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仲介業者(媒介業者)の責任と説明義務≪全画面 

更新:2025年4月20日 
 事例

XはY(宅建業者)の媒介によりすでにBが入居中(賃借中)の中古マンションをAから買い受けた。Xは,マンションを買い受けるにあたり,Yから,「Bがすでに入居中(賃借中)である」との説明は受けていたが,売買契約締結及び代金支払後,Bが暴力団関係者であることが判明した。
この場合,Xは仲介業者Yに対し,債務不履行(調査確認義務違反)を理由に,売買代金相当額及び慰謝料等の損害賠償を請求できるか。

 解説

1.仲介業者が説明すべき重要事項とは
宅地建物取引業法上,宅地建物取引を媒介(宅建業法の明文上は「媒介」といい,いわゆる「仲介」は一般にこれより広義で使われることがあります。)する業者は,買主が売買契約を締結するかどうかを決定づけるような重大な事項について調査し,これを説明すべき義務を負っています(宅建業法35条,47条1号ニ,47条の2第1項。【東京地裁平成28年3月11日判決】)。

なお,宅建業法35条1項各号は,法定重説事項ですが,同項「少なくとも」等に照らせば,法定重説事項のみでは,必ずしも重要事項説明を尽くしたとはいえず,「契約ごとに説明すべき重要事項は異なる」と解されています(岡本正治ほか『逐条解説 宅地建物取引業法(三訂版)』〔大成出版社 2020年〕479頁)。

この点,賃貸中の物件の売買においては,賃料支払状況,用法違反の有無及び賃借人の居住(占有)の有無は,客観的に通常買主が重視し関心を寄せる重要事項といえますので,これを媒介する宅建業者としては,これらの各重要事項について調査して買主に告知・説明する義務があるといえます。

これに対し,当該賃借人がどのような素性の人物であるか(賃借人の属性)については,買主に主観的に関心があっても,賃貸借関係を将来継続し難くなる事情に関してのみ重要事項として調査対象となると考えられます。

もっとも,その調査の方法,程度については,賃借人の思想・信条・職業・私生活等プライバシーの保護の観点や権利の移転の媒介という契約の内容,事実上の制約という観点からして自ずから制限され,原則としてその物件の所有者または当該賃貸借契約を管理している管理会社に対し賃借人が提出した入居申込書に記載された身元・職業を確認することのほか,当該物件の外観から通常の用方がなされているかを確認し,その結果を依頼者に報告すれば足り,当該物件を内見したり,直接賃借人から事情を聴取することまでの調査義務を負うことは原則としてなく,例外的に,当該調査において,正常な賃貸借契約関係が継続していないことが窺われる場合には,その点につき適当な方法で自ら調査し,または,その旨を依頼者に報告して注意を促す義務を有すると考えられています(【東京地裁平成9年10月20日判決】)。

すなわち,仲介業者としては入居者の素性を調査するにしても,プライバシー保護等の観点から事実上限界があり,例えば,実際に室内に立ち入って使用状況を確認するとか,部屋の前に張り込んで出入りする人物の人相を確認する等の行為は,かえって,入居者のプライバシーの侵害(民法上の不法行為)となりかねませんので,仲介業者としては,一定の調査・報告義務があるとしても,それは入居者が自ら記入した職業欄の記載や表札の確認をし,不審な点があれば(例えば表札に暴力団を連想させる表記がしてある等)これを報告するという程度でも十分と考えられます。

【宅建業法35条1項】
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。

一 当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあつては、その名称)

二 都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で契約内容の別(当該契約の目的物が宅地であるか又は建物であるかの別及び当該契約が売買若しくは交換の契約であるか又は貸借の契約であるかの別をいう。以下この条において同じ。)に応じて政令で定めるものに関する事項の概要

三 当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは、私道に関する負担に関する事項

四 飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)

五 当該宅地又は建物が宅地の造成又は建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造その他国土交通省令・内閣府令で定める事項

六 当該建物が建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号)第二条第一項に規定する区分所有権の目的であるものであるときは、当該建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類及び内容、同条第四項に規定する共用部分に関する規約の定めその他の一棟の建物又はその敷地(一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又はこれに関する権利がそれらの建物の所有者の共有に属する場合には、その土地を含む。)に関する権利及びこれらの管理又は使用に関する事項で契約内容の別に応じて国土交通省令・内閣府令で定めるもの

六の二 当該建物が既存の建物であるときは、次に掲げる事項

イ 建物状況調査(実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る。)を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要

ロ 設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況

七 代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的

八 契約の解除に関する事項

九 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項

十 第四十一条第一項に規定する手付金等を受領しようとする場合における同条又は第四十一条の二の規定による措置の概要

十一 支払金又は預り金(宅地建物取引業者の相手方等からその取引の対象となる宅地又は建物に関し受領する代金、交換差金、借賃その他の金銭(第四十一条第一項又は第四十一条の二第一項の規定により保全の措置が講ぜられている手付金等を除く。)であつて国土交通省令・内閣府令で定めるものをいう。第六十四条の三第二項第一号において同じ。)を受領しようとする場合において、同号の規定による保証の措置その他国土交通省令・内閣府令で定める保全措置を講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要

十二 代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせんの内容及び当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置

十三 当該宅地又は建物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任の履行に関し保証保険契約の締結その他の措置で国土交通省令・内閣府令で定めるものを講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要

十四 その他宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護の必要性及び契約内容の別を勘案して、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める命令で定める事項

