HOMENEWSEnglish
不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
〒102-0083 東京都千代田区麹町4-3-4
宮ビル4階・5階(受付)
電話 03-3265-9601
FAX 03-3265-9602

info@tago-law.com
事務所紹介弁護士紹介取扱業務ご依頼方法と費用不動産相談
賃貸相談 売買相談
敷金(保証金)返還義務
転貸借の効力
賃料増額・減額の請求
更新拒絶の正当事由と立退料
法定更新時の更新料
借地借家法の適否
賃借人の原状回復義務の範囲
賃貸人の修繕義務の範囲
連帯保証人の責任の範囲
仲介業者の責任と説明義務
残置物処分の適法性
明渡義務の完了時期
債務不履行解除の可否


 敷金(保証金)返還義務
*以下は,多湖・岩田・田村法律事務所としての法的見解を簡略的に紹介したものです。個々の事案に応じて結論は様々ですので,当該事件の解決にとっていかなる方法が最も相応しいかについては,その都度,弁護士にご相談下さい。

【事 例】 敷引特約の有効性
「敷金6か月分のうち,契約終了時に2か月分を償却する」との条項の有効性。
【解 説】 <多湖・岩田・田村法律事務所/平成29年7月改訂版>
<1>敷金」とは,賃貸借契約時に借主が貸主に対し,賃料や退去時の原状回復費用の担保として預ける金銭のことで,オフィスビルの賃貸においては「保証金」と呼ぶのが一般的です(基本的には,「保証金」≒「敷金」と考えて良いですが,厳密には,「保証金」は「敷金」より多義的でもう少し広い法的概念です。「保証金」は,「敷金」としての意味だけでなく,建設中のオフィスビルに入居予定のテナントが「建設協力金」として建築主たるビルオーナーに貸し付ける「貸金」としての性質を含む意味で用いられることもあり,しばしばその法的性質が争われることがあります。)。金額は各地方によって多少異なりますが,居住用物件の場合は月額賃料の2か月分程度,オフィスビルの場合は月額賃料の6か月〜10か月分程度が相場と思われます。
<2> 敷金(保証金)は,あくまで「預ける」ものですので,賃貸借契約終了し退去明渡が完了した場合には,貸主は借主に全額返金しなければならないのが原則です。この点で,「敷金」は,返還義務のない「礼金」や「権利金」とは異なります(【最高裁昭和43年6月27日判決】は,「権利金」につき,場所的利益の対価であるとして返還義務を否定)。
ただし,敷金の返還を受けるためには契約が終了しただけでは足りず,現実に退去明け渡しが完了して初めて敷金返還義務が生じるとされています(【最高裁昭和49年9月2日判決】)。また,【最高裁昭和48年2月2日判決】では,「家屋賃貸借における敷金は,賃貸借存続中の賃料債権のみならず,賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し,賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において,それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として,その残額につき敷金返還請求権が発生する」とし,【最高裁平成14年3月28日判決】も,「目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することになる。このような敷金の充当による未払賃料等の消滅は,敷金契約から発生する効果であって,相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではない」としていることから,敷金は明渡時において一切の未払い債務に当然充当され,相殺の意思表示すら不要と解されています。
<3> もっとも,実際の契約書においては,頭書事例のように,契約終了時に敷金を償却(「償却」とは,法的には「償却費として貸主が受領する」という意味で用いられます)するという,いわゆる敷引特約(しきびきとくやく)が定められていることがあります。
実務上は,この敷引特約が消費者契約法10条(貸主が事業者で借主が個人の場合)あるいは民法90条(事業者間または個人間の契約の場合)により,公序良俗違反として無効とならないかどうかがしばしば争われます。ちなみに,国土交通省の調査によれば,大阪では約30%,東京では約5%の割合で,敷引特約が結ばれているようです(【最高裁平成23年7月12日判決】の田原睦夫裁判官の補足意見等参照)。
