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不動産/借地借家/賃貸トラブルの多湖・岩田・田村法律事務所
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 賃借人の原状回復義務の範囲
*以下は,多湖・岩田・田村法律事務所としての法的見解を簡略的に紹介したものです。個々の事案に応じて結論は様々ですので,当該事件の解決にとっていかなる方法が最も相応しいかについては,その都度,弁護士にご相談下さい。

【事 例】 原状回復義務の範囲(原則型)
「賃借人が住宅を明け渡すときは,住宅内外に存する賃借人又は同居者の所有するすべての物件を撤去してこれを原状に復するものとし,賃借人は、本件負担区分表に基づき補修費用を負担しなければならない」との契約条項に基づき,敷金から本件住宅の補修費用として通常の使用に伴う損耗についての補修費用を控除できるか。
【解 説】 <多湖・岩田・田村法律事務所/平成29年7月改訂版>
<1> 賃借人は,賃貸借契約終了に基づき原状回復義務を負うとされていますが(民法597条1項準用,606条),「原状回復」といっても,通常損耗(建物の通常の使用により損耗した部分),特別損耗(建物の特別の使用方法により損耗した部分)に分けられます。
このうち,特別損耗については,賃借人が原状回復義務を負うことは特に問題ありませんので,例えば,賃借人が建物内でペットを飼育したことにより,壁に大きな爪痕が残った場合や,炭火焼肉店を経営したことにより天井に多量のススが付着したというような場合は,これを修復しなければなりません。
<2> では,通常損耗については,賃借人に原状回復義務を負わせることはできるのでしょうか。
この点,【最高裁平成17年12月16日判決】は,居住用物件の賃貸の事案で,「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」と判示しています。
<3> すなわち,通常損耗についてまで賃借人に原状回復義務を負わせる契約条項は当然には無効とはならないが,そのためには「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲」を賃借人が契約時に明確に認識している必要があります。 したがって,単に賃借人に原状回復義務を負わせる旨の条項があるだけでは通常損耗部分の補修費用を敷金から控除することも認められません。
<4> もっとも,【東京高裁平成12年12月27日判決】は,「一般に,オフィスビルの賃貸借においては,次の賃借人に賃貸する必要から,契約終了に際し,賃借人に賃貸物件のクロスや床板,照明器具などを取り替え,場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が付される場合が多いことが認められる。オフィスビルの原状回復費用の額は,賃借人の建物の使用方法によっても異なり,損耗の状況によっては相当高額になることがあるが,使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当であることが,かかる特約がなされる理由である。もしそうしない場合には,右のような原状回復費用は自ずから賃料の額に反映し,賃料額の高騰につながるだけでなく,賃借人が入居している期間は専ら賃借人側の事情によって左右され,賃貸人においてこれを予測することは困難であるため,適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であることから,原状回復費用を賃料に含めないで,賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまで原状回復させる義務を負わせる旨の特約を定めることは,経済的にも合理性がある」としていますので,居住用ではなく,オフィス用物件の場合には,必ずしも通常損耗の範囲が明確に定められていなくても通常損耗部分を含めた原状回復義務を負わせることは比較的容易でしょう。
<5> ただし,【東京簡裁平成17年8月26日判決】は,「本件物件は,仕様は居住用の小規模マンション(賃貸面積34.64平方メートル,)であり,築年数も20年弱という中古物件である。また,賃料は12万8600円,敷金は25万7200円であって,事務所として利用するために本件物件に設置した物は,コピー機及びパソコンであり,事務員も二人ということである。このように本件賃貸借契約はその実態において居住用の賃貸借契約と変わらず,これをオフィスビルの賃貸借契約と見ることは相当ではない。本件賃貸借契約は,その実態において居住用の賃貸借契約と変わらないのであるから,オフィスビルの賃貸借契約を前提にした前記特約をそのまま適用することは相当ではないというべきである。すなわち,本件賃貸借契約はそれを居住用マンションの賃貸借契約と捉えて,原状回復費用は,いわゆるガイドラインにそって算定し,敷金は,その算定された金額と相殺されるべきである」としており,小規模物件の場合は,たとえそれをオフィスとして利用していたとしても,居住用物件と同様,「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲」を賃借人が契約時に明確に認識していなければ,通常損耗部分について原状回復義務を負わせることはできないと考えるべきでしょう。
【結 論】
以上より,居住用物件(UR等)及び小規模オフィスについては,通常損耗の範囲を明確に説明し借主の承諾を得ることが必要となります。
具体的には,平成23年8月再改訂版『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』(国土交通省)の別表3の様式を利用するなどして,原状回復の範囲を詳細に説明しない限り,通常損耗分についてまで借主に原状回復義務を負わせるのは困難です。

