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不動産/借地借家/マンション賃貸トラブル相談|多湖・岩田・田村法律事務所
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 転貸借の効力
*以下は,多湖・岩田・田村法律事務所としての法的見解を簡略的に紹介したものです。個々の事案に応じて結論は様々ですので,当該事件の解決にとっていかなる方法が最も相応しいかについては,その都度,弁護士にご相談下さい。

【事 例】 無断転貸借の有効性
A→B→Cと建物が,順次,賃貸されたが,B→Cが無断転貸の場合(Aの承諾を得ていない場合),AはCに対し明け渡し請求できるか。
【解 説】 <多湖・岩田・田村法律事務所/平成29年8月改訂版>
<1> まず,賃貸借契約はあくまでAB間の契約ですので,Aの承諾ない限りBはCに建物を転貸(また貸し)することはできません(民法612条)。
よって,もしBがCに対しAの承諾なしに無断で転貸した場合,これはAに対する背信行為(Aの信頼を裏切る行為)となりますので,原則として,AはAB間の賃貸借契約を解除できますし,Cに対し明け渡し請求することも可能となります。
<2> もっとも,Cへの無断転貸がAに対する「背信行為と認めるに足りない特段の事情」があれば,BC間の転貸契約はAとの関係でも有効となり,AはAB間の賃貸借契約を解除することもできませんし,Cに対し明け渡しを請求することもできなくなります(【最高裁昭和62年3月24日判決】等)。そこで,どのような事情が「背信行為と認めるに足りない特段の事情」となるのか問題となります。
<3> この点,【最高裁昭和39年11月19日判決】【最高裁昭和43年9月17日判決】等は,個人として賃借したあと,その個人が会社を設立し,従業員や建物の使用状況も同一のままその設立した会社に転貸ないし賃借権譲渡したに過ぎない場合には,「背信行為と認めるに足りない特段の事情」があると判示しました。
したがって,Cが単にBの法人化に過ぎない等の場合には,Aの承諾がなくても,BはCに対し転貸することが認められます。
もっとも,法人化後,第三者がその会社の全株式を取得し,経営権を掌握した場合には,当該第三者が「営業権を完全に支配するに至った時点から」背信性を有するとされます(【東京地裁昭和50年8月7日判決】)。

なお,もともと法人(会社)として賃借していて,株式・持分譲渡により株主・社員構成や代表取締役等の役員構成が変更された場合につき,【最高裁平成8年10月14日判決】は,「民法六一二条は、賃借人は賃貸人の承諾がなければ賃借権を譲渡することができず、賃借人がこれに反して賃借物を第三者に使用又は収益させたときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる旨を定めている。右にいう賃借権の譲渡が賃借人から第三者への賃借権の譲渡を意味することは同条の文理からも明らかであるところ,賃借人が法人である場合において、右法人の構成員や機関に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではないから、賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。そして、右の理は、特定の個人が経営の実権を握り、社員や役員が右個人及びその家族、知人等によって占められているような小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはないのであり、右のような小規模で閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡及び役員の交代により実質的な経営者が交代しても、同条にいう賃借権の譲渡には当たらないと解するのが相当である。賃借人に有限会社としての活動の実体がなく、その法人格が全く形骸化しているような場合はともかくとして、そのような事情が認められないのに右のような経営者の交代の事実をとらえて賃借権の譲渡に当たるとすることは、賃借人の法人格を無視するものであり、正当ではない。賃借人である有限会社の経営者の交代の事実が、賃貸借契約における賃貸人・賃借人間の信頼関係を悪化させるものと評価され、その他の事情と相まって賃貸借契約解除の事由となり得るかどうかは、右事実が賃借権の譲渡に当たるかどうかとは別の問題である。賃貸人としては、有限会社の経営者である個人の資力、信用や同人との信頼関係を重視する場合には、右個人を相手方として賃貸借契約を締結し、あるいは、会社との間で賃貸借契約を締結する際に、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに役員や資本構成を変動させたときは契約を解除することができる旨の特約をするなどの措置を講ずることができるのであり、賃借権の譲渡の有無につき右のように解しても、賃貸人の利益を不当に損なうものとはいえない」と判示しています。

