決】
合意が当初の契約時にされたか,契約の更新時にされたかは問わないものの,当事者間の合意がなくても,土地の賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり,賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずると解することはできず,本件全証拠によっても,その旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものと認めることはできない。

【東京地裁平成29年3月10日判決】
被告は,平成27年6月30日,原告からの本件賃貸借契約に係る更新料の請求に対し,更新料の契約を行なわなければならないが,暫定的に相続分の3分の1で進めたいと考えている旨の本件被告メールを送信したことが認められ,かかる事実関係を前提とすると,同日,被告が更新料を支払う旨の意思を表示したことによって,本件賃貸借契約について更新料を支払うことについての意思が合致し,更新料の支払合意が成立したと認められる。
<中略>
本件訴訟に至る前に,被告が原告に対し,更新料を支払わない旨の意思を表示した事実が認められず,被告が更新料の支払義務を負うことを前提に,その額についての協議を行っていることに照らすと,本件訴訟に至り,被告が更新料の支払義務を否定することは,信義則に反し,許されないというべきである。
<中略>
本件賃貸借契約に係る契約書にも更新料を支払う旨の規定はないことに照らすと,前回の更新時において更新料が支払われたという一事をもって,直ちに,30年という遠い将来の更新時においてもなお,更新料を支払う旨の合意が成立したと認めることはできない

【東京地裁令和2年7月31日判決】
※賃借人の更新請求及び土地の使用継続に対し,賃貸人が異議を述べたうえ,建物収去土地明渡しを求めた事案。

本件賃貸借契約において,原告と被告会社は,更新料について,「甲(原告)乙(被告会社)の合意により本契約を更新する場合には,乙(被告会社)は相当の更新料を甲(原告)に支払う」(本件更新条項)と定めており,かかる文言によれば,原告と被告会社が,本件賃貸借契約を合意更新する場合に,被告会社が原告に対し,相当の更新料を支払う旨の合意をしたと解するのが相当である。
本件において,本件賃貸借契約が合意更新されていないことは争いのない事実であるから,合意更新の場合について定めた本件更新条項は適用されないというべきである。
なお,原告は,法定更新の場合には,賃借人は更新料の支払を免れるとすれば,合意更新の場合に比して,賃貸人との公平が著しく害されると主張するが,原告自身が,合意更新の場合に更新料を支払うと明記した本件更新条項に合意したのであるから,原告の前記主張は採用できない。

 結論

以上より,まず借家については,法定更新の場合に更新料を支払う旨の明記がなく,かつ重要事項説明書等他の資料からもその趣旨が明確に読み取れない限り,更新料の支払い義務は認められません(逆にいえば,「法定更新の場合にも更新料の支払義務がある」旨が特約に明記されていれば,法定更新の場合でも更新料の支払義務が生じると解されます)。

これに対し,借地については,契約書上,更新料に関する規定が(合意更新か法定更新かに拘わらず)そもそも一切定められておらず,かつ当事者間の従前の契約経緯等に鑑み黙示的な更新料支払義務に関する合意も慣例も認められないような場合には,更新料の支払義務は認められませんが,とりあえず「更新時に更新料を支払う」旨の明記があれば,例え法定更新であっても,更新料の支払義務が認められる可能性はあると考えられます。

もっとも,仮に法的には更新料の支払義務はなくても,これを支払うのは賃借人の自由であり,更新料の支払の有無自体は,更新拒絶の正当事由の判断の一要素にはなり得ると考えられます(【東京地裁平成28年12月28日決定】参照)。

また,前記のとおり更新料は「賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む」と解されているため(前掲【最高裁平成23年7月15日判決】),賃料増減額請求の相当性を判断する一要素にもなり得ると考えられます(【東京地裁平成27年6月25日判決】【東京地裁令和元年8月27日判決】参照)。

すなわち,更新料を支払っている(=賃料の前払いをしている)となれば,実質賃料は,「実際支払賃料+更新料(一時金)の運用益・償却分」と評価され得るため,賃借人は賃料をその分多く支払っていることになり,賃料増額請求を受けた際に賃借人側に有利に作用する可能性があります。

