|
青田売(完成前)物件の説明義務の範囲・程度 | ≪全画面 |
完成前(建築中)のタワーマンションを買い受けたが,パンフレットのパース画像やモデルルームにおける眺望に関する説明と実際の眺望が異なっていた場合,説明義務違反を理由に契約解除できるか。
解説 |
1.青田売物件の募集・販売時に必要な措置
建物の完成前(工事の完了前)に,モデルルーム等で買主に重要事項の説明をした上,売買契約の締結まで完了することを,「青田売」(あおたうり)といい,近年,都心の新築マンションの分譲販売の場合などでは,これが主流となっています。
青田売物件すなわち「工事の完了前」の物件の売買契約では,契約締結に至る各段階において,売主たる宅建業者には,最低限,次の(1)~(4)の措置を講じておくことが義務付けられています。
(1) 募集・広告時(宅建業法33条)
・建築確認の確認済証の取得(建築基準法6条1項柱書前段)。
※都市計画区域外かつ木造2階建て以下の一定規模以下の建物など建築基準法6条1項各号に該当しない場合は不要。
※いわゆるセレクトプラン(建築確認を受けたプランと受けていないプランをあわせて示す方式)の場合は建築確認を受けていないプランについて変更の確認が必要である旨を表示すれば足りる(国交省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』〔令和6年7月1日施行版〕13頁)。
(2) 重要事項説明書交付時(宅建業法35条1項5号)
・建物の敷地内における位置、各階の床面積及び間取りを示す平面図(マンション等建物の一部にあっては、敷地及び当該敷地内における建物の位置を示す平面図並びに当該物件の存する階の平面図並びに当該物件の平面図)の交付(国交省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』〔令和6年7月1日施行版〕23頁)。
・建築の工事の完了時における当該建物の主要構造部、内装及び外装の構造又は仕上げ並びに設備の設置及び構造の説明(宅建業法施行規則16条)。
(3) 売買契約締結時(宅建業法36条)
・建築確認の確認済証(建築基準法6条1項柱書前段)の取得。
※都市計画区域外かつ木造2階建て以下の一定規模以下の建物など建築基準法6条1項各号に該当しない場合は不要。
※いわゆるセレクトプラン(建築確認を受けたプランと受けていないプランをあわせて示す方式)やマンションのスケルトン・インフィル等購入者の希望に応じて変更の確認を必要とする場合においては変更の確認を受けることを停止条件等とすることにより消費者の保護を図っていれば変更の確認を受ける前に契約を締結しても差し支えない(国交省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』〔令和6年7月1日施行版〕35頁)。
(4) 手付金等受領時(宅建業法41条1項柱書本文)
手付金等の保全措置(宅建業法41条1項1号又は2号)。
※手付金等の額が売買代金の5%以下かつ1000万円以下の場合は不要(宅建業法41条1項柱書但書,同法施行令3条の5)。
※「手付金等」には,売買代金に充当され,かつ売買契約締結後~引渡前までに支払われるものであれば,手付金に限らず,預け金,契約申込金,中間金等も含まれる(岡本正治ほか『逐条解説 宅地建物取引業法(三訂版)』〔大成出版社 2020年〕763頁以下)。
※買主も宅建業者の場合は保全措置不要(宅建業法78条2項)。
【宅建業法33条】
宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、当該工事に関し必要とされる都市計画法第二十九条第一項又は第二項の許可、建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第六条第一項の確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあつた後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告をしてはならない。
【宅建業法35条1項】
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
一~四 省略
五 当該宅地又は建物が宅地の造成又は建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造その他国土交通省令・内閣府令で定める事項
六 以下省略
【宅建業法36条】
宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、当該工事に関し必要とされる都市計画法第二十九条第一項又は第二項の許可、建築基準法第六条第一項の確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあつた後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物につき、自ら当事者として、若しくは当事者を代理してその売買若しくは交換の契約を締結し、又はその売買若しくは交換の媒介をしてはならない。
【宅建業法41条1項】
宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建築に関する工事の完了前において行う当該工事に係る宅地又は建物の売買で自ら売主となるものに関しては、次の各号のいずれかに掲げる措置を講じた後でなければ、買主から手付金等(代金の全部又は一部として授受される金銭及び手付金その他の名義をもつて授受される金銭で代金に充当されるものであつて、契約の締結の日以後当該宅地又は建物の引渡し前に支払われるものをいう。以下同じ。)を受領してはならない。ただし、当該宅地若しくは建物について買主への所有権移転の登記がされたとき、買主が所有権の登記をしたとき、又は当該宅地建物取引業者が受領しようとする手付金等の額(既に受領した手付金等があるときは、その額を加えた額)が代金の額の百分の五以下であり、かつ、宅地建物取引業者の取引の実情及びその取引の相手方の利益の保護を考慮して政令で定める額以下であるときは、この限りでない。
一 銀行その他政令で定める金融機関又は国土交通大臣が指定する者(以下この条において「銀行等」という。)との間において、宅地建物取引業者が受領した手付金等の返還債務を負うこととなつた場合において当該銀行等がその債務を連帯して保証することを委託する契約(以下「保証委託契約」という。)を締結し、かつ、当該保証委託契約に基づいて当該銀行等が手付金等の返還債務を連帯して保証することを約する書面を買主に交付すること。
二 保険事業者(保険業法(平成七年法律第百五号)第三条第一項又は第百八十五条第一項の免許を受けて保険業を行う者をいう。以下この号において同じ。)との間において、宅地建物取引業者が受領した手付金等の返還債務の不履行により買主に生じた損害のうち少なくとも当該返還債務の不履行に係る手付金等の額に相当する部分を当該保険事業者がうめることを約する保証保険契約を締結し、かつ、保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付すること。
【宅建業法78条2項】
第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。
【宅建業法施行規則16条】
法第三十五条第一項第五号の国土交通省令・内閣府令で定める事項は、宅地の場合にあつては宅地の造成の工事の完了時における当該宅地に接する道路の構造及び幅員、建物の場合にあつては建築の工事の完了時における当該建物の主要構造部、内装及び外装の構造又は仕上げ並びに設備の設置及び構造とする。
【宅建業法施行令3条の5】
法第四十一条第一項ただし書及び第四十一条の二第一項ただし書の政令で定める額は、千万円とする。
【建築基準法6条1項】
建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事又は建築副主事(以下「建築主事等」という。)の確認(建築副主事の確認にあつては、大規模建築物以外の建築物に係るものに限る。以下この項において同じ。)を受け、確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合も、同様とする。
一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が二百平方メートルを超えるもの
二 木造の建築物で三以上の階数を有し、又は延べ面積が五百平方メートル、高さが十三メートル若しくは軒の高さが九メートルを超えるもの
三 木造以外の建築物で二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超えるもの
四 前三号に掲げる建築物を除くほか、都市計画区域若しくは準都市計画区域(いずれも都道府県知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く。)若しくは景観法(平成十六年法律第百十号)第七十四条第一項の準景観地区(市町村長が指定する区域を除く。)内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部若しくは一部について指定する区域内における建築物
|
2.説明義務の範囲及び程度
宅建業法47条1号ニでは「宅地若しくは建物の所在,規模,形質,現在若しくは将来の利用の制限,環境,交通等の利便,代金,借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて,宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について故意に事実を告げず(重要事項の不告知),または不実のこと告げる行為(不実の告知)をしてはならないと規定されております。
また,消費者契約法にも同種の規定があり,「不実の告知」(同法4条1項1号)や「不利益事実の不告知」(同法4条2項)の場合には,当該事実を知った時から1年以内であれば契約を取り消すことができるとされています(同法7条1項。なお,判例実務上,投資目的の個人顧客へのマンション販売にも消費者契約法の適用はあるとされています。【東京地裁平成24年3月27日判決】等)。
