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更新:2024年4月13日 
 事例

境界・筆界を確定するために必要な手続。

 解説

1.境界・筆界とは
境界(キョウカイ)」は、法律上、大きく、公法上の境界(以下「筆界(ヒッカイ)」)と所有権の範囲を画する境界(以下「所有権界」)という2つの意味で用いられます(なお、このほかに事実的支配範囲を画する「占有界」という意味で用いられることも稀にあります)。

例えば、民法223条及び224条のような境界標に関する規定における「境界」は、「筆界」を意味し、民法234条及び235条のような境界線の近傍建築に関する規定における「境界」は、「所有権界」を意味すると解されています(北條政郎ほか『改訂版 境界確認・鑑定の手引』〔新日本法規 平成27年〕7頁)。

もっとも、「筆界」と「所有権界」は、法律上の定義としては一応別ですが、時効取得などの特別の事情が無い限り、基本的には一致し,隣接地の所有者の境界認識は、所有権の範囲を推認する一事情たりうると考えられています(【東京地裁平成15年7月18日判決】【東京地裁平成27年2月24日判決】)。

また、紛争の実体としても、筆界=所有権界を前提として争われることがほとんどですので(所有権界が確定していれば筆界のみ取り立てて争う実益が普通ありません)、実務上は,両者を区別する実益の無いケースでは、両方の意味を兼ねて「境界」(キョウカイ)と呼称・表記します。

なお,裁判実務では,「境界」を「ケイカイ」と呼称する場合もあります(例:境界確定訴訟=ケイカイカクテイソショウ)。

【民法223条】
土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。

【民法224条】
境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。

【民法234条】
1 建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。

2 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

【民法235条】
1 境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。

2 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。

【東京地裁平成15年7月18日判決】
境界確定協議は、国有財産法31条の3に基づき、国有地を管理する各省庁の長と当該国有地の隣接地の所有者とが境界について協議するものであるが、その性質は、当該国有地と隣接地の所有権境を確認する私法上の契約であると解され、旧国有財産法10条等による境界査定処分とは異なり、その成立した協議の内容は直ちには公法上の境界である筆境を確定するものではないことはいうまでもない。
しかしながら、筆境と所有権境は、取得時効、一筆の土地の一部譲渡等特段の事情がない限り、基本的には一致するものであり、関係当事者は、その所有権の範囲で当該土地を利用するのが通常で、その利用状況等を踏まえて、所有権境を認識し、そうした協議に応ずるのが通常であるから、境界確定協議の成立及びその内容は、筆境の認定に当たっても重要な資料となることは明らかである。

【東京地裁平成27年2月24日判決】
土地の境界は公法上のものであり、所有権とは概念上異なるものではあるが、隣接地の所有者の境界認識は、所有権の範囲を推認する一事情たりうるというべきである。

2.確定測量とは
一般に,確定測量とは,隣接地の所有者との間で境界を確定した上で,その境界に従って対象土地の面積を測量し,対象土地の面積を確定することをいいます(【東京地裁平成24年10月5日判決】)。

不動産会社が土地を一般消費者に売却する際、重要事項説明書を交付しますが(宅建業法35条)、一般的な重要事項説明書の定型書式では、「土地に関する測量図面」として「□ 確定測量図」という欄があり、これがある場合には□欄にチェックを入れることになっています。

確定測量図」とは、「隣接する土地(道路などの官有地を含む)との境界が、隣地所有者の立会いのもとで確定され、その境界について隣地所有者の承諾印がある図面」をいいます(杉本幸雄『不動産実務百科Q&A』〔清文社 平成21年〕124頁)。

すなわち、「全ての隣接地所有者との境界確認を得ている」ことが前提の図面ですので、仮に1か所でも隣地所有者の境界立会確認(境界確認書)が得られていない場合には、これを「確定測量図」として交付することはできません。

実務上は,特に売主が不動産業者の場合,売主側で確定測量をした上,買主に確定測量図を交付する旨を売買契約書に記載することもしばしば見受けられますが,隣地所有者との折り合いが悪い場合など立会いに協力してくれないケースも想定されます。