従って,賃借人側からすれば,合意更新か法定更新かに関わらず,念のため更新料を支払っておいたほうが,次回更新時に立ち退きを迫られるリスク(=更新拒絶の正当事由が認められるリスク)や,賃料増額請求が認められるリスクを多少なりとも軽減できるというメリットは期待できるでしょう。

なお,仮に更新料の支払義務が否定されたとしても,信義則上,既に支払い済みの更新料の返還請求までは原則として認められないと考えられます(借地契約に関し【東京高裁平成11年6月28日判決】参照)。

【東京高裁平成11年6月28日判決】
控訴人は、右二〇万円を更新料の全額の趣旨で被控訴人に送金したのであるが、この金額は、賃料の一か月分にほぼ近い金額として、本件賃貸借契約が更新される以上控訴人が被控訴人に対して支払ってしかるべき金額であると控訴人自ら判断したものである上、右送金に当たり、更新料につき合意が成立しない場合には返還を求めるなどの留保は何ら明示されていないのであり、そして、このことと右認定の経過に照らせば、被控訴人がこれを更新料の一部として受領したことは、首肯し得るところである。 
右のような事情に照らせば、結果として本件賃貸借契約が更新されている以上、右特約に基づく被控訴人の控訴人に対する更新料請求権が肯定されなかったからといって、右金員の返還を請求することは、信義則上許されないものと解するのが相当である。

【東京地裁平成27年6月25日判決】
平成22年の更新に際し,原告から被告に800万円の更新料が支払われていることなど,前提事実記載の各事情も考慮すると,本件賃借権の地代を増額すべき事情は認められないから,本件賃借権の地代は平成25年4月1日以降も引き続き月額6万円と認めるのが相当である。

【東京地裁平成28年12月28日決定】
更新料の支払は,借地契約上その支払義務が定められていない場合,もとより,借地人が地主に対して支払う義務はないものの,更新料の支払の有無自体は,更新拒絶の正当事由の判断の一要素となると解される。

【東京地裁令和元年8月27日判決】
裁判所鑑定において固定資産税路線価の変動率を重視してスライド法で導き出された相当賃料額(8万3690円)が,直近合意時点の実質賃料額(賃料6万0600円に,更新料の運用益・償却額1万6125円を加えた7万6725円)を上回っており,本件においては更新料の運用益等では賄いきれない程度に相当賃料額が上昇したと認められる。

 実務上の注意点

5.借地の更新料の相場
借家契約(建物賃貸借)においては,更新料は,立地や用途を問わず,概ね月額賃料の1〜2か月分が相場(主流)であると思われます。

これに対し,借地契約(土地賃貸借)における更新料は,立地,土地の形状,契約期間の長短,借地条件等により,金額(相場)にばらつきがあります。

しかも,借地契約は,20年以上の比較的長期間の契約期間になるのが通常のため,当初の賃貸借契約締結時に20年後の更新料の金額(相場)を見込んであらかじめ確定金額で定めておくことは非常に困難であり,単に「更新時に更新料を支払う」との文言のみ記載されている契約書も多く見受けられます。

一般的には借地権価格の5〜10%とする例が多いとも言われていましたが(中川淳ほか『判例タイムズ第308号』〔判例タイムズ社 1974年8月15日〕236頁解説参照),最近では,東京,横浜地区などでは,借地権価格の3〜5%で決められているのが「通常」とも言われています(野辺博ほか『借地借家の法律相談(第1次改訂版)』〔学陽書房 2011年〕)。

多湖・岩田・田村法律事務所としての相場感としては,東京23区内の借地に限って言えば,更地価格の3%程度又は借地権価格(更地価格×借地権割合)の5%程度くらいが借地の更新料の相場ではないかと考えられます

契約書上単に「更新時に更新料を支払う」としか記載されていない場合,当事者の交渉・合意がまとまらなければ,最終的には裁判所が,不動産鑑定等を踏まえ適正な更新料を判断することになります。