また,「故意」(消費者契約法4条2項の場合は「重大な過失」も含む)はなかったとしても(よって,宅建業法47条1号や消費者契約法4条1項1号及び2項には直接的には抵触しなくても),物件を販売する不動産業者には,販売しようとする物件に関し「正確な情報を提供する義務があり,誤った情報を供して本件建物の購入・不購入の判断を誤らせないようにする信義則上の義務がある」(【東京高裁平成11年9月8日判決】)とされていますので,「故意」でないとしても,顧客が購入を決断する上で重要な動機となる事項につき説明を怠ったり忘れたりした場合には,説明義務違反を問われる可能性があります。
そして,とりわけ青田売の物件においては,「完成前のマンションの販売においては,購入希望者は現物を見ることができないから,売主は購入希望者に対し,その売買予定物の状況について,その実物を見聞できたのと同程度にまで説明する義務がある」(【大阪高裁平成11年9月17日判決】)とされておりますので,「リバーサイド」,「オーシャンビュー」など眺望を売りにしたタワーマンションの上層階などを青田売りで販売する際には,営業担当者は,図面,模型,あるいはドローン等で撮影した眺望動画等により,できる限り正確な情報を伝えるとともに,眺望は実際とは異なること,月日の経過とともに変化するものであること(例えば他の高層マンションの建設等により眺望がさえぎられる可能性があること等)を顧客にしっかりと伝えておく必要があります。
この点,【福岡地裁平成18年2月2日判決】でも,「建築前にマンションを販売する場合においては,購入希望者は現物を見ることができないのであるから,売主は,購入希望者に対し,販売物件に関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があり,とりわけ,居室からの眺望をセールスポイントとしているマンションにおいては,眺望に関係する情報は重要な事項ということができるから,可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があるというべきである。そして,この説明義務が履行されなかった場合に,説明義務が履行されていれば買主において契約を締結しなかったであろうと認められるときには,買主は売主の説明義務違反(債務不履行)を理由に当該売買契約を解除することができると解すべきである。これを本件についてみると,原告は,本件マンションの販売の際,海側の眺望をセールスポイントとして販売活動をしており,被告もこの点が気に入って5階と眺望の差異がないことを確認して301号室の購入を検討していたのであるから,原告は,被告に対し,眺望に関し,可能な限り正確な情報を提供して説明すべき義務があったというべきである。そして,上記認定の事実によれば,301号室にとって,本件電柱及び送電線による眺望の阻害は小さくないのであるから,原告は,本件電柱及び送電線が301号室の眺望に影響を与えることを具体的に説明すべき義務があったというべきであり,原告がこの説明義務を怠ったのは売主の債務不履行に当たる」として,契約の解除を認めました。
【宅建業法47条】
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 イ~ハ 省略
二 イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
二 以下省略
【消費者契約法4条】
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
3 以下省略
【消費者契約法7条1項】
第四条第一項から第四項までの規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間(同条第三項第八号に係る取消権については、三年間)行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年(同号に係る取消権については、十年)を経過したときも、同様とする。
|
|
結論 |
以上より,青田売り物件の販売において,パンフレットや広告等で日照や眺望をセールスポイントとしていた場合には,この点に関して販売業者が負うべき説明義務の程度も加重されますので,例えば眺望を特にセールスポイントとし,顧客もそれを重視していたという場合,販売業者には,隣地に眺望を遮るような建物の建設計画がないか問い合わせるとか,建築後の電線等の造作施設の位置関係などをしっかりと確認して説明する義務があり,かかる説明を怠った場合には,故意の場合はもちろん,故意とまでいえない場合でも,債務不履行に基づく契約解除が認められる可能性があります。
もっとも,一般に債務不履行に基づく解除については,契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には認められないため(債務不履行解除の可否参照),説明義務違反(=債務不履行)があったからといって,必ずしも売買契約の解除まで認められるわけではありません。
この点については,それぞれの物件の状況や契約の締結経緯(動機)等に鑑みて,慎重かつ柔軟な対応が必要となります。
|
実務上の注意点 |
3.「工事の完了前」とは
青田売の物件の場合,前述1のとおり,一定の措置が義務付けられますので,そもそも青田売物件に該当するのか,「工事の完了前」の意義が問題になることがります。