特に2020年4月1日改正民法施行以降は,債務不履行に基づく契約解除に債務者の帰責性(過失)が不要とされたため(民法543条反対解釈。なお,債務不履行に基づく損害賠償は従来通り過失責任。民法415条1項但書),確定測量ができなかったことについて売主に帰責性(過失)がない場合でも,買主に確定測量図を交付できなければ,債務不履行(契約義務違反)となり契約解除や約定違約金を請求をされる恐れがあります。

そのため,多湖・岩田・田村法律事務所では,売主側で確定測量を行うこととする場合は,後々トラブルにならないよう,次のような【条項例】にしておくよう助言しています(なお,あくまで「確定測量図を交付する」義務自体には,通常,筆界特定や境界確定訴訟等の法的手続により境界を確定させる義務までは含みませんが念のためこの点も確認的に記載)。

【条項例】
売主は,その責任と費用負担により,決済日(引渡日)までに確定測量の上,買主に対し,確定測量図を交付する。但し,売主の責めに帰することができない事由により確定測量ができない場合は,この限りでない。また,売主は筆界特定又は境界確定訴訟等の法的手続により境界を確定させる義務まで負うものではない

もっとも,このように定めていても,「売主の責めに帰することができない事由」の立証責任は売主側にあるので(【名古屋地裁令和5年12月14日判決】),売主としては,隣地所有者との交渉経過をしっかりと証拠化しておくことが必要となります。

また,公簿売買(登記簿記載面積による売買で実測と相違しても精算しない)か実測売買(実測面積により売買金額が変動する)かを問わず,売主は,確定測量を完了させるために(隣地所有者の承諾印を得たいがために)隣地所有者に言われるまま本来の筆界を逸脱する不合理な境界確認書により確定測量図を作成することも当然認められません(実測売買につき【東京地裁平成21年3月24日判決】参照)。

【民法415条1項】
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない

【民法543条】
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

【東京地裁平成21年3月24日判決】
※「本件土地の実測面積が登記簿面積と相違した場合,実測面積により坪単価358万5450円で精算する」との条項(精算条項)のほか,「売主は,隣地との立会い等を得て本物件の測量及び境界標の設置を行うものとする。尚,作成される実測・境界確認等に関する諸費用は売主の負担とする。買主は決済・引渡時に測量図,境界確認書(民民,官民)等,(隣地建物・構造物等の越境等が存在する場合には,越境等に関する覚書)を受領する」(本件売買契約6条)との条項が定められていた事案。

