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更新:2024年3月8日 
 事例

賃貸借契約書に「賃借人は法令を遵守し,違法な方法による営業を行ってはならない」との条項(法令遵守規定)があった場合に,これに違反したこと(債務不履行)を理由に契約解除することの可否。

 解説

1.債務不履行解除とは
一般に契約を締結すると,契約当事者間に債権債務関係が生じ,それぞれ相手方に対する権利を取得し義務を負担します。

賃貸借契約に関して言えば,賃貸人は,賃借人に対し物件を使用収益させる義務(債務)を負い,賃借人は,賃貸人に対し,賃料を支払う義務(債務)を負います(民法601条)。

そして,契約に基づく義務に違反することを「債務不履行」といい,債務不履行(契約違反)を理由に契約を解除することを「債務不履行解除」といいます(民法541条)。

なお,契約書の約定で例えば「6か月前予告で契約を解除できる」という解除権留保条項が定められていて当該条項に基づき契約を中途解約する場合は「約定解除」と呼ばれ債務不履行解除とは区別されます。

【民法541条】
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない

【民法601条】
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。


2.債務不履行解除の実質的要件
旧民法下とは違い,2020年4月1日施行改正民法においては,債務者の帰責性(≒過失)を債務不履行解除の要件としていないため(民法543条参照),例えば銀行のシステムトラブルにより期限通り代金の振り込みができなかった場合等債務者(代金支払義務者)に過失があるとは言えない場合であっても,理論上は債務不履行解除ができることになります。

もっとも,民法541条等が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は,契約の要素をなす債務の履行がないために,当該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり,当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には,特段の事情の存しない限り,相手方は当該契約を解除することができないと解されており(【最高裁昭和36年11月21日判決】【最高裁昭和43年2月23日判決】等),その法意は541条但書(「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」)で明文化されています。

そして,とりわけ賃貸借契約は,1回限りで契約関係が終了する売買契約等と違い,契約関係が一定期間継続する性質を有するため,契約違反(債務不履行)を理由に契約解除するには,「契約に違反したこと」だけでなく,さらに(その契約違反により)「契約当事者間の信頼関係が破壊される程度に至ったこと」が判例上要件とされています(借地につき【最高裁昭和41年4月21日判決】【最高裁昭和43年6月21日判決】等,借家につき【最高裁昭和39年7月28日判決】等)。

例えば,賃料は,1か月でも滞納すれば「契約に違反したこと」にはなりますが,借地については6か月〜1年分程度借家については3〜4か月分(4か月の滞納で無催告解除特約に基づく解除を認めたものとして【最高裁昭和43年11月21日判決】)を滞納した場合に(他に特段の事情がなければ)信頼関係が破壊されたものとして解除権行使を認めるのが「一般的な裁判実務」であるとも言われています(澤野順彦編『実務解説 借地借家法』〔青林書院 2008年〕282頁)。

【民法543条】
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

3.法令遵守規定違反の場合
それでは,例えば,原則深夜0時以降営業してはならないとされている麻雀店(平成27年6月24日改正後の風俗営業法2条1項4号,13条1項。但し,同法13条1項但書2号,東京都風営法施行条例4条の2第2項,4条の3第2号,同施行規則6条2項等により,一定の地域では午前1時以降)を営む賃借人が,深夜0時以降も営業を継続していた場合,法令遵守規定違反を理由に,賃貸人は賃貸借契約を債務不履行解除することがきるのか問題となります。

この点,【東京地裁昭和55年5月29日判決】は,「営業時間の規制を遵守しないことの点は,接客業として立場上あまり客に強いことを言えないとの事情があることや,右規制時間が必ずしも遵守されていないのが業界一般の例であることが窺われることからすると,一概に被告のみを責められないところがあり,右各誓約条項違背をもって,直ちに本件賃貸借契約の解除理由となすことには躊躇せざるを得ない。原告においては,他の賃借人に比し被告の行為に対しては,些事をも見逃さず,やや過敏とも思われる反応を示しているふしが窺われるが,一般の事務室とマージャン屋の店舗ではその使用方法に自ら差異の生ずることは避けられないところであり,不詳不詳とはいえ,本件貸室を一旦マージャン屋営業店舗として使用することを許諾した以上は,事務室として利用する場合と全く同様の使用方法を期待し,その間に多少とも差異がある毎に,これを取り立てて問題とするのは当を得ないものといわざるを得ない。かかる観点からみるとき,営業規制時間を遵守しないこと等,被告の従来の使用方法には,接客業としての特殊性を考慮してもなおかなり反省を要すべき点の存することは上述したとおりであるが,以上の判示の諸点を総合判断しても,未だ本件賃貸借の解除を是認し得るほどの信頼関係の破壊があるものとは認めがたい」として,契約解除を認めませんでした。

