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不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
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青田売り物件の特殊性
*本項は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
【事例】建築工事中の事故が売買契約に与える影響
完成前(建築中)のマンションを買い受けたが,その後,工事中に作業員がマンションの工事現場で死亡した場合,買主は売買代金の減額や契約解除が主張できるか。

【解説】多湖・岩田・田村法律事務所/平成31年3月版
【1】新築マンションについて,完成前に売買契約が締結されることがあります(これを一般に「青田売り」と言います)。では,いわゆる青田売り物件の売買契約締結後に,工事現場で作業員が死亡するという事故が起こった場合に,買主は売買代金の減額や売買契約の解除を主張することができるのでしょうか。
【2】この点,【東京地裁平成23年5月25日判決】は,作業員が作業中にマンション工事現場で死亡したことにより,買主が売買契約の解除と手付金の返還及び慰謝料を請求した事案で以下のとおり判示し,結論として買主の請求を認めませんでした。
(1)一般に,債務が不完全履行であり,不完全な部分が追完不可能となったかどうかは,履行不能の場合と同様,この不完全な部分の追完が,物理的又は社会通念上,もはや追完不可能となったかにより判断されるものであり,マンションの区分所有部分の引渡債務においては,物理的には引渡しが可能であるが,社会通念上,買主が当該部分を買い受けた目的を達せられないほどの瑕疵がある場合(例えば,居住を目的として当該部分を買い受けた場合において,当該部分で凄惨な殺人事件が起こったなど,社会通念上、忌むべき事情があり,一般人にとっても住み心地の良さに重大な影響を与えるような場合のように重大な心理的な瑕疵がある場合など)も含むと解され,単に買主が主観的に不快感等を有するためにそのような目的が達せられないというものではこのような瑕疵があるとはいえない。

(2)本件について,このような瑕疵があるか検討するに,確かに,本件建物の属するマンションの共用部分において死亡事故があったものであり,本件建物を買い受けるに当たって主観的にこれを忌避する感情をもつ者がいないとはいえないものの,事故は,人の死亡という結果は生じているものの,あくまで建設工事中の事故であって,殺人事件などと同視できないものである上,Xの専用部分となるべき本件建物内で発生したものではなく,本件建物から相当程度離れたフロアの,共用部分で発生したものであること,事故の直後にはニュース等で報道され,現在でもインターネット上で本件事故の情報を取得することができることが推認されるが,それ以上に事故に関し本件建物やマンションの住み心地の良さに重大な影響を与えるような情報やそれらの価値を貶めるような情報が流布しているなどといった事実も認められないことに照らせば,本件建物に,社会通念に照らし,上記のような瑕疵が存在すると認めるに足りない。

(3)さらに,原告が主張する最上級の安心感,高級感,くつろぎなどの性能,品質,価値などを有する建物を原告が取得することに対して抱いている期待感を保護すべき義務の不履行について検討する。まず,売買契約の買主が目的物の引渡しを受けるまで有する期待感は,多分に買主の主観的な価値観に基づくものであり,その内容自体不明確なものである上,売主の給付義務に直接的な関係を有するものではないことからすれば,特段の事情のない限り,売買契約の売主は買主に対し,こうした期待感を保護すべき義務を負うものではない。本件においても,本件売買契約の売主である被告は,目的物を引き渡すまで買主である原告の期待感を保護すべき付随義務を負うとは認められない。この点をおいても,本件事故についての上記で述べたような事情に照らせば,社会通念に照らし,このような期待感が毀損されたと認めるに足りない(なお,被告は,原告に対し,本件事故に関し状況に応じて可能な説明をするなどしており,被告の対応が不適切であったなどと認めるに足りる証拠もない。)。
【3】また,同様の事案で【東京地裁平成24年4月17日判決】も,以下のとおり判示し,結論として買主の請求を認めませんでした。
(1)債務不履行責任に基づく解除について
原告らは,本件事故が発生したため,被告らが事故物件でない物件を引き渡すという債務の本旨に従った履行を行うことが不可能となった,あるいは,被告らが高品質,高資産価値のマンションを引き渡すという債務を履行することが不可能となった旨主張するが,債務の履行が不能であるかどうかは,社会の取引観念に従って定められるところ,前記争いのない事実及び認定事実によれば,本件事故は,本件マンションのエレベーター設置前に,エレベーターレール設置作業中に発生したものであること,本件事故は,原告らが購入した本件マンションの部屋において発生したものではなく,共用部分たるエレベーターシャフト内で発生したものであること,本件事故の発生現場は地下1階ピットであり,原告らが購入した部屋とはフロアを異にしていることなどの事実が認められるのであり,これらの事実にかんがみると,原告らが指摘する事情を考慮しても,本件事故によって,被告らの債務の履行が不能になったと解することはできない。

(2)瑕疵担保責任に基づく解除について
原告らは,本件事故により心理的瑕疵が生じた旨主張するが,本件事故は,本件各売買契約締結後に発生したことが明らかであり,本件各売買契約において,『売買の目的物に隠れた瑕疵があった』とはいうことはできない。また,確かに,本件事故により原告らが不安感を抱くようになったことなどは否定できないものの、上記のとおり,本件事故が本件マンションのエレベーター設置前のエレベーターレール設置作業中に発生したものであること,本件事故は原告らが購入した本件マンションの部屋において発生したものではないこと,本件事故の発生場所は原告らが購入した部屋とフロアを異にしていることなどの事実が認められ,これらの事情を総合考慮すれば,本件各売買契約の目的を達することができると認めるのが相当である。
【結論】
以上より,例えば,マンションの躯体が完成し,買い受けたマンションの部屋(専有部分)の内装中にその(買い受けた)部屋の中でまさに作業員が死亡したとか,マンション工事現場で殺人事件により人が死亡しマスコミ等でも大々的に報道されたというような場合であれば別ですが,単に作業員が工事現場で死亡したというだけでは,代金減額(損害賠償)請求や解除はなかなか認められ難いでしょう。


