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連帯保証人の責任Menu 

更新:2024年3月25日 
 事例

AがBよりマンションを借り受けるにあたり,CがAの連帯保証人となった場合,C(連帯保証人)は,A(借主)の未払賃料のみならず原状回復費用や残置物撤去費用(明渡費用)についてもB(貸主)に対し責任を負うか。

 解説

1.連帯保証人とは
保証人(C)とは,主債務者(A)が契約上の義務を履行しなかった場合に,主債務者(A)に代わり債権者(B)に対し義務を履行しなければならない者のことをいい(民法446条1項),保証人の中でも連帯保証人は,「連帯」すなわち主債務者に弁済の資力があるか否かに関係なく(仮に主債務者に十分な資力があり且つ取立てが容易であっても)責任を負わされます(民法454条)。

すなわち,債権者は,主債務者と連帯保証人のいずれから先に請求しても良く(連帯保証人には,先に主債務者に催告するよう要求する抗弁権がない),また,主債務者に資力がありかつ執行も容易だったとしても,連帯保証人に請求することができます(連帯保証人には,先に主債務者に資力を検索するよう要求するの抗弁権がない)。

実務上は,「連帯保証」がほとんどで,連帯保証ではない単純な保証契約は極めて稀です。

【民法446条】
1 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。

2 以下省略

【民法452条】
債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。

【民法453条】
債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。

【民法454条】
保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。

2.保証意思の書面性
保証人との保証契約は,書面又はその内容を記録した電磁的記録でしなければ効力を生じません(民法446条2項及び3項)。

もっとも,ここでいう「書面」は,「保証債務の内容が明確に記載された保証契約書又はその申込み若しくは承諾の意思表示が記載された書面にその者が署名し若しくは記名して押印し,又はその内容を了知した上で他の者に指示ないし依頼して署名ないし記名押印の代行をさせることにより,書面を作成した場合,その他保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で上記と同視し得る程度に明確に保証意思を表示したと認められる場合」を意味すると解されています(【東京高裁平成24年1月19日判決】)。

なお,この点については,【東京地裁平成29年2月14日判決】でも,「民法446条2項は,保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じないと規定しているところ,保証契約について書面性を要求する趣旨は,片面的に義務を負うこととなる保証人を保護するため,保証意思が外部にも明らかになっている場合に限り契約としての拘束力を認めるという点にあるから,専ら保証人の保証意思がその書面上に示されていれば足りる」と判示されています。

したがって,民法446条2項にいわゆる「書面」は,保証契約自体を書面で締結していなければならない趣旨ではなく,専ら保証人の保証意思のみがその書面上に示されていれば足りるため,債権者と保証人双方の署名又は記名捺印のある契約書までは不要と解されています。

また,保証人の保証意思がその書面上に明確に示されていれば,保証内容を了知した上で他者に署名,捺印の代行を指示して代行させた場合(【東京地裁平成28年3月24日判決】),他者が記入した保証契約書を自身が作成したものであると明確に表明した場合(【東京地裁平成28年9月7日判決】),「保証人」欄ではなく「借主」欄に署名押印した場合(【大阪高裁平成20年12月10日判決】)でも,いずれも保証契約は有効となります。

なお,保証人を保護するという民法446条2項及び3項の趣旨に鑑みると,例えば,「自分が保証人になるからこの賃借人に物件を貸してあげて欲しい」と賃貸人に対し保証人自ら積極的に保証意思を示して賃借人への貸し付けを促し,かつそのことが賃貸人にとって賃借人への貸し付けを決断する主要な動機になったような場合には,書面性の欠如を理由に保証契約の無効を主張することが禁反言ないし信義則により排斥される可能性もあると考えられます(事業のために負担した貸金等債務の保証につき要求される保証意思宣明公正証書(民法465条の6第1項)の欠如の場合に関するものですが,鎌田薫ほか『重要論点 実務 民法(債権関係)改正』〔商事法務 2019年〕154頁参照)。

【民法446条】
1 省略

2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

【民法465条の6第1項】
事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。

【大阪高裁平成20年12月10日判決】
民法446条2項が保証契約について書面を要求する趣旨は、保証契約が無償で、情義に基づいて行われる場合が多いことや、保証契約の際には保証人に対して現実に履行を求めることになるかどうかが不確定であり、保証人において自己の責任を十分に認識していない場合が少なくないことから、保証を慎重ならしめるために、保証意思が外部的にも明らかになっている場合に限って契約としての拘束力を認めるという点にあるところ、控訴人は、A【※主債務者】等から依頼されて、A【※主債務者】の被控訴人に対する債務を保証する意思で、金銭消費貸借契約書の借主欄に署名押印をしたというのであるから、これによって、主債務者であるAと同じ債務を連帯して負担する意思が明確に示されていることに違いはなく、保証意思が外部的に明らかにされているといえる。
※【 】内は筆者加筆。

【東京高裁平成24年1月19日判決】
保証契約は,書面でしなければその効力を生じないとされているところ(民法446条2項),同項の趣旨は,保証契約が無償で情義に基づいて行われることが多いことや,保証人において自己の責任を十分に認識していない場合が少なくないことなどから,保証を慎重にさせるにある。
同項のこの趣旨及び文言によれば,同項は,保証契約を成立させる意思表示のうち保証人になろうとする者がする保証契約申込み又は承諾の意思表示を慎重かつ確実にさせることを主眼とするものということができるから,保証人となろうとする者が債権者に対する保証契約申込み又は承諾の意思表示を書面でしなければその効力を生じないとするものであり,保証人となろうとする者が保証契約書の作成に主体的に関与した場合その他その者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で明確に保証意思を表示した場合に限り,その効力を生ずることとするものである。
したがって,保証人となろうとする者がする保証契約の申込み又は承諾の意思表示は,口頭で行ってもその効力を生じず,保証債務の内容が明確に記載された保証契約書又はその申込み若しくは承諾の意思表示が記載された書面にその者が署名し若しくは記名して押印し,又はその内容を了知した上で他の者に指示ないし依頼して署名ないし記名押印の代行をさせることにより,書面を作成した場合,その他保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で上記と同視し得る程度に明確に保証意思を表示したと認められる場合に限り,その効力を生ずるものと解するのが相当である。