<4> これについては近時判例が続発し,【最高裁平成23年3月24日判決】は,「本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて月額賃料の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,借主は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない」として,これを有効とし,前掲【最高裁平成23年7月12日判決】も,「本件敷引金の額はその(月額賃料の)3.5倍程度にとどまっており,高額に過ぎるとはいい難く,本件敷引金の額が,近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して,大幅に高額であることもうかがわれない」として有効と判断しました。なお,両判例はどちらも,借主が個人消費者であった(消費者契約法の適用される)事例ですので,事業者間の取引の場合に妥当するものではありません(事業者間の取引では敷引特約はより認められ易くなるでしょう)。  
<5> もっとも,前掲【最高裁平成23年3月24日判決】は,同時に,「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる」とも判示しているため,敷引特約を一律に有効あるいは無効と判断することはできず,結局は,入居期間との相関関係で割り出される「敷引金額の(月額)賃料に対する比率」(以下「月額敷引比率」といいます。)により判断されていると思われます(前掲【最高裁平成23年7月12日判決】の田原睦夫裁判官の補足意見参照)。
<6> すなわち,「敷引される金額」÷「実際に入居していた月数」÷「月額賃料」=「月額敷引比率」が,前掲【最高裁平成23年3月24日判決】では5.9%程度,前掲【最高裁平成23年7月12日判決】では4.9%程度の事案で,いずれも月額敷引比率が少額であったことが重視されていると思われます。
逆にいえば,例えば,月額30万円で保証金10か月(300万円)の契約において,保証金全額の敷引特約が結ばれた場合に,借主が6か月で契約を解約して建物から退去したとすると,敷引比率は300万円÷6か月÷30万円=160%超となりますので,このような場合は,敷引特約は一定の範囲で無効とされる可能性が高いでしょう。もっとも,借主の意向・注文に沿って建物を建築した上,その建物を賃貸するという,いわゆるオーダーメイド賃貸の場合,せっかく借主仕様の建物にしたのに早期に退去されると貸主の損害が大きいので,投下資本の回収リスク分配の観点から,月額敷引比率を高く設定しても無効とはされ難いでしょう(【東京地裁平成13年5月14日判決】(『判例タイムズ1117号293頁』解説より)参照。)。
【結 論】
以上より,頭書事例のような条項は,原則として有効ですが,敷引金額が月額賃料に比して著しく高額な場合は一定の範囲で無効とされます。過去の裁判例等に照らし,借主が個人消費者である消費者契約法適用事例でも,敷引金額は概ね月額賃料の3.5か月分程度に留めておけば安全圏(有効の可能性大)といえるでしょう。
他方,事業者間の取引などでは,消費者契約法は適用されませんので,3.5か月分を超えるような敷引特約も有効とされる可能性は高いでしょう。
【補 足】
余談ですが,『広辞苑』(岩波書店)によると,「償却」は,上記敷引特約におけるような「減価償却」としての意味のほかに,「借金をかえすこと」という意味があります。そのため,一般の方は,敷引特約における「償却」の意味を,「返却」(すなわち敷金を返してもらえる)というように逆の意味に理解してしまうケースがあります。そこで,多湖・岩田・田村法律事務所では,敷引特約を含む賃貸借契約書の校正等のご依頼を受けたときは,「敷金6か月分のうち,契約終了時に2か月分を償却することとし,貸主はこれを借主に返還することを要しない」と記すよう助言しています。
【改正民法】
*公布:平成29年6月2日官報号外第116号(平成32年6月2日までに施行予定)
<622条の2>
1 賃貸人は,敷金(いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において,次に掲げるときは、賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
(1) 賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。
(2) 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