売買契約の対象が土地である場合,表示登記に基づいた地番をもってこれを特定することが多いところ,これら地番ごとに特定される土地は公法上の境界ないし筆界(以下「筆界」という。)によって区画されるものであるから,このような場合に用いられる「境界」とは,本来,筆界を指すものと解される。
なお,かかる筆界は,国家が形成した公的な性質を有するものであり,これを変更するには合筆・分筆等の手続を行うことが必須であって,私人の合意等によって自由に変更することはできない
他方,筆界とは区別されるものとして,所有権などの私権の境目としての土地の境界を指す私法上の境界(以下「所有権界」という。)がある。
かかる所有権界は,一筆の土地の一部について所有権が処分され,あるいは時効取得が完成することによって,合筆・分筆等の手続のないまま変動することがあり得ることから,必ずしも筆界と一致するとは限らないし,法的ないし論理的には筆界と区別されるものである。
しかし,所有権界は,もともとは筆界と一致していたし,一致することが望ましいと考えられる上,実際に一致する例も多いこと,法的にはともかく,一般にはこれらを明確に区別する考え方が普及しているともいい難いことなどに照らすと,売買契約などにいう「境界」とは,本来は筆界を指すものの,筆界と一致するはずの所有権界をも併せて示す用語として用いられていることが多いものと解される。
土地の売買契約においては,買主は,売主に対し,通常,売買対象物たる土地の境界を明示することを求めるところ,ここでいう境界が不明,あるいは隣接地所有者等との間で紛争が生じているような場合,売主は,本来であれば,筆界特定制度や筆界特定訴訟を利用して筆界を明らかにすべきと考えられるが,契約上,より簡便な方法として,隣接地所有者との協議によって所有権界を明らかにする方法によって解決することを認めていることがある。
すなわち,売主が隣接地所有者等との協議をして境界について合意をしても,それは所有権界についての合意であり,筆界を定める効力を有するものではないものの,上記のとおり筆界と所有権界とは一致することも多いこと,仮にかかる合意によって定められた所有権界と筆界とが相違していても,特段の事情のない限り,所有権界と筆界とに挟まれた土地は一方から他方へ譲渡されるとの暗黙の合意をしたものと認められることから(大阪高裁昭和38年11月29日判決・下民集14巻11号2350頁参照),隣接地所有者等との紛争予防に有効な方法として採用されているものと解される。
そうすると,売買契約上,売主が隣接地所有者等との協議をして所有権界を明らかにする方法が定められている場合には,少なくとも一定の範囲においてはかかる合意された所有権界をもって契約上も境界として扱うことが認められているということができる(この場合,結果的に,かかる合意で定められた所有権界と筆界とに相違があったとしても,売買の有効性を覆すものではないものと解される。)。
ただし,売買対象物たる土地が,あくまでも筆界(あるいはこれと一致する所有権界)によって画される範囲の土地として特定されている以上,売主においては,筆界に一致する所有権界を合意することが予定されているのであって,買主の承諾があるなどの特段の事情のない限り,筆界とは明らかに異なる所有権界を合意し,売買対象物たる土地の範囲をいたずらに変動させることまで認められているものとはいえない
<中略>
本件売買契約においては,売買対象物たる本件土地を,別紙物件目録記載のとおり,筆界によって画される一筆の土地として特定しているものと認められる。
そして,本件売買契約6条は,「売主は,隣地との立会い等を得て本物件の測量及び境界標の設置を行うものとする。」「買主は決済・引渡時に測量図,境界確認書(民民,官民)等・・(中略)・・を受領する。」としており,本件土地の境界に関しては,売主が隣接地所有者等との協議によって所有権界を明らかにする方法によることを定めているものと認められる(なお,上記「官民」の「境界確認書」とは,国有財産法31条の3にいう官民境界確定協議によって得られる書面などを指すものと解されるところ,同協議も所有権界を定める私法上の契約であると解される。)。
<中略>
既に述べたとおり,本件売買契約においては表示登記に依拠する方法で売買対象物たる本件土地を特定していることが認められ,また,売主の契約上の義務の一つとして所有権移転登記義務が含まれることをも併せ考えると,本件売買契約における「境界」については,公法上の境界であり登記簿上の境界である筆界を指すと解するのが自然である。
他方,これも既に述べたとおり,かかる筆界は基本的に不変のものであり,隣接地所有者等との立会等を得る必然性はないところ,本件売買契約がかかる立会等を求め,「境界」確認書の受領を定めていることからすると,同契約で用いられている「境界」とは私法上の境界である所有権界にも関連する用語と解するほかない。
そうすると,本件売買契約における「境界」についても,被告や原告が主張するように筆界又は所有権界いずれかのみを指すものと解するのではなく,筆界及びこれと一致するはずの所有権界をも併せて示すものと解するのが相当である。
<中略>
確かに,本来の筆界あるいは従前の所有権界が不明な場合などには,隣接地所有者との協議において,実際の占有状況なども踏まえて柔軟に対応する必要があると考えられるし,筆界や所有権界が一見明らかな場合においても,なお譲歩を検討しなければならない場面もあり得るものと解される。
しかし,本件売買契約のように,売買対象物たる土地が筆界によって画される一筆の土地として特定されている場合には,買主においては,この本来の筆界及びこれと一致する所有権界によって画された土地を購入することを予定していると考えられ,そうすると,本件売買契約が売主である原告に対し,隣接地所有者等との協議によって所有権界を明らかにする方法によって境界を明らかにすることを認めているとはいっても,その範囲には自ずと限界があり,本来の筆界に沿った所有権界を合意することが予定されているものといわなければならない。
<中略>
SP1-SP2ラインを南側境界線とした場合,そのままでは北側部分の所有権移転登記手続を行うこともできず,分筆登記を行わなければならないと考えられることからすると,かかるラインで合意することが本件売買契約6条によって売主たる原告に与えられた裁量の範囲内で処理できるものであるとはいい難い。
原告は,本件売買契約においては,実測面積と登記簿面積が相違した場合の精算条項が設けられていることを,原告が隣接地所有者らとの間でSP1-SP2ラインを南側境界線として合意したことの適法性を基礎づける根拠として主張する。
しかし,かかる精算条項は,売買対象物たる本件土地の客観的範囲は不変であることを前提として,登記簿上の面積と,宅地等として有効に使用できる面積との相違を本件売買契約の代金に反映させる趣旨で設けられたものと解するのが相当であって,売買対象物たる本件土地の客観的範囲が変動することを予定し,かつかかる事態を許容する趣旨で設けられたものとまでは考え難い