イ 事業を営む場合以外の場合において宅地又は建物を買い、又は借りようとする個人である宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に資する事項を定める場合 国土交通省令・内閣府令

ロ イに規定する事項以外の事項を定める場合 国土交通省令

【宅建業法47条1号】
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。

一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

イ 第三十五条第一項各号又は第二項各号に掲げる事項

ロ 第三十五条の二各号に掲げる事項

ハ 第三十七条第一項各号又は第二項各号(第一号を除く。)に掲げる事項

ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの

【宅建業法47条の2第1項】
宅地建物取引業者又はその代理人、使用人その他の従業者(以下この条において「宅地建物取引業者等」という。)は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為をしてはならない。

【東京地裁平成9年10月20日判決】
宅地建物取引業法上、被告会社は、本件売買契約の媒介において、本件売買契約における重要事項について調査し、委任者である原告に告知すべき義務がある。
本件委任契約の内容は、賃貸中の建物売買の媒介であるから、賃貸借関係における重要事項としては、主に賃料支払状況、用方違反の有無、賃借人自身の居住(占有)があげられよう。
ところで、賃借人がどのような人物であるかはそれ自体、買主に主観的に関心があっても、賃貸借中の建物売買を媒介する宅地建物取引業者としては、客観的に、通常買主が重視し、関心を寄せる右各重要事項について調査すべきであるが、賃借人の属性については、賃貸借関係を将来継続し難くなる事情に関してのみ重要な事項として調査対象となると考えられる。
ところで、その調査の方法、程度については、賃借人の思想・信条・職業・私生活等プライバシーの保護の観点や権利の移転の媒介という契約の内容、事実上の制約という観点からして自ずから制限され、原則としてその物件の所有者または当該賃貸借契約を管理している管理会社に対し賃借人が提出した入居申込書に記載された身元・職業を確認することのほか、当該物件の外観から通常の用方がなされているかを確認し、その結果を依頼者に報告すれば足り、当該物件を内見したり、直接賃借人から事情を聴取することまでの調査義務を負うことはないというべきである。
ただし、右調査において、正常な賃貸借契約関係が継続していないことが窺われる場合には、その点につき適当な方法で自ら調査し、または、その旨を依頼者に報告して注意を促す義務を有するものと考えるのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定事実のとおり、Bは暴力団員であり、本件建物の応接室に神棚、組の看板、入れ墨姿の写真を飾っているものの、本件建物の表札は名前だけであり、他に暴力団関係者や組事務所として使用している外観を表示するものを設置するなどしておらず、組員が出入りしている事情も窺えず、そして、賃料の支払いは本件訴え提起まで大方順調であり、賃貸人や管理人、他の本件マンション住人と紛争を起こしたり、苦情を寄せられたことはなかったのであるから、右事実関係のもとでは、Bが暴力団員であることをもって、賃借人の属性として、賃貸借関係を将来継続し難くなる事情に関して重要な事項となるとは直ちに言えないものと考えられる。他方、被告会社は、宏栄管理から資料を収集し、かつ被告乙川から事情を聞いたうえで、本件マンションの玄関ポストについても確認しているところ、特にBの申告した事項に疑問があり、ひいては正常な賃貸借契約関係が継続していないことが窺われる事情は見あたらない。
従って、被告会社に調査義務違反は認められないというべきである。
よって、被告会社に対する債務不履行違反の主張は理由がない。

【東京地裁平成28年3月11日判決】
不動産仲介業者は,直接の委託関係はなくても,これら業者の介入に信頼して取引をなすに至った第三者一般に対しても,信義誠実を旨とし,格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があると解されるところ,仲介者が負うべき義務は,宅地建物取引業法第35条に定める事項はもちろん,信義則上,買主が売買契約を締結するかどうかを決定づけるような重大な事項について調査し,知り得た事実について説明すべきであるが,宅地建物取引業者は,高度の専門知識や鑑定能力を有するものとは限らないことからすると,売買契約当時,その目的物に瑕疵が存在することを疑わせるような特段の事情がない限りは,瑕疵の存否について積極的に調査するまでの義務はないと解するべきである。

2.仲介業者が負う調査義務の程度
宅建業者は,その業務に関して,宅地建物取引業者の相手方等に対し,宅地若しくは建物の売買の契約の締結について勧誘するに際し,取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項あって,宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすことになる事項について,故意に事実を告げず,又は不実のことを告げる行為をしてはならないものと定めていますが(宅建業法47条1号ニ),それ以上に,宅建業者が自らの依頼者の資力・信用に関して積極的に事実を確かめることまでは義務付けられていません(【東京地裁平成24年2月21日判決】)。

また,宅地建物取引業者は,高度の専門知識や鑑定能力を有するものとは限らないことからすると,売買契約当時,その目的物に瑕疵が存在することを疑わせるような特段の事情がない限りは,瑕疵の存否について積極的に調査するまでの義務はないと考えられています(前掲【東京地裁平成28年3月11日判決】)。

【東京地裁平成24年2月21日判決】
宅地建物取引業法においても,原告が指摘するように,宅地建物取引業者は,取引の関係者に対し,信義を旨とし,誠実にその業務を行わなければならず(31条1項),また,宅地建物取引業者は,その業務に関して,宅地建物取引業者の相手方等に対し,宅地若しくは建物の売買の契約の締結について勧誘するに際し,取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって,宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすことになる事項について,故意に事実を告げず,又は不実のことを告げる行為をしてはならないものと定めているが(47条1号ニ),それ以上に,宅地建物取引業者が自らの依頼者の資力・信用に関して積極的に事実を確かめることまでは義務づけていない
<中略>
「現金でも買える」と説明したことも,十分な確認をしないまま誤解を招きかねないことを説明したといえる。しかし,融資利用の特約をしている以上,現金で買わないことは明らかであり,積極的に嘘を言う意思があったわけでもないから,その点についても被告に故意又は過失があったとはいえない。