<多湖・岩田・田村法律事務所コメント>
これまでは,前掲【最高裁昭和49年9月2日判決】前掲【最高裁昭和48年2月2日判決】前掲【最高裁平成14年3月28日判決】等の判例の蓄積により,解釈上,敷金の返還時期や返還範囲が画されていましたが,今回の改正により,敷金の返還時期が賃貸物件の明渡完了時であること及び敷金から未払賃料等が控除されることなどが条文上明記されました。



【事 例】 違約金条項(中途解約違約金)の有効性
「借主が1年未満で解約した場合,違約金として保証金(3か月分)全額を没収する」との条項の有効性。
【解 説】 <多湖・岩田・田村法律事務所/平成24年10月版>
<1> 頭書事例の違約金条項は,借主が賃貸契約期間の途中で解約した場合に借主は何万円を貸主に支払うという,いわゆる「中途解約違約金」と呼ばれるもので,「損害賠償の額の予定」(民法420条)と同じ性質を有します。
このような中途解約違約金は,オーダーメイド賃貸のような場合には必ずといって良いほど見受けられるものです。
<2> 中途解約違約金の目的は,主として,「貸主が次のテナントを確保するまでの間の賃料を借主に負担させるもの」と言って良いでしょう。すなわち,例えば3年間の賃貸借契約であれば,貸主は「3年間は賃料収入が得られる」との期待があるわけですが,解約されてしまうと,以降,次のテナント入居者が決まるまで賃料収入が得られなくなってしまいます(例えば賃料収入を見込んで資金計画を立てていた場合に予期せぬ損害を蒙ることになります)。違約金条項は,まさにこのような貸主の損害を補填するものです。
<3> 違約金条項も消費者契約法9条1号(この場合は10条ではなく9条1号の問題となります)や民法90条により無効となるかどうかがしばしば問題となりますが,前述の敷引特約は,主として,「長く借りていたことによる物件の老朽化に伴う経年劣化分(減価分)を敷金で補填する(償却する)」という趣旨ですが(したがって,賃貸期間が長ければより多額の敷引が認められるわけです),中途解約違約金は,むしろ,早く解約されてしまったことによる不測の損害に備えるというもので,ベクトルが逆なわけですから,敷引特約の有効性の判断と同様の基準(月額敷引比率等)は必ずしも妥当しません。結局は,「中途解約により発生することが予想される貸主の損害が一般的にどれくらいなのか」という,より実質的な判断が必要となります。
<4> この点,【東京地裁平成8年8月22日判決】では,借主が賃貸期間(4年)満了前に解約した場合に違約金を支払うこととされていたケースで,「次の賃借人を確保するまでに要した期間は,実際には数か月程度であり,1年以上の期間を要したことはない」とした上,「約3年2か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は,賃借人である被告会社に著しく不利であり,賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから,その効力を全面的に認めることはできず,1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり,その余の部分は公序良俗に反して無効」と判示しています(但し,これは,借主が会社であったため消費者契約法9条の適用のない事案であったことに注意が必要です)。
また,敷引特約と違約金条項の併用が認められたケースでは,借主が中途解約した場合において,「敷引3か月+違約金4か月=計7か月」分の賃料を借主に負担させる特約も有効とされています(【東京簡裁平成20年11月19日判決】但し,これも借主が会社であり消費者契約法が適用されない事案であったことに注意)。
<5> 他方で,消費者契約法が適用されるケース(貸主が事業者で借主が個人消費者の場合)では,【東京簡裁平成21年8月7日判決】【東京簡裁平成21年2月20日判決】は,いずれも,「一般の居住用建物の賃貸借契約においては,途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の,1か月(30日)分とする例が多数と認められ,次の入居者を獲得するまでの一般的所用期間としても相当と認められる」などとして,1か月の範囲でのみ違約金を認め,これを超える部分につき消費者契約法9条1号により無効と判示しました。
【結 論】
以上より,頭書事例の条項は,原則として有効ですが,違約金額が著しく高額な場合は一定の範囲で無効とされます。
過去の裁判例等に照らし,違約金額は,借主が会社の場合は概ね月額賃料の6か月以内,借主が個人消費者で消費者契約法が適用される場合は概ね月額賃料の1か月以内に留めておけば安全圏(有効の可能性大)といえるでしょう。
【補 足】
賃貸借契約書では,あらかじめ「賃借人は3か月前に予告することで賃貸借契約を解除することができる」等と定められている場合も多いと思われますが(このような条項は法律上有効です),逆に「賃貸人は3か月前に予告することで賃貸借契約を解除することができる」という条項は有効でしょうか。

これについて【東京地裁平成25年8月20日判決】は,「定期建物賃貸借契約である本件契約において,賃貸人に(3か月前予告による)中途解約権の留保を認める旨の特約を付しても,その特約は無効と解される(借地借家法30条)」と判示しました。これは定期借家の事案ではありますが,この理は,借地借家法26条1項の趣旨に鑑み,普通賃貸借の場合でも基本的には変わらないと考えられます。

なお,普通賃貸借の解約の場合には「正当事由」が必要になることから(借地借家法28条参照)これを有効とする見解もありますが(新基本法コンメンタール『借地借家法』233頁<日本評論社>ではこれを「通説」としているようです),少なくとも,予告期間を「6か月」より短い期間(「3か月」)としている場合には,借地借家法27条に比し賃借人に不利と言え無効と言えるでしょう(この点については,【東京地裁昭和55年2月12日判決】でも,「期間の定めのある建物の賃貸借契約において,期間内における解約権留保の特約が借家法六条により無効とされるか否かについては議論の存するところであるけれども,解約権留保それ自体は有効であるとしても,本件のように申入後直ちにこれを明け渡す旨の特約は同法三条に反し同法六条によって無効であるといわなければならない」と判示しています)。