従って,もともと法人として賃借していた場合は,当該法人の構成員や経営者を変更しただけでは法人格の同一性は失われるものではなく,民法612条にいう賃借権の譲渡には当たりませんので(同趣旨のものとして【東京地裁平成27年10月13日判決】等),「会社との間で賃貸借契約を締結する際に、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに役員や資本構成を変動させたときは契約を解除することができる旨の特約」が無い限り,賃貸借契約を解除することはできません。
<4> 「背信行為と認めるに足りない特段の事情」が認められ,転貸契約が有効とされると,Aは,Cに対し,明け渡しを請求することはできなくなりますし,仮にBC間の転貸契約の前提となるAB間の賃貸借契約を合意解除(ABの任意の合意で解除すること)したとしても,合意解除することが信義誠実の原則に反しないような特段の事由がない限り,AはCに対し明け渡しを請求することはできず(【最高裁昭和37年2月1日判決】前掲【最高裁昭和62年3月24日判決】),賃借人は転貸人の地位から離脱し,賃貸人がその地位を承継し,転貸借契約の契約内容(賃料、存続期間等)がそのまま賃貸人と転借人との間の契約内容となります(【東京地裁平成22年3月31日判決】)。

なお,合意解除だけでなく,契約期間中における賃借人による賃借権の放棄約定解除(予め契約書で「契約期間中であっても賃借人は3か月前に通知することで賃貸借契約を解除できる」等と定められている場合の解除)の場合も,賃借人が自由に(恣意的に)操作できる事情による契約終了という意味で合意解除と共通するため,合意解除の場合と同様,転借人には対抗できない(明渡請求できない)と考えて良いでしょう(賃借権の放棄につき日本評論社『新基本法コンメンタール借地借家法』215頁)。

他方で,AB間の契約が期間満了(更新拒絶)により終了した場合(賃借人からの更新拒絶による期間満了の場合につき【東京高裁平成11年6月29日判決】,賃貸人からの更新拒絶による期間満了の場合につき『判例タイムズ1429号244頁』解説)やBの賃料不払い等の債務不履行に基づく解除により終了した場合(【最高裁昭和36年12月21日判決】【最高裁平成9年2月25日判決】)は,Aは,Cに対し明け渡しを請求することができるとされています。

ただし,期間満了の場合は,転借人に対する6か月前の通知が必要となります(借地借家法34条)。また,債務不履行に基づく解除の場合は,賃貸人が転借人に明け渡し請求した時点で転貸借契約が履行不能により終了するとされています(前掲【最高裁平成9年2月25日判決】)。

もっとも,仮にBC間の転貸がいわゆる一括借上型サブリースの場合(AB間の賃貸借契約が転貸を前提に締結されている場合)には,当該賃貸借契約は,各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ,賃借人(転貸人)から安定的に賃料収入を得る目的で,当初から転貸を予定して締結されたもので,オーナーたる賃貸人は,単に転貸を承諾したにとどまらず,転貸借契約の締結に加功したといえるため,合意解除の場合はもちろん,AB間の契約が期間満了債務不履行解除により終了したとしても,信義則上,AはCに対し明け渡しを請求することはできないとされています(更新拒絶による期間満了につき【最高裁平成14年3月28日判決】【東京地裁平成28年2月22日判決】,債務不履行解除につき『ジュリスト平成14年重要判例解説』参照)。
【結 論】
以上より,頭書事例では,原則としてAはCに対し明け渡しを請求することができますが,BとCが実質的に同一会社であるなど「背信行為と認めるに足りない特段の事情」が認められるときは,Aは,AB間の賃貸借契約が期間満了債務不履行解除により終了しない限り,Cに対し明け渡しを請求することはできません。
【補足1<一部転貸の場合>】
他方で,「背信行為と認めるに足りない特段の事情」が認められない場合には,たとえ,無断転貸しているのが,賃貸目的物の一部分であっても,以下の判例に照らし,原則として賃貸借契約の解除が認めら得ると解されます。

■「家屋の一部の無断転貸を理由として家屋全部の賃貸借を解除しても、右解除権の行使を目して権利濫用とはいえない」として解除を認めたもの(【最高裁昭和28年1月30日判決】

■「一個の賃貸借契約によって二棟の建物を賃貸した場合には,その賃貸借により賃貸人,賃借人間に生ずる信頼関係は,単一不可分である」とし,二棟の建物のうち一棟のみの無断転貸により「賃貸借関係全体の信任は裏切られたものとみるべきである」として二棟全体の賃貸借契約の解除を認めたもの(【最高裁昭和32年11月12日判決】

■無断転貸部分の土地が全体の約10分の1に過ぎなくても,残余の部分がとりたてていう程の用途に供されていないとして賃貸土地全部につき賃貸借契約の解除を認めたもの(【最高裁昭和34年7月17日判決】
【補足2<転貸解消の場合>】
通説的には,一旦解除権が発生しても,解除の意思表示が債務者に到達するより前に,遅滞していた債務が弁済され,債務不履行状態が解消された場合には,債権者の解除権は消滅すると解されています(有斐閣『新版注釈民法(13)』[補訂版]833頁)。