 結論

以上より,仲介業者には,客観的に通常買主・借主が重視し関心を寄せる事項について調査する義務があり,かつ,通常の調査の結果,何らかの疑問・不信を抱いた場合には,これを報告・説明する義務がありますが,頭書事例の場合,仲介業者として,賃貸借契約書や入居申込書等の資料を収集・確認し,かつ賃貸人からも事情を聞いた上,本件マンションの玄関の表札やポストについても確認するという程度の調査をしていれば,当該調査の過程で正常な賃貸借契約関係が継続し得ない事情が窺われない限り,それ以上に,入居者Bの素性を積極的に調査する義務はなく,XはYに損害賠償請求することはできません。

 実務上の注意点

3.賃貸借契約の媒介時の調査義務
賃貸借契約の媒介において,特に賃借希望者の身元,職業等の調査義務がどの程度あるのか問題となります。

この点については,原則として賃借希望者自らの申し出た身元,職業等の事項を委任者である賃貸人に伝えるをもって足り,それ以上に独自に調査し,賃貸人に報告する義務はないものと解されますが,仲介者は善良なる管理者の注意をもつて当事者間の媒介をする義務も負っているため(民法644条),仲介業者としての通常の注意を払うことにより賃借希望者の申し出た事項に疑問があり,ひいては正常な賃貸借関係の形成を望み得ない事情の存することが窺われる場合には,その点につき適当な方法で自ら調査し,又は,その旨を委任者である賃貸人に伝えて注意を促す義務があるものと解されます(【東京地裁平成19年8月10日判決】)。

【東京地裁平成19年8月10日判決】
賃借希望者の身元、職業等の調査報告義務について考えるに、不動産賃貸の仲介者は、原則として賃借希望者自らの申し出た身元、職業等の事項を委任者である賃貸人に伝えるをもつて足り、右以上に右事項につき独自に調査し、賃貸人に報告する義務はないものと解され、このことは仲介者が宅地建物取引業法の適用を受ける仲介業者であつても同様であるが、仲介者は善良なる管理者の注意をもつて当事者間の媒介をする義務を負うものであるから(民法644条)、仲介業者としての通常の注意を払うことにより賃借希望者の申し出た事項に疑問があり、ひいては正常な賃貸借関係の形成を望み得ない事情の存することが窺われる場合には、その点につき適当な方法で自ら調査し、又は、その旨を委任者である賃貸人に伝えて注意を促す義務があるものと解すべきである。

4.媒介報酬の上限規制
宅建業法上,媒介業務における報酬額には,上限が定められており(宅建業法46条,昭和45年10月23日建設省告示第1552号(最終改正令和6年6月21日国土交通省告示第949号)参照),売買(売買金額400万円超の場合)の仲介に関していえば,「売買金額×3%+6万円」(税別)が,媒介報酬として受領できる上限となります。

この報酬規制は,上限を定めるもので,報酬合意が無い場合に,法律上当然にこの上限額を請求できるという趣旨ではないため,仮に報酬合意が無い場合には,当該報酬規制の範囲内において,取引額のほか,媒介の難易,媒介行為の内容,期間及び労力その他諸般の事情を斟酌して個別に決定されます(契約締結の段階で媒介から排除されたため契約締結時に予定されていた業務の実施まで至らなかったこと等に照らし,最高限度額の60%の報酬を認めたものとして【東京地裁平成30年7月12日判決】参照)。

そして,当該上限を超える報酬合意部分は法律上無効になりますが【最高裁昭和45年2月26日判決(民集第24巻2号104頁)】),一旦支払ってしまうと,非債弁済(民法705条)となり,返還請求できなくなる可能性があります(【東京地裁令和4年12月23日判決】参照)。

なお,不動産取引においては,売主の不動産業者や買主の不動産業者が,子会社や関連会社を形式上仲介として関与させ,当該仲介会社が媒介報酬を得ることも一般に行われており,当該報酬額が上記規制の範囲内である限り,基本的に問題ありませんが,媒介報酬の支払義務者が破産会社である場合には,支払金額が役務の提供と合理的均衡を失することを理由に,媒介報酬の支払いが詐害行為(破産法160条1項)又は無償行為(破産法160条3項)として否認対象とされる可能性があります(【神戸地裁伊丹支部平成19年11月28日決定】【東京地裁平成23年10月24日判決】【東京地裁平成24年3月5日判決】【神戸地裁尼崎支部平成26年10月24日判決】【高松高裁平成28年11月18日判決】)。

また,媒介報酬としてではなく,不動産業者に単に物件(買主候補者又は売主候補者)を紹介することにより当該不動産業者から紹介料(情報提供手数料)を受領する行為は,紹介者が,物件の説明、契約成立に向けた取引条件の交渉・調整等の行為に一切関与しない場合には、宅地建物取引業(宅建業法2条2号)に該当せず,宅建業法上の報酬規制も原則として及ばないと考えられています(平成28年6月15日経済産業省回答平成28年12月27日経済産業省回答。なお,必要書類の教示や準備、購入資金の融資の申請等の事務を行った場合には単なる紹介料とはいえず宅建業法の報酬規制が及ぶことにつき【東京地裁令和4年12月23日判決】参照)。