この点,裁判所では,2回目以降の更新時の更新料については,前回更新時に支払われた更新料の金額も重要なメルクマールとする傾向にあります(【東京地裁平成27年2月12日判決】【東京地裁平成27年8月18日判決】【東京地裁平成28年3月29日判決】【東京地裁平成30年2月28日判決】【東京地裁令和2年7月15日判決】等)。

これに対し,例えば「本件借地の南側の相続税路線価に1.25を乗じた価格を1平米あたりの価格として算定した本件借地の更地価格の3%相当額を更新料として支払う」というように一定の算定基準が契約書であらかじめ定めていた場合はこれに従って計算した更新料の支払義務が生じます。

特に分譲マンションの敷地が借地であり,多数の区分所有者が当該借地権を準共有するようなケースでは,あらかじめ算定基準を定めておくのが現在の主流といえます(そうしないとマンション管理組合が正常に機能していない分譲マンションなどでは更新時に多数の区分所有者との交渉・調整が必要になりかねず地主にとって非常に面倒なことになります)。

【東京地裁平成27年2月12日判決】
※渋谷区,借地権割合不明の事案。

前回更新時に当時の「借地権価格の10%」に相当する更新料を支払っていたことも加味して,借地権価格の8.94%程度をもって「更新料の相当額」と認定。

【東京地裁平成27年8月18日判決】
※世田谷区,借地権割合60%の事案。

⇒原告の主張する「更地価格の5%」との金額が前回更新時に合意された更新料に比して相当に高額であるとし,被告の主張する「借地権価格の5%」をもって「相当な更新料」と認定。

【東京地裁平成28年3月29日判決】
※板橋区,借地権割合不明の事案。

本件鑑定の結果によれば,平成25年3月1日時点の相当更新料額は,本件A寺関係賃貸借契約につき1157万円(1平方メートル当たり5462円),本件B賃貸借契約につき1277円(1平方メートル当たり5462円)としている。
本件鑑定によると,本件A寺関係賃貸借契約及び本件B賃貸借契約の対象土地の路線価を算出し,前回更新時に支払われた更新料額を時点修正した上で,50パーセントの補正を行い,1平方メートル当たり5462円と算出している。
上記更新料額は,本件鑑定によって算出された借地権価格の約2.8パーセントに相当する。

⇒鑑定結果に基づき,借地権価格の約2.8%をもって「更新料の相当額」と認定。

【東京地裁平成30年2月28日判決】
※杉並区,借地権割合60%の事案。

本件鑑定は,本件土地の更地価格に乗ずべき適切な更新料率を2.5パーセントと査定するに当たり,〔1〕東京都内における更新料の相場について,更地価格の2〜3パーセントのケースが多いといわれていること,〔2〕平成10年和解における更新料330万円は,当時の更地相当額1億2917万1000円の約2.55パーセントに相当すること,〔3〕杉並区の住宅地域における更新料額は,物件によるものの,月額地代の50か月弱〜100か月超であること,〔4〕杉並区の住宅地域における更新料の坪単価は,物件によるものの,1坪当たり2万2000円〜7万5000円程度のものが多いことなどの諸事情を勘案して,上記結論を導いたものと認められる。