【東京地裁平成28年3月24日判決】
被告は,A【※主債務者】の自動車の買換えに伴う同人の債務につき連帯保証するという本件保証契約の内容を了知した上で,同人に本件書面の署名,捺印の代行を指示又は依頼したものと認めるのが相当である。
なお,仮に,A【※主債務者】が記載内容を本件販売店の担当者に伝えて,その者に更に署名,捺印を代行させたとしても,それは被告のA【※主債務者】に対する指示又は依頼の趣旨の範囲内に含まれるというべきである。 
そうすると,本件保証契約については,平成24年12月21日に被告の意思に基づき,本件書面によって原告に対する申込みがされ,同月22日に成立したものと認められる。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁平成28年9月7日判決】
被告は,本件連帯保証契約の相手方当事者である原告の担当者に対し,本件連帯保証契約書に被告の氏名及び住所を記入してこれを作成したのが被告自身である旨を明確に表明した上,本件連帯保証契約に基づく連帯保証人の債務の具体的内容を確認し,かつ被告自身が当該債務を負うことを明示的に承諾したものと認められる。
かかる被告の言動に照らすと,本件連帯保証契約書に実際に文字を記入した者を特定するに足りる証拠があるとはいえないことにかかわらず,本件連帯保証契約書が被告の意思に基づき作成された文書であるとの被告自身が表明した事実を当裁判所の判断の基礎として認定することが可能かつ相当というべきであり,被告の保証の意思表示は,本件連帯保証契約書によって有効になされたものと優に認めることができる。

【東京地裁平成29年2月14日判決】
民法446条2項は,保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じないと規定しているところ,保証契約について書面性を要求する趣旨は,片面的に義務を負うこととなる保証人を保護するため,保証意思が外部にも明らかになっている場合に限り契約としての拘束力を認めるという点にあるから,専ら保証人の保証意思がその書面上に示されていれば足りると解すべきである。

3.連帯保証人の責任の範囲
賃貸借契約における借主の連帯保証人も,借主が負う賃貸借契約上の義務を代わりに履行する義務を負っていますので,未払賃料や更新料はもちろん,契約終了後の明渡義務や原状回復義務についても責任を負い,例えば,借主が不適切な占有使用方法により,建物を著しく毀損した場合には,連帯保証人も借主とともに損害賠償義務を負うことになります(【東京地裁昭和51年7月16日判決】)。

なお,賃貸借契約における保証人の地位は一身専属性を有するものではなく相続性を有すると解されています(【大審院昭和9年1月30日判決】【東京地裁平成23年12月19日判決】)。

また,更新が原則とされる賃貸借契約においては,反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り,連帯保証人の責任は更新後も存続すると解されているため(【最高裁平成9年11月13日判決】),契約が更新される限り,連帯保証人の責任もいわば延々と継続するのが原則です。

なお,借地借家法の適用の無い駐車場用地の賃貸借についても,「不動産の賃貸借」である以上は,当初から更新が予定されていない一時使用目的であることが明らかである場合を除き,基本的には同様に解して良いと思われます(【東京地裁平成30年12月5日判決】参照)。

ただし,「反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情」が認められ得る場合は,更新後の賃貸借契約から生ずる賃借人の債務つき連帯保証人の責任は及びません。

具体的には,保証契約書に「更新後については連帯保証しない」と明記されている場合,更新時の賃貸借契約書(更新契約書)の保証人欄に当初の保証人が署名押印せず,敢えて別の保証人のみが署名押印した場合(【東京地裁平成25年2月20日判決】【東京地裁平成27年1月13日判決】),「定期建物賃貸借契約」と明記されていてこれを前提に連帯保証契約に応じたが事前説明を欠くなど定期建物賃貸借契約の要件を欠いていた場合(【東京地裁平成29年11月2日判決】)などがこれに当たると解されます。

従って,更新時に賃貸人と賃借人との間で更新契約書を作成する際,当該更新契約書に敢えて従前の保証人には署名捺印させず,別の者に新たに保証人として署名捺印させた場合には,保証人を「交換的に変更する旨の合意があったものと推認するのが相当」として,更新後に生じた債務については,旧保証人に対し請求できなくなる可能性がありますので注意が必要です(【東京地裁平成25年2月20日判決】【東京地裁平成27年1月13日判決】)。

また,保証契約は主債務に対していわゆる附従性を有するものの(民法447条1項),保証契約の締結後に主債務の内容が加重されても,その効果は保証人に及ばないため(民法448条2項),連帯保証契約締結後に賃貸条件が賃借人に不利に加重されるような契約更新が行われた場合には,当該加重部分については,原則として連帯保証人は責任を負いません(【東京地裁平成28年11月10日判決】)。

もっとも,借地借家法(11条,32条)では,契約期間中に賃料額が不相当となった時には賃料の増額あるいは減額を請求できることが定められており(賃料増減額請求参照),借地借家法の適用ある賃貸借契約の保証人になる者としては,期間の経過により賃料額が不相当になり途中で増額されることも当然予測すべきですので,少なくとも,社会経済事情の変更等により賃料増額される場合があることが賃貸借契約書に明記されており,そこで予測された範囲内の合理的な増額がされたに過ぎない場合には,増額後の賃料額に基づく責任を負う可能性があります(【東京地裁平成26年7月25日判決】参照)。

逆に言えば,予測の範囲を超える不合理又は大幅な賃料増額がされたような場合には,当該増額部分については責任を負わないと解することもできると思われます。

【民法447条1項】
保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。

【民法448条】
1 保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する

2 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない

【大審院昭和9年1月30日判決】
賃借人ノ為メ其ノ賃貸借ニ因ル債務ヲ保証シタル者ハ通常身元保証人ノ如ク信用関係ヲ基礎トシ広汎ナル範囲ニ於テ責任ヲ負ハサルヘカラサルモノニ非サルカ故ニ賃借人ノ保証人ノ義務ヲ以テ身元保証人ノ義務ト同視シ特別ノ事由ナキ限リ保証人ノ死亡ニ因リ消滅シ相続人之ヲ承継セサルモノト為スヘキ何等ノ理由ナシ

【東京地裁昭和51年7月16日判決】
一般に不動産賃貸借契約における賃借人の保証人は,特段の定めがない限り,その賃貸借契約から生ずる賃借人の一切の債務を担保するものであって,延滞賃料については勿論のこと,契約解除後の賃借物返還義務の履行遅滞による損害賠償義務についても保証責任を負う。