もっとも,これについても,被紹介者(紹介料の支払義務者)が破産会社の場合は,紹介料の支払いが詐害行為(破産法160条1項)又は無償行為(破産法160条3項)として否認対象とされる可能性があり(結論としては否認対象にならないとしていますが【東京地裁平成26年6月25日判決】【東京地裁令和3年4月27日判決】参照),また,被紹介者(紹介料の支払義務者)が個人の場合には,高額な紹介料の合意が,消費者契約法10条等により無効になる可能性があるので注意が必要です。

【宅建業法46条】
1 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。

2 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。

3 国土交通大臣は、第一項の報酬の額を定めたときは、これを告示しなければならない。

4 宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第一項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。

【民法705条】
債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。

【昭和45年10月23日建設省告示第1552号(最終改正令和6年6月21日国土交通省告示第949号)第二】
第二 売買又は交換の媒介に関する報酬の額
宅地建物取引業者(課税事業者(消費税法第五条第一項の規定により消費税を納める義務がある事業者をいい、同法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)である場合に限る。第三から第五まで、第七から第十まで及び第十一①において同じ。)が宅地又は建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買又は交換の媒介に関して依頼者から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。)は、依頼者の一方につき、それぞれ、当該売買に係る代金の額(当該売買に係る消費税等相当額を含まないものとする。)又は当該交換に係る宅地若しくは建物の価額(当該交換に係る消費税等相当額を含まないものとし、当該交換に係る宅地又は建物の価額に差があるときは、これらの価額のうちいずれか多い価額とする。)を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる割合を乗じて得た金額を合計した金額以内とする。
二百万円以下の金額 百分の五・五
二百万円を超え四百万円以下の金額 百分の四・四
四百万円を超える金額 百分の三・三

【最高裁昭和45年2月26日判決(民集第24巻2号104頁)】
宅地建物取引業法17条【※現46条】1項、2項は、宅地建物取引の仲介報酬契約のうち告示所定の額を超える部分の実体的効力を否定し、右契約の実体上の効力を所定最高額の範囲に制限し、これによつて一般大衆を保護する趣旨をも含んでいると解すべきであるから、同条項は強行法規で,所定最高額を超える契約部分は無効であると解するのが相当である。
そして、売買の依頼をした売主が違約金を取得して売買が完結に至らないで終つた場合に、売主から媒介を依頼された宅地建物取引業者が報酬金を取得できる場合の報酬金額についても、宅地建物取引業法17条【※現46条】1項、2項、昭和40年4月1日建設省告示第一、174号の適用があると解すべきである。
※【 】内は筆者加筆。

【神戸地裁伊丹支部平成19年11月28日決定】
「無償行為及びこれと同視すべき有償行為」とは、破産者が対価を得ないでその積極財産を減少させあるいは消極財産を増加させる行為及び破産者が対価を出捐したが名目的な金額に過ぎず経済的には対価としての意味を有しない行為を指すものと解するのが相当であるが、もとより、不当に高額な部分の支払行為を総財産減少行為として否認することは可能であると解されるところ、着手金ないし報酬金の支払行為において支払金額が役務の提供と「合理的均衡を失する場合」にはその部分の支払行為のみを否認の対象とすることも許されると考える。
以上により、本件においては、前記認定の相当額を超える八六万六七二五円の報酬支払合意及びそれに基づく支払行為は、相手方の役務の提供と合理的均衡を失し、破産者がその対価として経済的利益を受けていないことや、破産債権者を害することは明らかであって、無償行為と同視すべきものと認められ、破産法160条3項により否認することができる。

【東京地裁平成23年10月24日判決】
弁護士による過払金返還請求訴訟の提起及び自己破産申立てに対する報酬の支払行為は、その報酬額が客観的にみて高額であっても、破産者と当該弁護士の間では、契約自由の原則に照らし暴利行為に当たらない限り有効というべきである。
しかし、破産債権者との関係においては、その金額が、支払の対価である役務の提供と合理的均衡を失する場合、破産者はその合理的均衡を欠く部分については支払義務を負わないといえるから、当該部分の支払行為は、破産法一六〇条三項の「無償行為」に当たり、否認の対象となり得るというべきである。

【東京地裁平成24年3月5日判決】
弁護士が,債務者から債務整理と併せて過払金の回収を受任した場合における弁護士と債務者の間の報酬合意は,同合意に係る報酬額が,弁護士が提供した役務と合理的均衡を失する場合に,その合理的均衡を失する部分に限り破産法160条3項所定の行為に該当するものであり,同合理的均衡を失するものであるか否かは,合意に係る報酬額が,当該事件の難易,提供した役務の内容や成果に照らした相当報酬額に比して著しく多額であることを要する。