この点,【東京地裁昭和39年8月15日】でも,「催告期間後の弁済の提供につき債権者においてその受領を拒絶してすでに発した解除の意思表示の到達を待ち得るのにあえてその挙に出ず、異議なく催告にかかる本来の弁済提供を受領したときは、もはや解除権は消滅し、すでに発せられた解除の意思表示はその効力を生じ得ないと解するのが信義上妥当であり、このことは賃貸借のような継続的契約の解除においても同様に解してさしつかえない」と判示されています。

もっとも,賃貸借契約は,1回限りで契約関係が終了する売買契約と違い,契約関係が一定期間継続する性質を有し,当事者間の信頼関係を基礎とするため,単なる賃料不払いのような場合ではなく,「無断転貸行為」により信頼関係破壊された場合(「背信行為と認めるに足りない特段の事情」が認められない場合)には,たとえ,賃貸借契約解除前に無断転貸状態が解消されたとしても信頼回復は困難であり,以下の判例に照らしても,なお賃貸借契約の解除が認められ得ると解されます。

■「賃借人カ賃貸人ノ承諾ヲ得スシテ賃借物ヲ他人ニ転貸シタルトキハ賃借人ノ義務ニ違背シタルモノナレハ賃貸人ハ賃借人ニ対シ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ルハ民法第六百十二条ノ規定スル所ニシテ其ノ解除ノ意思表示ヲ為スノ際既ニ転貸借契約終了シタリトスルモ右意思表示ノ効力ヲ阻却スヘキモノニ非ス」としたもの(【大審院昭和10年4月22日判決】

■「無断転貸又は無断賃借権譲渡によって一旦賃貸人の賃借人に対する信頼が破られた場合には当該転貸借又は賃借権譲渡が既に終了した後であっても,再び信頼関係が回復されたと見られる特別の事情がない限り賃貸借契約を解除するのに何等支障はない」としたもの(【東京地裁昭和31年6月25日判決】

■「解除当時たまたま転貸が終了していても、それがため信頼関係が回復され将来の不安が去つたものと認めがたい」とした原審の判断につき,「無断転貸が背信行為にあたるものとして解除権が発生した場合であるときは、その後その転貸が終了したからといつて,その一事のみにより,右転貸が回復し得ない程信頼関係を破壊したものではないとし,解除権の行使を許すべからざるものと断定しなければならぬものではない」として正当と認めたもの(【最高裁昭和32年12月10日判決】
【補足3<賃料受領した場合>】
また,賃貸人が無断転貸の事実を知りながら賃料を受領した場合あるいは解除権行使後に賃料を受領した場合であっても,以下の判例に照らし,当然には解除権の消滅あるいは解除の意思表示の撤回とはなりません。

■「無断転貸により賃貸借契約の解除権が発生した場合においても,解除権を行使するかどうか,また何時行使するかは賃貸人の任意であるから,賃貸人が無断転貸の事実を知りながら異議を述べずに賃借人から賃料を受取つたという一事のみにより,転貸についての黙示の承諾があつたものと認めなければならないものではない」として解除権の消滅を否定したもの(【最高裁昭和38年12月10日判決】

■賃貸人が賃貸借契約解除の意思表示をなした後に、右解除の効力を争う賃借人が右解除の日以降の賃料として供託した金員を受領した場合であつても、右受領により賃貸借の解除の効果を消滅せしめ、もしくはそのときに新たな賃貸借契約を締結したものと認めるべき特別の事情でもあれば格別、却つて右供託金受領の前後を通じて賃貸借契約が解除されたことを主張して家屋明渡訴訟を維持している場合には右解除の効力に影響はないとしたもの(【最高裁昭和39年4月10日判決】
【改正民法】
*公布:平成29年6月2日官報号外第116号(平成32年6月2日までに施行予定)
<613条>
1 略

2 略

3 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には,賃貸人は,賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし,その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは,この限りでない。

<多湖・岩田・田村法律事務所コメント>
これまでも,前掲【最高裁昭和62年3月24日判決】により,転貸借が適法とされた場合には,賃貸借の合意解除をもって転借人に対抗できず(追い出すことはできず),例外的に,賃貸人が債務不履行を理由とする法定の解除権を行使することも可能であったときは賃貸借の合意解除をもって転借人に対抗できる(【最高裁昭和59年10月8日判決】参照)と解されてきましたが,今回の改正により,これらのことが条文上明記されました。

なお,賃貸人と賃借人の恣意的な行為から転借人を保護するという同項の趣旨に鑑みれば,同項は強行法規と解されるため,転貸承諾書や転貸借契約書で「賃貸借契約が合意解除により終了した場合,転貸借契約も終了し,転借人は建物を明け渡さなければならない」との条件を定めていたとしても,これだけでは「合意解除することが信義誠実の原則に反しないような特段の事由」(前掲【最高裁昭和37年2月1日判決】)とはいえず,かかる条件は無効になると解されます。


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