【最高裁平成9年11月13日判決】
建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。

もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。

【東京地裁平成23年12月19日判決】
賃貸借契約における保証人の地位は一身専属性を有するものではなく相続性を有するものである。

【東京地裁平成25年2月20日判決】
原告は,本件賃貸借契約締結時及びその後の更新時において,その都度,賃貸借契約書に連帯保証人の署名押印をさせているが,平成13年9月16日の更新時以降は,被告Cが賃貸借契約書に連帯保証人としての署名押印をすることはなく,被告Bが上記署名押印をしていることが認められる。
また,平成13年9月16日当時,被告Cが既に80歳を超えていたことにも照らせば,同日の更新時においては,原告及び被告らとの間で,連帯保証人を被告Cから被告Bに交換的に変更する旨の合意があったものと推認するのが相当

【東京地裁平成26年7月25日判決】
本件連帯保証契約では,法定更新であると合意更新であるとを問わず,連帯保証人は更新後の本件賃貸借契約に基づく債務についても連帯保証責任を負う旨が明記されていることからすると,更新前の賃貸借契約と更新後の賃貸借契約の内容に同一性を欠くような事情があって,その規定のとおりに更新後の債務について連帯保証責任を負わせるのが連帯保証人の予測に反し,同人に著しい不利益を生じさせるなどの事情がない限りは,連帯保証人は,上記規定のとおりに,更新後の本件賃貸借契約から生ずる債務についても連帯保証責任を負うと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件賃貸借契約は,本件建物を株式会社の事務所として使用するものであり,継続的な使用が予定されていたものであり,現に,本件更新条項にもあるとおり,同条項所定の要件による合意更新が規定されていること,本件賃貸借契約の更新前と更新後を通じて,賃貸借の目的物は,いずれも本件建物であり,同一であること,賃料が30万円から31万5000円と増額されたとはいえ,その増額の幅は契約の同一性を損なうようなものではなく,値上げの幅としても予測可能な範囲にとどまるものであることといった事情を指摘することができる。
<中略>
そうすると,被告は,更新後の本件賃貸契約により生ずる債務について連帯保証責任を負うと解するのが相当である。

【東京地裁平成27年1月13日判決】
平成19年4月1日に本件賃貸借契約について法定更新がなされた後,原告は,あらためて被告Aとの間で,期間を平成20年4月1日から2年間,賃料を月額24万円と減額する旨合意して契約書を作成したが,同契約書の連帯保証人には被告Bの名前のみが記載され,被告Cの記載はない。
そうすると,平成20年4月1日に賃料,期間及び保証人について新たな契約が締結されたことにより,同日原告と被告Cとの間の保証契約は終了したものと認めるのが相当である。

【東京地裁平成28年11月10日判決】
保証契約は主債務に対していわゆる附従性を有するが,保証契約の締結後に主債務の内容が加重されても,その効果は保証人に及ばないところ,新契約において,旧契約の賃料の支払期限が『翌月分を毎月末日限り』であったものを『翌月分を毎月25日限り』と変更し,さらに,使用損害金として賃料の倍額を支払う旨の特約が付加した部分については,保証契約締結後の加重部分になる。

したがって,主債務のうち,平成28年5月分の未払賃料に対する平成28年4月26日から同月30日までの遅延損害金及び月12万2000円の割合による使用損害金のうち,月6万3000円の割合による金員については,保証債務締結後の加重部分として,被告は保証責任を負わないことになる。

【東京地裁平成29年11月2日判決】
本件賃貸借契約が,賃借人である被告との間で,定期建物賃貸借の要件を満たさないものであったとしても,賃貸人であるAと連帯保証人である被告の間では,更新がないことを前提に連帯保証契約を締結したものということができるから,被告の責任は,更新後の契約には及ばないと解するのが相当である。

【東京地裁平成30年12月5日判決】
※オートバイの駐車場とする目的の土地賃貸借の事案。

期間の定めのある不動産の賃貸借において,賃借人のために保証人が賃貸人と保証契約を締結した場合には,反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り,保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解すべきである。

4.連帯保証契約の解除又は履行拒否
一旦,借主の連帯保証人になったら,賃貸借契約が更新(法定更新・合意更新)される限りずっと責任を負わなければならないのかというと必ずしもそうではなく,特段の事情があれば,保証人は連帯保証契約を将来に向かって解除することができると解されています(これを実務上「解約告知権」とか「特別解約権」と呼ぶこともあります)。

この点,【東京地裁昭和51年7月16日判決】では,「賃貸借契約において賃借人に金額及び期間の定めのない保証人が付されている場合,賃借人が著しく賃料債務の履行を怠り,かつ保証の当時予見できなかった資産状態の悪化があって将来保証人の責任が著しく増大することが予想されるときは,保証人は将来に向かって当該保証契約を解除することができる」と判示しています。

また,【東京地裁平成10年12月28日判決】でも,「賃貸借契約について連帯保証した者は,当事者間の信頼関係が著しく破壊される等の特段の事情があれば連帯保証契約を一方的に解除しうる」と判示されています(私見ですが,ここでいう「当事者間の信頼関係」とは,直接的には保証契約当事者間(貸主・連帯保証人間)を指すと解されますが,借主と連帯保証人との関係も「特段の事情」の一要素として加味されると思われます)。

そして,連帯保証契約の「解除」(解約告知権の行使)までは認められない場合であっても,「賃貸借契約更新後に本件連帯保証契約に基づく責任を負わない特段の事情」があれば,連帯保証人は更新後に生じた債務については一定の範囲で責任を免れる余地があります(【東京地裁令和4年12月27日判決】参照)。

この点,前掲【東京地裁平成10年12月28日判決】では,借主の延滞額が200万円(6か月分以上)にも関わらず賃貸借契約は解除されず法定更新され,借主は一旦延滞賃料を支払ったものの,更新直後から賃料の延滞が再開し,最終的に延滞賃料が400万円(1年分以上)を超えるまでになった事案において,連帯保証契約の解除は認めませんでしたが,借主が本件更新後に負担した賃料等の債務については連帯保証責任を負わないものと判示しています。

また,【広島地裁福山支部平成20年2月21日判決】は,公営住宅の賃貸借(月額賃料は3万円程度)において,10年分の滞納賃料(及び賃料相当損害金)の支払いを連帯保証人に対し請求した事案で,連帯保証人に対し13年近く,賃借人の賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していたことなどを理由に,連帯保証人への滞納請求の請求は,「権利の濫用として許されない」旨を判示しています。