【東京地裁平成26年6月25日判決】
被告は平成11年ころにも破産者に対し土地の売主としてAを紹介したことがあり,売買契約が成立して破産者がAから仲介手数料として2570万円を受領したため,被告は破産者からBが経営する有限会社Cを通じて紹介料としてその約30パーセントに相当する800万円を受領したことがあること,日本税理士連合会の会員税理士が,株式会社日税不動産に不動産売買の顧客を紹介し成約した場合には仲介手数料の20パーセントから30パーセントが紹介料として支払われていることが認められ,これらの事実に照らすと,被告とBは本件業務提携契約以前にも不動産の売主としてAを紹介したことがあり,その際も仲介報酬の約30パーセントを紹介料として受領していたし,仲介報酬の30パーセントは紹介料としては平均的なものであることが認められ,被告代表者の供述はこれらの事実に沿うものであって信用することができるというべきである。
そうすると,原告と被告との間では,平成24年3月頃本件業務提携契約が締結されたことが認められ,本件手数料の支払は,同契約に基づいた報酬債務の弁済と認められる。
不動産仲介業者が土地の売却を希望している所有者と売却に関する選任【※専任】媒介契約を締結した場合は,かなりの蓋然性をもってその買主を探して売買契約の成立に至るものであること(弁論の全趣旨)に照らすと,本件において破産者が本件業務提携契約の結果Dを紹介されたことを端緒として,本件売買契約を成立させ仲介報酬を取得するに至ったことに係る上記紹介行為の寄与度は少なからぬものがあるということができるから,その対価を仲介報酬の金額の30パーセントとすることは決して高いとはいえないし,
上記認定のとおりその30パーセントというのは平均的なものであることが認められるから,本件業務提携契約の紹介手数料を,本件売買契約の成立により受領する仲介報酬の30パーセントとすることは合理的均衡を失するともいえない。
以上によれば,本件支払は,本件業務提携契約に基づく債務の弁済であり,対価として合理的均衡を失しているともいえないから詐害行為ということはできない
※【 】内は筆者加筆。

【神戸地裁尼崎支部平成26年10月24日判決】
破産申立てに対する報酬の支払行為も、その金額が支払の対価である役務の提供と合理的均衡を失する場合、合理的均衡を失する部分の支払行為は破産債権者を害する行為として法160条1項1号の詐害行為否認の対象となると解される。

【高松高裁平成28年11月18日判決】
実質的な買主は当初から決まっていたのであって、控訴人が、売主代理の方式で本件不動産の売買に関与する実質的な必要性があったと認めることはできないし、そもそも媒介の必要性すらも疑わしいといえる。
<中略>
控訴人は、破産会社が破産申立直前の状態にあることを認識しつつ、代理方式により本件不動産の売却に関与することにより高額の報酬を得ることを目的として、破産会社に実質的に利益をもたらすものではないことを認識しつつ、破産会社との間で本件報酬合意を含む本件委任契約を締結し、A【※破産会社の代表取締役の夫】が実質的に支配するB社にこれを買受けさせたことにより売買の代理行為をしたとして、本件報酬支払を受けたものと認められる。
これによれば、本件代理契約の締結及び本件報酬支払は、破産会社がその対価として経済的利益を受けたものということはできず、破産法160条3項にいう無償行為に当たるものというべく、また、破産会社ひいては破産債権者を害することを知ってしたものであると認められるから、同条1項1号の詐害行為にも当たる。 
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁平成30年7月12日判決】
原告は,不動産仲介業者として,被告から,本件不動産購入に係る媒介を受託するに至ったものであるが,その報酬について具体的な額を定めないうちに,被告において,原告を媒介から排除して他の仲介業者の媒介により本件不動産を買受けため,原告の報酬債権に係る停止条件の成就を故意に妨害したことにより,民法130条によりその条件が成就したものとみなされる結果,被告に対し,相当額の報酬を請求できるところ,原告の請求する報酬の額は,宅建業法46条1項,昭和45年建設省告示第1552号に定める最高限度額に相当する161万6760円(本件不動産の売買代金4790万円の3パーセントに6万円を加算し,消費税相当額を加えた額)であるが,当然に最高限度額の報酬請求が許容される慣行や黙示の合意があったとまでは認められず,その範囲内において,取引額のほか,媒介の難易,媒介行為の内容,期間及び労力その他諸般の事情を斟酌して定められる性質のものというべきである。
この点,被告の本件不動産購入に係る媒介の難易度は高いものとまではいえず,原告の当該媒介行為に係る期間も長期に及ぶものではないが,他方で,前記認定のとおり,原告は,被告に対し、販売物件の紹介や情報提供等の業務を行い,これにより被告に本件不動産購入の意思を生じさせ,その翌日には売買契約の締結まで予定されたことから,原告においては,これに備えて重要事項説明や売買契約書の作成等の準備まで行っていたものの,その契約締結の段階で被告により媒介から排除されたため,こうした契約締結時に予定されていた業務の実施まで至らなかったという事情に照らすと,被告が支払うべき報酬額としては,上記最高限度額の60パーセントに当たる97万0056円をもって相当と認める。

【東京地裁令和3年4月27日判決】
原告又はAからBに建築業者の選定を依頼された請負工事につき,破産会社がその請負人に選定された場合には,破産会社は,原告又はA及びBに対し,その対価として所定の金額を紹介料として支払う旨の合意が成立したものと認めるのが相当である。
そして,本件事業スキームに基づき,α工事に先立って破産会社が請負人に選定されたβ工事及びγ工事に関しては,破産会社から原告に対し,その対価として,それぞれ相当額が「建築請負紹介料」との名目で支払われているところ,同様に,本件事業スキームに基づき,破産会社が請負人に選定されたα工事に関しては,破産会社から原告に対し,「コンサル代金」との名目で500万円の支払(本件支払)がされている一方,他に「建築請負紹介料」等の名目で金員の支払がされたとの事実はうかがわれないことに照らせば,本件支払は,「コンサル代金」との名目でされているものの,実質的には,β工事及びγ工事に係る「建築請負紹介料」と同じく,本件事業スキームに基づき,破産会社がα工事の請負人に選定されたことに対する対価として支払われたものと認めるのが相当である。
<中略>
上によれば,本件支払は,本件事業スキームに基づき,破産会社がα工事の請負人に選定されたことに対する対価として,破産会社から原告に対して支払われたものであるから、破産法160条3項の「無償行為」に当たらない。