【事 例】 違約金条項(明渡遅延損害金)の有効性
「賃貸借契約終了したにも拘らず明け渡しを遅滞した場合には,違約金として明け渡しまで1か月あたりの賃料の倍額を支払う」との条項の有効性。
【解 説】 <多湖・岩田・田村法律事務所/平成24年10月版>
<1> 頭書事例の違約金条項は,明渡遅延に伴う貸主の損害につき,「損害賠償の額の予定」をしたもので,主として,賃借人に対し,賃貸借契約に伴う賃借人の義務(退去明け渡しの義務)の履行促進を目的とするものであるといえます。
<2> 前提として,「更新拒絶又は解約申入れにより契約が終了する場合は,契約が終了するかどうかは正当事由の有無にかかっているが,正当事由の有無の判断は,当事者にとっては予測することが困難であって,結局は裁判所の判断をまつことになるものであり,更新拒絶又は解約申入れの時点で賃借人に正当事由の有無の判断を求めるとすれば,賃借人に困難を強いることになる。そこで,前記特約は,契約終了の原因が解除や合意解約による場合を想定したもので,更新拒絶又は解約申入れにより契約が終了する場合を除く趣旨である」とされ(【東京地裁平成7年10月16日判決】),賃貸人からの更新拒絶や解約申入による賃貸借契約終了の場合で,賃借人がいわゆる正当事由を主張している場合は,このような違約金条項(明渡遅延損害金)の適用は金額に拘わらず否定されると解して良いでしょう。したがって,明渡遅延損害金は,それ以外の原因による契約終了の場合に問題となります。
<3> まず,事業者間の取引では,明渡遅延に伴う損害金を賃料の2倍程度と約定することは判例実務ではほぼ問題なく認容されているといえます(【東京地裁平成24年3月1日判決】でも,賃料の2倍の明渡遅延違約金につき,「公営住宅法32条3項など,明渡しまで家賃の2倍に相当する額以下の徴収を認めており,立法として許容している例が存することにも鑑みると,公序良俗に反するというのは困難である」と判示しています)。
<4> 他方で,消費者契約法が適用されるケース(借主が個人消費者の場合)においては,【大阪地裁平成21年3月31日判決】は,「賃貸借契約の終了に基づく目的物返還義務の履行遅滞を原因とする損害賠償における損害は,当該不動産の有する使用価値それ自体が侵害されたことによる積極的損害であると解されるところ,賃貸借契約においては当該不動産の使用価値をもって賃料とするのが通常であるから,賃料相当損害金の算定については,特段の事情がない限り,従前の賃料を基準として算定するのが相当と解される。そうすると,不動産賃貸借契約において,賃貸借契約の終了に基づく目的物返還義務の履行遅滞が生じた場合における『平均的な損害』(消費者契約法9条1号)は,原則として,従前の賃料を基準として算定される賃料相当損害金を指すものと解するのが相当である」として,月額賃料の1.5倍の違約金条項(明渡遅延損害金)を消費者契約法9条1号により無効と判示しました。
<5> もっとも,消費者契約法9条1号は,「消費者契約の解除に伴って事業者が消費者に対し高額な損害賠償等を請求することによって,消費者が不当な出えんを強いられることを防止することを目的とするもの」(【最高裁平成18年11月27日判決】)とされています。
すなわち,同号は,解除に伴う損害賠償や違約金条項に関する規定であって,解除後の明渡しの遅延に伴う損害賠償は,「解除したこと(されたこと)」自体で発生する(伴う)ものではなく,「遅延したこと」による損害賠償ですので,本来は同号が適用される場面ではありません。むしろ消費者契約法10条の問題として無効か否かを考えるべきでしょう(【東京地裁平成20年12月24日判決】も,明渡遅延損害金につき消費者契約法9条1号の適用を否定し,同法10条の問題として処理し,結論として賃料の2倍の明渡遅延違約金につき同法10条に反せず有効と判示しています。なお,前掲【大阪地裁平成21年3月31日判決】も,「このような規定は当該業種における業界の水準ないし慣行を示すものと解されるであって,同条項が民法1条2項に規定する信義誠実の原則に直ちに反するとまでは認められないから,消費者契約法10条に違反するとまではいえない」とし,消費者契約法10条には反しないと判示しています)。

したがって,消費者契約法9条1号が適用されないという前提に立てば,少なくとも月額賃料の1.5倍程度の違約金(明渡遅延損害金)は有効といえるでしょう。
【結 論】
以上より,頭書事例の条項は,借主が会社の場合,概ね月額賃料の2倍以内であれば原則として有効ですが,借主が個人消費者で消費者契約法が適用される場合には,違約金額(明渡遅延損害金)は月額賃料の1.5倍以内に留めておけば安全圏(有効の可能性大)といえるでしょう(尚,いずれにしても,賃貸人からの更新拒絶や解約申入の場合は適用されません)。
尚,何をもって「明渡し」とするか,その意義については,明渡義務の完了時期をご参照下さい。
【補 足】
消費者契約法は,貸主が「事業者」で,借主が「個人消費者」の場合に適用されるものですが,貸主が「個人」であっても,「消費者契約法上の『事業』とは,『社会生活上の地位に基づき一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行』であり,その事業のために契約の当事者となる場合における個人は消費者契約法上の『事業者』となる」とされ,継続的に賃貸する意思を有し不動産仲介業者を利用して賃借人を募集していた個人(貸主)につき「事業者」として消費者契約法の適用を認めています(【京都地裁平成22年9月16日判決】)。


Copyright © 2011 TAGO IWATA& TAMURA. All Rights Reserved.