尚,【大阪高裁平成21年6月12日判決】は,「クロスのように経年劣化が比較的早く進む内部部材については,特別損耗の修復のためその貼替えを行うと,必然的に,経年劣化等の通常損耗も修復してしまう結果となり,通常損耗部分の修復費について賃貸人が利得することになり,相当ではないから,経年劣化を考慮して,賃借人が負担すべき原状回復費の範囲を制限するのが相当である」とし,クロスの耐用年数が6年であることに鑑み,原状回復義務の範囲を全体の10%に制限すると同時に,有益費償還請求権(608条2項)を根拠に,通常損耗を含む特別損耗を補修した賃借人は,賃貸人に対し,「通常損耗分に相当する補修金額を請求できる」としていますので,例えば,壁の一部にペットの大きな爪痕等の特別損耗部分があったため,賃借人が室内の壁を全面張り替えた場合,賃借人は一定の範囲で賃貸人に費用の一部の償還を請求することができます。

また,【東京地裁平成26年10月21日判決】でも,「補修としては,クロスの性質上,洋室全体を貼り替えざるを得ない」としつつ「貼り替えによって回復することが見込まれる価値のうちには,経年変化及び通常損耗により価値が減少した部分も含まれる」とし,損傷の態様や居住年数等を考慮し,賃借人の回復義務の範囲を「全体の1割と認めるのが相当である」と判示しました。
他方,通常のオフィスビルであれば,契約時に範囲が必ずしも明確でなくても通常損耗も含めた原状回復義務を賃借人に負わせることが可能と思われます。
【改正民法】
*公布:平成29年6月2日官報号外第116号(平成32年6月2日までに施行予定)
<621条>
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

<多湖・岩田・田村法律事務所コメント>
これまでは,判例や平成23年8月再改訂版『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』(国土交通省)等の蓄積により,解釈上,原状回復義務の範囲が画されていましたが,今回の改正により,通常損耗部分及び経年劣化部分については,原状回復義務を負わないことが条文上明記されました。



【事 例】 原状回復義務(定額型)
「賃料月額4万8000円(共益費5000円),敷金10万円の物件において,「賃借人は,退室時,賃借室の原状復帰における室内清掃料金を支払うものとし,賃貸人は,基本清掃料金2万6250円(税込)を敷金より差し引くものとする」との条項の有効性。
【解 説】 <多湖・岩田・田村法律事務所/平成24年10月版>
<1> 前記のとおり,とりわけ居住用物件においては,通常損耗部分につき賃借人に原状回復義務を負わせることは限定的に解されています。では,契約時に,「クリーニング代」「清掃料」として一律に通常損耗部分に関する原状回復費用の金額を明確に定めていた場合,賃貸借契約終了時にこれを敷金から差し引くことはできるのでしょうか。
<2> この点につき,【京都地裁平成24年2月29日判決】は,「敷金のうち一定額を『基本清掃料』の名目で控除し,これを賃貸人が取得する旨の特約であり,居住用建物の通常の使用によって生じる汚損は,通常損害というべきであるから,本件基本清掃料特約は,通常損耗に含まれる汚損を含めて,その原状回復費用を賃借人に負担させる趣旨の特約と認められる」としながらも,「賃貸人が取得することになる金員の額が契約書に明示されている場合には,賃借人は,賃料の額に加え,敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって,賃借人の負担については明確に合意されている。そして,通常損耗に含まれる汚損の原状回復費用は,通常は賃料に含ませてその回収を図るべきものであるとしても,これに充てるべき金員を特約による負担金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,賃料には,その限りでの原状回復費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当である。そうすると,本件基本清掃料特約によって賃借人が上記原状回復費用を二重に負担するということはできないし,上記金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗に含まれる汚損の回復の要否やその費用の額,さらには,通常損耗に含まれない汚損の原状回復費用との分担をめぐる同様の紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,本件基本清掃料特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない」として,「基本清掃料の額は,月額賃料及び共益費の約2分の1に止まっていること」等を理由に,かかる特約を有効と判示しています。
<3> もっとも,同判例は,「基本清掃料の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,本件契約による賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる」ともしていますので,金額が家賃額等に比し過大である場合には特約は無効になると考えられます。
<4> 尚,「基本清掃料」等としてではなく,単に「1か月分を敷金から償却する」というようないわゆる敷引特約であっても,【最高裁平成23年3月24日判決】では「居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,契約当事者間にその趣旨について別異に解すべき合意等のない限り,通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含む」とされていることから,少なくとも居住用物件について敷引特約がなされている場合は,敷引分をもって通常損耗部分の修繕費用(原状回復費用)に充てられることが予定されているというべきであり,賃貸人は,これと別個にさらに通常損耗部分の修繕費用(原状回復費用)を賃借人に請求することは原則としてできません(【大阪高裁平成6年12月13日判決】でも,保証金160万円のうち約60%にあたる100万円を償却(控除)する旨の特約につき,「通常の使用によって生ずる損耗,汚損の原状回復費用は,右保証金から控除される額によって補償されることを予定しているものというべきである」と判示しています)。
【結 論】
以上より,頭書事例の条項は,基本清掃料が月額賃料及び共益費合計額の半額程度であり,原則として有効ですが,金額が過大な場合は,過大部分については無効とされることがあります。

⇒さらに詳しく知りたい方は『賃貸人・不動産オーナーが喜ぶ 立退・明渡交渉を有利に進める実務』<株式会社レガシィ 2014年12月>(著者:多湖章弁護士)もご参照願います。


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