【東京地裁令和4年12月23日判決】
※被告が,自ら又は第三者を通じて、個人顧客との間で、物件の紹介、個人顧客が物件のオーナーとなるサブリース事業における収支シミュレーションの提示、必要書類の教示や準備、購入資金の融資の申請等の事務を行い、これによって購入意思を固めた個人顧客を被告に紹介し、被告が、当該第三者又は原告に報酬を支払った事案。

被告は、自ら又は報酬を支払ったA等の第三者を通じて、不動産投資を希望する個人顧客に物件の購入意思を固めさせた上で、原告に個人顧客を紹介し、原告から高額の報酬を得ていたのであるから、被告は、原告と個人顧客との間に立って、本件各売買契約の成立に向けてあっせん尽力していたものと認められる。
したがって、原告は、被告に対し,本件各売買契約の媒介を委託していたものと認められる。
<中略>
原告が被告に支払った本件各売買契約の媒介の報酬は、いずれも報酬上限額を超えるものである。
原告代表者は、宅建業者である被告に本件各売買契約の媒介の報酬を支払った際、報酬上限額を超える支払である旨認識していたことを自認しているところ、宅建業者である原告において、報酬上限額を認識していながら、昭和45年判決の詳細はともかく、報酬上限額を超える報酬契約部分は無効であることは認識していなかったなどということは、到底考えられない。
そのため、原告は、被告に対し、報酬上限額を超える報酬債務は存在しないことを知りながら、報酬上限額を超える報酬を支払ったものと優に推認され、これを覆すに足りる証拠はないから、この支払は非債弁済に当たり、原告が、被告に対し、その返還を求めることはできない(民法705条)。

5.仲介業者が売買代金の預託を受けることの可否
不動産の買主が売主に対し売買代金(特に売買契約締結時に授受され決済時に売買代金の一部に充当される手付金)を支払う際に,買主から売主に直接交付せず,一旦,仲介業者が預かることがあります。

この場合,仲介業者が「売買代金の支払い」(決済)という目的に従い売買代金を管理又は処分(売主や抵当権者に支払い)することになり,「信託」(信託法2条1項)に該当し得るため,これを信託業の免許の無い宅建業者が業務として行った場合,信託業法3条に抵触しないか問題となります。

この点,信託(信託法2条1項)には該当しても,「委任契約における受任者がその行う委任事務に必要な費用に充てる目的で委任者から金銭の預託を受ける行為」(信託業法施行令1条の2)は,信託業法の規制対象から除外されています(信託業法2条1項括弧書き)。

そして,不動産の売主又は買主と仲介業者との間で締結される媒介契約は,準委任契約(民法643条,656条)と解されているところ(【東京地裁令和4年11月10日判決】),通常の媒介契約における委任事務の範囲には「登記、決済手続等の目的物件の引渡しに係る事務の補助」(平成2年1月30日建設省告示第115号「宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款(最終改正令和4年5月26日国土交通省告示第583号)4条2項4号)が含まれていることから,物件引渡事務の補助の限度内において「売買代金を預かること」も媒介契約に基づく委任事務の範囲内と考えられます(なお,いわゆる認証実務上も,売買代金の預託に起因する債権は,宅建業法64条の8第1項「取引により生じた債権」に該当するとされているようです。【東京地裁令和4年7月19日判決】の事案参照)。

従って,信託業の免許の無い宅建業者が不動産売買の仲介をするに当たり,決済手続等物件引渡事務を補助する目的で,売買代金の全部または一部を,売主又は買主から一時的に預かることは,信託業法には抵触しないと考えられます。

ただし,あくまで「委任事務に必要」(信託業法施行令1条の2)な範囲すなわち「物件引渡事務の補助の限度内」(【東京地裁令和4年7月19日判決】)で認められるものなので,引渡完了(決済完了)した後も引き続き預託を受ける行為や,そもそも媒介契約(委任契約)に付随せず単に決済業務だけを請け負ういわゆるエスクローは,信託業法に抵触する可能性があるので注意が必要です。

また,仲介業者が買主から売買代金の預託を受けるに留まらず,決済時にこれを売主に送金する行為は,為替取引(顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引受けること,又はこれを引き受けて遂行すること。【最高裁平成13年3月12日決定】参照)に該当するとも思えますが,依頼人の資金を依頼人に代わって受取人に送金するだけのいわゆる送金代行業務は,銀行法2条2項2号の「為替取引」にも,資金決済法2条2項の「資金移動業」にも該当しないと解されているため(【東京高裁平成25年7月19日判決】【東京地裁平成25年12月19日判決】),特殊なスキームを独自に構築して送金するなどしない限り(単に売主から預かった金員を買主名義の銀行口座に送金するだけであれば),銀行法や資金決済法にも違反しないと考えられます。

なお,令和3年5月1日施行の改正資金決済法2条の2においては,いわゆる収納代行のうち受取人(買主)が個人(かつ非事業者)の場合で,一定の要件(資金決済法2条の2及び資金移動業者に関する内閣府令1条の2各号)を満たすものについて為替取引とみなして資金決済法の規制対象とされることになりました。