⇒更新料を更地価格の2.5%と査定した鑑定結果を判決でも認定(採用)。

【東京地裁令和2年7月15日判決】
※中野区,借地権割合70%の事案。

A鑑定士は,本件賃貸借契約2【※当初の賃貸借契約の一部変更後の契約】の更新料が210万円であることを前提に,次のとおり,本件賃貸借契約3【※最初の更新後の契約】の更新日である平成30年12月25日の時点における相当更新料額を,249万円と算定した。
(ア)直近合意時点(本件賃貸借契約3の締結日である平成10年12月24日)における本件賃料3は,月額2万1632円であったため,本件賃貸借契約2の更新料210万円は,約97か月分相当額である。
これに対し,平成30年における本件賃料3は,月額2万7621円であったため,その97か月分相当額である264万4000円が,本件賃貸借契約3の更新料相当額と試算される。
(イ)他方,更新料については,借地権価格の一定割合(特に3ないし5パーセント)とする考え方もあるところ,直近合意時点(平成10年12月24日)における本件土地の価格(5878万7000円)に借地権割合(70パーセント)を乗じて算出した借地権価格に,5パーセントを乗じると,本件賃貸借契約2の更新料(210万円)に近似する,205万8000円となる。
そこで,価格時点(平成30年12月25日)における本件土地の価格(6671万1000円)に借地権割合(70パーセント)を乗じて算出した借地権価格に,上記と同じ5パーセントを乗じると,233万5000円と試算される。
(ウ)前記(ア)及び(イ)の各試算は,いずれも前回更新時の更新料をベースにしており,説得力が高いため,各試算更新料を均等に重視することとし,上記各試算更新料を1対1の割合で平均して,上記の鑑定結果を導いた((264万4000円+233万5000円)÷2=約249万円)。
A鑑定士の算定手法は,その内容に照らし,相当なものと評価し得る上,その根拠資料について不合理な点も見当たらない。
<中略>
以上によれば,平成30年12月25日時点における本件賃貸借契約3の相当更新料額については,A鑑定士による鑑定結果を採用し,249万円と認めるのが相当である。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁令和3年3月25日判決】
※大田区,借地権割合70%の事案。

⇒「東京都市部では更新料の額については更地価格の3〜5パーセントが相場の目安とされているところ,昨今の経済情勢や,本件においては堅固な共同住宅であることなども考慮し,更新料の支払割合は4パーセントを採用することが相当である」とする裁判所鑑定結果を採用し,更地価格の4%をもって「適正更新料額」と認定。

6.権利金との違い
更新料が賃貸借契約の更新時に支払われる一時金であるのに対し,賃貸借契約(主に借地契約)の締結時(借地権設定時)に支払われる一時金を「権利金」と言います。

更新時と違い,最初の契約締結時に揉めることは通常なく,権利金については,裁判でその金額の妥当性等が争われることもほとんどないため,裁判例を参考とした一般的な相場感を示すことは困難ですが,「借地権の設定」とは,要するに「借地人に借地権という財産を取得させる」という効果を生じさせるもので,権利金を,その設定対価であると考えれば,少なくとも普通借地権については,基本的には借地権価格(更地価格×借地権割合)が,金額の一応の目安にはなると思われます(【東京地裁平成29年9月12日判決】参照)。

この点については,田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』〔日本評論社 2014年〕136頁でも,「一般に,借地権の設定に際しては,借地権価格が発生することを理由として,借地権価格相当の権利金が授受され,地代の額との関係において経済合理性があるものと考えられている。これに対し,定期借地権は期間の満了により必ず消滅するものであることから,高額な借地権価格は発生しないものとして,定期借地権設定の際の権利金の授受の慣行は存しない」と記載されています。

もっとも,上記記載では,普通借地権ではなく,いわゆる定期借地権(借地借家法22条)の場合には,権利金の授受の慣行がないかの如く記載されておりますが,他方で,澤野順彦編『実務解説 借地借家法』〔青林書院 2008年〕83頁では,「定期借地権を設定するに際し,権利金を授受する方式によるものは全体の割合からすれば,まだ少ない」としつつ,「今後は権利金方式によることが多くなるものと予想されている」とも記載されており,定期借地権だからといって,「権利金の授受の慣行が存しない」というのは,少し言い過ぎのような気がします。

【借地借家法22条】
存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。

【東京地裁平成29年9月12日判決】
※江東区の事案。

仮に本件権利金合意がいわゆる権利金について合意したものだとした場合,権利金の額は借地権価格(更地価格に借地権割合を乗じた価格)が目安になるとの考え方がある(原告,被告らのいずれもかかる考え方に立脚していると考えられる。)ところ,平成8年における本件土地の路線価は1平方メートル当たり59万円であり,路線価を更地価格の8割として計算すると,本件土地の更地価格はおよそ3億6358万円(59万円×敷地面積492.99メートル÷0.8),借地権割合を7割とすると借地権価格は約2億5450万円となる。
<中略>
本件権利金の2250万円という価格は,更地価格の6パーセント程度,借地権価格の9パーセント弱であることからすると,権利金としてはかなり低いとの評価が可能と考えられる。