また,【東京地裁平成27年3月25日判決】も,借主の延滞額が1629万円(135か月分以上)にも関わらず20年以上も連帯保証人に伝えていなかった事案で,「(賃貸人が)滞納賃料額が増大していくことを漫然と放置したにも等しいものと評価」できる場合には,「未払賃料及び賃料相当損害金に係る保証債務の履行請求をすることは,(そのような請求権が発生・存続していたとしても)信義誠実の原則に反し許されない」旨を判示しています。

上記のほか近時の裁判例等に鑑みても,①家賃滞納状態が相当長期間継続し,②契約更新拒絶債務不履行解除が容易であるにもかかわらず,③連帯保証人に対し賃料の滞納状況を連絡するなど支払債務の拡大を防止すべき措置も適切に講ずることなく,④漫然と賃貸借契約を継続・更新し続けていた場合には,連帯保証人に対する請求が一定の範囲で制限される可能性が高いと考えられます(【東京地裁平成29年11月2日判決】【東京高裁令和1年7月17日判決】【東京地裁令和2年11月10日判決】等)。

なお,令和2年4月1日施行改正民法458条の3では,債権者は,主債務者が期限の利益の喪失後2か月以内に連帯保証人に通知しなければ,現に通知するまでの間に生じた遅延損害金については連帯保証人に請求できない旨規定されましたが,同条は「期限の利益」が観念できない賃貸借契約に基づく債務には直接的には適用されないと考えられます。

もっとも,今後,裁判例等の蓄積によりで,同条が一定の範囲で類推適用される余地は完全には否定されないので,多湖・岩田・田村法律事務所では,賃料の滞納が生じた場合には,念のため2か月程度のうちには,連帯保証人にも通知するよう助言しています。

【民法458条の3】
1 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。

2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない

3 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

【東京地裁昭和51年7月16日判決】
賃貸借契約において賃借人に金額及び期間の定めのない保証人が付されている場合、賃借人が著しく賃料債務の履行を怠り、かつ保証の当時予見できなかった資産状態の悪化があって将来保証人の責任が著しく増大することが予想されるときは、保証人は将来に向かって当該保証契約を解除することができる

【東京地裁平成10年12月28日判決】
賃貸借契約について連帯保証した者は、当事者間の信頼関係が著しく破壊される等の特段の事情があれば連帯保証契約を一方的に解除しうる場合もあるというべきである。
<中略>
従前の賃貸借契約においては、原告は被告に対し、契約更新の度ごとに連帯保証を依頼した上でその旨の契約書を締結し、また、A【※賃借人】が賃料を延滞した場合にも被告に連絡を取ってその支払を促させ、被告もそれに応じて行動していたものであって、原告は、本件賃貸借契約に関する右のような問題が生じた場合は被告に何らかの了解をとって対処していたことがうかがわれるところ、本件連帯保証契約後に右と異なる取扱をしなければならない事情があったとは認められない。
しかるに、本件において、原告は被告に対し、右更新の経緯やその後の賃料延滞についても直ちに知らせず、また、連帯保証人への就任も依頼しなかったが、その理由は、原告側が、手紙により被告の連帯保証人辞任の意向を承知しており、従前の経緯に照らして右意向が示されるのもやむを得ないとの認識を有していたからというものであった。
<中略>
本件更新時には、Aの延滞額は200万円にも及んだが本件賃貸借契約は解除されず、原告自身ですら賃貸借契約の更新に消極的であったにもかかわらずそのまま法定更新されたものであり、さらに、Aは更新後も賃料延滞はおさまらず、最終的にその額は400万円を超えるまでになり本件訴訟が提起されたというのであって、右のような事態が、本件連帯保証契約が締結された当時、契約当事者間において予想されていたものであったとはいい難い。 
以上の諸点を総合すれば、被告において本件更新後は本件連帯保証責任を負わないと信じたのも無理からぬことであったということができ、Aが本件更新後に負担した賃料等の債務については右連帯保証責任を負わない特段の事情があったものと解するのが相当である。
※【 】内は筆者加筆。

【広島地裁福山支部平成20年2月21日判決】
公営住宅の賃貸借契約に基づく賃料等の滞納があった場合の明渡等請求訴訟の提起に関して,その行政実務において,滞納額とこれについての賃借人の対応の誠実さなどを考慮して慎重に処理すること自体は相当且つ適切な処置であるとしても,そのことによって滞納賃料等の額が拡大した場合に,その損害の負担を安易に連帯保証人に転嫁することは許されず,明渡等請求訴訟の提起を猶予する等の処置をするに際しては,連帯保証人からの要望があった場合等の特段の事情のない限り,滞納額の増加の状況を連帯保証人に適宜通知して連帯保証人の負担が増えることの了解を求めるなど,連帯保証人に対しても相応の措置を講ずべきものであるということができる。
<中略>
被告に対しては,「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱」に反して,平成5年12月20日に催告書を送付したのを最後に,平成18年10月11日に至るまで,催告書を全く送付することなく,また,訴外Aの賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していたものであり,原告には内部的な事務引継上の過失又は怠慢が存在するにもかかわらず,その責任を棚上げにする一方,民法上,連帯保証における責任範囲に限定のないことや,連帯債務における請求に絶対効が認められることなどから,被告に対する請求権が形骸的に存続していることを奇貨として,敢えて本件訴訟提起に及んでいるものであり,本件請求における請求額に対する被告の連帯保証人としての責任範囲等を検討するまでもなく,本件請求は権利の濫用として許されないものというべきである。

【東京地裁平成27年3月25日判決】
※平成20年4月分以前は消滅時効の援用により消滅している事案。

滞納額は相当高額であり,高額の滞納が続いている期間も相当長期間に及んでおり,しかも,連帯保証人である被告に対して,そのような状況にあることを長年にわたり伝えていなかったことにも鑑みれば,原告らにおいて,A【※賃借人】と連絡を取るために多少の行動は起こしたとしても,賃料滞納に対する対応を全体としてみれば,原告らにおいて,滞納賃料額が増大していくことを漫然と放置したにも等しいものと評価することができ,平成20年5月分以降の未払賃料及び賃料相当損害金に係る保証債務の履行請求をすることは,(そのような請求権が発生・存続していたとしても)信義誠実の原則に反し,許されないというべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁平成29年11月2日判決】
被告【※連帯保証人】の責任が更新後の契約に及ぶとしても,原告【※平成17年7月19日相続により賃貸人の地位を承継した者】は,本件建物を相続により取得した平成17年7月19日から平成28年まで全く賃料が支払われていなかったにもかかわらず,連帯保証人である被告に何ら連絡をすることなく,漫然と本件賃貸借を存続させているから,被告Eに対し,未払賃料を請求することは信義則に反し許されないというべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【東京高裁令和1年7月17日判決】
※市営住宅の事案。