また,【東京地裁平成28年5月23日判決】は,中華料理店を経営している賃借人が,(1)公道上に,当該公道の一部(本件1階部分前の歩道の幅の4分の1程度)をふさぐ形で看板を設置し,国道事務所から道路法等に違反する旨の指導を受けた賃貸人が,賃借人に数度にわたり看板の撤去を求めたものの,賃借人は,指摘を受ける都度,看板を敷地内に移動させるなどの対応を採っているものの,数週間で元の位置に戻しており,現在においても看板の設置を継続し,さらに,(2)共用部分(階段の踊り場部分等)に通路をふさぐ形で造作・動産類を設置するなどしていた(すでに撤去されている)という事案で,いずれも賃貸人が承諾をしていたとは考えられないとしたうえ,(1)看板設置行為につき,「公道上における看板の設置行為は違法」であり,「関連法規又は公序良俗に違背する行為」に当たるとし,(2)造作・動産類の設置行為につき,「本件賃貸借契約書に違反するものと認められる」としつつ,(1)看板設置行為につき,賃借人が短期間ではあるものの,指摘を受けた都度看板を敷地内に移動させるなどの対応を行っていること,ここ数年は賃貸人が看板の撤去等を求めたことをうかがわせる証拠がないこと等からすれば,看板設置行為により,「信頼関係が破壊されたとまで認めることはできない」とし,(2)造作動産類の設置行為につき,「本件建物4階の共用部分に設置していた造作・動産類を既に撤去していることや,ここ数年は賃貸人が当該造作・動産類の撤去を求めたことをうかがわせる証拠がないこと,当該造作・動産類の設置の態様等に照らせば,信頼関係を破壊するものであるとまでいうことはできない」として,「賃借人に関連法規又は公序良俗に違背する行為があったときや,賃借人が契約条項等に違反し,契約時の信頼関係を失ったときは,賃貸人は,催告を要せず契約を解除できる」という契約条項に基づく解除(≒債務不履行解除)を認めませんでした。

また,【東京地裁平成29年1月24日判決】は,賃借人が造作・設備の現状を変更する工事を行う際には賃貸人の事前の承諾を得なければならないとの条項が定められていたケースで,「ガスエアコンの撤去及び設置は現状を変更する工事を行う際に賃貸人の事前の承諾を得る義務に違反する」としながら,「上記工事は,それまで使用していたエアコンと同一の形状の機器への交換であること」等を理由に「義務違反の程度が重大であったとはいえない」から「信頼関係を破壊するほどの重大な義務違反を犯したとは評価できない」として,契約解除を認めませんでした。

【東京地裁平成29年1月24日判決】
被告会社は,本件各賃貸借契約の更新後も本件看板の設置を継続したこと,共用部分の電気及び水道を使用したこと,原告の承諾を得ずに電気工事を行い,ガスエアコンを交換したことについて,本件更新契約上の禁止事項等に違反したことが認められるが,いずれの違反もその程度が重大なものとはいえない

 結論

以上より,頭書事例では,違反の程度が社会通念上軽微で,公序良俗に著しく反するとはいえず,実際に賃貸人に対し損害を生じさせているわけでもないということであれば,信頼関係が破壊される程度に至っているとは言えず,契約解除は認められないと解されます。

なお,「契約の目的」を達成できるとしても,契約違反の程度が「軽微」といえない場合には契約解除が可能とされているため,「契約の目的を達成できる=軽微⇒契約解除できない」と単純に考えることはできません(【法務省法制審議会民法(債権関係)部会資料79-3】13頁)。

 実務上の注意点

4.無催告解除の可否
債務不履行解除が認められるためには,原則として,「相当期間を定めた履行の催告」をすることが必要になり(民法541条),無催告での解除は,例外的な場合のみ認められます(民法542条)。

履行遅滞解除に先立って催告が求められる趣旨は、債務者に対して債務を履行して解除を阻止する最後の機会を与えるためです(【東京地裁令和5年1月11日判決】)。

従って,仮に契約書で「債務不履行の場合は催告せずに即時解除できる」という無催告解除特約を定めていたとしても,とりわけ信頼関係を基礎とする継続的契約たる賃貸借契約において賃借人の債務不履行を理由に賃貸人が契約解除する場合は,契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合を除き,賃借人に不利な特約として無効になると考えられています(【最高裁昭和43年11月21日判決】。なお,地上権の場合につき【東京高裁平成4年11月16日判決】参照)。

上記「契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情」としては,不履行(契約違反)の程度が著しい場合をいい,裁判実務上は,賃料の滞納が頻繁に繰り返されていた場合や相当長期にわたる場合などが,これに当たるとされています(【東京地裁平成29年7月19日判決】【東京地裁平成29年10月2日判決】【東京地裁平成30年11月6日判決】)。