7.契約更新拒絶通知をするリスク
上記のとおり,頭書事例のような「賃借人は契約更新時に賃料の1か月分の更新料を支払う」との特約は,合意更新(自動更新含む)には適用されますが,(特に借家の場合)法定更新には原則として適用されません。

そうすると,賃貸人としては,賃借人に対し契約更新の拒絶通知をしたものの,正当事由が認められずに法定更新になってしまうと,契約更新拒絶通知をしたために更新料の請求ができなくなるというヤブヘビ状態になります。

従って,契約書に「法定更新の場合も更新料を支払う」という記載がないケースで契約更新を拒絶する場合は,契約更新拒絶通知を発するか否か,より慎重な判断が必要となります。

なお,契約更新拒絶通知ではなく,契約更新を前提に当事者が更新の意思及び更新後の契約期間を明示した上で更新後の賃料増減額を請求したに過ぎないような場合には,更新後の賃料額について更新時までに合意できなかったからといって,当然には法定更新とはならず,黙示の合意更新が成立したと解せる余地があります(【東京地裁平成19年8月24日判決】【東京地裁令和2年12月1日判決】)。

これに対し,当事者が更新の意思及び更新後の契約期間を明示せず,かえって法定更新されたとの認識を有していた場合は,黙示の合意更新の成立は認められ難くなります(【東京地裁平成29年5月11日判決】【東京地裁令和2年6月23日判決】)。

【東京地裁平成19年8月24日判決】
本件契約は,平成15年4月24日の経過によって当初の賃貸期間が満了し,最初の更新期を迎えることになるが,上記認定した事実によれば,控訴人と被控訴人は,明示的には本件契約の更新を合意したとはいえない
しかし,上記更新期の前に,控訴人が更新の話を被控訴人に持ちかけていたこと,被控訴人は,賃貸期間経過後も本件居室に居住していたが,控訴人の指示に基づき,本件契約の更新に必要とされた本件火災保険契約を締結し,その保険料を支払ったこと,平成17年になってからではあるが,控訴人の要求に応じて本件契約における約定どおりの更新料を2回に分けて支払っていたことに照らすと,上記更新期において,控訴人と被控訴人との間に,黙示の更新の合意が成立したものと推認することが相当である。
したがって,本件契約は,上記更新期後も従来同様の約定(賃貸期間は,平成15年4月25日から平成17年4月24日までの2年間)で更新されたというべきである。
また,このようにして更新された本件契約の賃貸期間は,平成17年4月24日に再度更新期を迎えるところ,控訴人が同年になってから更新料を請求し,被控訴人が,上記更新期を過ぎた同年6月30日及び同年8月26日に更新料を支払ったことに照らすと,控訴人と被控訴人との間には,上記更新期において,再び黙示の更新の合意が成立したものと推認することが相当である。

【東京地裁平成29年5月11日判決】
期間の満了後,本件契約に関し,賃料改定に関する合意は順次していたものの契約期間に関する合意をしたことはなかったことが認められるから,本件契約は,法定更新により期間の定めのない契約となったものと認められる。

【東京地裁令和2年6月23日判決】
平成28年3月頃,賃料増額をめぐり紛争中であったことから,原告及び被告は,それまでの更新時期に作成されていたような更新契約書を作成しておらず,他に明示的な更新合意がされたと認めるに足りる証拠はないことに加え,原告と被告はいずれも,平成28年3月に契約更新合意はしておらず法定更新されたという認識を有していることに照らせば,平成28年3月に本件賃貸借契約につき更新の合意はされなかったというべきであるが,正当事由を具備した更新拒絶がされたわけでもないので,結局,法定更新されたと解するのが相当である。
原告と被告は,平成28年3月から現在に至るまで,一貫して本件賃貸借契約が存続することを前提として行動していたことがうかがわれるが,借地借家法に規定される法定更新の要件を考慮すれば,このことをもって黙示的な合意更新があったと認定することはできない
なお,弁論の全趣旨によれば,被告は,原告に対し,平成28年3月頃,当時の1か月分の賃料相当額を支払ったことが認められるが,争いはあるものの法定更新についても更新料の支払を要するという説も存在することからすれば,上記金員は法定更新の際の更新料として支払われた可能性もあり,上記支払をもって黙示的に合意更新がされたと認定することはできない