控訴人【※賃貸人=市】は,平成27年4月にA【※賃借人】の生活保護が廃止されることを被控訴人【※連帯保証人】に知らせなかったが,生活保護が廃止されれば,それまでの代理納付も廃止され,Aが自ら賃料を支払わなければならないところ,これまでのAの滞納状況や控訴人との連絡等が困難な状況から,控訴人としては,その後Aが滞納を続けることを予測することができたと解される一方で,被控訴人はAが生活保護を受給していることは知っていても,これを廃止されることになることは知らずにいたのであり,実際,生活保護廃止後にAの滞納賃料は累積し,その支払について控訴人から督促依頼状が送付され,被控訴人は,本件連帯保証契約の解除権行使等の方策を検討する機会もないまま,控訴人に促されて,平成28年6月11日には平成28年4月分までの累積債務額について分納誓約書を提出していること,その頃には被控訴人も70歳に達して年金受給者となっており,Aとも連絡が取れず困っていたことを控訴人も把握していたこと,平成28年5月27日に控訴人から債権移管決定通知書が送付されて以降は,被控訴人もしばしば控訴人の担当者に対して,Aに対して本件住宅から追い出すなどの厳しい対応をすることを要求したり,自分も年金生活者で分割払いの履行もなかなか困難であることなどを訴えていたこと等が認められるのであって,このような経緯に照らせば,Aの生活保護が廃止された以後は,控訴人は被控訴人の支払債務の拡大を防止すべき措置を適切に講ずべきであり,かかる措置をとることなくその後の賃料を被控訴人に請求することは,権利の濫用にあたるというべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁令和2年11月10日判決】
※家賃月額23万円の事案。

A社【※賃借人】は,平成24年夏頃から本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を怠るようになり,平成25年8月18日から2年間の契約期間においても,滞納賃料額が3か月分に達することが複数回あり,平成27年8月18日から2年間の契約期間においては,ほぼ常に,滞納賃料額が3か月分以上に達しており,賃貸人から更新拒絶通知をする期限である平成29年2月17日時点で135万3317円,期間満了日である同年8月17日時点で119万1102円の滞納が累積していた。
かかるA社の賃料滞納状況に照らせば,原告が,A社に対し,平成29年2月17日までに更新拒絶の通知をしていれば,更新拒絶につき正当事由があると認められることは明らかであって,同年8月17日をもって本件賃貸借契約は終了していたと考えられるが,原告は,特に合理的な理由もうかがわれないのに更新拒絶の通知をせず,本件賃貸借契約は,本件更新条項により,同月18日,契約期間を2年間として更新されることとなった。
原告は,上記更新後,更に1年7か月以上経過した平成31年3月20日に至って本件賃貸借契約を解除し,同月28日に本件訴訟を提起したが,この間,滞納賃料額は増え続け,解除の時点で421万2447円に達していた。
原告による契約解除が遅れたのは,原告代表者が賃貸借契約解除の要件について誤解していたことや,訴訟に要する費用や手間を慮ったことによるもので,専ら原告側の事情に起因すると言わざるを得ない。
本件訴訟提起前に,原告が,連帯保証人である被告に対し,A社の賃料滞納状況を連絡したり,催告書を送付するなどの措置を行った事実は認められない
上記各事情に鑑みると,原告は,A社に対し,平成29年2月17日までに更新拒絶の通知をし,同年8月17日をもって本件賃貸借契約を終了させるべきであったもので,原告が,被告に対してA社の賃料滞納状況を連絡しないまま,同年2月17日から1年間が経過した後である平成30年2月18日の時点で,未だに更新拒絶も解除もせずに本件賃貸借契約を存続させていたことは,賃貸人としての権利行使を著しく遅滞したものと評価せざるを得ず,同日以降に発生した賃料及び賃料相当損害金を被告に請求することは,信義則に反し,権利濫用にあたり許されない
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁令和4年12月27日判決】
※結論としては連帯保証人に対する請求を満額認めた事案。

賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を存続させている場合など、保証契約の締結時における保証人の合理的期待に比して、その負担が極めて大きくなるものと認められるときは、例外的に、保証人による保証契約の解除が認められる余地があるほか、賃貸人が保証人に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとしてその請求が否定される余地があるものと解される。

 結論

以上より,頭書事例では,原則としてCはBに対し,未払い賃料等一切の債務をAに代わり弁済する義務を負いますが,借主Aにおいて恒常的な著しい賃料の滞納があるにも拘わらず,BがAに催告するのみで当該事実を連帯保証人に対しては何ら通知せず,滞納賃料が相当額に達しているにも拘らず延々と賃貸借契約を更新した挙句,滞納賃料をまとめて連帯保証人に対し請求するというような場合は,「特段の事情」があるとして更新後の滞納賃料についてはCは責任を負わないか,または,Bの請求が権利濫用(民法1条3項)として棄却される可能性が高いといえます。

従って,貸主としては,賃料の滞納等があった場合には,適宜,保証人に対しても催告書を送付しておく必要があると考えられます。

逆に連帯保証人の立場からすれば,保証契約締結当時予見し得なかった著しい賃料の滞納が生じているにも拘らず,貸主が賃貸借契約の解除及び滞納賃料の実効的な取立てを怠るなどこれを漫然放置し,将来的にさらに滞納賃料(負担)が増大することが予想されるときは,連帯保証契約の解除通知を貸主に対し送付すれば,将来に向かって保証債務を免れる可能性があり,仮に解除としては認められない場合であっても,少なくとも更新後の滞納賃料についての責任を免れるための「特段の事情」の一事情として考慮されると思われますので,いずれにしても,このような場合に解除通知を送付しておくことは非常に有益的と考えられます。

 実務上の注意点

5.明渡訴訟の被告とすべき者
賃貸借契約が終了した場合,賃借人自身は建物明渡義務を負いますが,建物を占有・使用していない連帯保証人も建物明渡義務を負うのでしょうか?