【東京地裁平成24年10月5日判決】
本件合意では,「買主の責任と負担によって行われる確定測量の結果,精算基準面積と差異が生じた場合に精算義務が発生する」旨規定されているところ,上記確定測量とは,対象土地について,隣接地の所有者との間で境界を確定した上で,その境界に従って対象土地の面積を測量し,対象土地の面積を確定することをいうものと解される。

【名古屋地裁令和5年12月14日判決】
※「1 売主又は買主は、相手方がこの契約に定める債務を履行しないとき、自己の債務の履行を提供し、かつ、相当の期間を定めて催告した上で、本件売買契約を解除することができる。2 前項の契約解除がなされた場合、売主又は買主は、相手方に売買代金の20パーセント相当額の違約金を請求することができる。ただし、債務の不履行がこの契約及び取引上の社会通念に照らして相手方の責めに帰することができない事由によるものであるときは、違約金の請求はできないものとする」(本件売買契約18条)という条項が定められていた事案。

土地の売買に関し、当該土地の隣地との間の境界が確定しているか否かは、購入後の当該土地の利用に際し、重要な要素の1つとなる場合があり、一般的に、当該土地の隣地との間の境界が不明であることは、当該土地の減価要因となり得る事情である。
本件においても、原告は、被告に対し、本件土地の売買には確定測量図の交付が必須となることを伝え、被告もこれを了解していることからすれば、本件土地の確定測量図の交付は、本件売買契約において重要な要素の1つとなっており、このことは、被告も十分に認識していたものと認められる。
そうすると、被告による本件土地の確定測量図の不交付が、本件売買契約18条において解除ないし違約金請求の前提として規定されている本件売買契約上の債務の不履行に該当することは明白である。
<中略>
被告が、本件土地の確定測量図の交付等の債務を履行することができなかったのは、本件土地の隣地所有者であるAが、本件土地とA所有地との間の境界確認の立会に協力しなかったためであると認められる。
<中略>
当時の状況等を踏まえた適切な説明や対応等を行ったにもかかわらず、Aが本件土地の境界立会について協力しない態度に不当に固執するなどしたとすれば、本件土地の確定測量図の交付等ができなかったのは、正当な理由に基づかないAの個人的な事情等が原因であり、被告の責めに帰することができない事由によるものであると評価し得る場合もあり得る。
<中略>
被告が、Aに対し、いつ、どのような内容の対応をしたのか、それに対してAがどのような応答をしたのかなどについて、何ら具体的な立証はなされていない。
以上の事情に照らすと、本件土地の確定測量図の交付等ができなかったのが、Aの個人的な理由が原因であり、被告の責めに帰することができない事由によるものであることを認めるに足りる立証はなされていない
<中略>
原告による被告の債務不履行を理由とする本件売買契約の解除は有効であり、原告は、本件売買契約18条に基づき、被告に対し、本件売買契約の解除に伴って既払の手付金の返還及び約定の違約金並びにこれらに対する上記解除日の翌日以降の遅延損害金の支払を請求することができるというべきである。