【東京地裁令和2年12月1日判決】
原告は,平成31年2月28日の期間満了に先立ち,被告に対し,本件賃貸借契約の更新を明示した上賃料増額の意思表示をするとともに,増額後の更新料,差額敷金及び損害保険料の支払を求めたこと,これに対し,被告は,賃料の増額には応じられないと回答したものの,更新時に支払うべき損害保険料は支払ったことが認められる。
以上の事実によれば,原告と被告との間で,平成31年2月28日の期間満了前に本件賃貸借契約を更新する旨の黙示の合意が成立したと認めることができる。
<中略>
なお,本件更新条項の文言は,合意更新の場合に限定していないと解されること,採用した鑑定は,継続賃料の算定過程において,更新料償却額を控除しており,更新料の支払があることを前提に賃料額を算定していることに鑑みれば,仮に,法定更新と認めた場合であっても,本件賃貸借契約が更新された場合には,本件更新条項が適用され,被告は,原告に対し,更新料を支払う義務があると考えるのが相当である。

8.借家の法定更新の場合に更新料を請求する条項
上記のとおり,「法定更新の場合にも更新料の支払義務がある」旨が特約に明記されていれば,法定更新の場合でも更新料の支払義務が生じると解するのが実務の大勢ですが,借家の場合は法定更新後は期間の定めのない賃貸借契約となるため(借地借家法26条1項但書),更新料を請求できるのも,法定更新時のみ(つまりその1回限り)となります。

例えば,2020年4月1日~2022年3月31日まで(2年間)の約定で締結された賃貸借契約(法定更新時の更新料支払特約あり)が,2022年4月1日に法定更新された場合,2022年4月1日の法定更新時には更新料を請求できますが,それ以降は新たな期間の合意がない限りもはや「更新」という概念がなくなるため(契約終了日の定めがないから更新もあり得ない),当該法定更新時からさらに2年経過したとしても(2024年4月1日到来したとしても),2度目の更新料の請求はできません。

もっとも,法定更新の場合も,その後,当初の契約期間(2年)が経過する毎に更新料と同額の金員を支払う旨の特約があれば,(もはや「更新料」とは呼べませんが)更新料と同額の金員を請求することができると思われます。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,借家の賃貸人側から相談を受けた際は,次のような【条項例】を定めておくよう助言しています。

【条項例】
1 本件賃貸借契約が更新(合意更新か,自動更新か,法定更新かを問わない。)された場合,更新される毎に,賃借人は賃貸人に対し,賃料とは別途,更新後の賃料の1か月分相当額の更新料を支払う。
2 本件賃貸借契約が法定更新された場合は,法定更新時に前項に基づき更新料を支払って以降,当初の賃貸借契約期間に相当する期間が経過する毎に,賃借人は賃貸人に対し,賃料とは別途,その時点の賃料の1か月分相当額を支払う。

【借地借家法26条1項】
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

【東京地裁令和3年9月30日判決】
※「本契約が法定更新された場合でも被告は原告に対し更新料(ただし,この場合従来の賃料が基準となる)を支払わなければならない。本契約が法定更新された場合,法律の規定により本契約は期間の定めのない賃貸借となるがその場合でも被告は原告に対し当初予定されていた期間ごとに更新料と同額の金員を支払うこととする」という「本件法定更新の特約」が定められていた事案。

本件合意更新において,更新料の支払及び本件法定更新の特約が定められており,本件賃貸借契約が法定更新された場合であっても,被告は原告に対し当初予定されていた期間である2年ごとに更新料と同額の金員を支払う義務があるものと認められる。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


〒102-0083 東京都千代田区麹町4-3-4 宮ビル4階・5階
電話 03-3265-9601 FAX 03-3265-9602
Copyright © Tago Iwata & Tamura. All Rights Reserved.