この点,前掲【東京地裁昭和51年7月16日判決】のとおり,保証人は,「賃貸借契約から生ずる賃借人の一切の債務を担保するもの」と解されていますが,【大阪地裁昭和51年3月12日判決】では,「明渡債務のように、主たる債務が債務者の一身専属的な給付を目的とし、保証人が代ってこれを実現しえないものである場合には、その保証債務は、主たる債務が不履行によって損害賠償債務に変ずることを停止条件として効力を生ずるものとし、具体的には、本件住宅明渡不履行に基く住宅価額相当額の填補賠償債務を負担するにとどまり(もっとも、賃貸借の契約解除による原状回復義務および明渡遅延期間の賃料相当額の遅延賠償を支払う義務のあることは、いうまでもない)本件住宅の明渡義務そのものはないものといわざるをえない」と判示しています。

そもそも,仮に連帯保証人に対して建物明渡請求訴訟を提起して判決を取得しても,建物を占有・使用していない連帯保証人に対しては,建物明渡強制執行手続ができませんので(民事執行法168条1項参照),判決を取得しても意味がありません(なお,建物を直接占有していない者を「債務者」とする占有移転禁止仮処分が認められないことにつき,東京地裁保全研究会編『民事保全の実務(上)(第3版)』〔金融財政事情研究会 2012年〕292頁以下参照)。

従って,原状回復義務明渡遅延違約金(明渡遅延損害金)の履行を求めることはできても,建物を占有・使用していない連帯保証人自身に建物明渡義務そのものの履行を求めることは通常しません(なお,連帯保証人が建物を占有・使用している場合には,当然建物明渡義務の履行を求めることができます)。

【民事執行法168条1項】
不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。

【大阪地裁昭和51年3月12日判決】
本件住宅の明渡債務のように、主たる債務が債務者の一身専属的な給付を目的とし、保証人が代ってこれを実現しえないものである場合には、その保証債務は、主たる債務が不履行によって損害賠償債務に変ずることを停止条件として効力を生ずるものとし、具体的には、本件住宅明渡不履行に基く住宅価額相当額の填補賠償債務を負担するにとどまり(もっとも、賃貸借の契約解除による原状回復義務および明渡遅延期間の賃料相当額の遅延賠償を支払う義務のあることは、いうまでもない)本件住宅の明渡義務そのものはないものといわざるをえない。

6.極度額の相場
令和2年4月1日施行改正民法により,賃貸借契約において個人が賃借人の連帯保証人になる場合には,あらかじめ連帯保証人が負うこととなる限度額(=極度額)を書面により定めておかなければ連帯保証契約は無効となります(民法465条の2,446条2項及び3項)。

なお,同条は賃貸者契約が居住用か事業用か問わず、また賃借人(主債務者)が法人か個人かを問わず適用されますが、連帯保証人が法人の場合は適用されません

また,同条には465条の9の適用はありませんので(同条「前三条の規定」参照),法人が賃借人でその代表者が連帯保証人となる場合でも極度額の定めが必要になります。

ここで,賃貸借契約における連帯保証人の極度額は,どの程度で設定するのが社会通念上相当なのか問題となります(なお,極度額に法律上の上限はありませんので,合意がある限り原則として自由に設定することが可能ですが,あまりにも社会通念を逸脱した高額過ぎる極度額は公序良俗に反し無効とされる可能性があります)。

この点につき,平成30年3月30日国土交通省住宅局住宅総合整備課「極度額に関する参考資料」によると,平成9年11月から平成28年10月の間に出された全91件の判決(最高裁1件以外は全て東京地裁のもの)における居住目的の民間賃貸住宅における連帯保証人の負担額として確定した額は,平均で家賃の約13.2 か月分という結果が出ています。

また,全国賃貸不動産管理業協会が令和2年1月に実施した会員向けアンケートでも,月額賃料の1年分超〜2年分以下を想定している回答が最も多いとの結果が出ています。

従って,極度額を定める場合は,月額家賃の1〜2年分(12か月〜24か月分)くらい(あくまで居住目的の民間賃貸住宅の場合)が相場になるのではないかと考えられます。

【民法465条の2】
1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

【民法465条の9】
前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。

一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者

二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者

イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者

ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者

三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者

7.主債務の元本の確定事由
前述6の極度額を定めた場合,賃借人や連帯保証人が死亡するとその時点で元本が確定し,それ以降に発生した賃料等の債務について,連帯保証人(又はその相続人)は責任を負わなくなります(民法465条の4第1項)。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,賃貸人の立場から,このような事態を予防するため,個人が賃貸借契約の連帯保証人になる場合には,次のような条項を定めておくよう助言しています(法人が連帯保証人になる場合にはそもそも極度額の定めがないのでこのような条項も不要です)。

【条項例】
1 次に掲げる場合には、連帯保証人の負担する債務の元本は,確定する。ただし、第1号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
(1) 賃貸人が、連帯保証人の財産について、賃料その他の本件賃貸借契約により生じる賃借人の金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
(2) 連帯保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
(3) 賃借人又は連帯保証人が死亡したとき。
2 前項に規定する場合並びに連帯保証人がその保証債務の履行に必要とされる能力又は資力を欠いていることが判明したときは,賃借人は,直ちにその旨を賃貸人に通知の上,その責任と負担において,賃貸人の承諾する連帯保証人を新たに立てなければならない。

なお,2020年4月1日施行改正民法465条の4第1項3号で,賃借人(主債務者)死亡により元本確定した後に発生した債務につき個人の連帯保証人は責任を負わないものとされたのは,「保証人は、飽くまでも主たる債務者に着目して保証をしているのであり、保証人が主たる債務者の相続人の債務についてまで責任を負うことは予定していない」ためです(【法務省法制審議会民法(債権関係)部会資料83-2】第18-5-説明1(3)(20頁))。

この趣旨からすれば,主たる債務者の死亡の時点で具体的な債務として発生していなくても,その(債務の)原因となる具体的事実が当該死亡時点で発生している場合には,生前の主たる債務者本人の具体的行為に起因(帰責)する債務といえ,確定する「主たる債務の元本」に含まれると解するのが,「主たる債務者に着目」して保証をした保証人の合理的意思に合致すると考えられます。

例えば,原状回復義務は,一般に,「賃貸借契約が終了した時点において具体的な請求権として確定的に発生する」と考えられていますので,賃借人(主債務者)が死亡しても,賃貸借契約が終了しない限り具体的な債務としては発生しませんが,当該死亡時点ですでに発生している特別損耗部分(原状回復債務の原因となる具体的事実)については,これを原状回復する債務は賃借人(主債務者)死亡時点で「主たる債務の元本」として確定し,連帯保証人も責任を負うと解されます(逆に言えば,当該死亡に発生した特別損耗部分については,当該死亡時点で確定する「主たる債務の元本」には含まれず,連帯保証人は責任を負わないと解されますので、賃貸人としては、賃借人死亡時点ですでに特別損耗が発生していたことを立証しない限り連帯保証人に対して原状回復費用を請求することはできないと考えられます)。