この点,「工事が完了しているか否かについては、売買契約時において判断すべきであり、また、工事の完了とは、単に外観上の工事のみならず内装等の工事が完了しており、居住が可能である状態を指す」と解されています(国交省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』〔令和6年7月1日施行版〕40頁)。
また,新築物件のみならず,中古物件において売主がリフォーム工事を施工して買主に引き渡す条件になっている場合も,「工事対象が建物の主要構造部,内装,外装の構造又は仕上げ,設備の設置等に関するもの」の場合は,「工事の完了前」に該当しますので,同様の措置が義務付けられます(岡本正治ほか『逐条解説 宅地建物取引業法(三訂版)』〔大成出版社 2020年〕577,763頁)。
なお,実務上は,売買契約の対象としては土地のみに留め,建物については,土地の売買契約とは別途で工事請負契約を締結するケースもしばしばあります。
この場合,(工事の完了前であっても)建物については,「売買」ではなく「請負」の契約となるため,宅建業法上の規制は基本的に及びません(宅建業法2条2号反対解釈)。
もっとも,「契約の法的性質については,実質的に判断し,売主業者が提示する建築物の間取り・構造,設備,仕様等を注文者(宅地の買主)はほとんど変更できない等,請負の実体を欠いている場合には一戸の建売り住宅,土地付き建物の売買(未完成物件の売買)とみるべきである」と解されていますので(岡本正治ほか『逐条解説 宅地建物取引業法(三訂版)』〔大成出版社 2020年〕69頁,【東京地裁平成25年7月30日判決】参照),契約の実体に応じた適切な対応が必要となります。
【宅建業法2条】
この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号の定めるところによる。
一 省略
二 宅地建物取引業 宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うものをいう。
三 以下省略
【東京地裁平成25年7月30日判決】
本件建物に係る建築確認申請及び本件契約締結後に行われた2回の建築計画変更確認申請はいずれも被告会社を建築主とするものであること,本件建物は,被告会社の提供する建築プランの中から選択されたものであることに加え,その外構,外壁の材質,色調等は被告会社が分譲する近隣の建物と調和のとれたものとするという意図の下に建築されていることを総合して勘案すれば,間取りや内装等ついて,一定程度,原告らの意向が反映されているとしても,本件建物は,いわゆる注文住宅というよりは,被告会社の規格で建築され,その敷地と共に販売に供されたいわゆる建売住宅であり,原告らの主張するとおり,本件契約は土地付建売住宅の売買契約であると認めるのが相当である。
|
4.建築工事中の事故が売買契約に与える影響
青田売の物件の売買契約締結後に,建築工事現場で作業員が死亡するという事故が起こった場合に,買主は売買代金の減額や売買契約の解除を主張することができるのでしょうか。
この点については,買い受けた建物部分で,社会通念上忌むべき事情が発生し,客観的にみて,一般人にとっても住み心地の良さに重大な心理的影響を与える場合など,買主が建物を買い受けた目的を著しく阻害する程度に至っている場合には,契約不適合責任として代金減額請求(民法563条2項1号)又は契約解除(民法542条1項3号,564条)が認められる可能性がありますが,そのような重大な程度にまで至らず,単に買主が主観的に不快感等を有するに過ぎない場合には,契約不適合とまでは認められません(【東京地裁平成23年5月25日判決】【東京地裁平成24年4月17日判決】)。
【民法542条1項】
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一~二 省略
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 以下省略
【東京地裁平成23年5月25日判決】
一般に,債務が不完全履行であり,不完全な部分が追完不可能となったかどうかは,履行不能の場合と同様,この不完全な部分の追完が,物理的又は社会通念上,もはや追完不可能となったかにより判断されるものであり,マンションの区分所有部分の引渡債務においては,物理的には引渡が可能であるが,社会通念上,買主が当該部分を買い受けた目的を達せられないほどの瑕疵がある場合(例えば,居住を目的として当該部分を買い受けた場合において,当該部分で凄惨な殺人事件が起こったなど,社会通念上,忌むべき事情があり,一般人にとっても住み心地の良さに重大な影響を与えるような場合のように重大な心理的な瑕疵がある場合など。)も含むと解され,単に買主が主観的に不快感等を有するためにそのような目的が達せられないというものではこのような瑕疵があるとはいえない。
そこで,本件について,このような瑕疵があるか検討するに,確かに,本件建物の属する本件マンションの共用部分において死亡事故があったものであり,本件建物を買い受けるに当たって主観的にこれを忌避する感情をもつ者がいないとはいえないものの,本件事故は,人の死亡という結果は生じているものの,飽くまで建設工事中の事故であって,殺人事件などと同視できないものである上,原告の専用部分となるべき本件建物内で発生したものではなく,本件建物から相当程度離れたフロアの,共用部分で発生したものであること,本件事故の直後にはニュース等で報道され,現在でもインターネット上で本件事故の情報を取得することができることが推認されるが,全証拠及び弁論の全趣旨によっても,それ以上に本件事故に関し本件建物や本件マンションの住み心地の良さに重大な影響を与えるような情報やそれらの価値を貶めるような情報が流布しているなどといった事実も認められないことに照らせば,本件建物に,社会通念に照らし,上記のような瑕疵が存在すると認めるに足りない。