従って,多湖・岩田・田村法律事務所では,単純な賃料不払いの場合には,無催告解除特約があっても,念のため,必ず催告をしておくよう助言しています。

なお,「催告」と同時に「支払わなければ解除する」という意思表示(いわゆる停止条件付解除)を行うことも認めれていますので,多湖・岩田・田村法律事務所では,債務者(賃借人)に対する通知が1回で済むよう,次のような文例で催告するようにしています。

【文例】
本催告書の到達後●週間(以下「相当期間」といいます。)以内に滞納賃料●●万円をお支払い下さい。相当期間内にお支払い頂けない場合には,相当期間の経過をもって賃貸借契約を解除します。

【民法266条】
1 第二百七十四条から第二百七十六条までの規定は、地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。

2 地代については、前項に規定するもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。

【民法276条】
永小作人が引き続き二年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。

【民法542条】
1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

一 債務の全部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

一 債務の一部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

【最高裁昭和43年11月21日判決】
家屋の賃貸借契約において、一般に、賃借人が賃料を一箇月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。

【東京高裁平成4年11月16日判決】
民法二六六条によって準用される同法二七六条によれば、地代の定めのある地上権についてその不払いを理由に地上権の消滅請求をするには、本来、二年分以上の地代の不払いが要件とされているところ、この場合の消滅請求の意思表示には事前の催告は要しないと解される(大審院明治四〇年四月二九日判決・民録一三輯四五二頁、同大正元年一〇月四日判決・民録一八輯七八五頁参照)。
民法は、物権たる地上権について、地代不払いによる権利の消滅事由を、二年分以上の地代の不払いを要件として定めているが、そのような義務違反があった場合には催告を要せず、その消滅を請求することができるものと解されており、債権たる賃借権の場合と消滅要件を異にしている。
しかし、現行借地借家法、旧借地法等は、建物所有目的の土地賃借権を同目的の地上権とともに借地権として同一に扱い、これに種々の面で強い保護を与え、その結果、土地賃借権は、譲渡性等の点を除けば、ほとんど地上権と変わらない効力を持つものとされていること、地上権も賃借権と同様に継続的権利関係であり、ことにそれが地代の支払を伴うときは、地主との間の信頼関係が権利の存続の基礎となること、賃借権の債務不履行による解除には原則として事前の催告が必要とされるところ、債務者に履行の機会を与えるという催告の必要性は地上権も賃借権も変わりはないことなどからすれば、地上権の消滅について、民法二六六条により準用される同法二七六条所定の要件を緩和し、地代不払いの期間を短縮する特約がある場合には賃貸借契約の賃料不払いによる解除の場合と同様に原則として催告を要するものと解するのが相当である。
次に、このような催告を不要とする特約の効力について考えるに、賃貸借契約の場合と同様、右のような特約も原則として有効であるけれども、地上権も賃借権と同じく当事者間の信頼関係を基礎とする継続的権利関係であることに鑑みれば、右のような特約は、その不払いの程度、態様等からみて、無催告で消滅請求をすることがあながち不合理とは認められないような事情が存在する場合には、無催告で消滅請求することができる旨を定めた約定であると解するのが相当である。

【東京地裁平成29年7月19日判決】
解除の意思表示に至るまで控訴人による1年以上に及ぶ長期の賃料不払という事実があり,この事実は,無催告解除によることについて上記不合理とは認められないような事情になると認められる。

【東京地裁平成29年10月2日判決】
被告法人は,約1年9か月という極めて長期間にわたり,多額の賃料を滞納した上,原告が本件解除の意思表示をした後も,本件訴訟における主張と同様の主張をして,強固に賃料支払義務を争っていたものと認められる。
これらの事情に照らすと,原告が本件賃貸借契約を解除するに当たり,未払賃料の支払につき催告をしたとしても,被告法人においてこれが支払われる可能性は極めて乏しかったと認められるから,本件においては,解除の意思表示に先立ち催告をしなくても不合理であるとは認められない事情があるというべきである。

【東京地裁平成30年11月6日判決】
本件解除時点において,同年1月分の賃料等のうち2万2858円のほか,同年2月分から6月分まで5か月分の賃料等が未払であった(未払額の合計は53万7148円)のであるから,履行遅滞の程度は著しく,催告をしなくても不合理とは認められない事情が存するといえ,原告による無催告解除は有効と解すべきである。

【東京地裁令和5年1月11日判決】
履行遅滞解除に先立って催告が求められる趣旨は、債務者に対して債務を履行して解除を阻止する最後の機会を与えることにある。

※本頁は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。


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