【民法465条の4第1項】
次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。

一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。

二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。

三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。

【法務省法制審議会民法(債権関係)部会資料83-2】第18-5-説明1(3)(20頁)
保証人は、飽くまでも主たる債務者に着目して保証をしているのであり、保証人が主たる債務者の相続人の債務についてまで責任を負うことは予定していないというほかないから、主たる債務者が死亡したときについては、個人根保証契約一般においても元本確定事由とすることとしている。

8.情報提供義務
賃貸人(債権者)は,賃借人の委託を受けて連帯保証人になった者から,賃借人(主たる債務者)の滞納状況等の確認を求められた場合にはこれに関する情報を提供しなければならず(民法458条の2),これを怠った場合には、連帯保証契約の解除事由となる可能性があります。

なお,同条は賃貸借契約が居住用か事業用か及び連帯保証人が個人か法人か問わず適用されます。

もっとも,保証人が複数いる場合など,保証人から頻繁に求められる都度,報告・情報開示しなければならないとなれば,PM事業者(家賃回収・管理業者等)にとって,事務処理上の多大な負担になりかねません。

この点については,保証人側の「情報提供を受ける利益」と賃貸人側の「情報提供に伴う事務処理の煩雑さ」とを比較考量して判断することになると思われますが,私見では,家賃の場合は通常は毎月(月1回)支払義務が発生するものですので,月1回までであれば,賃貸人が民法458条の2に基づく情報提供義務を負うのもやむを得ないのではないかと考えられます。

なお,管理委託契約のような委任契約(準委任契約)においても,受任者たる管理会社は,委任者の求めに応じ委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負いますが(民法645条、656条),委任契約終了後は,委任者から求められる都度,無期限・無限定で報告義務を負い続けるわけではありません(【東京高裁平成23年8月3日判決】参照)。

また,事業用賃貸借でかつ個人が連帯保証人になる場合には,契約締結時に賃借人(主たる債務者)の資産状況等につき事実と異なる情報提供があったことを賃貸人(債権者)が知り得た場合には連帯保証契約の取消事由となります(民法465条の10)。

なお,同条は賃貸借契約が事業用でない場合又は連帯保証人が法人の場合は適用されません(同条3項)。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,賃貸人の立場から,このような事態を予防するため,事業用賃貸借契約でかつ個人が賃貸借契約の連帯保証人になる場合,次のような条項を定めておくよう助言しています。

【条項例】
1 賃借人は,本件賃貸借契約の締結に先立ち,連帯保証人に対し,次の各号の事項に関する正確な情報を提供したことを,賃貸人に対し確約する。
(1) 賃借人の財産及び収支の状況
(2) 本件賃貸借契約に基づく債務以外に賃借人が負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
(3) 本件賃貸借契約に基づく賃借人の債務の担保として賃借人が他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容
2 連帯保証人は,本件賃貸借契約の締結に先立ち,賃借人から,次の各号の事項に関する正確な情報の提供を受けたことを,賃貸人に対し確約する。
(1) 賃借人の財産及び収支の状況
(2) 本件賃貸借契約に基づく債務以外に賃借人が負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
(3) 本件賃貸借契約に基づく賃借人の債務の担保として賃借人が他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容

【民法458条の2】
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

【民法465条の10】
主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。

一 財産及び収支の状況

二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況

三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。

3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない

【民法645条】
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

【民法656条】
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

【東京高裁平成23年8月3日判決】
銀行が預金契約に基づいて預金者に対し、取引経過開示義務を負うのは、預金契約において、銀行が、預金者の寄託した金銭を保管し、返還するだけでなく、振込入金の受入れ、各種料金の自動支払、利息の入金、定期預金の自動継続処理等、委任事務ないし準委任事務の性質を有する各種の事務を処理すべき義務を負っており、委任契約や準委任契約において、受任者が委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負う(民法645条、656条)のと同様に、預金者にとって、預金契約に基づく銀行の事務処理を反映したものである預金口座の取引経過の開示を受けることが、預金の増減とその原因等について正確に把握するとともに、銀行の事務処理の適切さについて判断するために必要不可欠と解されることによる。
預金契約が解約されれば、銀行は、その後に元預金者のため金銭を保管し前記の各種の事務を行うことはなく、預金の増減とその原因等について正確に把握し、事務処理の適切さを判断する必要性は、確定した解約残高に至る過去の契約期間についてのみ存在するから、その後も元預金者の請求があれば、いつでも事務処理を報告しなければならない必要性があるとは言い難い。
委任契約や準委任契約においても、契約終了後は、受任者に、遅滞なくその経過及び結果を報告すべき義務があるにとどまり、委任者が、引き続き、いつでも過去の委任事務の処理の状況の報告を求められるわけではない(民法645条、656条)。
預金契約についても、銀行は、預金契約の解約後、元預金者に対し、遅滞なく、従前の取引経過及び解約の結果を報告すべき義務を負うと解することはできるが、その報告を完了した後も、過去の預金契約につき、預金契約締結中と同内容の取引経過開示義務を負い続けると解することはできない。

9.連帯保証と併存的債務引受との違い
前述2の保証意思の書面性,前述6の極度額,前述7の主債務の元本確定事由及び前述8の保証人への情報提供義務等の保証人を保護するための規定は,保証人保護の趣旨に鑑み,強行法規と解されていますので,例えば,賃貸借契約の特約で「主たる債務者(賃貸人)が死亡しても主たる債務の元本は確定しない」と定めても無効となります。

他方で,主債務者とともに主債務を引き受ける「併存的債務引受」(民法470条)は,債務者と連帯して債務を負担する点で効果としては連帯保証と類似するものの,原則として,上記保証に関する規定の適用は受けません(鎌田薫ほか『重要論点 実務 民法(債権関係)改正』〔商事法務 2019年〕136頁)。

もっとも,併存的債務引受が「保証人保護規定の潜脱の意図で行われた場合には,そのような取引は保証の性質を有するものとして保証人保護規定を(類推)適用するという解釈は可能である」と考えられています(鎌田薫ほか『重要論点 実務 民法(債権関係)改正』〔商事法務 2019年〕136頁)。

