HOMENEWSアクセスEnglish
不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
電話 03-3265-9601
info@tago-law.com
概要 弁護士 取扱業務 依頼費用
多湖・岩田・田村法律事務所エントランス
借地借家法
敷金
中途解約
転貸借
賃料増減額請求
正当事由と立退料
更新料
原状回復
修繕義務
連帯保証人
仲介業者の責任
残置物処分
明渡完了時期
明渡遅延違約金
債務不履行解除
所有者変更
売買相談

残置物処分の適法性
*本項は多湖・岩田・田村法律事務所の法的見解を簡略的に紹介したものです。事案に応じた適切な対応についてはその都度ご相談下さい。
【事例】室内動産処分の追い出し行為の適法性
マンションの一室の賃料借契約に,「賃借人が賃料を滞納した場合,賃貸人は,賃借人の承諾を得ずに建物に立ち入り,適当な処置をとることができる」旨の条項があった場合,マンションの管理会社または賃貸人は,当該条項を根拠に,賃料を滞納した賃借人の部屋に勝手に立ち入り,施錠具を取り付け,賃借人を部屋に立ち入らせないようにしたり,あるいは賃借人の残置物を廃棄・処分することができるか。

【解説】多湖・岩田・田村法律事務所/平成25年1月版
【1】賃借人が家賃を滞納したまま居座ってしまった場合,これを強制的に立ち退かせるには,法的な明渡強制執行手続を取らなければならず,これを経ずに居住者を力づくで追い出したり,室内の残置物を廃棄処分したりすることはことはできません(自力救済禁止)。
【2】そして,この理は,頭書事例のような条項があっても変わりません(その意味で当該条項は無効です)。
【東京地裁平成18年5月30日判決】も,頭書事例のような条項(特約)について,「本件特約は,X(借主)に対して賃料の支払や本件建物からの退去を強制するために,法的手続によらずに,Xの平穏に生活する権利を侵害することを許容することを内容とするものというべきところ,このような手段による権利の実現は,法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合を除くほかは,原則として許されないというべきであって,本件特約は,そのような特別の事情があるとはいえない場合に適用されるときは,公序良俗に反して,無効である」と判示しています。
従って,契約書にあらかじめ,頭書事例のような条項があっても,これに基づき残置物を勝手に処分した場合には,むしろ不法行為(709条)として損害賠償請求をされますので注意が必要です。
【3】また,【東京地裁平成24年3月9日判決】は,賃貸物件の管理会社が,6か月分の家賃を滞納した賃借人に対し,法的手段によることなく,着の身着のままでの退去を迫り退去させ,さらに,「本件物件の残置物を処分しても異議を申し立てないこと」などをを内容とする確認書に署名捺印させた上,賃借人の家財を処分した事案で,以下のように判示しました。
(1)退去要求の態様が,その行為自体が刑法上の脅迫,強要行為に該当する程度には至らない行為であったとしても,家賃を滞納しているという負い目のある賃借人に,法的手続によることなく,着の身着のままでの退去を迫ること自体が社会的相当性に欠け,違法行為である。

(2)被告らは,原告を着の身着のままで本件物件から強制的に退去させたのであるから,原告が残置した家財を被告らが処分する権限は何もない。本件確認書に原告が署名捺印したことによって,原告が本件物件から退去し,家財を被告らが処分することに同意したものと評価できるわけではない
従って,事後的に賃借人に,残置物を処分しても構わない旨の確認書のようなものを書かせても,その過程に社会的相当性が欠ける場合には,やはり不法行為(709条)として損害賠償請求をされる可能性があります。
【4】他方で,かなり例外的ではありますが,法的手続によらない残置物の処分・強制撤去が適法と認められた例があります。【大阪地裁平成20年12月11日判決】は,大阪市にある公園内にビニールシートのテントを設置して野宿生活をしていた原告が,平成18年5月2日,公園を管理する被告(大阪市)の職員の職務行為により,公園に設置していたテント等を撤去され,その所有物品を撤去されて廃棄処分され,物品価額8万2630円相当の財産的損害を被った上に,生活の基盤をなす重要な物品を失ってその日の生活にも窮するとともに唯一の住居であるテントを突然破壊されて精神的苦痛を被ったとして不法行為に基づく損害賠償請求をした事案で,「被告は,平成18年2月9日から公園からの退去を示唆して原告に自立支援センターへの入所を勧めており,3月3日の勧告書手交,3月16日の承諾書署名,4月26日から28日にかけての退去の予告を経て,5月2日に本件撤去に至ったのであるから真正な協議も行われており,原告には,所有物を持参して公園から立ち退く権利と機会が与えられていた」こと等を理由に,「撤去及びこれにより撤去した物品の廃棄処分は,承諾書によってされた原告の承諾に基づいて行われたものであって,不法行為としての違法性は認められない」と判示しました。

これは,強制撤去に至るまでの約3か月の間に,自立支援センターへの入所を勧め,勧告書を交付し,承諾書に署名させ,退去の予告をし,占拠者側が任意に退去あるいは残置物を撤去する機会が十分に与えられていたことが重視された例外事例といえるでしょう。
【結論】
以上より,頭書事例のような条項は無効ですので,これを根拠に残置物を廃棄処分すると不法行為責任を問われる可能性が高いでしょう。多湖・岩田・田村法律事務所でも,このような場合,原則として法的な明渡強制執行手続を経るよう助言しています。

仮に,(事後的に)賃借人の承諾を経て残置物を処分する場合でも,(1)真意に基づく承諾であること,(2)承諾の範囲が明確になっていること,(3)承諾内容・承諾過程が社会的相当性に欠けないこと(公序良俗に反しないこと),が必要です。従って,承諾を得たあとも,勧告(警告)をし,実際の処分日までに一定の猶予期間を設ける等して,賃借人に必要な物を運び出す機会を十分に与えた上で,あくまで最終手段として残置物の廃棄処分をすべきでしょう。

⇒さらに詳しく知りたい方は『賃貸人・不動産オーナーが喜ぶ 立退・明渡交渉を有利に進める実務』<株式会社レガシィ 2014年12月>(著者:多湖章弁護士)もご参照願います。


〒102-0083 東京都千代田区麹町4-3-4 宮ビル4階・5階
電話 03-3265-9601 FAX 03-3265-9602

Copyright © Tago Iwata & Tamura. All Rights Reserved.