 結論

以上より,境界未確定の土地において境界を確定させるためには、まずは、土地家屋調査士の先生に依頼して、土地の測量を行い、それに合わせて、隣地所有者との間で境界立会確認を行います。

境界立会確認とは、土地所有者(管理者)を含む利害関係者に現地で境界標や境界杭等を確認してもらい、それに基づく境界線とすることについて、「境界確認書」に署名・捺印をしてもらう手続きをいいます(通常は、境界立会確認の手続も含めて土地家屋調査士の先生に依頼します)。

もっとも,隣接地所有者の境界確認は所有権界を確認する一種の私法上の契約に過ぎず、公法上の筆界を確定する効果は有しません(【最高裁昭和42年12月26日判決】、官民境界協議につき、前掲【東京地裁平成15年7月18日判決】前掲【東京地裁平成21年3月24日判決】)。 なお、これは、裁判上の和解であっても同様です。

【最高裁昭和42年12月26日判決】
相隣者間において境界を定めた事実があつても、これによつて、その一筆の土地の境界自体は変動しないものというべきである(昭和三一年一二月二八日当裁判所第二小法廷判決・民集一〇巻一二号一六三九頁参照)。
したがって、右合意の事実を境界確定のための一資料にすることは、もとより差し支えないが、これのみにより確定することは許されないものというべきである。

 実務上の注意点

3.越境物の敷地部分の取得時効の完成を防ぐ手法
境界立会確認時に、隣地の工作物の一部が越境していることが判明する場合があります。

この場合、筆界としては確定しても、時効取得(民法162条)を主張されると、敷地部分の所有権界を争われる危険があります。

そこで、取得時効の完成を防ぐために、即座に越境物の撤去を請求する方法もありますが、その時点ですでに20年経過してしまっていると、逆に弁護士に相談されて、取得時効を主張されるリスクが高まります。

この点、「境界は現場で表示のとおり異議なく承諾いたします」という境界立会確認書自体の効果につき「所有者であれば通常はとらない態度であるといわなければならない。したがって、本件土地に対する占有については、民法186条所定の所有の意思の推定はくつがえされたものというべきである」と判示した裁判例もありますが(【東京地裁平成13年10月15日判決】)、このような場合には、念のため、隣地所有者による越境部分の敷地の占有が、自主占有(所有の意思)ではなく他主占有(借りている意思)であることを認めさせるような覚書を作成しておくことが有益となります。

隣地所有者からしてみれば、本来なら撤去請求されてもおかしくないところを、撤去を免れるメリットがありますので、筆界さえ決まれば、このような覚書の締結はスムーズに行くケースのほうが多いと思われます。

【民法186条】
1 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

【東京地裁平成13年10月15日判決】
Aは,本件土地が公共用地(水路敷)であることを認識した上で,自己の所有する10番8の土地と公共用地である本件土地との間の境界を承諾し,その旨の本件承諾書に署名押印したものと認めることができる。しかるところ,本件承諾書は,前記認定のとおり,東京都知事宛のものであり,東京都知事は,前記の一連の境界明示手続において,公図上水路敷である本件土地の管理者の立場にあったと認められるから,結局,Aは,本件承諾書に署名捺印することによって,公図上本件土地の所有者と目される国に対し,同土地が国有地であることを承認した上で,同土地と自己所有地である10番8の土地との境界を承諾したというべきことになる。
そうすると,Aのこのような態度は,外形的客観的にみて,Aが本件土地の真の所有者であれば通常はとらない態度であるといわなければならない。
したがって,本件土地に対するAの占有については,民法186条所定の所有の意思の推定はくつがえされたものというべきである。

►さらに詳しく知りたい方は,多湖章『書籍には載っていない!相隣紛争で判断に迷う時の解決法』〔レガシィ 2021年6月〕もご参照願います。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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