もっとも,買主側の仲介業者が買主から売買代金を預かって売主に支払う行為は,買主から売買代金を「弁済として」受け入れたものではないため資金決済法2条の2に該当せず,また,売主側の仲介業者が買主から売買代金を受領して売主に引渡す行為は,買主から売買代金を弁済として受け入れたものとは言い得るものの,いわゆる代理受領の一種として通常は仲介業者が買主から売買代金を受領した時点で買主の債務が消滅するため資金移動業者に関する内閣府令1条の2第1号に(売主の売買代金債権の発生原因たる売買契約の成立に不可欠な関与があると言える場合は同第3号ロにも)該当しません。

よって,いずれも為替取引とはみなされず,資金決済法の規制は及ばないものと考えられます。

【民法643条】
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

【民法656条】
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

【信託法2条】
1 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。

2 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。

一 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約

二 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言

三 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示

3 以下省略

【信託法3条】
信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

一 特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法

二 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法

三 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法

【信託業法2条1項】
この法律において「信託業」とは、信託の引受け(他の取引に係る費用に充てるべき金銭の預託を受けるものその他他の取引に付随して行われるものであって、その内容等を勘案し、委託者及び受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)を行う営業をいう。

【信託業法3条】
信託業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができない。

【信託業法施行令1条の2】
法第二条第一項に規定する政令で定めるものは、次に掲げる行為であって、信託の引受けに該当するものとする。

一 弁護士、弁護士法人又は弁護士・外国法事務弁護士共同法人がその行う弁護士業務に必要な費用に充てる目的で依頼者から金銭の預託を受ける行為その他の委任契約における受任者がその行う委任事務に必要な費用に充てる目的で委任者から金銭の預託を受ける行為

二 請負契約における請負人がその行う仕事に必要な費用に充てる目的で注文者から金銭の預託を受ける行為

三 前二号に掲げる行為に準ずるものとして内閣府令で定める行為

【銀行法2条2項】
この法律において「銀行業」とは、次に掲げる行為のいずれかを行う営業をいう。

一 預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと。

二 為替取引を行うこと。

【資金決済法2条2項】
この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことをいう。

【資金決済法2条の2】
金銭債権を有する者(以下この条において「受取人」という。)からの委託、受取人からの金銭債権の譲受けその他これらに類する方法により、当該金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人に当該資金を移動させる行為(当該資金を当該受取人に交付することにより移動させる行為を除く。)であって、受取人が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であることその他の内閣府令で定める要件を満たすものは、為替取引に該当するものとする。

【資金移動業者に関する内閣府令1条の2】
法第二条の二に規定する内閣府令で定める要件は、受取人(同条に規定する受取人をいう。以下この条において同じ。)が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であり、かつ、次に掲げる要件のいずれかに該当することとする。

一 受取人が有する金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者(第三号において「債務者等」という。)から弁済として資金を受け入れた時(他の者に資金を受け入れさせる場合にあっては、当該他の者が弁済として資金を受け入れた時)までに当該債務者の債務が消滅しないものであること。

二 受取人が有する金銭債権が、資金の貸付け、連帯債務者の一人としてする弁済その他これらに類する方法によってする当該金銭債権に係る債務者に対する信用の供与をしたことにより発生したものである場合に、当該金銭債権の回収のために資金を移動させるものであること。

三 次に掲げる要件のいずれにも該当すること。

イ 受取人がその有する金銭債権に係る債務者に対し反対給付をする義務を負っている場合に、当該反対給付に先立って又はこれと同時に当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該反対給付が行われた後に当該受取人に当該資金を移動させるものでないこと。

ロ 受取人が有する金銭債権の発生原因である契約の締結の方法に関する定めをすることその他の当該契約の成立に不可欠な関与を行い、当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人の同意の下に、当該契約の内容に応じて当該資金を移動させるものでないこと。

【宅建業法64条の8第1項】
宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者(社員とその者が社員となる前に宅地建物取引業に関し取引をした者を含み、宅地建物取引業者に該当する者を除く。)は、その取引により生じた債権に関し、当該社員が社員でないとしたならばその者が供託すべき第二十五条第二項の政令で定める営業保証金の額に相当する額の範囲内(当該社員について、既に次項の規定により認証した額があるときはその額を控除し、第六十四条の十第二項の規定により納付を受けた還付充当金があるときはその額を加えた額の範囲内)において、当該宅地建物取引業保証協会が供託した弁済業務保証金について、当該宅地建物取引業保証協会について国土交通大臣の指定する弁済業務開始日以後、弁済を受ける権利を有する。

【最高裁平成13年3月12日決定】
被告会社の代表取締役である被告人は,被告会社の業務に関し,本邦内にある送金依頼人らから,大韓民国内にある受取人らへの送金の依頼を受け,送金資金として本邦通貨を受領した上,直接現金を大韓民国内に輸送せずに,同国在住の共犯者に対し,ファクシミリで送金依頼人の氏名,送金受任額,送金先銀行口座等を連絡して支払方を指図し,同国内の被告会社に帰属する銀行口座の資金を用いて送金依頼人の指定する受取人名義の銀行口座等に送金受任額相当額を同国通貨で入金させたというのである。
銀行法2条2項2号は,それを行う営業が銀行業に当たる行為の一つとして「為替取引を行うこと」を掲げているところ,同号にいう「為替取引を行うこと」とは,顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引受けること,又はこれを引き受けて遂行することをいうと解するのが相当である。
したがって,被告人李の上記各行為が同号にいう「為替取引を行うこと」に当たるとして被告人両名に無免許銀行業の罪の成立を認めた原判決の判断は,正当である。