また,上記のようなことからすれば,本件建物の市場価値が減少したとも認めるに足りない。
さらに,原告が主張する最上級の安心感,高級感,くつろぎ等の性能,品質,価値等を有する建物を原告が取得することに対して抱いている期待感を保護すべき義務の不履行について検討する。
まず,売買契約の買主が目的物の引渡しを受けるまで有する期待感は,多分に買主の主観的な価値観に基づくものであり,その内容自体不明確なものである上,売主の給付義務に直接的な関係を有するものではないことからすれば,特段の事情のない限り,売買契約の売主は買主に対し,こうした期待感を保護すべき義務を負うものではない。
本件においても,本件売買契約の売主である被告は,目的物を引き渡すまで買主である原告の期待感を保護すべき付随義務を負うとは認められない(全証拠及び弁論の全趣旨によってもこのような期待感を保護すべき特段の事情も認められない。)。
この点をおいても,本件事故についての上記で述べたような事情に照らせば,社会通念に照らし,このような期待感が毀損されたと認めるに足りない(なお,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告に対し,本件事故に関し状況に応じて可能な説明をするなどしており,被告の対応が不適切であったなどと認めるに足りる証拠もない。)。
この点,原告は,被告らが,本件建物を販売にあたって,案内書,売買契約書,重要事項説明書において,案内書において謳っている「フラッグシップ」等の最上級の形容詞にふさわしい住み心地等の性能,品質,高級性能を満たす建物であることを約束していたが,本件事故により本件建物をこのような価値を有するものとして原告に引き渡すことが不能になった,このような性能等を有する建物の引渡しを受けることができる期待感が損なわれたと主張する。
しかしながら,案内書は本件建物等の購入を勧誘するための文言にすぎず,上記のような価値や期待感を殊更に保証するものであるとは認められず,売買契約書及び重要事項説明書においても一般的にマンションとして通常備わっている価値を超えて上記のような価値や期待感を殊更に保証していると認められず,その他全証拠及び弁論の全趣旨によっても,上記のような価値や期待感を殊更に保証しているとは認めるに足りない。
この点をおいても,本件建物ないし本件マンションの立地,物理的な性能及び品質などのこれらの高級性において重要である点については,全証拠及び弁論の全趣旨によっても特段問題が生じているとは認められない上,本件事故についての上記で述べたような事情に照らせば,社会通念に照らして,上記のような価値や期待感が毀損されているとも認めるに足りない。
【東京地裁平成24年4月17日判決】
原告らは,本件事故が発生したため,被告らが事故物件でない物件を引き渡すという債務の本旨に従った履行を行うことが不可能となった,あるいは,被告らが高品質,高資産価値のマンションを引き渡すという債務を履行することが不可能となった旨主張する。
債務の履行が不能であるかどうかは,社会の取引観念に従って定められるところ,前記争いのない事実及び認定事実によれば,本件事故は,本件マンションのエレベーター設置前に,エレベーターレール設置作業中に発生したものであること,本件事故は,原告らが購入した本件マンションの部屋において発生したものではなく,共用部分たるエレベーターシャフト内で発生したものであること,本件事故の発生現場は地下1階ピットであり,原告らが購入した部屋とはフロアを異にしていることなどの事実が認められるのであり,これらの事実にかんがみると,原告らが指摘する事情を考慮しても,本件事故によって,被告らの債務の履行が不能になったと解することはできない。
したがって,原告らの債務不履行に基づく解除は認められない。
<中略>
原告らは,本件事故により心理的瑕疵が生じた旨主張するが,前記認定事実によれば,本件事故は,本件各売買契約締結後に発生したことが明らかであり,本件各売買契約において,「売買の目的物に隠れた瑕疵があった」とはいうことはできない。
また,確かに,本件事故により原告らが不安感を抱くようになったことなどは否定できないものの、上記のとおり,本件事故が本件マンションのエレベーター設置前のエレベーターレール設置作業中に発生したものであること,本件事故は原告らが購入した本件マンションの部屋において発生したものではないこと,本件事故の発生場所は原告らが購入した部屋とフロアを異にしていることなどの事実が認められ,これらの事情を総合考慮すれば,本件各売買契約の目的を達することができると認めるのが相当である。
したがって,原告らの瑕疵担保責任に基づく解除は認められない。
|
※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
|
|