【事例】青田売り物件における眺望等に関する説明義務
完成前(建築中)のタワーマンションを買い受けたが,パンフレットのパース画像やモデルルームにおける眺望に関する説明と実際の眺望が異なっていた場合,説明義務違反を理由に契約解除できるか。

【解説】多湖・岩田・田村法律事務所/平成31年3月版
【1】宅建業法47条では「宅地若しくは建物の所在,規模,形質,現在若しくは将来の利用の制限,環境,交通等の利便,代金,借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて,宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について故意に事実を告げず(重要事項の不告知),または不実のこと告げる行為(不実の告知)をしてはならないと規定されております。
【2】また,消費者契約法にも同種の規定があり,「不利益事実の不告知」(同法4条2項)や「不実の告知」(同法4条1項1号)の場合には当該事実を知った時から6か月(平成29年6月3日改正法施行以降の締結にかかる契約については1年)以内であれば契約を取り消すことができるとされています(なお,判例実務上,投資目的の個人顧客へのマンション販売にも消費者契約法の適用はあるとされています。【東京地裁平成24年3月27日判決】等)。
【3】 また,「故意」でなくても(よって,宅建業法47条や消費者契約法4条1項1号及び2項には直接的には抵触しなくても),物件を販売する不動産業者には,販売しようとする物件に関し「正確な情報を提供する義務があり,誤った情報を供して本件建物の購入・不購入の判断を誤らせないようにする信義則上の義務がある」(【東京高裁平成11年9月8日判決】)とされていますので,「故意」でないとしても,顧客が購入を決断する上で重要な動機となる事項につき説明を怠ったり忘れたりした場合には,説明義務違反を問われる可能性があります。
【4】そして,とりわけ青田売り物件においては,「完成前のマンションの販売においては,購入希望者は現物を見ることができないから,売主は購入希望者に対し,その売買予定物の状況について,その実物を見聞できたのと同程度にまで説明する義務がある」(【大阪高裁平成11年9月17日判決】)とされておりますので,「リバーサイド」,「オーシャンビュー」など眺望を売りにしたタワーマンションの上層階などを青田売りで販売する際には,営業担当者は,図面,模型,あるいはドローン等で撮影した眺望動画等により,できる限り正確な情報を伝えるとともに,眺望は実際とは異なること,月日の経過とともに変化するものであること(例えば他の高層マンションの建設等により眺望がさえぎられる可能性があること等)を顧客にしっかりと伝えておく必要があります。
【5】この点,【福岡地裁平成18年2月2日判決】でも,「建築前にマンションを販売する場合においては,購入希望者は現物を見ることができないのであるから,売主は,購入希望者に対し,販売物件に関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があり,とりわけ,居室からの眺望をセールスポイントとしているマンションにおいては,眺望に関係する情報は重要な事項ということができるから,可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があるというべきである。そして,この説明義務が履行されなかった場合に,説明義務が履行されていれば買主において契約を締結しなかったであろうと認められるときには,買主は売主の説明義務違反(債務不履行)を理由に当該売買契約を解除することができると解すべきである。これを本件についてみると,原告は,本件マンションの販売の際,海側の眺望をセールスポイントとして販売活動をしており,被告もこの点が気に入って5階と眺望の差異がないことを確認して301号室の購入を検討していたのであるから,原告は,被告に対し,眺望に関し,可能な限り正確な情報を提供して説明すべき義務があったというべきである。そして,上記認定の事実によれば,301号室にとって,本件電柱及び送電線による眺望の阻害は小さくないのであるから,原告は,本件電柱及び送電線が301号室の眺望に影響を与えることを具体的に説明すべき義務があったというべきであり,原告がこの説明義務を怠ったのは売主の債務不履行に当たる」として,契約の解除を認めました。
【結論】
以上より,青田売り物件の販売において,パンフレットや広告等で日照や眺望をセールスポイントとしていた場合には,この点に関して販売業者が負うべき説明義務の程度も加重されますので,例えば眺望を特にセールスポイントとし,顧客もそれを重視していたという場合,販売業者には,隣地に眺望を遮るような建物の建設計画がないか問い合わせるとか,建築後の電線等の造作施設の位置関係などをしっかりと確認して説明する義務があり,かかる説明を怠った場合には,故意の場合はもちろん,故意とまでいえない場合でも,債務不履行に基づく契約解除が認められる可能性があります。
【補足】
なお,一般に債務不履行に基づく解除については,【最高裁昭和36年11月21日判決】で「法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は,契約の要素をなす債務の履行がないために,当該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり,当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には,特段の事情の存しない限り,相手方は当該契約を解除することができない」と解されており(同趣旨のものとして【最高裁昭和43年2月23日判決】等),説明義務違反(=債務不履行)があったからといって,必ずしも売買契約の解除まで認められるわけではありませんので,多湖・岩田・田村法律事務所でも,それぞれの物件の状況や契約経緯等に従った柔軟な対応を助言しております。⇒債務不履行解除の可否


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