【東京高裁平成25年7月19日判決】
銀行法が,為替取引を銀行業の内容の一つと位置づけ,これを免許制の対象としたのは,隔地者間の資金授受の媒介をするに当たり,媒介となる機関において,直接現金を輸送することなく隔地者への支払等を確実にするための資金手当のシステムを確立するなど,利用者(顧客)との間で高度の信用を保持できる体制を構築することが求められることから,十分な信用を持たない者が当該取引を行えないようにすることにより,利用者(顧客)を保護し,かつ,金融の円滑の確保を図ることにあると解される。
このような銀行法の趣旨に鑑みると,依頼人の資金を依頼人に代わって受取人に送金するようないわゆる送金代行業務は,銀行法にいう「為替取引」には該当しないというべきである。
平成13年最決の事案も,上記のような送金代行業務を取り扱ったものではないから,このように解しても,上記最決に反することにはならない。
前記認定事実によれば,控訴人は,B社の依頼に基づき,本件口座を開設し,B社の顧客から同口座に振り込まれた金員を,〇〇銀行第一営業部に開設された控訴人本店名義の口座に送金し,さらに同口座から香港上海銀行に開設されたZ社名義の口座に送金し,その後,手数料等を控除してB社が管理する本件B口座に送金する業務を行っていたことが認められる。
このように,控訴人及びZ社は,依頼人の金員を一旦,控訴人が管理する本件口座に入金させるものの,その後は,銀行の為替取引システムを利用して,基本的に,上記金員を依頼人の指定する口座に移動させる業務を行っていたものであり,このような業務は,控訴人及びZ社において独自に資金手当のためのシステムを確立する必要はないものであるから,まさに送金代行業務というべきであって,銀行法にいう「為替取引」には該当しない。
そうすると,控訴人が本件業務を行うことは,資金決済に関する法律2条2項にいう「資金移動業」にも該当しないから,同法37条に基づく登録を行わずにこれを行うことが,同法や銀行法に違反する違法なものであるということはできない。

【東京地裁平成25年12月19日判決】
前記認定事実によれば,被告の送金代行業務は,〇〇銀行と香港上海銀行との間の為替取引を利用しているものにすぎないのであって,被告が独自に為替取引を行っていたものとはいえない。
そして,銀行法が,為替取引を銀行業の内容の一つとし,免許制の対象としたのは,隔地者間の資金授受の媒介をするに当たり,媒介となる機関において,直接現金を輸送することなく隔地者への支払等を確実にするための資金手当のシステムを確立するなど,利用者との間で高度の信用を保持できる体制を構築することが求められることから,十分な信用を持たない者が当該取引を行えないようにすることにより,利用者を保護し,かつ,金融の円滑の確保を図ることにあると解される。
このような銀行法の趣旨に鑑みると,依頼人の資金を依頼人に代わって受取人に送金するようないわゆる送金代行業務は、銀行法にいう為替取引には該当しないというべきである。
したがって,被告の事業は銀行法上の為替取引には該当せず,その事業継続は違法ではなく,資金移動業を営む者に対する法的な注意義務を課されているともいえない。 

【東京地裁令和4年7月19日判決】
※宅建業保証協会が,売買代金の手付金の預託に起因する損害賠償請求権については認証したが,他の売買代金の預託に起因する損害賠償請求権については受託者が宅建業者ではなく代表者個人であるとして認証しなかった事案。

本件補助業務の内容に照らせば、物件引渡事務の補助の限度内において、A社【※宅建業者】が本件媒介契約上の債務の履行として本件土地売買代金を預かること自体は想定されていたと考えられる。
もっとも、上記業務の性質及びこれが独立して対価を生じさせる業務ではないこと等の事情に照らせば、本件補助業務の一環として想定された預かり業務は物件引渡等が完了するまでの短期間のものであったと考えられる。
本件預り証2における預かり期間は、明確な期限が定められていた本件預り証1とは異なり、返還時期を協議に委ねる不確定な定め方がされているところ、決済を完了する内容の書面が作成され、登記名義の移転が完了した後も確定的な期限を定めることもなく多額の金銭を預かるというようなことが本件補助業務に含まれるものとして想定されていたとは考え難い。
※【 】内は筆者加筆。

【東京地裁令和4年11月10日判決】
一般に不動産売買についての媒介契約は、対象不動産の売買についての仲介を委託する準委任契約と解されるところ、その目的は、対象不動産についての売買契約を成立させることにある。
そのために仲介者が行うべき一般的な業務である調査、交渉、斡旋、契約書や重要事項説明書の作成及び説明の各業務は、売買契約の成立までに履行することが予定されている。
仮に売買契約成立後に仲介者が行うべき業務があったとしても、通常は補助的な業務にすぎない。すなわち、売買契約が成立した場合において、それが約定どおり履行されるか否かは、仲介人が保証できるものではなく、その履行の実施を補助するにとどまることからすれば、不動産売買の媒介契約は、原則として売買契約が成立することによって、その委任事務を履行したものとして、その報酬支払請求権が発生するものというべきである。
<中略>
本件支払約定書に「登記決済時」に仲介報酬を支払うことが記載されていることをもって、本件売買契約の履行の完了を停止条件としたものと解するのは相当ではなく、報酬の支払時期について、不確定期限を定めたものと解するのが相当である。
そして、不確定期限の定めがある場合、期限到来事由の不発生が確定したときにも期限が到来するところ、本件売買契約が解除された場合、「登記決済」の不発生が確定するために期限が到来することになる。
したがって、本件売買契約が解除された場合には、最終決済が行われないことが確定した解除時に原告は仲介報酬を請求することができる。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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