具体的には,併存的債務引受が引受人による債務の保証目的で行われ,引受人の負担割合がゼロのような場合には,実質は「保証」と評価され,保証人保護規定が類推適用される可能性があります(鎌田薫ほか『重要論点 実務 民法(債権関係)改正』〔商事法務 2019年〕155頁参照)。

【民法470条】
1 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。

2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。

3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。

4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

【民法471条】
1 引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。

2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

10.連帯保証人に対する請求の相対効
旧民法では,連帯保証人に対する履行の請求は主債務者にも効力が生じ時効中断するとされていましたが(旧民法458条,434条),令和2年4月1日施行改正民法では,特約無い限り,主債務者には効力が及ばず時効の完成は猶予されないことになりました(相対的効力の原則。民法441条本文,458条)。

なお,権利の承認(民法152条1項)は,旧民法でも,主債務者である賃借人には効力は及ばないとされていました(旧民法458条,440条)。

もっとも,改正民法でも,特約により主債務者である賃借人に効力(絶対的効力)を及ぼすことができます(民法441条但書)。

なお,特約を定めておけば,履行の請求だけでなく,債務の承認についても,賃借人にその効力(絶対的効力)を及ぼすことができます(【法務省法制審議会民法部会資料】67A13頁参照)。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,賃貸人の立場から,賃借人との間で,次のような条項を定めておくよう助言しています。

なお,賃借人に対する履行請求の効力は,法律上当然に連帯保証人に効力が及ぶので(民法457条1項),賃貸人と連帯保証人との間でこのような特約をしても意味がなく,必ず賃貸人と賃借人(主債務者)との間で締結しておく必要があります(【法務省法制審議会民法部会資料67A】13頁,民法441条但書「当該他の連帯債務者に対する効力」参照)。

【条項例】
連帯保証人に対する催告及び裁判上の請求並びに連帯保証人のした債務の承認その他の事由による時効の完成猶予又は時効の更新の効力は,賃借人に対しても当然に及ぶものとする。

【民法153条】
1 第百四十七条又は第百四十八条の規定による時効の完成猶予又は更新は,完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。

2 第百四十九条から第百五十一条までの規定による時効の完成猶予は,完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。

3 前条の規定による時効の更新は,更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。

【民法441条】
第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。

【民法457条1項】
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。

【民法458条】
第四百三十八条、第四百三十九条第一項、第四百四十条及び第四百四十一条の規定は、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人について生じた事由について準用する。

11.改正民法の適用の起算日
民法附則(平成29年6月2日法律第44号)34条1項で,施行日前に締結された賃貸借契約については,「なお従前の例による」(=旧法が適用される)としつつ,同条2項で,民法604条2項(「貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五十年を超えることができない」)についてだけ敢えて「更新に係る合意がされるときにも適用する」(=更新の場合は新法が適用される)とされていることからすると,逆に言えば,当該民法604条2項以外の条文については,更新後も旧法が適用される,とも解釈できます。

もっとも,柴田龍太郎『詳解 民法(債権法)改正による不動産実務の完全対策』〔プログレス 2018年〕274頁によると,「法務当局は,賃貸借契約の更新には,法定更新を除き,改正法の適用が原則であると考えているようです」と記載されており,当該法務当局の見解を前提とすると,法定更新(借地借家法26条)の場合には旧法,それ以外の場合の更新は新法が適用されるということになります。

そして,上記「それ以外の場合」とは具体的には合意更新の場合を指しますが,契約書でいわゆる「自動更新」が定められていた場合の自動更新も合意更新の一種と考えられますので(=黙示の合意による更新),結論としては,新法が適用されるということになります。

もっとも,契約書の条項の中で「自動更新」という文言を用いずに,「自動延長」という文言を用いるなどして,「契約は従来のままで,単に期間の点だけを延長する」という趣旨が明確になっていれば,旧法が適用されると解釈することも十分可能ではないかと思われます(私見)。

但し,法務省民事局が編集に関与した筒井健夫ほか『一問一答 民法(債権関係)改正』〔商事法務 2018年〕384頁では,「期間の更新」の場合も契約全体の更新の場合と「基本的には,同様に扱えば足りると解される」と記載されています。

以上をまとめると,次のようになります(法務省当局の見解も裁判所を拘束するわけではなく,別解釈による判断が出される可能性は十分にあり。これについては「実務を混乱させる」との批判もあるところですので,現時点では確実に新旧どちらが適用されるか断言することは難しいでしょう)。

(1) 法定更新⇒旧法適用。
(2) 合意更新(=明示の更新)⇒新法適用。
(3) 自動更新(=黙示の更新)⇒新法適用。但し「自動延長」にしておけば旧法適用の余地あり。

これに対し,連帯保証契約については,連帯保証契約の締結日が改正民法施行日前である限り,賃貸借契約の更新が(更新後の賃料債務=保証債務が発生するのが)施行日以後であっても連帯保証人との関係では旧法が適用されるため(民法附則(平成29年6月2日法律第44号)21条1項。第一東京弁護士会司法制度調査委員会編『改正債権法の逐条解説』〔新日本法規 2017年〕141頁参照),例えば,賃貸借契約更新時に改めて連帯保証人との間で極度額を設定することは不要となります。

これは賃貸借契約が合意更新される場合も法定更新される場合も同様です(なお,賃貸借契約が更新される限り,連帯保証人との間でその都度連帯保証契約を締結(更新)しなくても,当初の連帯保証契約が原則として継続することについては,前掲【最高裁平成9年11月13日判決】)。

もっとも,改正民法施行日後に,賃貸借契約を更新し,かつ更新に伴い敢えて新たに連帯保証人との間でも保証契約を締結し直した場合は,連帯保証人との関係でも新法が適用されると解されますので,前述6の極度額の設定をする必要があります。

【民法附則(平成29年6月2日法律第44号)21条1項】
施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。

【民法附則(平成29年6月2日法律第44号)34条】
1 施行日前に贈与、売買、消費貸借(旧法第五百八十九条に規定する消費貸借の予約を含む。)、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例による。

2 前項の規定にかかわらず、新法第六百四条第二項の規定は、施行日前に賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその契約の更新に係る合意がされるときにも適用する。

3 第一項の規定にかかわらず、新法第六百五条の四の規定は、施行日前に不動産の賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその不動産の占有を第三者が妨害し、又はその不動産を第三者が占有しているときにも適用する。

【民法604条2項】
賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五十年を超えることができない。

【民法605条の4】
不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。

一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求

二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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