【解説】多湖・岩田・田村法律事務所/平成31年3月版 |
【1】宅建業法47条では「宅地若しくは建物の所在,規模,形質,現在若しくは将来の利用の制限,環境,交通等の利便,代金,借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて,宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について故意に事実を告げず(重要事項の不告知),または不実のこと告げる行為(不実の告知)をしてはならないと規定されております。
【2】また,消費者契約法にも同種の規定があり,「不利益事実の不告知」(同法4条2項)や「不実の告知」(同法4条1項1号)の場合には当該事実を知った時から6か月(平成29年6月3日改正法施行以降の締結にかかる契約については1年)以内であれば契約を取り消すことができるとされています(なお,判例実務上,投資目的の個人顧客へのマンション販売にも消費者契約法の適用はあるとされています。【東京地裁平成24年3月27日判決】等)。
【3】
また,「故意」でなくても(よって,宅建業法47条や消費者契約法4条1項1号及び2項には直接的には抵触しなくても),物件を販売する不動産業者には,販売しようとする物件に関し「正確な情報を提供する義務があり,誤った情報を供して本件建物の購入・不購入の判断を誤らせないようにする信義則上の義務がある」(【東京高裁平成11年9月8日判決】)とされていますので,「故意」でないとしても,顧客が購入を決断する上で重要な動機となる事項につき説明を怠ったり忘れたりした場合には,説明義務違反を問われる可能性があります。
【4】そして,とりわけ青田売り物件においては,「完成前のマンションの販売においては,購入希望者は現物を見ることができないから,売主は購入希望者に対し,その売買予定物の状況について,その実物を見聞できたのと同程度にまで説明する義務がある」(【大阪高裁平成11年9月17日判決】)とされておりますので,「リバーサイド」,「オーシャンビュー」など眺望を売りにしたタワーマンションの上層階などを青田売りで販売する際には,営業担当者は,図面,模型,あるいはドローン等で撮影した眺望動画等により,できる限り正確な情報を伝えるとともに,眺望は実際とは異なること,月日の経過とともに変化するものであること(例えば他の高層マンションの建設等により眺望がさえぎられる可能性があること等)を顧客にしっかりと伝えておく必要があります。
【5】この点,【福岡地裁平成18年2月2日判決】でも,「建築前にマンションを販売する場合においては,購入希望者は現物を見ることができないのであるから,売主は,購入希望者に対し,販売物件に関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があり,とりわけ,居室からの眺望をセールスポイントとしているマンションにおいては,眺望に関係する情報は重要な事項ということができるから,可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があるというべきである。そして,この説明義務が履行されなかった場合に,説明義務が履行されていれば買主において契約を締結しなかったであろうと認められるときには,買主は売主の説明義務違反(債務不履行)を理由に当該売買契約を解除することができると解すべきである。これを本件についてみると,原告は,本件マンションの販売の際,海側の眺望をセールスポイントとして販売活動をしており,被告もこの点が気に入って5階と眺望の差異がないことを確認して301号室の購入を検討していたのであるから,原告は,被告に対し,眺望に関し,可能な限り正確な情報を提供して説明すべき義務があったというべきである。そして,上記認定の事実によれば,301号室にとって,本件電柱及び送電線による眺望の阻害は小さくないのであるから,原告は,本件電柱及び送電線が301号室の眺望に影響を与えることを具体的に説明すべき義務があったというべきであり,原告がこの説明義務を怠ったのは売主の債務不履行に当たる」として,契約の解除を認めました。 |
【結論】 |
以上より,青田売り物件の販売において,パンフレットや広告等で日照や眺望をセールスポイントとしていた場合には,この点に関して販売業者が負うべき説明義務の程度も加重されますので,例えば眺望を特にセールスポイントとし,顧客もそれを重視していたという場合,販売業者には,隣地に眺望を遮るような建物の建設計画がないか問い合わせるとか,建築後の電線等の造作施設の位置関係などをしっかりと確認して説明する義務があり,かかる説明を怠った場合には,故意の場合はもちろん,故意とまでいえない場合でも,債務不履行に基づく契約解除が認められる可能性があります。 |
【補足】 |
なお,一般に債務不履行に基づく解除については,【最高裁昭和36年11月21日判決】で「法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は,契約の要素をなす債務の履行がないために,当該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり,当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には,特段の事情の存しない限り,相手方は当該契約を解除することができない」と解されており(同趣旨のものとして【最高裁昭和43年2月23日判決】等),説明義務違反(=債務不履行)があったからといって,必ずしも売買契約の解除まで認められるわけではありませんので,多湖・岩田・田村法律事務所でも,それぞれの物件の状況や契約経緯等に従った柔軟な対応を助言しております。⇒債務不履行解除の可否 |